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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
お寿司やお蕎麦、おつまみなどに添えて食卓に並ぶ機会が多く、爽やかな香りと鼻にツーンとくる刺激がたまらないわさび。実は、犬には与えてはいけない食材なので、誤って食べさせないよう注意が必要です。今回の記事では、犬がわさびを食べてはいけない理由、食べてしまったときの対処法などについて、バーニー動物病院千林分院分院長で獣医師の堂山有里先生監修のもと解説します。
目次
- 犬にわさびを食べさせるのはNG!
- わさびに含まれている成分は?
- 犬にとって危険なわさびの摂取量は?
- 犬がわさびを食べてしまった時の症状とは?
- 犬がわさびを食べてしまった時の応急処置・対処法は?
- 犬のしつけにわさびを使ってもいい?
- 犬に与えてはいけないわさび以外の刺激物は?
犬にわさびを食べさせるのはNG!
わさびは刺激の強い食材のため、犬に食べさせてはいけません。わさびに含まれる辛味成分を多量に摂取すると、口の中の感覚麻痺が起きたり、胃腸障害が起きたりする危険性がるためです。
犬は嗅覚が優れているので、基本的には匂いで刺激性の強い食べ物を避ける判断ができます。ですが、中にはあまり匂いをかかずに丸飲みしてしまうタイプの犬もいるので、食べ物の中にあるわさびに気づかないで食べてしまうこともあるでしょう。
実際に、わさびが入ったお寿司やわさび入りのスナック菓子を食べてしまったという事例があります。いずれもごく少量だったので問題は起きませんでしたが、わさびは食べないだろうと油断せず、犬の口が届く場所には置かないよう気をつけてくださいね。
わさびに含まれている成分は?
そもそも、わさびにはどのような成分が含まれているのでしょうか。それぞれの成分が持つ役割などを詳しく見ていきましょう。
タンパク質
臓器や筋肉などを作ったり、酵素やホルモン、免疫物質の材料となったりする栄養素です。生命維持に欠かせない体の様々な役割を担っており、炭水化物、脂質とあわせて三大栄養素のひとつに数えられます。
カルシウム
主要必須ミネラルのひとつです。骨の発育と維持に欠かせない栄養素で、リンとバランスをとって体内に存在しています。骨や歯を丈夫にして骨格を作る以外にも、筋肉を収縮させたり、細胞や神経の情報伝達にも深く関わっている栄養素です。
リン
体内でカルシウムの次に多く、カルシウムやマグネシウムと共に骨や歯を形成する働きがあります。骨や歯だけでなく、筋肉や脳、神経などさまざまな組織に含まれており、エネルギーを作り出すときにも作用する栄養素です。
ビタミンB1、B2
ともに水溶性のビタミンです。糖質などからエネルギーを作る働きや、皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きも持っています。不足すると、食欲が減り、疲れやすくなったりだるくなったりするほか、皮膚や粘膜の炎症によって口内炎や皮膚炎も起こりやすくなることも。
ビタミンC
コラーゲンの生成に欠かせない水溶性ビタミンです。ストレスへの抵抗力を強めたり、鉄分の吸収を良くする効果があります。また、抗酸化作用によって、老化防止の効果も期待できる成分です。ビタミンCが不足すると、コラーゲンが作られなくなってしまうだけでなく、抵抗力が低下して病気にかかりやすくなることもあります。
カリウム
ナトリウムとともに細胞の浸透圧を調整する働きがあり、高血圧の予防やむくみの改善に役立ちます。他の野菜や果物と同じく、わさびはカリウムが豊富な食材です。
わさびが辛いのはなぜ?
わさびの辛味成分は、主にアリルイソチオシアネート(アリル芥子油)という成分です。これはわさびをすりおろすことで細胞が壊れ、辛味のもとであるシニグリンに、水とミロシナーゼという酵素が作用して作られます。わさび特有の鼻にツーンと抜ける刺激は、この辛味成分の揮発性によるものです。
犬にとって危険なわさびの摂取量は?
わさびに含まれる成分は中毒性物質ではないため、どの程度食べると犬にとって危険性があるかは今のところ決まっていません。また、辛味に対する感受性は動物の種類や、品種の中でも差があるとされています。そのため、一概に人での許容量を犬に当てはめることは難しいでしょう。ごく少量であればあまり問題とはなりませんが、大量に食べると胃腸障害などを引き起こす危険性があるので、犬には食べさせないようにすることが大切です。
犬がわさびを食べてしまった時の症状とは?
犬がわさびを食べると、辛味成分の刺激により、口腔粘膜の痛みや感覚神経の一時的な麻痺といった症状を引き起こします。さらに、嘔吐や下痢、胃腸炎になる恐れがあるほか、食欲不振や震え、脱水症状が見られる場合もあるので注意が必要です。
犬の味覚は辛さを感知しにくい?
犬の辛さの感知には個体差があると言えるでしょう。犬の辛さに対する感受性は、辛味受容体がどの程度発達しているかによると考えられます。そのため、科学的な解明はされていませんが、辛さに比較的鈍感でわさびをペロッと舐めてしまうような犬もいれば、匂いを嗅いだだけで逃げてしまう敏感な犬もいるかもしれません。
犬がわさびを食べてしまった時の応急処置・対処法は?
十分気をつけていても、うっかり犬がわさびを食べてしまうことがあるかもしれません。そのような場合、飼い主はどのような対処をすればよいのか、詳しく見ていきましょう。
応急処置は獣医師の指示に従う
犬がわさびを口にしてしまったら、家庭では応急処置をせず、動物病院に連絡して指示を仰ぎましょう。飼い主が自己流で無理に吐かせるのはとても危険なのでしないでください。食べた量がわずかであれば、家で様子を見るよう指示されることが多いでしょう。ただし、大量に食べている場合は、必要に応じて食べたものを吐かせる処置や胃洗浄、胃腸障害や脱水症状を起こさないための治療を行います。
時間や量を記録する
動物病院に連絡するときは「いつ、何を、どのくらい」食べたのかと、今の犬の状態を伝えることが大切です。吐いたり下痢をしている場合は写真に撮っておいたり、回数を記録して獣医師に伝えられるようにしておきましょう。
動物病院に連絡するタイミングは?
犬がわさびを食べたことがわかったら、すぐに動物病院に連絡してください。食べた量や状況に応じて、家で様子を見るか、来院するべきか獣医師が判断します。
犬のしつけにわさびを使ってもいい?
犬が嫌がるわさびの辛み成分を噛まれたくないものに塗って嚙まれるのを防ぐなど、しつけに使用しようと考える飼い主もいるかもしれません。しかし、お伝えしているように、わさびは犬にとって刺激が強い食材です。万が一舐めてしまったときのリスクを考えて、しつけには使わない方がよいでしょう。もし、しつけをする場合はりんごの苦味成分で作られたしつけ用のスプレーなど、安全性が高い犬専用のしつけグッズを使ってください。
犬に与えてはいけないわさび以外の刺激物は?
わさびのほかにも、犬に与えてはいけない刺激物がいくつかあります。以下のような刺激性の強い食材は犬に与えないよう十分注意しましょう。
西洋わさび(ホースラディッシュ)やわさび菜
西洋わさびやわさび菜には、わさびと同じ辛味成分が含まれています。特に西洋わさびは本わさびの1.5倍の辛さがあるとも言われているので、注意してください。
香辛料
唐辛子
カプサイシンと呼ばれる刺激性の強い辛味成分が含まれています。
からし
からしは、カラシナという植物の種子を粉にしたものです。わさびと同じ辛味成分が含まれています。
山椒
サンショオールやシトロネラールなどの刺激性の高い精油成分により、辛味だけでなく麻酔薬のような痺れも引き起こします。
ニンニク
ニンニクに含まれる有機チオ硫酸化物という成分によって犬が溶血性貧血を起こしてしまうため、与えてはいけない食材です。
コショウ
刺激性が高い辛味成分ピペリンが含まれています。