最後に漬物を美味しいと感じたのはいつですか? 漬物文化と魅力を伝え続ける。漬物専門店店主・柳沢博幸
リンクをコピーしました
目次/ INDEX
10年以上、横ばい状態が続くホームセンター業界で右肩上がりの成長を続け、総売上1兆円超のベイシアグループの中核を担うカインズ。
その成長の背景には、SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)と呼ばれる独自の事業戦略がある。社内をSBUという事業部ごとに分社化し、各SBUが独自の施策を実行していくという戦略だ。
そのSBUの中でもっとも大きい組織「ライフスタイルSBU」は、“ライフスタイルDIYブランド”としての認知確立を目指し、「ヒット商品の継続的な開発」と「新業態展開の加速化」などに取り組んでいる。取り扱うジャンルは、キッチン・掃除用品、インテリア雑貨、DIY関連商品など、お客様の日常生活や趣味に根ざしたモノが中心だ。
これからのライフスタイルSBUの展望や、中途人材の採用について、同事業部の部長・吉井純人に話を聞いた。
カインズ ライフスタイルSBU長 吉井純人
ホームセンターという場所はご存知の通り、いろいろな商品を売っています。大きい店だと10万種類以上の商品を展開しています。しかし、お客様の多くは、何かが壊れた時とか、何かが無くなった時とか、マイナスの状況をプラスマイナスゼロに戻すためにホームセンターを利用するケースが多いんです。でも「それじゃつまらないだろう」とカインズのメンバーたちは考えています。
つまり、マイナスをゼロに戻すだけで満足するのではなく、プラス1にも、プラス10にも、プラス100にもなるような商品・サービスをつくろうとしているのがカインズなんです。「ホームセンターではなく、カインズという業態になりたい」——そういう姿勢こそ、カインズが2020年に業界一位の売上を達成できた原動力になっているんだと思います。
テレビCMでも馴染みはあるかもしれませんが、カインズは全社的に「くらしに、ららら。」というメッセージを掲げています。これはお客様が思わず「ららら」と口ずさんでしまうような楽しい提案をしよう、日常生活をより良くできる商品を開発しよう、という決意の表れでもあります。
そして、われわれライフスタイルSBUが目指すべきところは、このカインズ全体のビジョンとほぼ一致しています。ライフスタイルSBUの取り扱うカテゴリーはインテリア、掃除・収納グッズなどの家庭用品から、キャンプ、DIY、花き、観葉植物、カー用品、自転車、家電など広範にわたります。「衣・食・住」ならぬ「育・食・住」をトータルコーディネートする部門だと社内では言っています。「育」という言葉には、DIYを通じて創造力を養ったり、お花や野菜を育てたり、ペットとの生活を楽しんだり……くらしそのものを自分で豊かに育てていく、という幅広い概念を含めています。
実際にライフスタイルSBUで事業戦略を立てる際には、部独自の指標として「くらしに明かりを。」というコンセプトを立てています。商品開発にあたるメンバーたちは、このコンセプトからズレないように、「創造的であるか?」「easy & smartであるか?」「健康的であるか?」「情緒的であるか?」「社会貢献になるか?」と常に自問しています。
たとえば「easy & smart」というのは家事関連グッズを開発する際の非常に重要なキーワードです。その商品を手にしたお客様が家事をよりスマートに簡単にこなせるようになるか? そして、その商品を使うことで健康的かつ情緒的なメリットを享受できるようになるか? その結果、社会貢献につながる商品なのか?——これらはわれわれがお客様に提供する価値を高めるために、常に意識しているポイントになります。
そのうえで、実務者として品質・価格・機能・供給体制などといった具体性へとプロジェクトを落とし込んでいます。
ライフスタイルSBUの目指すビジョンをもっとも端的に表現しているのが、2020年に横浜みなとみらい、海老名にオープンした「Style Factory」という新しい業態です。Style Factoryは従来のカインズとは異なり、売場面積200〜300坪と非常に小さな店舗です。都市型のカインズですが、従来のカインズとは考え方が異なります。
2020年7月にオープンしたStyle Factory ららぽーと海老名店
前述のようにホームセンターという業態は何かが壊れた時とか、明確な買い物の目的があってご来店いただくことが多いのですが、Style Factoryの場合はお客様の購入目的がそこまでハッキリしていません。そのため、Style Factoryは“カインズ版セレクトショップ”と位置づけ、「楽カジ」を中心に9つのテーマを設定した売り場展開をして、くらしを自分に合う形で向上できる商品を取りそろえ、気づきやなるほど、と思える商品を提供しています。
【Style Factoryの9テーマ】
極端な話、広い売り場のホームセンターでは、包丁だけでも100種類ないとダメだったのに対し、Style Factoryではテーマにあった包丁だけあればいいんです。たとえば、「楽カジKITCHEN」のコーナーでは、キッチン周りの労力を3割減らす、時間を3割短縮することを目指しているため、それ以外の商品は置かないというルールがあります。まだ完全に実現できていないので、“楽カジ”につながる商品開発を進めながら、テーマに沿ったお店づくりを目指しています。
また、すべての売り場に“DIYの要素”を取り入れています。DIYと言っても大工道具があるわけではありません。カインズはくらし全体をDIYと考えていて、自分にとってベストな形を自らつくるのがDIYだと定義しています。マイナスからプラマイゼロにするだけでなく、やり方によってはプラス1にもプラス10にもできる。そうした広義の意味でのDIY要素を、家事や快眠、ヨガなどの領域にも拡大しているところです。
たとえば、快眠を得るためにはいろいろな工夫が必要ですが、その快眠を自分で総合的にデザインできる売り場を目指しています。寝心地のいい布団や枕はもちろんですが、寝る前にヨガや軽い運動をするだとか、お風呂やシャワーでもっとリラックスできるようにするだとか。さらに部屋を香りづけるだとか、起床時に朝日を完全にシャットアウトするカーテンがいいのか、ちょっと朝日が入るカーテンがいいのかだとか、快眠のためにやらなければいけないことは人それぞれ違うので、自分なりの睡眠をデザインしていただくイメージです。
料理も、掃除も、洗濯も同じです。自分なりの形にくらしをつくり上げていただくのが、カインズの考えるDIY。そういう商品を開発して売るのが、僕たちライフスタイルSBUの仕事だと思っています。くらしに関する、ありとあらゆる製品を扱っているからこそ、こうした幅広い提案ができるのはカインズならではの魅力だと思います。
僕は1995年にカインズに入社し、店舗、バイヤーを経て、現職に至っています。管理職になる前は、僕自身も商品開発に取り組んできました。
特に「Skitto(スキット)」という商品には思い入れがあります。要はただの整理収納に使うプラスチックの箱なんですが、SNSでも話題になってヒットした商品です。似たような整理収納用品は世の中にたくさんあったのですが、従来品は「ちょうどいい大きさの箱をつくっておけば、あとはお客さんが自分で勝手に使ってくれるだろうよ」というおおざっぱなところがありました。そこに疑問を感じたこともあって、もっと良い商品を開発する必要を感じていました。
収納棚や収納品のサイズに合わせて組み合わせをカスタムできる「Skitto」
たとえば、冷蔵庫の中やシステムキッチンの引き出しは、多くのご家庭でぐちゃっとなっているんです。まずはそこを整理できるんじゃないか、というところから入りました。どういうサイズ感がいいのか調査するため、あらゆるシステムキッチンの幅と奥行きのサイズを測りましたね。結果として、幅が7cmの倍数が一番ちょうどいいとなったんです。さらにどうやったら便利になるか、メンバーや専門家、社員のブレストなどを経てアイディアを形にしていきました。
Skitto(スキット)という商品名の通り、上下左右にピッタリ並べられるように“直角の製品”を目指したのですが、直角にするのは生産性上も物流効率上もよくないんです。そこをあえて直角にするため、直線の綺麗になる材質を探して、それを加工できるメーカーさんも探して、ちゃんと下と上がぴったり重なるようにしました。さらに上下に並べても上の箱をスライドして引き出せるように、底面に突起をつけています。
一番こだわったのが、掃除のしやすさ。見た目は直角で綺麗になっても、箱の中、特に端っこはホコリが溜まって汚くなくなるので、内側は緩やかなカーブにして掃除しやすくしました。ほかにもタグが付くようなプレートとズレ防止を同時に解決した治具を付属するなど、一見ただの箱なんですが、いろいろ考えてつくった経緯があって、お客さんが何を望んでいるのか徹底的に考えて開発した商品だったと思います。
実はこのSkitto(スキット)という商品、企画会議の説明が下手くそだったので何度かボツになってるんですよね。だけど絶対売れると思ったから「もうやっちゃえ!」とパッションで突き進んで商品化しました(笑)。そういうチャレンジに寛容な点もカインズらしさかなと思います。とりあえずやってみる(笑)。
ドイツへの視察時、ヨーロッパDIYリテールアソシエーション会長(中央)との記念の一枚
その代わり売らないと責任問題になるわけなので、売り場をどうするか、マーケティングも必死に考えなければならないわけです。Skitto(スキット)はサンプルをいろいろなところに配布しました。すると、あるユーザーさんが「シンデレラフィット」という言葉を考えてくださって、それがSNSでも話題になって、シリーズ累計販売数116万個というヒット商品になりました。
僕の今のポジションは、商品を直接つくる立場ではありませんが、部下たちが売れる商品をつくって、それが褒められたときは、やっぱり昔の自分のことも思い出しますし、部下が喜んでいる姿を見るのが一番やりがいを感じる瞬間ですね。
ライフスタイルSBUを一言で表すなら、「パッション」です。楽しそうにしているメンバーが多いんですね。今後、新しいメンバーが続々と入ってくると思いますが、やはりカインズの理念に共感してくれて、「世界を日常から変える」という情熱を持った人と一緒に働きたいです。
カインズはこれまで中途人材をあまり採用してこなかったので、違う考え方を持っている人が増えるのは刺激的でとても勉強になります。でも、現メンバーに対して「新しい考え方に改めなさい」と言うつもりはないんですね。今まで通りのカインズのビジョンを目指しながら、そこに新しいメンバーも加わって、全員でアップデートしていくイメージでいます。そのため、組織は臨機応変に柔軟に変えていこうと考えています。
例えば、今のカインズには商品開発にかかわる部署として、われわれ商品本部とは別に、品質管理本部という部署があります。メーカーでいう製造部門で、製品の品質と安心・安全を約束するという重要なミッションを持っています。この品質管理に近い機能を今後、商品本部の中にも立てて、樹脂だったりファブリックだったり、食品やペットのエサなど専門的な技術者を迎え入れたいと思っています。技術者と開発者であるマーチャンダイザー、バイヤーがタッグを組んで、社内のさまざまな方と開発を完結できるようにしていきたいと考えています。「機能美」という言葉がありますが、機能性や美しさだけでなく、安全性を担保しながら、コストもスピードも追求したいんですよね。そんな開発のプロ集団を目指したいなと思っています。
最近の商品開発は、売り場やリアルの声だけでなく、デジタル上の情報からも企画のネタを探さなくてはいけません。DIYでいえば、ちょっと前からインダストリアル系が流行っていますよね。検索ワードから開発が必要とされている商品の兆候が見えてくることもあるだろうし、世界的な潮流としてSDGsといった考えも当然、商品開発のうえで必須になっていくと思います。顧客データの分析も大切です。
カインズは箱を構えて売るのが生業なので、お客様の利便性を上げることもやっていますが、基本は生活に必要な”モノ”を供給すること。そしてどのように“モノ”だけではなく”コト”体験に結び付けお客様の暮らしをより豊かにできるか。これこそライフスタイル事業の使命です。