三角コーンの“中身”を改造して、やしろあずき先生に送りつけてみた
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誰もやっていなかったから。
現代の日本ではごはんでアート表現が出来ます。ですが、戦争があった時代、その前の飢饉があった時代は、ごはんを自由に使って何かを表現しようとは簡単に考えられなかった時代です。
紙に絵を描いたら「アート」、ごはんで絵を描いたら「料理」……そんなことを決めつけずに、コンセプトやメッセージを 表現するツールとして、私は「巻き寿司」を選びました。
そして、遠くない将来、世界的食糧危機の時代になった時には、再度、ごはんで絵を描いていたことがうらやましく、信じ難くなるかもしれません。
実は「巻き寿司アート」は、「幸せな時代」の象徴とも言えるでしょう。
そんなわけで、私の巻き寿司は「お料理」ではありません。「楽しく美味しく食べましょう!」というものばかりではなく、食べることを躊躇したり、物事を考えるきっかけを投げかけたりしています。
「軍艦巻き」
そもそもみなさんが当たり前と思っていることは、世の中のみんなが同じように「当たり前」として受け止めているのでしょうか? そんなことはないと思います。
だからこそ、何かを伝える時、年齢や住んでいる地域などで違いを感じた時に、ビックリしたり、拒否してしまったりするのです。
「軍艦巻き」は日本人なら握り寿司の周りに海苔の帯を巻いてちょっとした壁を作り、いくらなどこぼれ落ちそうな具材をプロテクトして、上手く美味しく食べられるようにしたお寿司をイメージします。
このテクニックのアイデアを考え、ネーミングした人はすごいなぁと思います。これは「見立て」という技法で、日本人に馴染みのある技法です。
一方で私が作った軍艦巻きは、ダイレクトに「軍艦」の絵柄を巻いています。
日本の軍艦巻きを知らない外国人から見たら、私の軍艦巻きの方がイメージは伝わりやすいはず。すでに軍艦巻きというものがあった時に、違うものをなかなか作ろうとは思いませんよね。
「うまい!寿司 まずい!寿司」
こちらは「うまい!寿司」と「まずい!寿司」。ご覧のように、絵柄を優先させて作っているので「これ美味しいの?」とよく聞かれました。
酢飯には味が付いています。
黄色はカレー、ピンクはでんぶ、黒はゆかりと黒ごまのすりごまなど。文字はかんぴょうと山ごぼうの漬けもので、私たちが日頃よく口にしている食材でできています。
美味しいかまずいかは、個人の好みなので「美味しいの?」と尋ねること自体が「実は美味しくないんです!」と答えて欲しいのかと感じる質問ですが、「じゃあ作品でお答えしよう」と作ってみました。
「うまい!寿司」も「まずい!寿司」も、どちらもほぼ同じ材料でできています。青い見た目は食欲を削がれる気がしますが、味は一緒です。
「具材にマグロやイカが入っているのに、絵柄も素晴らしいものができたらオレは認める!」なんて言う知人がいました。彼は何度言っても「寿司は料理」という思考から抜け出せない人でした。
その人に「とうとう美味い寿司を作りましたよ!」と言うと喜んで見にきましたが、寿司を見て「なんだ! とんちか?」と笑われました。「うまい!寿司」は「うまいことを言う」の意味にもかかっています。
「原始人ウーの物語」
絵柄を優先させて酢飯ばかりの私の巻き寿司を、どうしたら「美味しく」食べられるかと考えた時、「別に具を巻き込まなくてもいいのでは」という結論に至りました。
「美味しい」とは、自分の好みに合うことが最重要。値段が高いとか、みんなが美味しいと言っているからではないはずです。
お寿司だからといって、お刺身などの魚介類にこだわらず、自分の好きなエビフライやハンバーグ、唐揚げやクリームシチューを使ってもいいのです。
「えぇっ!?」と思うかもしれませんが、お弁当に巻き寿司が入っていて、おかずに唐揚げやミニトマトがあるのを見て違和感を感じる人はあまりいませんよね。
お弁当箱に入っていたらOK、お皿の上に置いたらNG、そんな訳ありません。
自由なおかずと一緒に食べてもらえるように、「食物を探している原始人」を作りました。巻き寿司を原始人にしたことで、エビフライが立っていても楽しい感じになります。
ワークショップでみなさんにもこの作品を作っていただき、帰宅後どのようなものと一緒に食べたか写真を撮って送ってもらっています。
そこにはほとんど魚介類はなく、唐揚げやお味噌汁を合わせたり、ラーメンに浸かろうとさせていたりと、自由な発想でみなさん楽しんでくれているのです。
「あなたなら何をくわえる?」
こちらは「穴の空いた巻き寿司って作れる?」と尋ねられて作った作品。単純に穴を作るのではなく、絵柄で表現してみました。
一般的にお寿司は握り寿司がメイン。巻き寿司はちょっとサイドにあって、お腹を満たす役割を与えられがちですが、握り寿司をくわえて今まさに食べようとしている巻き寿司にしてみました。
この作品はイチゴをくわえたり、大きなソーセージをくわえるバージョンがあります。
「お寿司にイチゴなんて組み合わせはさすがにないよ……」と思うかもしれませんが、イチゴを外して最後にデザートとして食べれば、普段の食事と変わりません。お寿司部分は、原始人ウーのように、好きなものと食べればいいのです。
「ムンク それぞれの叫び」。この作品は1本のお寿司を切ると、切る度に違った絵柄が現れる作品
巻き寿司アートを始めた時に、切ったらムンクの「叫び」が出て来たら楽しいのに! と思って作ってみました。
ムンクの「叫び」を初めて見た時、「何だ、この絵は?」と思いました。
今まで学校では「対象物を見てそっくりに描くべき」だと習ってきたのに、ガイコツみたいな人が冗談みたいに描かれていてビックリし、そして一瞬で好きになりました。
大人になってから「どんな絵が好き?」と友達に尋ねられて、「ムンクの叫び!」と答えたら「もっといい絵があるでしょ! マチスとかピカソとか。」と言われ、人前でこの絵が好きだと言わない方がいいなと思っていました。
時は流れ2012年。「叫び」がサザビーズで史上最高額で落札され、有名になると世間の評価も変わってきました。
最近ではいろんなメディアで取り上げられたり、パロディーやグッズも売っているので、みなさんにも親しみがあるかと思いますが、年配の方にはこの作品を見て「気持ち悪い!」と言う方もいました。
今ではワークショップでも人気の絵柄となった「叫び」。私は2013年にノルウェー観光局主催の「世界一長い『叫び』プロジェクト」にこの作品を出展し、世界第2位に選ばれ、ノルウェーに招待されました。
その時に某テレビ番組がムンク美術館でのパフォーマンスを準備してくれて、この「叫び」作品をノルウェーの皆さんにも見てもらえたんです。そしてこの作品をムンクのお墓にお供えして、お参りできました。
好きなものを好きだと思い続けることで経験できたエピソード。この作品は私にとって大切で、心の支えになりました。
「畏敬のカタチ 風神雷神図屏風より」
メッセージやコンセプトのある作品以外にも「名画シリーズ」として作っているものもあります。
こちらの風神雷神の巻き寿司の上にちょこんと添えられた巻き寿司は、みなさんが恵方巻きとして馴染みのある中太巻きのお寿司。比較するとよくわかりますが、とんでもなく大きな作品です。
お米=画素なので、細かい表現をするほど大きくなってしまいますね。名画シリーズは実はかなりデフォルメしています。どこを省いて、どこを残せば原画の雰囲気を伝えられるかを感覚で判断していますが、切ってみるまでどうなっているかわからないので毎回一か八かで作っているのです。
「Twinkle Twinkle Little Star とゴッホ」
この作品は、ゴッホの「星月夜」とゴッホの顔を1本の巻き寿司で作ったもの。空に輝くグルグルのグラデーション表現と、糸杉や山脈の輪郭がある表現を使い分けることでより絵画的な効果が表現されたかと思います。
巻き寿司アートは切ってみるまで絵柄がわからないので、人物を作るのがすごく難しいです。目や鼻、口の大きさのバランスや表情など、ちょっと違うだけで全然似ていなくなってしまいますから。
「ピカッと富士 富嶽三十六景 山下白雨」
葛飾北斎の浮世絵、通称「黒富士」。こんなにドラマチックに富士山の景色を表現するなんて素晴らしいと思います。私たち日本人は、当たり前のようにこの絵を見て育ってきました。
こんな風に、一つの山をいろんな角度から表現している絵画は世界でも類を見ません。「神奈川沖浪裏」など実際にはありえない場面をドラマチックにデフォルメして表現することは、漫画やアニメに脈絡と受け継がれていますよね。
名画シリーズは、作品や作家、時代背景など調べてから作ります。その作品をご本人が描いていた時の気分を想像しながら作ると、ワクワク感が伝わってきて作品の作家と対話している気分になります。
私は独学で巻き寿司を作っているので、他にもいろんな作り方があるかと思いますが、基本的なテクニックをお教えします。
初めて作る人は、酢飯を海苔に均等に広げるように心がけましょう。握り寿司のようにふんわり酢飯を置かずに、ギュッと固める感じにします。酢飯がしっかり詰まっている方が切る時も切りやすく、絵柄もはっきりします。
包丁は濡らして濡れたまま切ります。切る度に洗うか、濡れたタオルなどで刃についた酢飯を拭き取りましょう
そして巻き寿司の断面に綺麗に絵柄を表現するのに重要なのは、よく切れる包丁で押し切りをしないようにします。
思いっきり包丁を3回くらい往復させて、最後に海苔が切れていなかったら引っ張らずに丁寧に切りましょう。引っ張るとそこから裂けてしまうからです。
完成予想図は描きますが練習しないで作るので、イメージ通りに作れていることはほとんどありません。ですが、自分では思ってもみなかった形になることを楽しんでいます。
ワークショップで皆さんが作った「はんなり舞妓はん寿司」。みんな違って、みんないいと教えてくれます
ワークショップでも「見本通りに作りましょう」とは言いません。思い通りに作るのは私でも難しいのに、初めて巻き寿司を巻く人が同じようにできるはずはありません。
片目が閉じてしまったり、口が大きくなっても「失敗」とは思っていないので「ウインクしたね!」とか「この子は食いしん坊そうだね!」と見方を変えるように話します。そうすると「これは失敗ではなく、一つの表現なのだ」とわかっていただけることが多いです。
参加者全員の作品を一緒に撮影すると、他の人もそれぞれ個性的な仕上がりになっているのに気が付き、自分では「失敗した」と思っていたところをチャーミングなポイントだと褒めてもらえると楽しくなります。
モノを作るのが好きな人は「失敗したらどうしよう」と思うより「作ってみたい!」というワクワク感の方が強いと思います。
結果が評価されれば嬉しいですが、評価されなくても自分の思いを実現させたことに満足し、次はもっと良いものを作りたいと続けていきます。
「昭和の瞳」
私自身、初めは「これならできそう」と思うものを作っていましたが、だんだん「もっと複雑な作品にもチャレンジしなければ!」と心境が変化しました。
同じものを何度も作って完成度を高めるより、常に新しいもの、見たことがないものにチャレンジする方が飽きずに作り続けられると思ったのです。
練習はしませんが、毎回毎回、試行錯誤して真剣に作っているので、新しい絵柄にチャレンジする時も「ここは前に作ったあの作品のやり方でやればできそう」と予測して作ります。
「ここってどうやったらこんな感じを表現できるの? 誰か教えて~!」と心の中で叫びつつも、「誰も作ってないから自分が作っているんだし、教えてもらえるわけないじゃん!」と自問自答を繰り返しながら作っています。
「What do you need money for?」
この作品は切ることで3つの絵柄が出てきます。まずは1$
仮想通貨
石貨。どれも「お金」として信用されて使われてきたもの。石のお金は原始時代のようですが、これで欲しいものと交換できると信じているのはどれも同じです
人から評価されなくても、お金にならなくても、思ったようにできなくても、「楽しんでやっている人の心の幸せは何者も敵わない……」。そんな境地で作品を作っています。人が楽しんで作ったものからは、きっとそれが伝わると思うのです。
これからも誰かを楽しませたり、励ましたりできる作品を作りたいと思っています。