リンクをコピーしました

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • もっと見る

食べられる商店街への道! 沖縄のグリーンゲリラ多発地帯

クリエイター

ヤマザキOKコンピュータ

ヤマザキOKコンピュータ

文筆家/個人投資家。ウェブメディア運営、バンド活動、グラフィックデザインなどもやる。文筆では経済思想や投資の理論、働き方、社会問題について取り扱うことが多い。1988年生まれ、東京育ち。各地を転々としつつ、現在は沖縄県沖縄市で「喫茶 浪浪」を運営。著書に「くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話」がある。

あのときのパッションフルーシです

半年ほど前のこと。いつもの時間にいつもの道。何もないはずのそこに現れたのは……

「パッションフルー『シ』苗ショップ」だった。

パッションフルー『シ』苗

1苗(みょう)10円。とりあえず1苗、お迎えした。

すこし進んで振り返ると、ショップの姿はすでにない。まるでまぼろし。折りたたみ椅子は跡形もなく消えていて、いつもの景色に戻っている。

キツネにつままれたような気分だが、ここは沖縄県の沖縄市。まかり間違ってもキツネはいない。いるとするならマングース。キツネもまあまあ怖いけど、マングースはもうちょい怖い。もしつままれたら血とか出そう。

名のり遅れてしまったが、私の名前はヤマザキOKコンピュータ。略してヤマコン。普段はお金に詳しい人として文筆業や講演業に勤しんでいるが、週末は小さな喫茶店を営んでいる。

パッションフルー『シ』苗として売られていたそれは、うちの店先の花壇に植えてみた。勝手に育ってくれたら嬉しい。

この街はグリーンゲリラの多発地帯

沖縄、コザの街

私の店は、沖縄の「コザ」と呼ばれる地域にある。写真の通り、コザの街にはたくましい植物と個性豊かな建築物が立ち並んでいる。

東京育ちの私からすると、妙に野性味が感じられる。魅力的な街並みだ。

この商店街は、居酒屋やカフェの多い歓楽街で、いわゆる「自然豊かな土地」というわけではないにも関わらず、とにもかくにも緑が濃い。

植物が多い商店街

特にうちの店の近所などは、人間よりも植物のほうが多いくらいだ。商店街としては考えものである。

市や商店街が整備した植栽だけでなく、誰かがホームセンターで買ってきたであろう鉢植えもそこかしこに置かれている。あまりにも数が多く、広い範囲に分布していることから、これは1人や2人の仕業ではないと思われる。

きっとみんな、勝手にやっているに違いない。恐らく、日本でも有数の「グリーンゲリラ多発地帯」だ。

先日、自治体の都市整備担当者とお会いした際、これらのゲリラ園芸についてどう思っているのか聞いてみた。意外なことに、「住民が植栽を自律的に管理してくれるのは、むしろ歓迎したいことだ」というような答えが返ってきた。

当商店街は今まさに再開発の真っ最中であるが、自治体独断の一方的な開発にならないよう、地域住民たちと話し合いながら進めていきたいという話だ。商店街の植栽についても今後話し合いの場を設けてくれるらしい。

これはグリーンゲリラたちにとっては好機である。グリーンゲリラが公的なものになる可能性が出てきた。そうなれば最早ゲリラではない。園芸による革命である。

私にもできることがあれば、ぜひ協力したい。

もし今後、地域住民と自治体が協力して植栽を管理していくならば、街の個性はより一層高まりそうな予感がする。

その代わり、ずば抜けて繁殖力の強い植物や、毒やトゲのある植物など、無闇に植えてはいけない植物についてみんなで情報共有していく必要があるだろう。

近所の友人たちやお店とも協力して、積極的に行動していきたい。

食べられる商店街への道

商店街まわりの景観

「たかが植栽」と思うかもしれない。しかし私は、どのような形であれ市民が社会に参画できる可能性が残されているのは歓迎すべきことだと考えている。

それに、通りの景観は雰囲気だけでなく、人々の暮らしも変えていくものだ。

イギリスのトッドモーデンという街を例に挙げるとわかりやすい。その街では、路上の花壇から警察署の植え込みまで、街中のあらゆる場所に食べられる植物ばかりを植えて育てる活動が行われている。

そして、そこで育った野菜やハーブは、誰でも勝手に食べてよいのだ。地域の住民や通行人、観光客など、すべての人に対して無料で解放されている。

「Incredible Edible Todmorden」通称IET。たった3人の女性から始まったこの活動は、やがて行政も巻き込んで大規模なものへと発展し、世界中から注目された。開始から最初の3年間だけでも、1万1000人以上の人がこの小さな村に訪れているらしい。素晴らしい成果である。私もいつか行ってみたい。

トッドモーデンの他にも、サンフランシスコやバークレー、オークランドなど、世界の様々な地域でも近しい活動が行われている。

これらの活動は貧困問題に対して直接的なアクションになるだけでなく、「野菜を育てる」というプロセスを介して、コミュニティーの形成にもつながる。セクシュアリティやエスニシティー、生まれや収入も関係ない、フラットな交流が生まれるというレポートを読んだ。

そんなことを思い出しながらコザの街を歩いてみると、コザにも案外、食べられるものがたくさん植えられていることに気付く。

コザで見かけた青果たち

ツルレイシ

まずはツルレイシ。ニガウリ、ゴーヤ、あるいはゴーヤーとも言う。言わずと知れた、沖縄野菜の代表格だ。

スーパーで売られている緑のものは未成熟な状態。歯ごたえと苦味が強く、好き嫌いが分かれる。

成熟するにつれて黄色くなり、最終的には先から割れて花のように裂開する。完熟した種子は周囲が赤く染まり、ゼリーのように柔らかくなる。赤い部分は食べると甘い。

この個体は、商店街の空き花壇で生育されている。ツルを這わすためのネットが張ってあることから、誰かが意図的に育てていることがわかる。大胆なゲリラだ。

ザクロ

ふたつめはザクロ。世界中に分布する落葉性の小高木で、サイズがほどよく、手入れしなくても綺麗な樹形に育ちやすいため、庭木として非常に優秀。沖縄でもたまに見かける。

果実は食べられるが、種が多くて食べにくい。写真の個体はまだ熟していない状態。成熟した実は味がいいのでジュースやジャムにすると美味しい。

こちらは私有地と思われる場所に植えられているので庭木カウント。ゲリラではない。

パパイヤ

みっつめは南国のフルーツ、パパイヤ。1本の幹に大量に結実する。もう見慣れてしまったが、沖縄に引っ越してきた当初はインパクトのある絵面で驚いた。

完熟すると甘くなり、フルーツ扱いに。未熟な状態は青パパイヤとして、野菜のように様々な料理に利用される。

世界各地で、サラダやスープ、カレーなどに使われている。沖縄では細切りにして炒めることが多い模様。

庭木として育てられることも多いが、写真の個体は空き地化した土地に1本だけ生えているので、ゲリラの可能性あり。

シークヮーサー

そしてシークヮーサー。なんの変哲もない街路樹に見えるが、沖縄に群生する野生種の柑橘類である。生命力が強く、無肥料無農薬でもそれなりに育つ。

写真をよく見ると高所に大量に結実しているが、近所のお爺さんが傘を駆使して根こそぎ収穫しているため、手の届く低所には実がない。

この商店街にはシークヮーサーが1本しか生えてないので、自治体が計画的に植えたものではなさそう。住民か野生動物か。誰が植えたのか謎の個体。今のところ一番疑わしいのは、傘使いのお爺さん。

トマトの木

ここまでに挙げたのはほんの一例で、コザにはオクラやトマト、葉野菜、ハーブ類、バナナの木なども存在する。繁華街の道路脇に食べられる植物がこれだけ生えている地域は全国的にも珍しいのではないだろうか。

今のところは、ほとんどが個人宅の庭や店先の花壇で育てられており、勝手に収穫してよいわけではないので要注意。とはいえ、先に挙げたゴーヤやシークヮーサーのように近隣住民が通りがかりに収穫しているような作物も決して少なくない。

そしてあのときのパッションフルーシ

ちなみに、私が店先に植えたパッションフルーシ苗もしっかり実った。 植え付けから1年も待たずに立派な姿に。

これがあのときのパッションフルーシです……。

パッションフルーツ

かわいい。玉のようにかわいい。

日本に出回るパッションフルーツのほとんどはパープル系の品種だが、うちのフルーシはイエロー系。比較的珍しい。どれだけ育っても小豆色には染まらないようだ。

机の上にパッションフルーツ

当記事用に撮影しようと思って触ったら、実がぽろりと落ちてしまった。ちょうど収穫時期だった模様。施肥は一切していないし、水やりもほとんどしなかったが、ここまで立派に育ってくれたことが嬉しい。とてもありがたく感じる。

本当は収穫してからじっくり追熟したほうが甘くなるらしいが、中身を見たい気持ちに勝てず、その日のうちに割って食べてしまった。

パッションフルーツ入り炭酸水

割ったら、ちゃんとパッションフルーツだった。

パッションフルーツはそのまま食べても美味しいが、個人的には炭酸水に入れて飲むのが好き。イエロー系は甘みが少ないので、メープルシロップなどを入れて甘さを調整するとよい。

味は市販されているものと遜色ないくらいに美味しかった。若干香りが少なく、スッキリめ。爽やかな酸味で好みの味。

街に食べ物が溢れたら

今回、パッションフルーシの苗を植えたのは私だが、ここまで育ててくれたのは雨と土と太陽光。そして目には見えない微生物たちである。私は施肥も水やりもほとんどしなかった。ただ植えて、待って、贈与された果実を食べただけ。

私たちが普段行う消費や投資といった活動は、「私有財産」を基本とした経済の概念に基づいて清算される。つまり、何かの商品やサービスおよび利益を受ける際は、見合った量のお金や時間、またはリスクなどを対価として差し出すことで、お互いにフェアな状態が保たれる。

一方で、今回のケースでは私は美味しいパッションフルーシに対してたった10円の対価しか差し出していないため、フェアな気持ちになれていない。行き場のない感謝の念を心の中で持て余している。

パッションフルーシ苗ショップにお返ししようにも神出鬼没で見つからないし、土や太陽にはお返しできるはずもない。とりあえず近隣のゴミ拾いなどしてみるが、たとえ品行方正に生きたからといって、別に「恩恵を受けるに値する人間」になれるわけではない。

これからもゴミを拾いつつ、土を守りながら暮らしていくが、どれだけ掃除したとしても、街と自分との関係は清算されることなく続いていくのだ。

俯瞰してみると、作物を通して人と街との互恵関係が結ばれたという風にも考えられる。

今後もし、自治体や商店街組合との話し合いが進み、自由に食べられる青果を街中で育てられるようになったとしたら、みんなもきっと感謝の念を持て余し、街を綺麗に使うに違いない。

青果の供給量によっては、経済の概念の枠から外れた新しい(または忘れ去られているだけで古来の)街づくりの可能性も考えられる。

ワクワクしてきた。自治体との話し合いの日まではまだ時間がある。

本当ならトッドモーデンまで取材に行きたいところだが、イギリスと沖縄ではあまりにも天候が違うので、とりあえずこの地域でどんな青果が育てられるか考えてみる。

来たるべき日に向けて、苗や資材の下見に行ってみよう。

カインズの園芸コーナーに行ってみる

カインズABLOうるま店の入り口

最寄りのカインズへ。カインズABLOうるま店。

台風明けの大変なときに来てしまったが、快く対応してくれた。早速園芸コーナーへ。

カインズの園芸コーナー

トマトやナスといった基本的な野菜の苗もひと通り揃っているが、沖縄名産の野菜やフルーツはびっくりするくらいの品揃え。

なんと、パパイヤは6品種も揃っていた。全種類揃えて食べ比べてみたい。

パープルとイエローのパッションフルーツ

パッションフルーシ苗と書かれたものは見つからなかったが、パッションフルーツはパープルとイエロー、両方あった。

沖縄フルーツと書いてあるとおり、地域に合わせたものが並んでいる。これほど全国展開しているお店でも地域性を感じられるのは楽しい。

果樹苗の育て方コーナー

こちらは果樹苗の育て方コーナー。今回取材したカインズABLOうるま店では、初心者でも苗の生育にチャレンジしやすいように各種果樹苗の育て方についてまとめられたプリントが無料配布されていた。

植物に愛情を注ぐには、まず相手のことを知ることからはじめないといけない。私も気になるプリントを何枚かゲットした。

外の園芸コーナー

じっくり見てまわったので、外の園芸コーナーだけでも1時間以上滞在してしまった。店内は種と観葉植物が豊富。

種苗だけでなく、全体的に資材や肥料の品揃えもよく、大満足。大体のラインナップと価格帯は把握できたので、今日のところは退散して次の自治体との話し合いに向けた準備を進めたい。

食べられる商店街への道……

ヤマザキOKコンピュータさん

この記事を書いている間にも、街の開発はすこしずつ進行しているようだ。幸いにも担当者の方々は住民の意見に耳を傾けてくれるし、話し合いの場も設けてくれているが、数年後この街はどうなっていくのだろうか。

明確に想像するのは難しい。私たちだけではなく、再開発を進めている側の人たちも、あまり見えていないのではないかと思う。

投資の世界も同じで、世界的に有名な投資家やファンドマネージャーでも、未来のことを正確に予測することはできない。

ましてや、私のような個人投資家では、あさっての株価もわからない。だからこそ、「現段階で確定している情報を集めて、今できることをしっかりやる」という基本スタンスが重要となる。

街のことに関してもそうだ。再開発の説明会に参加したり、自分にできる可能性を探したりすることで、状況がよくなる確率は上がるだろう。

今わかる情報を集めて、選択肢を増やしていくこと。それ自体が重要なことだと思える。

というわけで今回は、「パッションフルーシ苗ショップ」という謎の存在との出会いをきっかけとして、街を別の角度から見始めた私が、新しい可能性を模索していく過程を綴った。

これは私なりのパッションフルーシへの恩返しだったのかもしれない。

loading

関連するキーワード

となりのカインズさんをフォローして最新情報をチェック!

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Instagram
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

RELATED関連する記事

POPULAR人気の記事

  • Daily
  • Weekly

広告掲載について

NEWS LETTER ニュースレター

Webライター・イラストレーター募集

取材のご依頼や情報提供はこちらから