春の花30選|3月・4月・5月に咲く種類や育て方を一覧で解説
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目次/ INDEX
透き通るような羽と、色鮮やかな肢体を持つ昆虫、「トンボ」。そんなトンボをカメラに収め、その美しさを写真を通して発信している人がいる。写真家・尾園暁さん。
尾園さんはトンボについて、こう語る。
「トンボはとても美しく、フォトジェニックな被写体」
「美しさと生態の魅力、その両方を1枚の作品で伝えたい」
「探せば探すほど新たな種類に出会えるからこそ、夢中になってしまう」
尾園 暁
神奈川県在住の昆虫・自然写真家。1976年大阪府生まれ。近畿大学農学部、琉球大学大学院で昆虫学を学ぶ。著書に「ネイチャーガイド 日本のトンボ」「タマムシハンドブック」(文一総合出版・共著)、「ときめく金魚図鑑」(山と渓谷社)など。
──「尾園さんは現在写真家として活躍されていますが、どんな写真を撮っているんですか?」
マダラヤンマ
中部地方以北の湿地に住み、おもに9-10月に見られる。トンボ愛好家にもファンの多い美麗種。撮影・尾園暁
──「綺麗…! まるで宝石みたいですね!」
トンボは空飛ぶ宝石とも言われているくらい、美しい見た目をしているんですよ。子どものころに捕まえたりして遊んでいた人も多く、身近な存在のトンボですが、実はこんなに美しい昆虫なんですよ
──「尾園さんはどうやって、こんな素敵な写真を撮影しているんですか?」
トンボを撮るには、『生態を知ること』と『じっくりと観察すること』が大切です。今回は、実際に公園に行って解説していきますね!
訪れたのは、尾園さんも普段よく撮影しにやってくるという、トンボ撮影スポットの公園です。
この公園は池が2つあり、よくトンボの撮影をしにやってきます。たとえば“アキアカネ”なんかは、よくこの公園で見かけますね
──「トンボは、池によく集まってくるんですか?」
そうですね。池に限らず、川や湿地帯などの“水辺”に集まることが多いです。開けている池が好きなトンボもいれば、水草が生えている場所を好むトンボもいて、水辺によって集まるトンボの種類もさまざまです。水草の丈や、池の水深によっても、種類は変わってきますね
──「なるほど。そもそも、なぜトンボは水辺に集まってくるのでしょうか?」
池の岸辺で産卵するアキアカネ
いわゆる「赤とんぼ」の代表的な存在。ちなみに「アカトンボ属」というグループがあり、日本には約20種類が分布している。撮影・尾園暁
カラフトイトトンボの産卵
日本では北海道の一部だけに住む美しいイトトンボ。メスが産卵している間、オスは直立姿勢で周囲の見張りをしている。撮影・尾園暁
トンボは水辺に卵を産卵し、幼虫時代を水中で過ごします。だから、メスが産卵をするために水辺に集まってくるんですよ。オスは交尾するために、水辺を周回して産卵にくるメスを待っています。だから水辺を観察していれば、オスのトンボに遭遇できる確率はかなり高いんですよ
──「尾園さんが撮影をしたトンボも、オスの方が多いのでしょうか?」
オスの写真の方が圧倒的に多いですね。オスはメスを待っているため、水辺での滞在時間が長いんです。だから撮影するチャンスもその分多いんですよ。あと、オスは水辺にナワバリを持つ習性があります。一定の場所に止まってナワバリを張るものがいたり、飛ぶ領域を決めて、ずっとそのコースを行ったり来たりしているものがいたり、ナワバリの張り方も種類によってさまざまです。しばらく観察していると、オスの飛んでいる周回コースが見えてくるので、ある程度狙って撮影することができます
──「じっくり観察することが大事なんですね。ちなみにメスは、産卵をする以外は水辺に現れないんですか?」
むしろメスはオスにできるだけ見つからないように行動しているので、産卵しに来るときもすごいスピードで水辺に来て、終わると逃げていきます(笑)
──「そうなんですか⁉︎ それはどうして?」
交尾したメスは、体内に当分交尾しなくていいだけの精子を保持しているので、1回交尾をしてしまえばオスにもう用はありません。でも、オスは子孫を残すために交尾をしたがるので、しつこく追いかけるんですよ(笑)。だからメスはオスに捕まらないように逃げていきます
ホソミイトトンボの交尾
トンボの交尾はハート型になって行われる。これはオス(写真上)がメスの頭付近を腹部の先の把握器ではさみ、腹部の付け根にある交尾器をメスの腹部の先に当てがって交尾するため。これは細長い腹部を持つトンボならではの交尾方法。撮影・尾園暁
あとは、たまに違う種類のトンボ同士で交尾をしているケースもありますね。トンボは目がいいので、視覚でお互いの種類を把握しているのですが、オスが必死になりすぎて、ごく稀に間違えてしまうときがあります
──「オ、オス……(笑)」
そういうときは大抵メスが気付いて嫌がるのですが、たまにメスも間違えて、違う種類同士のカップルが成立してしまうときがあります。これは近縁種同士にしか起こらないのですが、そうすると雑種が生まれたりしますね
──「なるほど。トンボは、交尾する相手がどの種類なのか視覚で判断できるほど、目がいいんですね」
視覚の良さは、トンボの大きな特徴ですよね。でもトンボって、視力が良いわけではないんですよ
オニヤンマの複眼
トンボは視覚に依存した昆虫で、実際に顔の大部分を複眼が占めるほど。複眼は1~3万個の個眼から構成されている。なお複眼の上半分と下半分では見える色や解像度が違い、人とは全く違う景色が見えているよう。撮影・尾園暁
トンボの目が優れているのは視力ではなくて、“動体視力”なんです。視力自体は0.1以下と言われていますが、動いているものに対してはすごく敏感に反応します。また、視野もとても広いです。トンボは何万個もの目が集合した『複眼』という形態の目を持っています。顔の大部分が目になるので、ほぼ全方向から見えていると思っていいですね。基本的にどこから近づいても、トンボにはバレています
──「それはすごい! トンボの目から見た世界はどんな景色なのか、気になりますね」
きっとトンボの目からは膨大な視覚情報が入ってきていると思うので、頭の中がどうなっているのか覗いてみたいですよね。また、トンボは色の感覚も優れていて、人間以上にいろんな色が見えているそうですよ。視野が広いだけではなく、多彩な世界がトンボには見えているんだと思います
──「そんなに目が優れているトンボを相手に、尾園さんはどうやって近づいているんですか?」
視野が広いトンボでも、真後ろはなかなか見えにくいみたいです。だから、後ろから近づくと、逃げなかったりします。でも、それでは後ろ姿しか撮影できないので、正面から近づく必要がありますよね。そのときのコツとしては、『めちゃくちゃゆっくり近づく』ことです!
──「なんてシンプル‼︎」
トンボは左右に動くものには敏感なんですけど、前後の動きに対してはあまり大きく反応しないんですよ。ちなみにこれはトンボに限らず、昆虫全般に言えることです。ですから、方向は変えずに、そのまま真っ直ぐ距離を詰めると近づくことができますね
──「では、違う角度で撮影したいなと思ったときは、一度離れて、横に移動してから、またゆっくり近づく方がいいんですか?」
そうですね。近い距離のまま左右に動くと逃げてしまうので。上手くいけば触れるくらいの距離までは詰められますよ。あとトンボは、外敵である鳥を意識しているので、上から近づかれるのもすごく嫌がります。だから、できればトンボと同じ目線、もしくはそれよりも低いところから近づくと、より撮影しやすいと思います
──「距離を詰めるには、トンボの生態を理解することが大事ですね!」
羽化したばかりのクロスジギンヤンマ
水の中で十分に成長した幼虫(ヤゴ)は植物などに登って羽化し、トンボの姿になる。水中から空中へ、ドラマチックな変身の場面。撮影・尾園暁
また、トンボを見つけるためには『気温』も大事なポイントです。トンボは変温動物なので、自分で体温を上げることができません。だから、太陽光を浴びる必要があります。気温が低い日は、あまり活動をしていないですね
──「では、冬になるとトンボは見つけられないってことですか?」
冬の間に成虫のトンボはほとんどいませんが、『オツネントンボ』、『ホソミオツネントンボ』、『ホソミイトトンボ』の3種類だけは、成虫で冬を越すトンボなんです。雪が降る地域に行くと、雪と一緒にトンボが撮影できる可能性もあるんですよ
──「それは素敵ですね!」
越冬中のホソミオツネントンボ
雪の中で枯れ枝に擬態して越冬しているところ。日本にいる成虫越冬トンボ3種類は、いずれもイトトンボ系の小型種なのが興味深いところ。撮影・尾園暁
たとえばそのうちの1つの『ホソミオツネントンボ』は、冬の間は体を茶色くして、枯れ枝に擬態しています。そして春になり気温が上がってきたら、徐々に体が青くなります。
──「工夫して敵から身を守りながら、冬を越しているんですね。それ以外のトンボは、冬の間どうしているんですか?」
だいたいのトンボは、冬は卵か幼虫の状態で水の中にいます。トンボは、卵、ヤゴ、成虫の過程を経て大きくなるのですが、成虫になるまでの期間は、ずっと水の中で生息しているんですよ
ヤゴいろいろ
一口にヤゴといってもその姿形はさまざま。細長いイトトンボの仲間や落ち葉のように平たいサナエトンボの仲間、蜘蛛のように脚の長いヤマトンボの仲間など、そのグループや生息環境によって全く異なる姿をしている。撮影・尾園暁
──「このヤゴの見た目からトンボが生まれるなんて、すごい変化ですよね……」
劇的な変化ですよね。このヤゴの時期に何度も脱皮を繰り返し、大きくなって成虫へと進化します。脱皮の回数は、種類や環境によってばらつきがありますが、平均すると12〜13回くらいの脱皮をしますね
こういったヘリの部分にヤゴは生息していることが多い
ヤゴも環境によって、生息している種類はさまざまです。たとえば同じ川でも、源流に近い場所にいるヤゴは、水の勢いに流されないようにしがみつくような形をしています。中流や下流に生息しているヤゴは、泥に潜るような平べったい形をしていたりなど、それぞれの場所で住みやすいような見た目に進化しています
あと、トンボは川や池以外に、使用していないプールにも生息していることもあります。このような場所は外敵がいないので、繁殖しやすいんですよ
──「トンボにとって、天敵は誰になるのでしょうか?」
シオカラトンボを食べるハクセキレイ
トンボの主な天敵のひとつは鳥で、中でもセキレイ類はよくトンボを食べている。空中で器用にトンボを咥えると、地面に降りて翅や脚をむしり、最後は丸のみに。撮影・尾園暁
主に鳥ですね。特に“セキレイ”はトンボをよく食べます。もともとセキレイは虫を食べる鳥なのですが、鳥の中でも1番トンボを捕食するのは、セキレイじゃないかと思います。また、セキレイは水辺に生息しているので、トンボに出会う機会が多いんですよ
──「セキレイがいるところには、トンボもいる可能性が高いってことですね。ちなみにトンボは、何を食べて生き延びているんでしょうか?」
トンボは肉食なのですが、小さい虫だったら割となんでも食べちゃいます。よく食べるもので言えば、“小魚”や“羽蟻”とかですかね。あとは、トンボを食べるトンボもいたり、自分と大きさがあまり変わらないようなものも食べちゃうときもあります
──「おおお……。トンボって、ガッツリとした肉食ハンターなんですね」
ウスバキトンボを捕食するギンヤンマ
トンボは一生を通して完全な肉食性で、成虫はユスリカやハエなど小さな虫を捕食することが多いが、ときにチョウやトンボなど、より大きな虫を食べることも。撮影・尾園暁
そうですね。あと蜘蛛を食べようとするときもあるのですが、たまに失敗して逆に捕まってしまうこともあります(笑)。自然界を生き残るためのシビアな戦いですよね
──「トンボは、ヤゴのときから肉食なんですか?」
トンボのハンター気質は、ヤゴの時期から健在です。ヤゴは“捕獲仮面”と言われている下顎が顔についています。それが、普段は顔の前に仮面のように被さっていて、捕食する瞬間、マジックハンドのように伸びるんですよ
──「それはなかなかの迫力ですね。ヤゴは普段何を食べているんですか?」
大きいヤゴだと、ボウフラや小魚、オタマジャクシなどを食べています。小さいヤゴだと餌も小さくなり、イトミミズやミジンコみたいなものをミ食べています。そうして成長していくのですが、幼虫でいる期間も種類によってバラバラです。たとえば『ウスバキトンボ』だと約1ヶ月くらい、『ムカシトンボ』だと約7〜8年くらいはヤゴの状態で過ごします
──「成長スピードにも、種類によって大きな差があるんですね」
源流のように水温が低く餌が少ないところで生息している種類は、成長スピードがゆっくりとしている傾向がありますね。トンボ全体で平均すると、ヤゴでいる期間は1年くらいのものが多いのではないでしょうか
──「尾園さんがトンボを撮影しに行くときは、何を持ち歩いているんですか?」
いつも持っていくのはカメラと、標本を作るのに必要であれば網くらいですね。カメラはOMシステム(オリンパス)のものを使用しています。昆虫を撮影している人はOMシステム(オリンパス)を使っている人が多い気がしますね
ギンヤンマ
幼虫時代はミジンコやボウフラを食べているが、大きな種類になると小魚やオタマジャクシを捕食することもある。写真は普段収納している「捕獲仮面」と呼ばれる部分をサッと伸ばしてメダカを捕らえる瞬間。撮影・尾園暁
オリンパスのカメラには小さいセンサーがついていて、ピントを合わせるための被写界深度の範囲が広いんですよ。だから、小さいものを撮影するときに広い範囲にピントが合うので、昆虫を撮りやすいんです。また、センサーが小さい分、撮影したものを引き伸ばしたときに、より被写体を大きく見せてくれます
こちらは捕獲用の網になります。標本採集のために使用する網は、直径50センチの大きいものを使っています。普通の網だと水に濡れたときに重くなってしまうので、水切りがいい魚用のものを使用していますね。トンボの標本は、図鑑を作るときに必要なんですよ
──「使っている道具にも、生き物の生態に合わせていろいろな工夫がありますね。尾園さんが撮影するときに、こだわっていることはありますか?」
2つあるのですが、1つは『生き生きしている』様子が伝わるようにすることです。トンボの魅力は、鮮やかな色だったり、羽が透けていて綺麗なところですよね。それらの魅力が伝わるようにするのを常に意識しています。たとえば羽に少し色がついているものだったら、あえて逆光で撮影して、ステンドグラスのように羽を透けさせて、綺麗に魅せたりなどの工夫しています
もう1つは、その写真を見ただけで、トンボの生態がわかるようなものを撮るようにしています。トンボは種類によって飛び方や産卵方法が違うんです。そういった違いや特徴が、ある程度写真を見ただけで伝わるようにしたいなと思っています
──「そもそも、尾園さんはどうしてトンボが好きになったんですか?」
幼いころから昆虫は好きだったんですけど、中でもトンボに惹かれたのは、目が宝石みたいで綺麗だったからです(笑)。あと、形がスマートで綺麗じゃないですか。飛ぶのも上手いし、かっこいい姿に憧れて徐々に惹かれていきました
──「とても素敵な理由ですね。それで、トンボを撮影するようになったんですか?」
トンボは、捕獲して標本にすると色が変わってしまうんです。最近は技術が進歩したので、標本にしてもだいぶ色が残るようになったそうなのですが、僕が集めていたころは、トンボのあの綺麗な色は残りませんでした。もっとこのトンボの美しさを伝えるにはどうしたらいいか考え、行き着いた先がカメラに収めるということだったんです
──「なるほど。それで現在は写真家として活動されているんですね。トンボという被写体は、撮影をするには難しかったりしますか?」
いえ、むしろトンボは昆虫の中でも撮りやすい方だと思いますよ。被写体としても大きいし、何よりフォトジェニックな見た目をしていますからね。僕は特にトンボが好きだから、ちょっと贔屓したような言い方をしてしまっているかもしれませんけど(笑)。止まっているトンボなら本格的なカメラじゃなくても、スマートフォンで撮影は簡単にできるので、ぜひ皆さんにもトンボの沼にハマって欲しいです
今回着てきた服もトンボ柄の尾園さん。トンボ愛が伝わります。
トンボは場所によって、生息している種類もかなり違います。いろんなところにいろんな種類がいる、という点でも、トンボの世界はハマりやすいんじゃないですかね。それに、日本は水辺の環境が多様な国なので、国土面積に対してトンボがたくさん生息しているんですよ
──「そうなんですか? 日本には何種類くらいのトンボがいるんでしょうか」
世界では約6000種類のトンボが発見されていますが、そのうち日本では200種類以上が生息していると言われています
チョウトンボ
フォトジェニックなトンボたちの中でも、ひときわ写真映えする種類。虹色に輝く翅をきらめかせ、夏の水辺をチョウのようにヒラヒラと舞う。水草などの多い、いわゆる自然度の高い環境で見られるため、チョウトンボがたくさんいる池はほかの生物も多い「いい池」と言える。撮影・尾園暁
ですが、年々田んぼが減少している関係で、トンボが住める場所は少なくなってきています。だから、少しでも多くの人に、トンボの美しさと面白さが伝わればいいなと思っていますね
──「こんなに美しい生物が身近にいるなんて、知らなかったです。トンボの生息地がこれ以上減ってしまわないように、さらに多くの人に魅力が伝わればいいですね。尾園さん、今回はトンボの世界について教えていただき、ありがとうございました!」
基本的に“トンボ”を中心に撮っていますが、昆虫全般好きなので、いろんな虫を撮影してますよ