更新 ( 公開)
chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
愛犬の身体に触れた時にしこりや腫瘍を見つけてしまったら、飼い主としては病気のサインなのかと不安になりますよね。犬のしこり・腫瘍の原因や病院に連れて行くべき症状などについて、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬の体にできるしこり・腫瘍とは?
- 犬のしこり・腫瘍の原因とは?
- 犬のしこり・腫瘍を見つけたときの対処法とは?
- 犬のしこり・腫瘍の検査・診断の内容とは?
- 犬のしこり・腫瘍の治療法とは?
- しこり・腫瘍が出来やすい犬種、性別はあるの?
- 犬のしこり・腫瘍の予防法とは?
犬の体にできるしこり・腫瘍とは?
皮膚や皮下組織にできる「腫瘤=かたまり」をしこりと呼びます。炎症によって腫れている部分や、腫瘍や液体の入った袋状の嚢胞(のうほう)など、原因に関係なく身体の表面にできたかたまりはしこりに含まれます。腫瘍はしこりの一種で、細胞のかたまりです。細胞が増えて周りに浸潤する(染みだすように広がる)悪性腫瘍と、浸潤はなく本体のみが大きくなる良性に分かれます。
犬のしこり・腫瘍の原因とは?
犬のしこりや腫瘍ができる主な原因には以下のようなものが挙げられます。
乳腺腫瘍
犬の乳腺は脇の下から足の付け根にかけて左右5個ずつあるのですが、1ヶ所もしくは複数個所にしこりがみられることがあります。これを乳腺細胞が増殖することが原因で起こる乳腺腫瘍と言います。ホルモンが原因となる腫瘍のため、偽妊娠などで一時的に乳腺が腫れているということも。避妊をしていない女の子、もしくは中高年の犬に多い傾向があります。犬の乳腺腫瘍の約4~5割は良性といわれていますが、小型犬のほうが大型犬に比べて良性の比率が高いとされています。
イボ
犬でイボと呼ばれるものは、一般的にパピローマウイルス(乳頭腫)によるものを指します。免疫力の低下が原因とされ、自然に小さくなることが多いのですが、数か月かかる場合もあります。通常は経過を観察しますが、老齢で発症した場合は、扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)という悪性腫瘍になる可能性があるため、注意が必要です。
また、皮脂腺腫もイボと呼びますが、これは黄白色で脱毛したドーム状や乳頭状のしこりで、大きさは1㎝以下のものです。皮膚に脂を分泌する腺(皮脂腺)の細胞が異常に増殖することでできる腫瘍です。
表皮嚢胞
アテローム(粉瘤)と呼ばれることもある皮膚のしこりで、皮膚の下に袋状の構造ができ、その中に垢や皮脂がたまったものを指します。
脂肪腫
皮下組織にできるやわらかい脂肪のかたまりで、8歳以上の老齢犬でみられることが多いです。良性ですが、サイズが大きくなると発生した場所によっては歩きにくくなる可能性もあります。脂肪種と診断されていてもまれに悪性のもの(脂肪肉腫)もあるので、急に大きくなるなどした場合には注意が必要です。
悪性リンパ腫
リンパ球という免疫細胞の増殖によるもので、発生部位での分類だと多中心型、皮膚型、消化器型、縦隔型などがあり、犬の場合は多中心型の発生が多い傾向にあります。多中心型リンパ腫では、顎、脇の下、内股、ひざの裏など身体の表面に近いリンパ節が腫れて、しこりになります。同時に複数箇所腫れることが多く、食欲が落ちたりや元気がなくなるなどの症状を伴います。6歳以上の年齢の犬で見られることが多いです。
組織球腫
発症しやすいのは、頭部(特に耳たぶ)や四肢です。痛みはないので、犬も気にしません。比較的よく発生する良性腫瘍で、ほとんどが数週間から数か月で自然になくなりますが、そのまま残ることもあります。無治療でなくなることもある非常に特殊な腫瘍です。皮膚にドーム状の赤みを帯びたしこりができ、急速に大きくなり脱毛を伴いますが、2.5㎝以下にとどまるものが大半です。
肥満細胞腫
肥満細胞という免疫に関与する細胞が異常増殖してできた悪性腫瘍の1つで、皮膚腫瘍の約2割を占めているといわれています。肥満細胞が分泌するヒスタミンなどの影響によって腫瘍随伴症候群が起こることが多いです。これは、がんを退治する免疫の働きが他の組織にダメージを与えることで生じるさまざまな症状を指します。具体的には嘔吐や食欲不振、下痢などの全身症状などです。肥満細胞腫は再発転移が起こりやすい腫瘍なので、手術の場合には患部を大きく切り取る必要性があり、それでも取れない場合には、抗がん剤や放射線治療などを行うことがあります。
皮膚の炎症、外傷
炎症によって皮膚のふくらみが見られることがあります。外傷の場合には、傷が癒える過程で一時的に皮膚が膨らみしこりのように見られますが、次第に落ち着いてくるようであれば、患部を清潔に保っておくだけで治療の必要がないことが多いです。
感染症
細菌やウイルスの感染によっても、しこりが見られることがあります。
犬のしこり・腫瘍を見つけたときの対処法とは?
愛犬の身体に見つけたしこりが、良性でしばらく様子を見ても大丈夫なものなのか、悪性で治療を急がねばならないものなのかは飼い主が一目見ただけではわかりません。発生場所による判断も難しいため、見つけたら自己判断せずにすぐに動物病院を受診しましょう。
犬のしこり・腫瘍の検査・診断の内容とは?
しこりに針を刺して検査をする針生検や、麻酔下で全て切除するか、一部を切除して病理検査を行います。その他、血液検査や画像検査(エコー、レントゲンなど)も行い、転移の有無も確認します。
犬のしこり・腫瘍の治療法とは?
犬のしこりや腫瘍の治療法にはいくつかの種類があります。それぞれどのような治療になるのかを紹介します。
経過観察
しこりや腫瘍の治療法は、基本的には人間の場合と同じです。良性であれば特に治療はせず、経過観察で見守ります。経過観察中に急速に大きくなるようなことがあれば、すぐに動物病院を受診してください。
外科治療
良性であっても犬が自分で気にしている、出血や炎症を起こしている、しこりがあることで歩きにくい、今後悪性になる可能性がある、などの場合は外科切除を行います。悪性の場合にも可能であれば外科切除を行います。切除するだけで治療終了になるケースもあります。
化学療法
悪性の場合、特に多中心型リンパ腫は抗がん剤治療をするのが一般的です。腫瘍の種類によって、薬の種類や投与間隔は変わりますし、抗がん剤は尿や便から排泄されるため、家での排泄物の取り扱いには注意が必要になります。化学療法をするということになったら、獣医師に説明を受け、疑問点があればその都度聞いておくようにしましょう。
放射線治療
悪性の腫瘍で、手術ができない場合、あるいは手術で取り切れなかったような場合には、放射線治療を行うことがあります。対応している病院は多くないため、獣医師とよく相談し、放射線治療を行っている医療機関を紹介してもらうことになります。
しこり・腫瘍が出来やすい犬種、性別はあるの?
しこりや腫瘍の出来やすさは、犬種によって特に差はありません。ただし、ゴールデンレトリバーは血管肉腫や骨肉腫、ダックスフンドは悪性黒色腫(メラノーマ)など、腫瘍の種類によっては発生しやすい傾向がある犬種もあります。また、性別では、乳腺腫瘍は比較的メスの発生率が高いものの、多くのしこりや腫瘍は性別に関係なく発症するものがほとんどです。
犬のしこり・腫瘍の予防法とは?
皮膚の表面にできるしこりや腫瘍は、日ごろの愛犬とのスキンシップで飼い主が気づくことが可能です。そのため、早期発見をするためにも日常的に愛犬の身体に触れて確認することが大切です。また、避妊手術を受けることによって乳腺腫瘍の予防効果が期待できます。初回の発情期が来る前に避妊手術をすることで発症のリスクを少なくすることができると言われています。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。