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2020.05.06

聞いてみた

日本人にとっての「究極のフライパン」とは? 大ヒット商品の開発秘話

オフィス・家庭用品部 開発担当 H

オフィス・家庭用品部 開発担当 H

カインズ ライフスタイル事業部 オフィス・家庭用品部。子どものころから、ものを組み立てて作ることが好きで、DIYに携われる仕事がしたいと考え1997年にカインズに入社。店舗でマネージャーと店長を経験し、2008年よりオフィス用品のバイヤーを8年経験。現在はキッチン用品のバイヤーとして、フライパンや鍋などの調理器具の企画・開発を担当している。

日本人にとっての「究極のフライパン」とは? 大ヒット商品の開発秘話

日本人にとっての「究極のフライパン」とは?

「フライパンには、まだまだ改善の余地がある。日本人にとっての“究極のフライパン”を作りたい」──そう語るのは、カインズでフライパンの開発を担当しているH(オフィス・家庭用品部)だ。

とはいえ、Hはフライパンの開発畑を歩んできたわけではない。カインズの店舗に12年勤務し、店長も務めた。その後、文房具のバイヤーに転じるなど、キッチン用品の開発とは無縁のキャリアを積んできた。

しかし、それがかえって功を奏した。ホームセンターの実店舗において、実際に商品を手にとった来店客の厳しくもリアルな声に直接触れてきた体験が、フライパンの開発にも生きた格好だ。

カインズの強みは、自社で商品開発を行いながら、自前のお店も持っていること。お店に立ってお客さまの声を聞き、その購買行動を目の当たりにしていると、“どんなお悩みがあるか”や“どこを見て買っているか”がつぶさにわかるんです」

たしかにメーカーでは、顧客の声をダイレクトに拾うのは難しい。統計データやアンケート調査からニーズを拾うこともできるが、自分の耳と目からダイレクトに入ってくる情報と比べると、どちらにリアリティがあるかは言うまでもないだろう。

では、Hが考える日本人にとっての「究極のフライパン」とは何か? ホームセンターならではのフライパンは、ほかと何が違うのか?

カインズ史上でも記録的なヒット商品と言える、プライベートブランドの『ストーンマーブルフライパン』。その改良プロジェクトの舞台裏も含めて語ってもらった。

フライパンは消耗品! 多用途・収納性・低価格の追求

日本人が理想とするフライパン像は、欧米のそれとは異なる。たとえば、フライパンに「軽さ」を求めるのは日本特有の傾向だ。欧米では逆に、がっしりした重みが好まれる。

また、日本の家庭ではフライパンを消耗品のように使うケースが多い。ひとつのフライパンで焼く・炒める・煮る・揚げるなど、さまざまな調理に用いる習慣が根強く、使用頻度が高くなることで劣化のスピードも早まるためだ。

「表面のコーティング強化も行っていますが、劣化しないフライパンを作ることはできませんし、根本の原因である“日本人の習慣”を変えるのも難しい。より丈夫にするために厚みを出すと、そのぶん重くなるので、それはそれで日本人の好みに合わなくなってしまいます」

2店舗で店長を務めたのち、文房具のバイヤーを8年経験して、現在は家庭用品を担当している

2店舗で店長を務めたのち、文房具のバイヤーを8年経験して、現在は家庭用品を担当している

一方、国内で販売されているフライパンに目をやると、サイズや形状のバリエーションが非常に多い。選択肢が多いというのは悪いことではなく、いろいろなフライパンを持っていればそれだけ調理も楽になる。しかし、買い揃えるにはお金がかかる。さらに、日本の住宅は狭いのでキッチンスペースの収納が足りないという問題も、主婦にとっての大きな困りごとになっていた。

「まず、消耗品としての使われ方は大前提と考える。そのうえで、さまざまな用途に対応できるようにし、コストの問題と収納面の困りごとを解消する──この3つを解決できるようなフライパンを作りたいんです。それが日本人にとって、最大公約数としての“究極のフライパン”だと思っています」

ヒット商品の大幅アップグレードに挑戦

2017年6月、Hは『ストーンマーブルフライパン』の開発を前任者から引き継ぐことになった。文房具のバイヤーからキッチン用品の担当に転じたわけだが、その当時のプレッシャーはかなり大きかった。

というのも、2016年3月の発売以来、右肩上がりの売り上げを記録していた『ストーンマーブルフライパン』に磨きをかけることが、Hに課せられた最大のミッションだったからだ。「ストーン調の見た目に相反して、驚くほど軽い」、「軽いのに丈夫で、こびりつきにくい」──すでに評価されている商品に手を加えるというのは、評価を下げてしまう可能性もはらんでおり、やすやすとできることではなかった。

そこでHは、まずは取っ手を外せる仕様への変更に着手した。だが、取っ手を外せるフライパン自体は他社でも販売しており、この段階で決定的な差別化が図れたわけではない。続けてとりかかったのが、サイズ拡充によるシリーズ化と、他社ではオーダー販売しかやっていなかった“バラ売り”の店頭での実現だった。

当初は固定されていた『ストーンマーブルフライパン』の取っ手を、片手で外せる仕様に変更

当初は固定されていた『ストーンマーブルフライパン』の取っ手を、片手で外せる仕様に変更

まずは、取っ手を外せるシリーズの5点セットを発売。この5点セットは2017年、調理器具部門でカインズ史上最高の売り上げを達成した。『ストーンマーブル』シリーズはその後も売れ続け、2020年4月の時点で100万枚をゆうに上回る累計販売数を誇っている。

5点セットは、2種類のフライパン、片手鍋、鍋用のフタ、取っ手というラインナップ

5点セットは、2種類のフライパン、片手鍋、鍋用のフタ、取っ手というラインナップ

続いて2018年の春には、満を持して単品販売もスタートした。

「よく使うフライパンが先に劣化してしまったり、セットに含まれていないサイズがほしくなったりしたら、それだけをお店で買い足せば済むようにしました。すでにあるモノをカスタマイズして付加価値を出す──そういうマインドは、DIYの普及に力を入れているカインズにいたおかげで、自然と身についたんじゃないかと思います」

この「取っ手を外せる仕様」は、ほかにも2つのメリットを生んでいる。

まずひとつめは、収納性の向上。フライパンの“器”部分だけであれば重ねられるので、それぞれに取っ手が付いているフライパンよりも収納スペースを必要としない。

そしてもうひとつは、食器としての用途。取っ手を外すことで、フライパンをそのまま皿としてテーブルに出せるようにしたのだ。ストーンマーブルの意匠のおかげもあって、取っ手がなければパッと見でフライパンには見えず、お皿として使われているシーンはSNSを中心に多くの反響を獲得した。

「フライパンから別のお皿に盛り付けると、お皿を準備したり盛り付けたりする手間だけでなく、洗い物も増えてしまいます。収納しやすくなっただけでなく、お皿として使ってもらうことで手間を減らせたのは、このシリーズを支持していただけた大きな要因ではないでしょうか」

「使い方はお客さま次第だが、使い方の啓蒙はコチラの仕事」というのがHの信条

「使い方はお客さま次第だが、使い方の啓蒙はコチラの仕事」というのがHの信条

“炒める・焼く・煮る・ゆでる・蒸す”ができる『マルチパン』

2020年4月、Hが開発を行ったストーンマーブルシリーズの新商品がリリースされた。鍋や蒸し器としても使える深型フライパンの名称は『マルチパン』。こちらもDIYの発想で、フライパンとしての素材・機能に、形状や付属パーツを工夫することで付加価値を詰め込んだ

鍋としても、より機能的に使えるようにするため、着目したのがフタだった。

フタの取っ手の形状を工夫することで自立できるようにし、大きさが異なる2つの湯切り穴を備え付けた。本体にも、左右に2つの湯切り口を付け、取っ手の反対側にもハンドルを設置。取っ手とハンドルを持つことで、持ち運びや湯切りがしやすくなっている。

本体だけでなく、フタにも工夫をこらすことで、用途の広さと使い勝手の両面で特長を与えた

『マルチパン』の本体だけでなく、フタにも工夫をこらすことで、用途の広さと使い勝手の両面で特長を与えた

「蒸し料理が作れる蒸し皿も付いていて、“炒める・焼く・煮る・ゆでる・蒸す”がこれひとつでできるようになっています。ひとまず、できる工夫は最大限に施しましたが、まだファーストモデルが発売されたばかり。フライパンと同じく、取っ手が外れる仕様にするなど、今後も改良を重ねていくつもりです」

コスト削減のポイントは“どこを削るか”

多用途への対応と収納性の向上はクリアした2商品。残る課題はコストだが、これでもかと機能を詰め込んだ結果として、価格が高くなってしまったら意味がない。

それぞれの価格を見てみると、『取っ手が外せる5点セット』は4,980円、『マルチパン』は2,980円。一般的なフライパンと比べてもリーズナブルだと言える。価値を高めながら価格を抑えるための秘訣は、いったいどこにあるのだろうか?

「商品開発のポイントは、まずトレードオフ(両立不可能な関係性)を受け入れること。そのうえで“どこを削るか”が、開発者の腕の見せどころですね。削る場所を間違えてしまうと、誰にも買ってもらえない商品ができてしまいます」

たとえばフライパンなら、丈夫にするために厚みを出せば重くなるし、機能拡充のためにパーツを増やせば材料費がかかる。長所と短所は表裏一体なので、すべてにおいて万能な商品にはムリが出るし、できたとしても価格が高くなってしまう。

これらを踏まえて、どんな長所を組み込むかが商品開発のキモということだ。

機能についての話になると、自然と力が入る

機能についての話になると、自然と力が入る

「バイヤーとしての目線、プロとしての目線は、もちろん必要です。でも、それだけだと、新しい素材や珍しい機能などに目がいきすぎてしまうこともある。忘れていけないのは、やはり“ユーザーが何を求めているか”という視点です」

そして、最後に出てきたのも、使う人の“声”についての話だった。

「お客さまの声はもちろん、家では主婦として忙しくしているパートさんの声も、とても参考になります。自分の妻にも、商品を開発したときは必ず試作段階で使ってもらうようにしているんです。実際に使っている方々の厳しい声を拾うことで、このストーンマーブルシリーズをさらに昇華させたい。“フライパンといえばカインズ”と連想してもらえるレベルを目指したいですね」

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