埼玉県平野部なぜ暑い? 熊谷地方気象台と熊谷市長に聞いてみた
リンクをコピーしました
目次/ INDEX
スーパーの果物コーナーでよく見かけるアイツ。丸くてころころしている、赤かったり黄色かったりするアイツ。そう、「りんご」です。
まるで一年中獲れますよと言わんばかりに、常に店頭に並んでいるりんごですが、実は8月から12月にかけて収穫される果物です。特に、収穫の時期を迎える品種が一番多い10月は、りんご農家は目が回るほどの忙しさで、私も今年の10月のことはおぼろげにしか覚えていません(笑)。
一年を通じて、私たちの手元にりんごが届くからくりは、「CA貯蔵」や「スマートフレッシュ」という保存技術にあります。細かい仕組みについては割愛しますが、「果実の生態に基づいて人工的な作用を与え貯蔵性を高める」技術です。
しかし、品種によって長期保存の向き不向きがあるのもまた事実。そのため、ほかの果実と同じく「旬」を意識していただくと、おいしいりんごに出会いやすいと思います。
「旬」のりんごとの出会い方としては、りんごの木からもいだ実に皮ごとかぶりついてもらうのがベストです。「もぎたてりんご」の新鮮な味を、私はりんご農家になって初めて知りました。
あっ、申し遅れました。はじめまして。りんご畑が好きすぎる、駆け出しりんご農家の永井温子です。
りんご農家の永井温子さん
私は今、青森県弘前市でりんごを栽培しています。大学生の時に暮らした弘前という街が大好きでしたが、卒業後は都内で数年働きました。でも、何かおもしろいことをしたいと考えた結果、地域おこし協力隊としてこの街に戻ってきました。
今回は、皆さんと一緒に「りんごの切り方」を学ぶつもりで、この記事を執筆させていただきました。私が独断と偏見で選んだ「りんごに関する豆知識」も、あわせてお伝えしていきます。楽しんでいただければ幸いです。
りんごには、主に4つの食べ方があります。
まず1つ目。生のままガブッとかじる、食べやすい大きさにカットしていただく。味や香りはもちろん、食感も存分に味わうことができます。
2つ目。ジュースにしてグビッと飲む。りんごの味わいを楽しむのには一番お手軽です。品種によって舌触りも違います。産地では、農家さんがそれぞれジュースを絞って販売しているので、飲み比べてみるのもおもしろいです。
3つ目。火を通してお菓子にする。アップルパイやタルト・タタンが代表的な焼き菓子ですね。火を加えることで食べやすくなりますし、風味も増します。ちょっと特別な時に、見た目にも華やかに仕上げれば、うれしいテーブルになります。
そして4つ目。おかずに取り入れる。たとえば、いつもの野菜サラダに細切りにしたりんごを加えるだけで、彩り豊かになります。また、お砂糖の代わりにもなるので、ドレッシングやソースに混ぜて使うのもよいアイデアです。
ひと工夫するだけで、いろいろな食べ方ができる。それが、りんごです。
世界中で作られ、長く人々に親しまれてきたりんご。日本国内だけでも約2,000品種がありますが、スーパーなどに出回るものはそのうちの50品種と言われています。ここでは、主な5つの品種をご紹介します。
11月上旬ごろから収穫される「ふじ」は、青森県藤崎町で生まれた品種です。国内でもっとも生産量が高く、保存性にも優れているため、スーパーでもよく見かけます。食べ方は生で食べるのがおすすめ。甘味と酸味のバランスが抜群で、りんごとしてなじみ深い味です。ひと口かじると「あ、これこれ、この味」と私は思います。
りんごの木には「枝変わり」という突然変異が起こることがありますが、その枝変わりで「ふじ」から生まれた品種も多く、例えば10月上旬に収穫される「ひろさきふじ」などの品種があります。
10月下旬ごろから収穫される「王林」は、福島県桑折町で生まれました(ちなみに永井も福島県生まれです)。「ふじ」には及びませんが、国内で作られる黄緑色系のりんごではもっとも多い生産量を誇ります。
縦長のすっきりとしたシルエットが独特で、香りが強く、さっぱりとした味わいです。初めて食べた時に「あ、緑のりんごは酸っぱい印象だったけど意外と甘いのね」と思った記憶があります。こちらも生で食べるのがおすすめです。また、「王林」から生まれた「黄王(きおう)」や「トキ」などの品種と食べ比べても、それぞれの個性を楽しめておもしろいと思います。
青森県で生まれた「つがる」は8月中旬ごろから収穫されます。国内では「ふじ」に次ぐ生産量であり、収穫時期の早い「早生(わせ)りんご」の代表格です。
酸味が少なく、ジューシーな味わいで、同じ時期に収穫を迎える「黄王」や「未希ライフ」と比べ、より奥行きが感じられる味です。生で食べるのはもちろんですが、ジュースにしても濃くてはっきりとした味を楽しめる品種です。
「トキ」も青森県を代表するりんごのひとつです。2004年に品種登録された比較的に新しい品種で、「ふじ」と「王林」が親という、りんご界のサラブレッドです。9月中旬ごろに収穫が始まります。
甘いりんごが好きな人にはたまらない、コクのある甘みが特徴的です。私は初めて食べた時、「温かみのある色味なのに、思ったよりも食感がシャキシャキとしていて歯ごたえがあるなあ」と感心した覚えがあります。
10月中旬あたりに収穫期を迎える「紅玉」は、アメリカ原産の品種です。明治時代に日本に導入されて以来、生産され続けている歴史の長いりんごです。小ぶりの実をたくさんつけるので、「千成(せんなり)」と呼ばれていた時期もあります。
甘味だけでなく、酸味がしっかりとある「紅玉」が私は好きです。小ぶりだから食べ切るのにもちょうどいいですし、生で食べるのはもちろん、加工用としてのポテンシャルも高く、ジュースやお菓子にしてもおいしい品種です。
* * *
ここまで5つの品種をご紹介しましたが、私が品種を意識してりんごを食べるようになったのは、りんご農家になってからでした。複数の品種を食べ比べてみて、それぞれ独自の味を持っているということがわかると、「りんごっておもしれえぇぇぇ」と空に向かって叫びたくなります。
お気に入りの品種が見つかると、愛着もわきます。愛着がわくと、その品種の収穫時期が待ち遠しくなります。そのようなカタチで意識できる“りんごの旬”もあります。
そうして見つけたお気に入りのりんご。食べやすい大きさにカットして、いざ実食。でも、せっかくだから、ゆっくり味わいたいなあ。本でも読みながら、食べようか。本を読むなら、コーヒーでも淹れるか。
そうして、鼻歌交じりにコーヒーを淹れ、りんごの元に戻ったあなたは、あまりの衝撃にマグカップを手から落とし悲鳴をあげます。
な、なんと。あんなにきれいだったクリーム色の断面が、茶色く、変色しているではありませんか!
だいぶ大げさに書きましたが、切ったりんごがいつの間にか茶色くなっていて、微妙な気持ちになったという経験はありませんか? さすがに悲鳴をあげるほどではありませんが、茶色くなったりんごの切り身を見ると、どこか残念な気持ちになります。りんごに罪はないのですが。
どうしてりんごが茶色くなってしまうのかというと、ポリフェノール類の作用が関わっています。空気に触れ、りんごの果実に含まれているポリフェノールが酸化することで、褐色の物質が生成されるのです。それが、カットしたりんごが茶色く変色する理由です。
ですが、切ったりんごが茶色く変色するのを防ぐ方法もあります。「塩水にさらす」、あるいは「レモン汁にさらす」という2つの方法です。
この2つの方法で手軽に、切ったりんごの変色を防ぐことができます。手軽にとは言いましたが、ボウルを用意したり、数分さらしたりするのも、まどろっこしいと思う方(ああ、私のことですね)もいらっしゃるかもしれません。
そんな方(ああ、ずぼらな永井のことですね)に朗報です! なんと、「変色しにくい」品種があるのです!
変色しにくい品種とは、「千雪(ちゆき)」というりんごです。濃い赤色の皮に、白い大きめの斑点が目立ち、その様子が千の雪が降りしきっているような見た目なことから命名された、比較的新しいりんごです。
切ったりんごが変色するのはポリフェノールが関わってると前述しましたが、「千雪」はほかのりんごと比べ、果実に含まれているポリフェノールの量が少なく酸化の働きも弱いため、変色しにくい品種であるということが研究でわかっています。変色しにくいという特性を持たせるために開発された品種ではなく、副産物的に特性が発見された品種です。
2020年から、私はこの「千雪」だけを植えたりんご畑をお借りし栽培しています。私の肌感覚ではありますが、ほかの品種と比べて「千雪」の枝はとても元気な印象があります。太陽の光を求め、上へ上へと、ぐんぐん伸びています。その姿に、私は元気をもらっています。
とても甘くて香りが強く、食べた方から「桃みたいな味がする」というお声もいただきました。機会があればぜひ食べていただきたい、私の“推しりんご”です。
今回はこの「千雪」を使って、りんごのいろいろな切り方をご紹介していきます。
最初にご紹介するのは「くし形切り」です。一番スタンダードな切り方で、ほかの切り方にもつながる基本型です。りんごの大きさに応じて8等分から12等分のサイズにカットしていきます。煮りんごなどにおすすめです。特に品種を選ばず、いろいろなりんごに試していただけるかと思います。
「うさぎの飾り切り」は、簡単で見た目がかわいい切り方です。お弁当に入れると、まるでうさぎがちんまり座り込んでいるようで、りんごの皮の色も映えて彩り豊かになります。アイスクリームに添えると、雪うさぎみたいでかわいいかもしれません。見た目を考えると、「ふじ」などの皮の赤いりんごがおすすめです。
どれくらい皮に刃を入れるかで、耳の長いうさぎ、耳の短いうさぎなど、うさぎたちに個性をつけることもできそうですね。
続いて、「薄切り」です。お刺身のように薄く切って綺麗に並べるととても上品で、見る人の目を喜ばせてくれます。例えば、丸いお皿の端に薄切りにしたりんごを並べ、中央に野菜を盛り付けると、華やかなサラダになります。この切り方は、アップルパイやケーキなどのスイーツにも向いています。薄めに刃を入れていくので、「ふじ」や「トキ」など、ある程度硬さのある品種がおすすめです。
りんごの「輪切り」は、切り口の真ん中に星のような模様が現れるので「スターカット」とも呼ばれます。捨てる場所も少なく、りんごを余すことなく食べられる切り方です。これまでご紹介した切り方の中でもっとも工程が少ないので、食後のちょっとした時間にさっと準備できます。しかも「おっ、これはまたなんとも風流な」という見た目でもあるので、お食事にいらっしゃったお客様にも喜ばれるかもしれません。これも品種を選ばない切り方ですが、最近開発された「紅の夢」という果肉まで赤い品種は、輪切りがとてもよく映えます。
最後にご紹介するのは「木の葉切り」です。その名のとおり、木の葉っぱのような形になる切り方で、まるで和菓子のような佇まいです。見た人が歓声をあげて唸ること間違いなし。食べるのがもったいないですね。細かい作業なので、小ぶりの包丁を使うのがおすすめです。こちらもある程度硬さのある品種を使うといいでしょう。そのまま煮りんごにしてもよさそうですね。
いかがでしたでしょうか? りんごっていろいろな切り方ができるのだなあと、私も感心しました。りんごって、えらい。りんごの皮は滑りやすいので、包丁の扱いには十分を気をつけて、5つの切り方を試してみてください!
「5種類とも知ってた」というりんご通の方は、次の上級編にチャレンジしてみてください!
りんごの下半分の中身をくりぬけば、可愛い器に大変身。上から見ると花のようになります。
最後に、りんごについての豆知識をご紹介します。駆け足で耳寄りな情報をお伝えしていきますよー!!!
ポリ袋に、りんごと一緒に乾燥防止のためのキッチンペーパーを入れて口を縛ります。ベストは一個一個包むことですが、まとめて包むがさつなやり方でもオッケー。それを冷蔵庫に入れて保存すれば、鮮度をキープできます。
生産者の間では「つる」と呼ばれている「ヘタ」。この根本に割れが入ることがありますが、実はこれは完熟の証です。ただし痛みが早いので、ヘタに割れが入ったりんごを見つけたら早めに食べましょう。
「星の金貨」は青森県生まれの稀少品種。皮が薄く傷がつきやすいため、あまり一般流通されていないりんごです。しかし、皮が薄いということは、まるかじりしやすいということ。シャキシャキした心地よい歯応えのファンになる人も多いです。
もし冷蔵庫の奥で古いりんごを見つけてしまったら「煮りんご」をおすすめします。電子レンジで簡単に作れますよ。品種によっては、果肉が綺麗なピンク色になることもあります。
りんごを大量に消費するには、「キャロットラペ」にりんごを混ぜるのがおすすめです。にんじんだけでもおいしいのですが、りんごを入れることで食感と味に変化が出て、より食べやすくなります。
りんごの豆知識やレシピなどをバタバタとお伝えしてきましたが、もっと皆さんにお伝えしたいりんごの話がたくさんあります。いつかまた機会があれば、そういうお話もできればなあと思います。
りんごの切り方を入り口に、駆け出しりんご農家の永井がお届けした今回の記事、いかがだったでしょうか? 少しでも、皆さんのりんごについての疑問に応える、皆さんにりんごを身近に感じてもらえるような内容になっていたら幸いです。
「近所のスーパーでりんご買ってみようかな」。そう思っていただけたのであれば、この数年ずっとりんごに助けられてきた私にとっても、それに勝る喜びはありません。
りんごには、たくさん種類があるし、好みによってどれがおいしいと感じるかもさまざまです。ぜひ、いろいろなりんごを食べ比べ、ご自身に合うりんごを見つけてみてください。最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
レシピ提供・撮影協力:津軽あかつきの会(青森県弘前市大字石川)