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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
愛犬の歩き方に違和感を感じたら「膝蓋骨(しつがいこつ)脱臼」になっているかもしれません。パテラという名前で知られるこの外科的疾患は、愛犬が痛みを感じたり、行動の不自由につながったりします。今回は、そんな膝蓋骨脱臼(パテラ)の原因や予防法について、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬が足を引きずっていたら、脱臼しているのかも?
- 犬に多い膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?
- 犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の原因は?
- 膝蓋骨脱臼(パテラ)になりやすい犬種はある?
- 犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の初期症状は?
- 犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)のグレード
- 犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の診断・検査方法は?
- 愛犬が膝蓋骨脱臼(パテラ)の治療法は?
- 犬の膝蓋骨(パテラ)の予防方法は?
犬が足を引きずっていたら、脱臼しているのかも?
何かしらの原因で、関節が本来の位置から外れてしまった状態のことを脱臼と言います。脱臼すると、うまく歩けなかったり、足が動かなくなったりします。ときには痛みを訴えたり、食欲が低下したりすることもあります。
犬に多い膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?
膝のお皿を膝蓋骨と言うのですが、それが内側または外側にずれてしまった状態を膝蓋骨脱臼(パテラ)と言います。通常は、膝蓋骨は大腿骨にある滑車溝という溝にはまっているのですが、これが何かしらの原因で外れてしまうことによって、膝関節が伸ばせなくなってしまいます。内側に外れる内方(ないほう)脱臼は大型犬より小型犬に多く、外側に外れる外方(がいほう)脱臼は小型犬よりも大型犬の方が発生率は高くなります。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の原因は?
膝蓋骨脱臼の原因には大きく分類して、先天的なものと後天的なものがあります。先天的にかかりやすい犬種の場合は、日ごろから気をつけて健康状態を観察しておきましょう。
先天的な原因
先天的な原因としては、遺伝的な要因が関わっていることが多いです。生まれつき、骨やじん帯、筋肉の形成に異常がある子がいます。また、膝蓋骨の受け皿となる滑車溝が浅いと、脱臼しやすいと言えるでしょう。
後天的な原因
外傷を負うことで膝蓋骨脱臼になることがあります。交通事故や高いところからの飛び降り、転倒などの原因で、膝に強い負荷がかかり滑車溝から膝蓋骨が外れてしまうことがあります。
膝蓋骨脱臼(パテラ)になりやすい犬種はある?
先天的に骨や靱帯、筋肉の形成異常のある子は膝蓋骨脱臼になりやすいと説明しましたが、こうした異常を起こしやすい犬種がいます。愛犬の状態から、気をつけなくてはいけないポイントを押さえましょう。
膝蓋骨脱臼(パテラ)になりやすい犬種は?
アニコム損害保険会社が行った2019年のアンケート(※)だと、パテラになりやすい犬種としては、トイプードル、ポメラニアン、柴犬、ヨークシャーテリア、ゴールデンレトリーバーの順で挙げられています。ほとんどの小型犬は、程度の差はあるにせよ膝蓋骨脱臼になりやすいため、普段から気をつけることをおすすめします。
※参考URL:https://www.anicom-sompo.co.jp/news/2019/news_0190522.html
膝蓋骨脱臼(パテラ)になりやすい犬のライフステージはある?
膝蓋骨脱臼になりやすい特定のライフステージは特にないのですが、成長するにつれて肥満や筋力の低下からパテラが起きてしまうケースはあります。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の初期症状は?
初期段階では痛みが発生しない場合もあるため、飼い主が脱臼に気づかないことが多いです。普段から愛犬の様子をよく観察して、以下のような初期症状を見逃さないように注意しましょう。
突然触られるのを嫌がる、痛がるようになる
今まで平気だったのに、突然にその部位を触られるのを嫌がるようになった場合、そこには何かしらのトラブル・違和感・痛みが生じている場合が多いものです。いままでは平気だったのに、抱きしめた時に嫌がる場合なども膝蓋骨脱臼を疑ってみましょう。
階段やソファーなどの段差を嫌がる
膝蓋骨脱臼が原因で愛犬が段差を嫌がることがあります。痛みがないまでも四肢や腰のどこかに違和感を抱いているのでしょう。階段を上るとき、下りるときのどちらを嫌がるのかも観察しておくといいでしょう。
歩き方がおかしい、フラフラ歩く
膝蓋骨脱臼の初期症状として四肢や腰などの関節に違和感があって、歩き方がおかしくなる時があります。ただし、脳神経系の問題が原因のこともありますので異変を感じたら病院に連れていくようにしてください。
立ち上がることができなくなった
急に立ち上がれなくなるようなことは、膝蓋骨脱臼がある程度進行してからの症状と考えられます。ただし、骨関節系だけでなく、こちらも脳神経系が問題の可能性もありますので病院での検査が必要です。
尿失禁
膝蓋骨脱臼が進行し、膝関節の異常が腰部にまで達し、二次的に椎間板ヘルニアなどを起こした場合に失禁が見られることがあるかもしれません。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)のグレード
犬の膝蓋骨脱臼の症状は進行度合い(グレード)によって変わってきます。それぞれどんな書状なのかを見ていきましょう。
グレード1
触診において膝蓋骨が外せて、手を離すと正しい位置に戻る状態であれば、基本的には異常はありません。
グレード2
この段階になると膝を曲げ伸ばしするだけで、簡単に膝蓋骨が外れてしまいます。とくに痛みが強くなるため、飼い主が異変に気づいたらなるべく早い受診をさせてあげてください。
グレード3
膝蓋骨は常に外れたままになってしまっています。手で押すと元に位置に戻せますが、強い痛みを伴うことがあります。
グレード4
膝蓋骨は常に外れたままで、手で押しても元に位置に戻りません。この段階では筋肉が収縮してしまっているので、手術での治療が非常に難しくなります。
犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)の診断・検査方法は?
犬の膝蓋骨脱臼で動物病院を受診すると、人間と同じように触診などの身体検査やレントゲン検査で症状を確定します。具体的にどのような検査を行うのかを見ていきましょう。
身体検査(歩行検査)
歩き方に異常がないかを診察し、前述したグレードを見極めるために膝蓋骨の脱臼状態を触診で確認します。内方脱臼の場合には、片方の手で脛骨を内側にねじりつつ(内旋)、もう一方の手で膝蓋骨を内側に押して、膝蓋骨の状態を確認します。外方脱臼は、内方脱臼と同じ方法で、内膝蓋骨を外側に押して確認します。
レントゲン検査
レントゲンで膝関節の状態の確認をします。手術が必要な場合に用いられることが多いようです。
愛犬が膝蓋骨脱臼(パテラ)の治療法は?
犬の膝蓋骨脱臼は骨格そのものや骨格配列の異常によるものなので、基本的には外科的な手術で治療することになります。ただし、症状が初期段階にあり、痛みもない場合は、服薬やリハビリなどで手当てする場合があります。
外科的治療の内容
外科的治療のそれぞれの内容を見ていきましょう。
滑車造溝術
膝蓋骨がはまる滑車溝が浅い場合には、この滑車溝を削って溝を深くして外れないようにします。
脛骨粗面転移術
脛骨粗面を切り出し、靱帯・膝蓋骨・脛骨が直線的に並ぶように整復する術式になります。
内側関節包開放術
膝蓋骨を内方に引っ張る筋膜および関節包を切開することで、膝関節内側の緊張を解除する術式です。
外側関節包縫縮術(そとがわかんせつほうほうしゅくじゅつ)
関節包を外側に引っ張ることより関節包の縫縮を行う術式です。
滑落防止スクリュー設置術
膝蓋骨を覆う靱帯のすぐ隣にねじなどの器具を設置することでストッパーにし、脱臼するのを防ぐ術式です。
大腿骨or脛骨の骨切り術
重度に進行した場合、骨にねじれやゆがみが伴っているため、骨を切って正常な状態に戻す術式です。
内科療法の内容
基本的には痛み止めやサプリメントの服用でコントロールします。
リハビリによる治療
マッサージや筋肉トレーニングなどを行って、筋力を増やしたり、重心の掛け方の差異を戻したりします。シニアで手術が難しい場合には、包帯などを用いて患部を適度に圧迫し、痛みの改善をするケースもあります。
犬の膝蓋骨(パテラ)の予防方法は?
愛犬が先天的にパテラになりやすい要因を持っていることが分かれば、体重管理や無理な運動をさせないなどのケアをするといいでしょう。一方、後天性の場合は、愛犬に外傷を負わせないような環境作りや、日常的に体調管理を心がけることが必要です。具体的には普段の生活の中で以下のようなポイントに気をつけましょう。
太りすぎないようにしっかり体重管理をする
体重増加は、膝蓋骨だけでなくその他の部位にも負担になります。肥満はさまざまな疾患を起こすと言われていますので、日々の体重管理は重要です。日常的に摂取カロリーが消費カロリーを超えていないか食事量や運動量を見直すことも大切です。
自宅の床を滑りにくい素材にする
滑りにくい材質のものに変更することで、足腰をしっかり使うことができ、骨関節系への負担軽減に繋がります。
定期的な診察
早期発見が早期治療に繋がりますので、成犬であれば年1回、シニアは年2回、ハイシニアは年4回を目途に定期的に検診を受けることをオススメします。また異常を感じたらすぐに病院を受診するということも重要なポイントです。