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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
犬が体を舐めたり、噛んだりしてかゆそうな仕草をしていたら、アトピー性皮膚炎かもしれません。飼い主にとって苦しむ愛犬の姿を見るのはとてもつらいことですよね。特にこれからの時期は、犬の皮膚疾患のかゆみが増すともいわれる夏を迎えますので、愛犬にアトピー性症候群が疑われるような症状があれば一層注意が必要です。そこで今回は、バーニー動物病院 千林分院の獣医師・堂山有里先生に教えていただいた、犬のアトピー性皮膚炎の原因や症状、治療方法などについて解説していきます。
目次
- 犬のアトピー性皮膚炎とは?
- アトピー性皮膚炎になりやすい犬種や年齢は?
- 犬のアトピー性皮膚炎の症状は?
- かゆみの症状が出たとき、犬がとる行動は?
- かゆみの症状が出やすい部位は?
- 犬がアトピー性皮膚炎になる原因は?
- 犬のアトピー性皮膚炎を病院で診てもらうタイミングは?
- 犬のアトピー性皮膚炎の診断方法は?
- 犬のアトピー性皮膚炎の治療法は?
- 犬のアトピー性皮膚炎を予防する方法は?
- 犬のアトピー性皮膚炎を早期発見する方法は?
- 犬のアトピー性皮膚炎の注意点は?
犬のアトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、ダニや花粉といった環境中のアレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)が皮膚を通して体内に入ることで起こる慢性の皮膚疾患です。強いかゆみを伴うのが最大の特徴で、患部を掻いてしまうことで、皮膚の赤みや脱毛といった症状にもつながります。
アトピー性皮膚炎は他の犬にはうつる?
感染性の疾患ではないので、他の犬にはうつる心配はありません。
アトピー性皮膚炎は完治するの?
治療によって症状を緩和させることは可能です。しかし、現時点では、1度発症してしまうと完治させるのは難しいです。
愛犬がアトピー性皮膚炎になると飼い主の心理的不安も大きい
犬のアトピー性皮膚炎は、飼い主にも心理的な不安としてのしかかります。愛犬がかゆがる姿や毛が抜け落ちてしまう姿を見るのはつらいものです。夜中に愛犬が体を掻きむしる音で目が覚めてしまうといった悩みも聞かれます。また、治療に通ってもなかなか症状が改善せず、治ってもすぐにまたぶり返してしまうことが多いため、治療の長期化が飼い主の精神的・経済的な負担にもつながることも。そのほか、薬を長く飲ませ続けることや、ステロイドの副作用に対する不安を口にする飼い主もいます。
アトピー性皮膚炎になりやすい犬種や年齢は?
柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シーズー、フレンチ・ブルドック、トイ・プードル、レトリバー犬などがかかりやすいといわれています。多くは生後6か月頃~3歳頃までの若い年齢で発症します。なかには高齢になってから症状が出る場合もあります。
アトピー性皮膚炎がひどくなる季節は?
アレルゲンである花粉が多く飛来する春(または秋)や、イエダニが増える秋は症状が見られやすい時期といえます。また、高温多湿となる梅雨〜夏にかけて悪化しやすいので注意が必要です。
犬のアトピー性皮膚炎の症状は?
犬のアトピー性皮膚炎になると、どのような症状が見られるのでしょうか。
かゆみ
最もよく見られる症状がかゆみです。アトピー性皮膚炎のかゆみは「引っ掻きたくなるような不快な感覚」といわれます。体を守るために、皮膚についた異物を取り除こうとする防御反応として現れる症状です。
皮膚が赤くなる
かゆみによって皮膚を掻いてしまうと、皮膚の細胞から炎症を引き起こす物質やかゆみの神経に働く物質が放出されて皮膚炎が起こります。皮膚が赤くなるのは、炎症が起きた部位の血管が広がり、血流が盛んになるためです。
フケが出る
フケは古くなった皮膚の角質が剥がれ落ちたものです。健康な皮膚であればフケが出てもほとんど気になりませんが、アトピー性皮膚炎になったり、皮膚が乾燥していたりするとフケの量が増えます。
皮膚や耳がにおう
アトピー性皮膚炎の犬は皮膚のバリア機能が低下しているため、細菌や真菌感染が起こりやすい傾向があります。感染性の外耳炎や皮膚炎にかかると独特のにおいが発生します。
毛が抜ける・薄くなる
かゆみによって患部を掻きむしると、その部分の毛が抜け落ちたり、薄くなったりします。毛が抜ける原因はほかにも、寄生虫感染や腫瘍、ホルモン異常によるものなどがあるので、何が原因なのかは見極める必要があります。
かゆみの症状が出たとき、犬がとる行動は?
犬のアトピー性皮膚炎の主な症状であるかゆみが出た時、犬はどんな行動を取るのでしょうか。
舐める
皮膚に不快感があると犬はその部位を舐めることでかゆみを鎮めようとします。舐めやすい部分としては、足先やお腹の皮膚、尻尾の付け根などです。
噛む
舐めてもかゆみが続く場合、より強い刺激を求めて噛むこともあります。
引っかく
アトピー性皮膚炎は、腹部や脇の下など皮膚の薄い部分にかゆみが出やすい傾向があり、足を使ってかゆい部分を引っかく行動もよく見られます。外耳炎など頭部に強いかゆみがある場合は、前足で耳の付け根や外耳道の内側を引っかきます。
皮膚をこすりつける
同じく皮膚のかゆみを鎮めるために、家具や床にかゆい部位をこすりつけることもあります。自分では舐めたり噛んだりできない背中や脇腹がかゆいときに見られやすい行動です。
「かゆみのサイクル」に注意
かゆいところを掻いたり、舐めたりすると一時的にかゆみが軽減しますが、一方で、皮膚表面の角質が剥がれ落ちて皮膚のバリア機能は低下してしまいます。バリア機能が低下した皮膚はわずかな刺激にも反応してかゆみが起こりやすくなり、そこで、さらに掻くとより強いかゆみに襲われる「かゆみのサイクル」が起こります。この悪循環を繰り返すと症状がどんどん悪化していくため、かゆみを放置しないことがとても重要です。
かゆみの症状が出やすい部位は?
アトピー性皮膚炎によってかゆみが出やすい部位は次のとおりです。愛犬がアトピー性皮膚炎なのか判断に迷った時は、こちらの部位に症状が出ているかを確認してみてください。
・目や口の周り
・耳などの頭部
・皮膚の薄い部分(脇の下、肘の内側、手首、足首、指の間、パッドの周囲、お腹、尾の付け根)
犬がアトピー性皮膚炎になる原因は?
犬のアトピー性皮膚炎は、生まれつき皮膚のバリア機能が低いという遺伝的な要因に加え、長期間、環境アレルゲンに晒され続けるという生活環境の影響が複合的に絡み合って発症するといわれています。アトピー性皮膚炎の原因は多面的で、このほかにもかゆみを起こさせるメカニズムがあるのではと考えられています。次に挙げるのは、主な原因とされているものです。
アレルギー体質
アレルギー体質を持っていると、特定の物質(アレルゲン)に体の免疫細胞が過剰に反応することでかゆみが発生します。アレルゲンになりやすいものとしては、イエダニや花粉などの環境中の物質、食べ物に含まれる特定のタンパク質、ノミの唾液に含まれる物質、ダニの1種である疥癬(かいせん)感染によるものなどが挙げられます。
皮膚のバリア機能が弱い
皮膚のバリア機能は、皮膚の角質と、角質の間を埋めるセラミドがしっかりと密着して皮膚を覆うことで働きます。アトピー性皮膚炎の犬の皮膚ではセラミドが少ないことがわかっており、そのためバリア機能が弱いと考えられています。バリア機能が弱い皮膚は乾燥しやすく、アレルゲンの影響を受けやすくなります。
ダニや花粉などの生活環境の影響
イエダニや花粉といったアレルゲンに長期間さらされ続けることも、アトピー性皮膚炎を発症する原因となります。
犬のアトピー性皮膚炎を病院で診てもらうタイミングは?
犬がかゆそうにしていたら、早めに病院に連れていくようにしましょう。アトピー性皮膚炎は、かゆみを鎮めるために掻きむしったりすると余計に悪化してしまうので、掻いてしまう前に治療を進めることが大切です。
犬のアトピー性皮膚炎の診断方法は?
動物病院では、どのようにアトピー性皮膚炎を診断するのでしょうか。診断までの流れについて、順を追ってみていきましょう。
①問診
かゆくなり始めた時期やかゆみの程度のほか、普段食べている食事、生活環境、ノミやダニの予防歴、シャンプーの頻度など詳細に聞き取りを行います。皮膚科専用の問診用紙を使用する病院もあります。
②視診
犬のかゆみを起こす皮膚炎はいくつか種類が知られていますが、かゆみや皮膚の炎症の出方に一定のパターンがあるため、視診をして判断していきます。皮膚の状態だけでなく、犬の体調や栄養状態などもかゆみの原因に関係するため、一般的な身体検査も行います。場合によっては、血液検査やレントゲンなどの画像検査を行うこともあります。
③皮膚の細菌や寄生虫感染がないかを調べる
スライドグラスやセロテープⓇなどを押し当てて皮膚表面の状態を調べたり、毛を少量抜き取って毛根の顕微鏡検査をするのが一般的です。表面を軽くこすりとって角質の中に住む寄生虫を調べる「掻き取り検査」を行うこともあります。
これらの検査の情報を総合的に判断して、かゆみの原因を診断します。
犬のアトピー性皮膚炎の治療法は?
アトピー性皮膚炎の治療は、飲み薬や注射、外用薬などの投薬治療が一般的で、治療の目的はかゆみをコントロールすることにあります。以下に紹介する薬はどれもかゆみを止める作用がありますが、種類によってかゆみを抑える効果の発現速度が違ったり、かゆみを止める以外の効果も同時に現れたりすることがあります。どの治療を行うかは、動物病院の獣医師と相談して決めましょう。
飲み薬
ステロイド剤:抗炎症作用や免疫抑制作用があります。素早くかゆみを抑える効果が現れること、価格が安価であることから、飲み薬の中では最もよく使われている治療薬です。その反面、ステロイドは投与した直後から、食欲が増し多飲多尿になるなど体に様々な変化が現れます。長期的に使用すると、肝臓や副腎、筋肉、皮膚などに重い副作用が現れることもあるため、注意が必要です。
シクロスポリン製剤:免疫抑制作用があります。価格は比較的高価で、効き始めるまでに1か月ほど時間がかかるものの、長期間使っても副腎への影響がない点は安心です。副作用として、望まぬ免疫抑制が起こることがあります。
漢方薬:近年、動物のアトピー性皮膚炎でも、漢方薬を使用することで良好に維持できるという報告がされています。漢方薬治療では体質を重視するため、もともとの体質の中で弱い部分をケアすることで、かゆみが生じにくくなる治療をしていきます。
注射
ステロイド剤:ステロイド剤は注射で投与する場合もあります。飲み薬と同様、注射後、数時間で素早くかゆみを抑えることができますが、食欲増進や多飲多尿などの副作用には注意が必要です。
犬インターフェロンγ:犬アトピー性皮膚炎の治療薬です。効果が出るまでに数か月間、注射に通う必要がありますが、副作用が少なく、安全性が高いのが特徴です。
塗り薬
外用ステロイド剤:皮膚(患部)に直接つけて使用するタイプのステロイド剤で、飲み薬より安全に使用できるため、最もよく処方される治療薬です。スプレー剤やクリームタイプなど、犬の体に使いやすいように開発されています。ただし、同じ場所に長期間つけ続けると皮膚が薄くなりフケが出ることがあるので注意が必要です。
スキンケアで体を清潔に保つ
アトピー性皮膚炎の治療には、シャンプーや保湿剤といったスキンケア製剤を使うこともあります。アトピー性皮膚炎を悪化させる花粉やイエダニなどは、被毛に付着して、皮膚の表面から侵入するため、定期的にシャンプーをしてアレルゲンを洗い流すことがとても重要です。専用のシャンプーは皮膚の乾燥を防ぎつつ、皮膚のバリア機能を強くする効果もあります。また、シャンプーをしたあとは、肌がより乾燥しやすくなるので、必ず保湿剤を使用します。
犬の皮膚治療用シャンプーには保湿力の高いもの、感染を抑える作用のあるもの、あぶらを落とす作用のあるものなど、様々なタイプがあります。愛犬の体調に合わせてどのシャンプーを選ぶと良いのかは獣医師に相談するとよいでしょう。
洗いすぎると皮膚の乾燥が進むので、シャンプーの頻度は週1~2回程度が目安ですが、詳しくは専門家の指示に従いましょう。シャンプーは直接皮膚につけず、洗面器などでよく泡立ててから優しく洗います。病院に併設されたトリミング施設などでは、皮膚治療を目的としたシャンプー療法を受けることができるのでおすすめです。
専用のドッグフードを食事として与える
食事面からのアプローチとして、専用のドッグフードを治療に取り入れることもあります。抗酸化物質やビタミン、ミネラル、必須脂肪酸などを含み、皮膚バリアを正常化するものや、抗炎症作用のあるもの、かゆみを抑える作用のあるものなど、その種類は様々。過剰な免疫反応を緩和し、皮膚や被毛のダメージからの回復を促すといった効果も期待できます。
新たな治療の選択肢も
アトピー性皮膚炎の治療薬としてはステロイド剤が一般的ですが、近年、次に挙げるような新たな治療方法も選択肢として広がってきています。
オクラシチニブ製剤:かゆみを抑える力に優れた飲み薬。まれに一時的な下痢や嘔吐といった症状が見られますが、副作用が少ないのが特徴です。
抗体医薬:月に1回の注射で治療できる注射薬。かゆみにピンポイントに効くので、副作用のリスクが非常に少なく、安全性が高い治療薬といえます。
減感作療法:微量のアレルゲンを注射して体内に入れることで、アレルギーを起こさないように徐々に慣らしていく治療方法。複数回、注射に通う必要がありますが、1度アレルギーが起きない状態になってしまえば、それ以降の薬による治療が必要なくなることが期待できます。
犬のアトピー性皮膚炎を予防する方法は?
アトピー性皮膚炎になりやすいかどうかは犬種や生まれつきの体質が大きく関与するといわれていますが、いまだ全てのメカニズムは解明されていません。愛犬が先に挙げたアトピーになりやすい犬種に当てはまれば、現時点で症状がなくても、皮膚を清潔に保ち、なるべくストレスのかからない生活を送らせることを心がけましょう。
食事内容に気を付けるも大切です。添加物や保存料の多いおやつやジャーキー、原材料がわからない安価なドックフードなどは避けた方が良いでしょう。また、食物アレルギーのある犬の場合は、食事にアレルゲンが含まれないように注意する必要もあります。
犬のアトピー性皮膚炎を早期発見する方法は?
早期発見は、普段から愛犬の様子や皮膚の状態をよく観察することにつきます。かゆがっている様子がないか、皮膚が赤くなっているところがないか、いつもと違う匂いがしないか、ぶつぶつしているところがないか、フケが出ていないかといったポイントに気をつけて観察し、もし当てはまることがあれば早めに動物病院を受診してください。
犬のアトピー性皮膚炎の注意点は?
犬のアトピー性皮膚炎の症状は、飼い主の愛犬への向き合い方にも影響を受けることがあります。かゆみが治らず、苦しそうにしている愛犬の姿に自分を強く責めてしまう飼い主がいますが、飼い主が辛そうにしていたり、悲しそうにしていたりすると、愛犬も一緒に落ち込んでしまいます。一方で、普段から飼い主が笑顔でいると、愛犬も同じように嬉しく幸せな気持ちになります。
上記に限らずストレスはかゆみを強くする一因なので、愛犬が好きなことを日常生活の中に取り入れ、たまには外に出て気分転換し、優しく語りかけてあげるようにしましょう。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。
更新:2021年7月12日
初稿:2021年7月6日