【2023年お正月プレゼント】自宅で簡単! キノコの栽培キットを使った育て方
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こんにちは、カメライターのコウカです。
仕事の合間や終わりにベタに関わるいろんな方々のツイートを拝見するのが日課なのですが、先日、『ベタショップ フォーチュン』のオーナー・石津裕基さんのこんなツイートが目に留まりました。
”イバン族の葬式に出くわして、いま訳のわからん酒を飲まされています(汗) #ボルネオ島探索2022” ※@betta_fortuneさんのツイートより引用
コウカ
ですね!
カインズ編集部さん
訳のわからん酒ってなんですかね。
コウカ
なんですかね。
カインズ編集部さん
ちょっと、取材してきてもらえますか?
コウカ
え? 訳のわからん酒だけのために?
カインズ編集部さん
いや、見たところ野生のベタ探しもされているので、なんか発見とかを聞けるかもしれないじゃないですか。では、よろしくです!
コウカ
……。
と、いうわけで、出張帰りの石津さんにアポを取ってお会いしてきました。
酒の正体はともかく、マレーシアでのベタコンテストやワイルドベタ探しのお話は確かに興味があります。たとえば、ワイルドベタの捕まえ方とか。石津さん、よろしくお願いします!
石津さん
お願いします。お話するのは構いませんが、参考になる話ですかね(笑)。とりあえず、何でも聞いてください。
石津 裕基(いしづ ひろき)
『ベタショップ フォーチュン』代表。IBC(国際ベタ連盟)コンテスト公式審査委員の資格を持つ専門家で、国内外で開催されているベタコンテストに飛び回る日々を送る。ベタ・ルブラという原種をアクアリウムシーンに初めて紹介するなど功績多数。『月刊アクアライフ』では『ワイルドベタの扉をあけて』を連載中。
コウカ
今回の出張の主な目的は、ベタコンテストだったんですよね。
石津さん
はい。ボルネオ島のサラワク州にあるミリという都市で開かれた『グランド オールドレディー インターナショナル ベタショー(Grand Old Lady International Betta Show)2022』の審査員として招集されました。
ちなみに「グランド オールドレディー」とはミリにある石油採掘跡地の名称。観光名所として石油化学博物館もある
コウカ
コロナ禍のため久しぶりの国外コンテストだったと思うのですが、率直なご感想をお聞かせください。
石津さん
いや〜、ミリにあれだけの人とベタが集まるんですから、ショーベタの人気が高まっていることを改めて実感しましたね。
石津さん
というのも、コンテストは大きな街でやることが多いんです。バンコクとか、シンガポールとか、クアラルンプールとか。ご存知かもしれませんが、マレーシアは西と東に分けられ、ミリが位置するのは手つかずの自然も多く残る東マレーシアです。サラワク州ではメインの都市とはいえ、あれほど盛況になるとは予想外でした。
コウカ
盛況というと、どれくらい出品されたのでしょうか?
石津さん
1300匹以上です。
場内に並ぶ1300匹以上のショーベタ
幸いお天気にも恵まれたよう
コウカ
日本だと300匹くらいだから4倍以上! やっぱり東南アジアは規模が違いますね。それを何人くらいで審査されるんですか?
石津さん
今回は確か12人で、6〜7時間かけて見ましたね。普段は頭の中で計算している点数も紙に書き出してほしいといわれたりとか、いろいろ大変でした。
コウカ
数もそうですが、やはりレベルも違うのでしょうか?
石津さん
東南アジアの大会は平均レベルが高いですよ。現地の人は審査基準をよく理解していますし、ブリーダーの規模も違いますから。正直、今回は総合優勝魚を含めてそこまで飛び抜けたショーベタはいなかったのですが、どれも一律に良いので甲乙付けがたかったです。
石津さん
ベタファームを営んでいるプロが出品してくることも多いですし、自分が育てたショーベタが入賞するとネームバリューが上がりますから、真剣そのものです。審査結果に納得できないと食ってかかってくる人もたまにいます。
コウカ
そんなことしても判定は覆らないですよね?
石津さん
もちろんです。そのせいか後になってSNSで愚痴った結果、炎上する人もいます。私が見たところ、抗議の仕方は国によって傾向があるんですが……とにかくいろんな意味で情熱的ですよ、海外のコンテストは。
一つのコーナーに押し寄せる来場者の人々
石津さん
熱いといえば、ちょっと方向性が違うんですけど、ど〜してもトロフィーが欲しいのか、ファームで一番きれいなベタをレンタルして出品してくる人もいます。
ど~しても欲しい!かもしれないほどカッコいい
コウカ
え? そんなんありですか?
石津さん
まあ、ありといえばありですね。ただ、それって楽しいのかなぁ……とは思うんですけど(笑)。
コウカ
確かに(笑)。来年の日本ベタコンテストは海外からの出品も復活するでしょうし、にぎやかになりそうですね!
石津さん
そうですね。海外勢はレベルが高いですから、日本の皆さんには頑張ってもらいたいです。
石津さん
海外だと総合優勝魚が決まった瞬間はめちゃくちゃ盛り上がります。今回も外で爆竹とか鳴らしてました。日本だと静か〜に拍手が起こるくらいなので(笑)、まあお国柄もありますが、もうちょっと盛り上げられると嬉しいですね。ちなみに、海外の大きなコンテストだとMCもいますので、日本でも考えてみたいと思います。
全員で記念撮影。東南アジアに旅行中に現地でベタコンテストやってたとか、そんなタイミングないかなぁ……
コウカ
コンテスト後にワイルドベタ探しに出られたと思うのですが、当初から決まっていたのでしょうか。それとも、現地で突如決まったのでしょうか。
石津さん
当初から決めていました。私自身サラワク州を訪れたのは10年以上ぶりですし、せっかくなので調査に出かけようと。同じくIBCの審査員であるインドネシアのムリヤディという方と計画を立てたんです。
ムリヤディ氏
石津さん
目的は、サラワク州北部では未だ報告されていない「コッキーナ&ピクタグループを探せ!」です。
コッキーナグループ:小型で細身のベタが多く属しているグループ。コッキーナ、ヘンドラー、ペルセフォン など(写真はベタ・コッキーナ)
ピクタグループ:胴体は褐色で尾びれ、尻びれには青の縁取りが入る種類が多いグループ。ピクタ、シンプレックス、タエニアータ など(写真はベタ・ファルクス)
コウカ
サワラク州北部といってもジャングルとかあってめちゃくちゃ広いと思うのですが、そのなかでもどこを探索するのか、目星や段取りは付いていたのでしょうか。
石津さん
地図や地形を見てある程度の計画を立てますが、ケースバイケースですね。ボルネオ島北西部にはイバン族という少数民族がいて、探索の拠点として彼らの村に滞在させてもらわないといけないので、まずはその村出身の人を探さなくてはいけません。
石津さん
今回は運良く、村出身の有力者の方がコンテスト会場に訪れていたので、交渉して紹介していただきました。
コウカ
ご縁ですね〜。ところで私、恥ずかしながらイバン族について存じ上げなかったです。今ググってみたら、サラワク州では最大の民族なんですね。
石津さん
ええ。元はいわゆる首狩り族で、戦利品と思われる頭蓋骨を飾っている家もありますよ。
写真はイメージです
写真はイメージです
コウカ
……それは、百年以上前のものですよね?
石津さん
どうでしょう? まだ風化していないところを見ると、何十年単位のものもあるんじゃないですか。イバン族とは何度も交流させていただいていますが、初めてお世話になったときはさすがに驚きましたけど。
コウカ
とりあえず粗相は起こすまいと身が引き締まりますね(汗)。
コウカ
で、イバン族のお家に泊めていただいて、村のガイドも雇ってワイルドベタ探しに行くという流れですよね。ガイドさんはベタに詳しいのでしょうか?
宿泊施設はないため普通の民家に泊めてもらう。寝心地などの快適性は期待できないかもしれないが、プライスレスな体験といえる
ボルネオ島の奥地へ!
石津さん
いえ、ガイドはジャングルの地形に詳しいだけです。なのでコッキーナグループやピクタグループがいそうな場所を説明するんですが、多くのガイドはギャラ欲しさに知ったかぶりするので困ることがよくあります。
石津さん
幸い今回はハンターでもある凄腕ガイドと出会えて、私がイメージするばっちりの場所に連れていってくれました。何かいろいろ詳しい人でね、食べられる葉とか石鹸代わりになる葉とか、知らなかったことをたくさん教えてもらいました。特にあの石鹸代わりの葉っぱには驚いたなぁ。
コウカ
そういうガイドさんがいると心強いですね! ツイートで川をボートなしで渡っておられる姿を見ましたが、かなりの秘境に行かれたんですか?
石津さん
あれは単に、ボートが入れない狭い川で泳いだほうが早かったからです(笑)。
コウカ
スタミナもそうですが、勇気もありますね。ボルネオ島にもイリエワニがいると聞いたことがありますし、オオトカゲとかは普通にいそうなので、私ならジャングルの川になんて絶対入りたくない……。
石津さん
これも仕事だし、もう慣れっこです。そういえば、我々の歩くスピードにガイドが驚いていましたね。素人であれば行って帰ってくるだけでも一泊二日は必要な距離だといわれたのですが、我々はベタも採集したうえで半日で戻ってきましたから。
コウカ
それは凄すぎです。ですが、じっくり腰を据えて探索されてもよかったんじゃないですか?
石津さん
それが……ちょうどその日の夜の天気予報が雨だったんです。ジャングルの中で雨に振られるとおちおち寝ていられないんですよ。一泊するとなると荷物も増えますしね。
コウカ
なるほど。それで、目的のワイルドベタは見つかったのでしょうか。
石津さん
残念ながら見つかりませんでした。まあ、世の中そんなに甘くないということですね。長年やっていますが、私も同行したムリヤディ氏も世間に発表できる新発見は20年やっていて一度しかありませんから。
コウカ
世間に発表できるとは?
石津さん
厳密にいうと新種のワイルドベタを見つけることもあるんですが、魅力的な色や形をしていて、みんなが欲しいというものでないとカウントしていません。見つけりゃいいってもんじゃないのがこの仕事も難しいところですね。
コウカ
研究ではなくビジネスですもんね。ちなみに、コッキーナグループやピクタグループを発見できる勝算はどの程度あったのでしょうか?
石津さん
たぶんいないと踏んでいました。ただ、これは結構重要なポイントなのですが、いないという確認も大事なんですよ。そうでないといつまで経っても未知の地ですから。
石津さん
それに、ピクタグループが生息していそうな環境、具体的にいうと飲めるような湧き水が出ているきれいな水域に、ベタ・マクロストマがいたんです。
「ワイルドベタの王様」と呼ばれるベタ・マクロストマ
石津さん
マクロストマがきれいな水にも生息していることは知っていましたが、実際に見かけた事例はあまり知りません。少なくとも今回の探索場所で出会えるとは思っていなかったので、一つの発見といってよいでしょうね。しかも、どうやら従来のタイプと色柄が異なるようですし。
コウカ
マクロストマの飼い方が広がる可能性があるということですよね!
石津さん
そうですね。もっとじっくり調べてみないといけないので、ある程度の整理がついたら何らかの形で発表したいです。
コウカ
無知な質問ばかりで恐縮ですが、野生のベタってどうやって捕まえるんですか?
石津さん
いろいろな方法がありますよ。小さいベタなら、ザルとかでガサーっとすくうイメージです。
現地での採集の一コマ
コウカ
それで何匹くらいかかるものですか?
石津さん
一回に入るのは2~3回に1匹ですかね。ベタは集団でいる魚じゃないので。
コウカ
結構大変ですね。大きいベタだとザルでは捕まえにくいんですか?
石津さん
大きいやつは素早いタイプが多いんで、ザルでは難しいです。なので、釣ります。
コウカ
釣る?! 釣ったら口が傷ついちゃいませんか?
石津さん
市販の釣り針は使えないので、現地で生えているとある種類の草の茎をT字に曲げて、釣り針代わりにするんです。餌はミミズを使い、ちょうど口に合いそうなサイズに切って引っ掛けます。
コウカ
へえ〜! でも、茎の釣り針だと折れませんか?
石津さん
折れないように、極細で丈夫な種類の茎を見つけてくるんです。釣り竿は枝の切れ端とかを使うので、釣り糸とハサミ以外は現地調達でDIYですよ。
コウカ
釣りの難易度的にはどんな程度でしょうか?
石津さん
どうでしょうね。目視と経験を踏まえてポイントを探していますが、普通の人がいきなり釣り上げるのは難しいかもしれませんね。
コウカ
私なら確実にボウズになりそうですが、ちょっと体験してみたい……。
コウカ
目的達成とはいきませんでしたが、新発見もできましたし、現役ハンターのガイドも優秀だったということで、収穫のあるご出張だったのではないでしょうか。
石津さん
ガイドねえ。連日一緒に探索に行けるともっと良かったんですけどねえ……。
コウカ
連日? 何かトラブルがあったんですか?
石津さん
トラブルも何も、次の日のガイドの約束も取り付けたのに、大遅刻してきたんですよ。しかも二日酔いでフラフラで、「今日は無理」っていわれました。
石津さん
要するに、1日目に我々が支払った報酬でテンションが上がっちゃって、朝まで酒を飲んでたみたいです(笑)。イバン族の人は基本的に現金収入がありませんから、たまに懐が温かくなるとワーッと使っちゃうことがあるんです。
コウカ
だからといって二日酔いになるまで……。結局その日はどうしたんですか?
石津さん
どうしようもないので、また新たなガイド探しですよ。ただ、今回トータルで3〜4人のガイドを雇ったのですが、その人ほど優秀な人はいませんでした。お酒はほどほどにしてほしかったなぁ。
連れていってほしい場所をばっちり理解していた人だったのに……
コウカ
その二日酔いガイドとの間で、「飲んじゃったもんは仕方ない! 今日はゆっくり休んで後日また頼むわ!」みたいな話にはならなかったんですか?
石津さん
ならなかったですね。というのも、そうこうしているうちに村でお葬式が始まったんですよ。ガイドのうちの一人の叔父さんが亡くなった、とは聞いてはいたのですが……。イバン族のお葬式は村人総出で行い、しかも3日間続くので、我々は待機するほかありません。
コウカ
あ〜、冠婚葬祭は国や民族によって本当さまざまですよね。しかし3日とは……。1日1日が貴重なのに。
石津さん
だから、今回はもう潮時だと思ったんです。帰国日まで余裕があるわけじゃなかったですし、採集の過程で少し手首を痛めたのもあって、切り上げることにしました。
石津さん
Twitterにアップしていた「訳のわからん酒」は、このお葬式に顔を出したときに出された「トゥア」という酒です。
イバン族の伝統的な酒の一つ「トゥア」。米から作られる濁酒のようなものだそう
コウカ
私、お酒が大好きなので興味津々です。味とか度数とかはどんな感じだったんですか?
石津さん
酸味の効いた酒でしたが、ちゃんと発酵しているのか、もしや腐っているだけなのかわからないので怖かったです(笑)。度数はワインとか日本酒くらいかな? そういえば、二日酔いでフラフラだったはずのガイドも来てまた酒飲んでいました(笑)。
石津さん
トゥアは初めてでしたが、実はイバン族の葬式は何度か経験があるんです。わざと大声で泣き叫ぶ役割の人がいてね、悲しさを演出するんですよ。昔の日本でもそういう文化があったそうですが、マレーシアを含むアジア全体ではわりと残っているようです。
コウカ
へえ〜! そういう文化人類学的な話も興味深いですが、石津さんはそれどころじゃないですよね。帰りだって、自然条件を含めて何が起こるかわからないですし。
石津さん
そうなんです。今回の出張で再認識しましたが、往々にして、ベタ探しより現地の人との関わり方のほうがはるかに骨を折られます。日本人なら当然のビジネスマナーや段取りも彼らにはありませんから。
石津さん
電話で「いついつは空いてるか?」と問い合わせたら、「そんなに先のことはわからないから日程が近づいてきたら再度連絡をくれ」とかいってきますしね(笑)。当日に起こるトラブルも盛りだくさんです。忍耐力や臨機応変な判断は必須ですよ。
コウカ
ご苦労さまでした……。今回の探索地については、「コッキーナやピクタグループはいなかった」という結論ですか?
石津さん
二日酔いになったガイドが案内してくれるはずの場所を見ていないので何ともいえませんが(笑)。「ほぼいないであろう」ですね。とはいえ、なにせ広い地域ですし、もう一度行く価値は十分にあります。目当てではありませんでしたが、そこにいるはずはないと思っていたマクロストマに出会えましたから。
コウカ
なるほど! ありがとうございました! またよろしければ出張体験記をお聞かせください。
ワイルドベタ探しそのものはもちろん、現地に行き着くまでのコーディネーター探しや、たどり着いてからのコミュニケーションの取り方も難しいと振り返る石津さん。実際、外部からの人間は「商売をしにやってきた」と警戒されることも多く、まずは打ち解けるための努力も非常に大切だそうです。
次回も石津さんの出張体験記をお聞きできる機会があれば幸いです。それとは別に、コロナ禍明けの久々の海外旅行はボルネオ島に行ってみたいなと、わりとマジで考えている私です。
文:コウカ
写真はベタショップ フォーチュン様ご提供
カインズ編集部さん
Twitter見てます? 石津さん、なんか濃い出張されてますね。