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クラフトビールの本当の意味とは? アメリカ発、世界を席巻するビールの定義

調べてみた

矢野竜広

矢野竜広

ビアエッセイスト。1980年生まれ、東京都出身。コピーライター、放送作家を経て2013年、妻の故郷である鳥取県に移住しフリーライターに。著書に『ビールの図鑑』『日本のクラフトビール図鑑』(ともに共著、マイナビ)、『山陰クラフトビール』(今井出版)などがある。山陰と世界のブルワリー探訪をライフワークにすべく活動中。

クラフトビールとは大手ではないビール

最近、「クラフトビール」という言葉を様々なメディアで見るようになってきました。

「ビール」と言えばいいのにわざわざ「クラフト」と頭に付けるからには何か理由があるのではないか。そう考えながらも、実際のところはよくわからない…という人がほとんどだと思います。また、昔からのビール党の中には、「地ビールとは何が違うの?」という方もいるでしょう。

ということで、ビアライターの私が「クラフトビールって何?」「地ビールとの違いは何?」という問いに、日米のビールの歴史を織り交ぜながら答えていきたいと思います。

結論から言うと、クラフトビールとは…「大手のような大量生産ではないビール」のこと(でした)。

なぜ過去形を補うかと言うと、時代とともに色々な事情が変わったり、それに関わる人や立場が増えたりしたことで、誰もが納得するわかりやすい定義が難しくなってきているからです。でも、この出発点はクラフトビールの本質なので、覚えておいて損はありません。なお、「地ビールとの違いは何?」という問いには、同じものと考えて問題ありません!と答えます。

クラフトビールはアメリカで誕生しました。いまだに多くの人が「え?アメリカって薄いビールの国でしょ?」とイメージするのですが、まさにその大手の薄いビールがクラフトビールを生んだと言うことができます。どういうことでしょうか?

「アメリカビールは薄い」という時代錯誤

「アメリカビールは薄い」という時代錯誤

「アメリカのビールは薄くて水っぽいから好きではない」

と言う人が結構います。こういう発言、一度は耳にしたことがないでしょうか。バドワイザー、ミラーズ、クアーズ…と頭の中で想像すると、確かに味わいも色も薄いものな…と納得する人が多いでしょう。それはアメリカのビールがいわゆるナショナルラガーとイコールの関係にあった時代の名残り。ズバリ、古い認識です。

1920年から1933年の間に施行された禁酒法と第二次世界大戦を経て、アメリカの大手ビールメーカーはマスメディアを通じて大量の宣伝をし、ライトラガーを大量に流通。ビール産業は典型的な寡占産業となっていきました。

その状況に風穴を開けたのが、1960年代に閉鎖の憂き目に遭った醸造所を買い取ったフリッツ・メイタグという男でした。彼は買い取った醸造所の再建に乗り出し、大手メーカーとは全く違ったビールを武器に市場に参入。売り上げを伸ばしました。フリッツ・メイタグ氏の成功は次々にフォロワーを生みます。これがクラフトビールムーブメントの誕生です。

アメリカの定義は3語でまとめることが可能

アメリカでは、Brewers Associationという団体がCraft Brewerを定義しています。細かな規定がありますが、その原点はシンプルに3語で表現できてしまいます。それは、Small(小規模な)、Independent(独立した)、Traditional(伝統的な)。

Small(小規模な)とIndependent(独立した)はわかりやすいと思いますが、Traditional(伝統的な)は「え?クラフトビールって新しい飲み物ではないの?伝統的?」と混乱する人がいるかもしれないので補足します。

大手ビールメーカーが造っていたライトラガーは、副原料にモルトより安い米やコーンが含まれているのが特徴。つまり、コクを生むモルトの量を減らしているので水っぽいのです。ビールを「大麦とホップと水で造るべし」としたのは、1516年にドイツのバイエルンで公布されたビール純粋令。ここには米やコーンの記載はありません。つまり、「大手は米やコーンで薄めるかもしれないが、自分たちは伝統を重視して100%大麦で造るぞ!」というところにクラフトビールの造り手のプライドや、大手との差別化のポイントがあったわけです。

クラフトビールが売上の25%を占めるように

1990年代からアメリカではそんなクラフトビールがブームと言えるレベルに達し、勢いは衰えることなく今に至っています。売上は右肩上がりで伸び、クラフトビールは今や全米のビールの売上の4分の1を占めるまでに成長しました。日本でも小規模醸造の会社が造るビールは人気を集めていますが、売上全体のわずか1%程度。アメリカの25%がいかに支持を集めているかがわかります。

小規模醸造所の数も日本は400軒程度なのに対し、アメリカは8000軒を超過(2019年、Brewers Association調べ)。まさに桁違いの醸造所の数で、これはぶっちぎりで世界一です。「アメリカのビール」と言うとき、もはやこのクラフトビールの存在は無視できません。

そして、ビールの味わい。バドワイザーやミラーズといった大手は、すっきりした味わいが特徴のラガービールを大量に造っています。一方で、クラフトビールメーカーは香りやコクが特徴のエールビールを造る傾向があります(もちろん、クラフトメーカーがラガーを造ることも、大手メーカーがエールを造ることもありますが)。

コク深いクラフトビールが市民権を得た2つの理由

コク深いクラフトビールが市民権を得た2つの理由

クラフトビールメーカーが造るビールは薄くないのです。色が濃かったり、アルコール度数が高かったり、コク深かったりするビールこそクラフトビール。こういったビールが今、全米に浸透しています。「アメリカのビールは薄くて水っぽい」という認識がいかに時代に即していないかが、よくわかるのではないでしょうか。

では、なぜアメリカにおいて、クラフトビールはここまでの市民権を得ることができたのでしょうか。1つは自家醸造の解禁、2つ目に小規模醸造者への優遇制度を挙げることができます。

日本ではいまだに禁じられている自家醸造は1978年、アメリカで合法となっています。このジミー・カーター政権の決断によって、ビール醸造の裾野は一気に広がりました。ビールの自家醸造を趣味とする者が増えたことで、ビールビジネスも身近なものに。また、アメリカ政府は雇用の創出、税収確保、地域の活性化といった観点から、小規模醸造者を優遇する制度を数々打ち出しています。家で気軽に始めたビール醸造にハマった人が、ビジネスに乗り出しやすい環境を政府が整備。これが醸造所の増加、引いてはクラフトビールブームにつながりました。

日本の地ビールとクラフトビールの歴史

では、日本の小規模醸造の歴史はどう始まったのでしょうか。

アメリカのフリッツ・メイタグ登場のように、日本にも明確な出発点があります。1994年、「規制緩和」を旗印にした時の細川政権がビールの製造についても規制の緩和を決断しました。それまで、年間2000klという莫大な量を造って販売する見込みがなければ取得できなかった免許の条件を、一気に60klまで下げたのです。

施行後の1995年以降、全国各地で酒造会社や第三セクター、観光系の会社を中心に、小規模なビールメーカーを設立する動きが活発化。この醸造所が造るビールは日本酒の“地酒”にあやかって“地ビール”と呼ばれ、1990年代後半にかけて一大ブームを巻き起こしました。

ところが、造り手が未熟だったり、価格が高額だったり、飲み手が多彩なビアスタイルに慣れていなかったりしたこともあり、ブームは2000年前後には鎮静化してしまいました。2000年代中盤、冬の時代を生き残った醸造所の中に「自分たちは“地ビール”ではない、“クラフトビール”だ」と主張するメーカーが出てきます。イメージが悪かった“地ビール”ではなく、アメリカで流行し職人が造るポジティブなイメージのある“クラフトビール”と看板を変えて起死回生を図ったわけです。

これがじわじわ浸透し、ついに2010年代初頭から“クラフトビール”という言葉は認知され始め、大手のキリンビールがクラフトビールに参入してから一気に市民権を得るようになりました。

クラフトビールの定義を試みる日本の団体「全国地ビール醸造者協議会(JBA)」

では、日本には「クラフトビール」という言葉に定義はあるのか?と言うと、実はあります。

「日本全国の地ビールメーカーが結集した日本でただひとつの醸造者による団体」である「全国地ビール醸造者協議会(JBA)」では、クラフトビールを2018年5月に以下のように定義しました。

  1. 酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
  2. 1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
  3. 伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。

地ビール解禁以前からビールを造っている大手メーカーからは独立し、一度の仕込みで大量に生産するのではなく規模は小さく、そして伝統的な製法でビール造りをしている。

…まとめるとこのような感じでしょうか。これは、先に紹介したアメリカのBrewers Associationという団体によるCraft Brewerの定義を受け、日本なりの事情を組み込んだものと言えます。

クラフトビールの本質は「大手ではない」

クラフトビールの本質は「大手ではない」

改めてアメリカの「Small(小規模な)、Independent(独立した)、Traditional(伝統的な)」という3語を眺めると、大手ビールメーカーを激しく意識していることがわかります。伝統的ではないビールを大規模に造る大手からは独立していたい、「自分たちは大手とは違うぞ!」という声明に見えてきます。そう、つまりクラフトビールの本質は「大手ではない」というところにあるのです。

ただ、時が流れて色々な事情が変わりました。小規模だった醸造所も成長して巨大になります。またビールも多様になり、「副原料を使ってない」という意味だった「Traditional(伝統的な)」という言葉はバラエティー豊かな副原料入りビールを楽しむ時代にそぐわなくなってきました(実際にBrewers Associationも定義を変更)。

さらに、「クラフトビール」という言葉の響きが良いため、日米問わず大手メーカーが「クラフトビール」という名前を使って売り出すなどしました。現在、「クラフトビールって何?」という問いに対する答えがボヤっとしているのは、ここら辺に理由があります。

昔のように「クラフトビール=大手ではないビール」と言えれば話は簡単ですが、大手がクラフトを名乗ったり、クラフトブルワリーが巨大化して大手化したりして実態が複雑になってきているのです。

クラフトビールの転換点とこれから

現在、アメリカでは1万軒に迫る醸造所が乱立しているため、クラフトビールの飽和状態や競争過多を懸念する声が上がっています。どの業界もそうですが、クラフトビール業界も明るい未来だけがあるわけではないのは確かでしょう。

それでも世界のビール消費量がピークを過ぎて減少をたどる中、クラフトビールは伸び続けており、今後もライトラガーからクラフトビールへ転換する流れは続いてゆくことが確実視されています。つまり、安価なライトラガーを大量に消費していた時代から、比較的高価なクラフトビールを少量に消費する時代への転換の真っただ中に世界はあるのです。

ドイツやベルギーなどの伝統的なビール造りを学んで、独自のクラフトビール文化を生み出したアメリカ。今、このアメリカ発のクラフトビールカルチャーはイギリスやドイツなどのビール伝統国、フランスやイタリアなどのワイン大国、北欧、日本を含むアジアやオセアニアに至るまで世界中に広がっています。

大量生産ではないからこそ、その土地や職人の個性を映し出すクラフトビールにこれからもぜひ、注目してください。

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