日傘のスキをなくしたら妖怪っぽくなった話
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目次/ INDEX
「定食」というのは和食の概念であり、タイ料理に定食なるものは存在していない。
もちろん有名な「カオマンガイ」には必ずスープがついており、なんとなく定食っぽさがあるもののやはり違う気がする。
まず、「ごはん」。
これは欠かせない。パンや麺類がメインのものは定食とは呼べない。そうだ、定食とはまず「ごはんとおかず」の皿を組み合わせた一体感ある宇宙であることが必須だ。
しかし、ごはんの上に何かおかずがのっている場合、それは定食ではなく「〇〇丼」「〇〇ライス」というカテゴリーになる。つまり皿の組み合わせによって「定食」という宇宙を形成するのではなく、ひとつの皿の中ですでに宇宙が形成されてしまっている。
したがってタイ料理で有名な「ガパオ炒めライス」などは定食にはなりえない。
必ず「漬物とみそ汁」がついていることも定食の基本だ。
しかしタイ料理に「みそ汁」はない。「トムヤムクン」という有名なスープはあるが、これをみそ汁代わりにするというのも安易すぎる。そこでさらに深く考えてみたところ、そもそも「漬物」も「みそ汁」も「塩からい発酵食品」だということに気が付く。
つまり定食とは「ごはんとおかず」がメインではあるが、それだけでは「炭水化物とタンパク質」のみでバランスが悪い。
したがってそこに「野菜や発酵食品」を加えたものが「定食」なのではないだろうか? さらにいえば、「漬物とみそ汁」というしょっぱいものがあれば「野菜や炭水化物」もたくさん食べられる、という相互作用がある。
定食とはそういう「健康増進マシーン」、健康を維持するための食の装置だと思えてきた。
こうして改めて考えると、日本の食文化はうまいことできているなと感心する。
そう考えてみると、タイ料理にもあるではないか! 皿を組み合わせて食の宇宙を形成する「定食」が!
タイには「ナムプリック」という唐辛子とニンニクにその他の食材を臼ですりつぶしたしょっぱい旨味噌だれのようなディップソースがある。これさえあれば、そこに適当にごはんや野菜を合わせるだけで立派な食事となる。
ナムプリックに入れる食材は様々で、魚や肉、焼き野菜、発酵食品、味噌と自由で、そこも「漬物やみそ汁」と似ている。もとは家庭料理だが、タイのレストランではこのナムプリックに「ごはんとおかずと野菜」を組み合わせたメニューがある。
日本人にはほとんど知られてはいない料理だが、発酵アミエビを使ったナムプリック「ナムプリック・ガピ」に、ごはんや野菜とタイのサバを焼いたものを組み合わせたメニューがあり、これはまさにタイでは知らないものがいないほど有名な「定食」なのである。
私もタイに住んでいたころこれが大好きで、忙しくて疲れているときに「きちんと野菜がとりたいし、油が少ないヘルシーな食事して自分を整えたい」みたいな気分のときによく食べていた。
タイ人は海外にいてタイの味が恋しくなると「ああ、ナムプリック食べたい」となるようだ。「トムヤムクン」ではないのである。
日本人が海外に長くいると「寿司」ではなく「みそ汁のみたい」となるのと同じ感覚なのだろう。