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目次/ INDEX
植物を愛でる文化として、日本に深く根付く「盆栽」。日本特有の概念である“わびさび”を体現し、海外からは「BONSAI」として注目を集める。
ただ、世界に冠たる盆栽を誇らしく思う一方、実践するにはどこかハードルが高い。高尚すぎはしないか、枯らしてしまうのではないかという不安が先に立ち、「部屋に飾ろうにも和の趣が強すぎる」といった懸念をお持ちの方もいるはずだ。
盆栽に興味はあるものの、最初の一歩が踏み出せない。その一歩を踏み出していただくべく、今回、お話を伺ったのが『東京盆栽生活空間』を主宰する中島大輔さんだ。“アート×盆栽”をコンセプトに中島さんが作り出す盆栽は、従来の盆栽とは一線を画す。
生の象徴である植物、死の象徴である頭蓋骨を組み合わせ、「日々、動物を殺さねば生きていけない世界」という矛盾を表現したという『SKULL BONSAI(スカル盆栽)』
中島さんが作る盆栽の特徴は、植物と仏像や頭蓋骨といったモチーフが溶け合うような、大胆にして斬新な表現。和の趣に固執しない自由さを感じさせるからか、和室のみならず、洋室にも映える。この芸術性の高さから、中島さんの盆栽は「アート盆栽」として脚光を浴びている。
この前編では、中島さんが語るアート盆栽の醍醐味から魅惑の世界へと誘い、後編ではアート盆栽の作り方をレクチャー。最後にはきっと、「やりたい、やれる」と思えるはずだ。そして、そう思えたとき、最初の一歩として踏み出すべき場所は、意外にもホームセンターだ。
中島さんはどのようにして、アート盆栽を生み出すに至ったのか。かつての中島さんは、映像ディレクターや出版プロデューサーとして多忙を極めていたという。
「当時は忙殺されるような毎日を送っていました。そうした最中、知人が贈ってくれた盆栽に心癒やされたんです。そこから盆栽に興味を持ち、いろいろと調べてみると、盆栽のルーツにたどり着きました。『盆景』と呼ばれる、中国古来の芸術文化です」
日本独自の文化として注目を浴びる盆栽だが、中島さんいわくオリジンは中国。中国発祥の盆景は、平安から鎌倉時代ごろに渡来。やがて削ぎ落とし、研ぎ澄ますことを重んじる禅の精神と融合し、今に続く盆栽として花開く。
「自分自身をミニチュア化し、小さくなった自分の視点から、自然界にある光景を作り出す。中国にも、日本にも共通する盆景・盆栽の考え方ですが、こうした共通点がある一方、中国の盆景は自由。その自由さに感銘を受けました」
日本の盆栽には、基本とすべきいくつかの樹形がある。良好な環境のもとに育ったことからどっしりと根を張り、幹がまっすぐ天を向いた「直幹」、荒々しい環境に育ち、強い風に煽られたことから幹が斜めに傾いた「斜幹」といったように、この樹形が、自然界の光景を再現するためのベースとなる。
いくつかの樹形をベースに、日本の盆栽にあるのは“引き算の美学”だが、中国の盆景は足し算をいとわない。中島さんの代表作のひとつ『BUDDHA BONSAI(仏像盆栽)』も、基本の樹形を踏襲する一方、盆栽と仏像を組み合わせる“足し算の美学”から生まれている。
タイの世界遺産・アユタヤ遺跡で目にした「菩提樹の仏頭」から生まれた『BUDDHA BONSAI(仏像盆栽)』
「タイのアユタヤ遺跡を訪れたときのこと。木の根に取り込まれるような仏頭があり、その光景に目を奪われました。かつての戦争で仏像の頭部が切り取られ、残された頭を抱くように植物が生長していたんです。衝撃を受けるのと同時に、これを盆栽にしたい、という想いに駆られました」
中島さんは自らの作品を「盆栽の力強い根が仏像と絡み合い、『生と死』『長い時間』を感じさせる」と解説する。「生と死」も「長い時間」も、戦争の歴史を今に伝えるアユタヤ遺跡と重なり、盆栽という小さな世界で、まさにその光景を作り出している。
「私のアート盆栽は、植物だけでは成立しない作品が少なくありません。自由な組み合わせによって作品を完成させる手法は、中国の盆景に似ています」
そう話す中島さんだが、アート盆栽における最大の醍醐味はどこにあるのかを尋ねると、意外にも「自分の思いどおりにならないところ」という答えが返ってきた。思いどおりにならないとは、自由さとは正反対とは言えないだろうか。
そそり立つ絶壁の景観を表現した『CLIFF BONSAI(断崖盆栽)』。ミニチュアの建物を組み合わせ、幻想的かつ360度どこからでも楽しめる盆栽に
「あくまでも盆栽の主役は植物です。植物は生き物であり、自分の思いどおりにはなりません。明確な完成図を思い描いても、理想どおりの植物に出合えることは本当に稀。万が一に出合えたときには運命の喜びを感じますし、出合えなかったとして、理想にそぐわない樹形を受け入れ、その樹形こそが生み出す盆栽を考えることが最大の醍醐味です」
ちなみに盆栽には「針金がけ」という手法がある。読んで字のごとく、枝に針金を巻き付け、理想の向きや形に整えていく“矯正”のための方法だ。理想の樹形に矯正するには1・2年を要することも珍しくなく、太い幹には矯正そのものが通用しない。
「例えば、数十種類の花びらと盆栽を組み合わせた『花の便り~春は巡りくる』という作品。この樹形を見たとき、桜の花を見た鳥が、空に飛び立とうと翼を広げる様子が思い浮かびました。植物との出合いは偶然である一方、細い枝先には針金を巻き、少しだけ向きを矯正しています」
古い桜の盆栽(上)との出合いから着想を得た『FLOWER BONSAI(百花盆栽)花の便り~春は巡りくる』(下)。花びらには、数十種類に及ぶドライフラワーを用いている
運命的ともいえる植物との出合いを噛みしめ、出合いによって生まれた発想からイメージを膨らませ、長い時間をかけて脳裏に描かれた理想像を完成させていく。これがアート盆栽のおもしろさだが、やはり中島さんの作品の魅力は、斬新なる組み合わせの妙だ。
組み合わせの妙は、どこから生まれてくるのか。その答えこそが、ホームセンターだ。
「アート盆栽を始めて以来、積極的に美術館を訪れ、アートに触れるようにしています。ただ、より具体的なアイデアが浮かぶのはホームセンター。案ずるより産むが易しというか、何でもそろうホームセンターに行き、植物と組み合わせるツールやマテリアルを手に取ったほうが、実際の制作に結びつきやすいんです」
カインズ昭島店は園芸コーナーが充実し、グリーンアドバイザーも在籍する
そう、まずはホームセンターに踏み出してみることが、発想の原点だ。アート盆栽の土台となる植物のみならず、水槽レイアウト用の石であったり、建築資材であったり、時には雑貨であったり。中島さんは種々雑多なアイテムが入り混じる店内を見て回り、イメージを膨らませていく。
「特にお気に入りなのが、カインズ昭島店です。園芸コーナーが充実していることはもちろん、カフェを併設しているのがいいんです。まずは店内を巡り、気になるアイテムを購入します。次にカフェでコーヒーを飲みながら、具体的な構想を練る。そこでさらなるアイデアが浮かんだら、足りない道具もすぐに買えますからね(笑)」
園芸コーナーに面して併設された『カフェブリッコ 昭島店』はアイデアを練る絶好のスポット
何でもそろうのがホームセンターの強みであり、その“何でも”から、斬新な組み合わせが生まれる。盆栽は想像する以上に、とてつもなく自由だ。
盆栽の主役はあくまでも植物。となれば、枯らさずに育てることが第一となる。部屋のインテリアとして観葉植物を購入するも、すぐに枯らしてしまった苦い経験をお持ちの方もいるはずだ。
「これも意外に思われますが、盆栽を育てるのは簡単です。繰り返しになりますが、盆栽は自然界のミニチュア版。樹木がおのずと生長するように、盆栽も日光を当て、毎日の水やりさえ疎かにしなければ、すくすくと生長していきます」
日光を当てる──要は外に出しておくことが盆栽を枯らさないための基本だが、部屋に飾りたい欲求にも駆られる。そうした場合も、部屋を留守にするウィークデーはぐっと我慢。週末のみ部屋に入れるか、帰宅後の夜の時間帯のみ、部屋に入れる習慣をつけるといい。
そう聞くと二の足を踏むかもしれないが、まずは挑戦してもらいたい。自分で作り上げた喜びから愛着が湧き、屋外から屋内への出し入れも、毎日の水やりも面倒ではなくなるはずだ。すると盆栽は自然のままに生長し、春の開花も夏の深緑も、秋の紅葉や冬の枯れ葉も、四季折々の表情を見せてくれるだろう。
後編では、中島さん直伝、ビギナーでもできる「アート盆栽の作り方」をお届けする。