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かつて台車は「ダンディ」と呼ばれていた!? 日本最古の台車メーカー花岡車輌に学ぶ、台車今昔物語

メーカー

花岡車輪株式会社|花岡雅

花岡車輪株式会社|花岡雅

台車・リフト台車・空港用トレーラー・空港用カートを日本で初めて開発したメーカー「花岡車輌」。新たな時代のニーズに合った「運搬・移動・保管」の製品・サービスを創り出し、お客様に感動を与え、世の中をより豊かに変えていくことを目指している。

日本で初めて台車を作った会社へ

みなさん、台車は好きですか? 僕は大好きです。

家や学校、職場でも。ものを運ぶ時に、サッと力を貸してくれる台車。文化祭や展示会、オフィスの引っ越しなど、記憶に残るイベントの記憶には、必ず台車の姿が映ります。

いろんなものを遠くまで楽に運ぶ手助けをしてくれるとっても便利な存在です。

でも!

たとえば住宅のデザインには注目するけど、建材の機能性や強靭さは一部の人しか伝わらないように、人はなかなか「縁の下の力持ち」的な存在に鈍感です。

もし台車がこの世になければ、僕たちの暮らしはこんなに便利になっていないかもしれないのに!

しかも最近の台車事情は色々変化しているらしく、いわゆる「普通の台車」以外にも、位置調整機能がついたものや、キャンプにも連れて行けるスタイリッシュなものもあるようです。

ひとりの台車好きとして、もっと色々な種類に触れてみたい……!

花岡車輌株式会社の前でポーズ

というわけで、東京都江東区にある「花岡車輌株式会社」にやってきました!

実はこちらの花岡車輌さん、日本で初めて台車の製造販売をおこなった、いわば老舗中の老舗なんです。

さらに近年ではデザインの考え方を大胆に取り入れ、経営スタイルを大幅にアップデート。魅力的な新製品やプロモーションを打ち出し続けた結果、花岡車輌の製品は、

  • ファッションブランドのWebショップで売上1位を獲得
  • ふるさと納税の返礼品にしたら、総額の1/3を占めた
  • ドラマや映画の舞台美術にも引っ張りだこ

…などなど、あらゆる場所で活躍を遂げているのです。

取締役の花岡雅さん

そんな躍進の仕掛け人が、取締役の花岡雅(はなおか・まさし)さん。90年の歴史を持つ老舗メーカーで、さまざまなチャレンジに取り組む花岡さんに、台車のあれこれを伺ってみましょう!

細かいところに気が利きすぎる、ハイクオリティな最新台車

各種台車

会社の歴史を記したボード

まずは本社1階のショールームにやってきました。

広々とした中に会社の歴史を記したボードや、各種台車が並んでいます。

ハンドルの形が特徴的

淺野

この台車、ハンドルの形が特徴的ですね! なんというか、ぐにゃっとしている……?

花岡

うちの特徴である「UD(ユニバーサルデザイン)ハンドル」ですね。人間工学に基づいて設計された、扱いやすいハンドルです。旋回する時に力を入れやすいんですよ。まずは両手で持ってみてください。

台車のハンドルを持つ

すると、比較的ガタイの良い筆者の両手は、ハンドルの外側に吸い寄せられ……

肩幅狭めな編集さんは内側を握る

肩幅狭めな編集さんは内側を握りました。

淺野

なるほど、体型によって持ちやすい場所が違うのか! しかも、カーブがついているから曲げる時に力を入れやすくて、ギュンギュン動かせます。

花岡

次は片手で持ってみてください。

淺野

え、片手ですか……?(スッ)

意識せずとも握りやすい場所へと手が収まる

差し出した片手は誘われるように、中央のフラットな部分へ。意識せずとも握りやすい場所へと手が収まっていくので、マジシャンに騙されているような気持ちになりました。

ダンディXシリーズ typeXA

次に紹介いただくのは、現在の主力製品である「ダンディXシリーズ typeXA」。UDハンドルで取り回しやすいことはもちろん、細かな配慮がこれでもか! と詰め込まれています。

足で力をかけやすい傾斜がついている

段差を越える時のために、足で力をかけやすい傾斜がついており……

台車のレバーを踏む

レバーを踏んで畳むと、その勢いのまま「スッ」と手に収まってきます。こんなの初めて!

畳んだ勢いのまま持ち運べる

淺野

ちょうど良い場所に穴があって、畳んだ勢いのまま持ち運べますよ! 一連の流れが気持ちよすぎて笑っちゃいました。

「ダンディXシリーズ typeXA」の計算しつくされたところはほかにもあって……。

台座にスリットがある

畳んだハンドルが収まるよう台座にスリットがあるので、移動時にガタガタ音がしない!

荷物が載せられた台車

専用バンドを台車のサイドにある溝にひっかければ、載せた荷物をしっかり固定できる!

車輪は取り外せる

車輪が取り外せるので、使わない時には省スペースで保管が可能!

などなど、利用者のことをとことん考えた、至れり尽くせりの設計になっていました。

花岡

台車のことを365日考えていると、こういうことになります(笑) 

淺野

頭の中を台車が駆け巡っていそうですね。普段僕らがあまり目にしない、業務用の台車も見せてもらえますか?

花岡

もちろんです! 普段こんなに台車に食い付いてもらえること、ないので……!

人が乗った台車

本当は人が乗るのはNGなのですが、性能を体験するため特別に……!

配送センターや農場、ホテルのバックヤードといった場所の作業では、物を載せたり下ろしたりを繰り返すため、作業者の腰や背中には大きな負担がかかるそうです。

そこで活躍するのが、足踏みで最大800kgまでラクラク昇降できる「リフト台車」や……

リフト台車その1

リフト台車その2

重さに応じて自動で高さを調整する「レベラー」たち。

花岡

腰を曲げる回数が減ると、負担がグッと軽くなります。古くからある商品ですが、「腰痛対策」と銘打ったら、売上がグンと伸びたんですよ。

淺野

腰痛問題は切実ですもんね。台車は生活も仕事も支えているんだなぁ……!

レベラーその1

レベラーその2

大型パレットを載せるタイプのレベラーは、水平方向にも回転してさらに作業効率をアップ。まだまだ触ってみたいアイテムだらけですが、これだけ多様な製品を生み出す花岡車輌という会社のことも気になってきました。

DIYから規格品、農場から空港へ。創業者が仕掛けた”ヤバい2年”

花岡車輌のオフィススペース

IT系のベンチャー企業と見紛いそうですが、こちらは花岡車輌のオフィススペース。最近では「老舗系スタートアップ」と自称することもあるという、花岡車輌という会社の歴史を伺っていきます。

花岡

花岡車輌は私の曽祖父が1933年に創業し、トラクターで牽引するトレーラーなどの農業用機械の製造や、タイヤの販売代理などをおこなっていました。

花岡車輌の歴史を感じさせる、トラクターとトレーラーのフィギュア。オフィスの雰囲気に合うものを花岡さん自ら探したのだとか。

花岡車輌の歴史を感じさせる、トラクターとトレーラーのフィギュア。オフィスの雰囲気に合うものを花岡さん自ら探したのだとか。

花岡

でも、1965年にいきなり「次は工業の時代だ!」と振り切って、農業関係を全てやめてしまったんです。

淺野

30年以上も続けてきたのに、思い切りが良すぎる……!

花岡

そして作り始めたのが、プレス製ハンドトラック(=台車)である初代「ダンディ」です。もちろん当時も世の中に「台車」のような機能を果たすものはありましたが、一般の方々が木の板や鉄板を組み合わせて、全てDIYで作られていたそうで。会社として、工業製品としての台車の製造販売に取り組んだのは、花岡車輌が日本初だったんです。

淺野

台車ってハンドメイド品だったんですね! そして、その歴史を変えたのが花岡車輌だったのか。

日本で初めての台車

こちらが日本で初めての台車! 最近のものに比べるとさすがに無骨さを感じますが、堅牢な作りはまさに「ダンディ」という響きがぴったり。

当時はまだ台車という言葉が一般的ではなかったため、台車のこと自体を指して「ダンディ」と呼ばれていたそうです。「オセロ」や「QRコード(※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です)」のように、製品名が一般名称になっていたとは、「ダンディ」がいかに市場を席巻していたかがわかりますね。

花岡

さらにその2年後には空港事業にも取り組みました。

淺野

勢いが止まりませんね。

花岡

ニューヨークの空港でコンペに参加したら、まさかのうちだけ採用で。飛行機に格納するコンテナや、それを運ぶためのトレーラー(コンテナドーリー)などを開発し、世界でシェアを獲得していきました。

空港でコンテナを運ぶためのコンテナドーリー。連結した状態で走行してもほぼ同じ軌跡を通過するため、狭い場所でも使いやすい

空港でコンテナを運ぶためのコンテナドーリー。連結した状態で走行してもほぼ同じ軌跡を通過するため、狭い場所でも使いやすい

トレーラーや台車の製造で裏打ちされた技術を元に、さまざまなプロダクトを作っていく花岡車輌。世界から逆輸入されるように国内の航空事業にも採用され、空港でお馴染みのカートなどを手掛けていきました。

空港でよく見かける、大きなキャリーケースを楽々運ぶカート

空港でよく見かける、大きなキャリーケースを楽々運ぶカート


カートのアップその1

カートのアップその2

淺野

もしかして、空港でお馴染みのこれも……?

花岡

ハンドルを押し込んでロックを解除する仕組みは、花岡車輌が考案したものです。

淺野

知らないうちに、めちゃくちゃお世話になっていました。いつもありがとうございます!

花岡車輌の創業者はその後、運搬機機器に関する社団法人を立ち上げ、台車やリフトなどのJIS規格策定にも尽力。そうした功績が認められ、1985年には当時の社長が綬褒章を受章しています。

花岡

農業器具から台車に舵を切り、さらにそこから2年で空港事業まで手を広げて。ちょっとヤバい2年間ですよね(笑)。

停滞を打破するデザインで、台車は愛用品になる

インタビューに応じる花岡さん

花岡

でも、僕が10年前に会社に入った時には、別の意味でヤバかったんです。ちょっと見てもらいたいものがあるのですが……

昔のカタログ

淺野

おぉ、だいぶ昔のカタログでしょうか? THE・昭和的な味わいがあって良いですね〜。

花岡

いえ、2010年にもこれを使って営業していたんです。

淺野

に、2010年!? ゴリゴリに平成後期じゃないですか。

花岡

iPhone4が出た年ですよ(苦笑)。ビジュアルとしても厳しいし、会社のシンボルでもあるUDハンドルも表紙になく、本当にもったいないと感じました。

インタビューに応じる花岡さんその2

長く続く会社ゆえ、定番の商品が完成した時点で、長らく挑戦が止まってしまったと分析した花岡さん。美術大学で学んだプロダクトデザインやブランディングを、会社経営に活かしていきます。

花岡

まずは社長と議論を戦わせながら、会社のMVV(Mission・Vision・Value)を掘り下げていきました。そこまで理解しないと、ただ「機能さえ伝われば良い」という考えになり、以前のカタログのような資料ができてしまう。

淺野

たしかに、機能だけなら前のカタログでもわかりますが、会社の目指す方向性は見えてこないですね。むしろ「古い体制の会社だな」と感じてしまうかも。

花岡

足掛け8年ほどかけて、しっかり会社の本質が伝わるように、ホームページやカタログなどを刷新していきました。

全ての商品が一冊にまとめられたカタログ(右)から、カテゴリごとに異なる判型やデザイン(左)へとリニューアル。

全ての商品が一冊にまとめられたカタログ(右)から、カテゴリごとに異なる判型やデザイン(左)へとリニューアル。

眺めるだけで楽しい総合ラインナップ。新聞のような紙質で、検討時のメモも書き込みやすい。

眺めるだけで楽しい総合ラインナップ。新聞のような紙質で、検討時のメモも書き込みやすい。

淺野

最新のカタログは素敵ですねー! 商品ごとにトーンや判型も違って、届けたい人にしっかりメッセージが伝わる感じがします。

花岡

2019年にはデザイナーの西村拓紀さんが監修した「ダンディXシリーズ typeXA」がグッドデザイン賞を受賞するなど、新たな定番商品も生まれています。一連のリニューアルを経て、会社全体の売上も2倍ほどまで成長しました。

企業理念やフィロソフィーが丁寧に記された、花岡車輌のコーポレートサイト。

企業理念やフィロソフィーが丁寧に記された、花岡車輌のコーポレートサイト。

製品紹介ページでは、プロダクトの特徴をわかりやすく解説。

製品紹介ページでは、プロダクトの特徴をわかりやすく解説。

花岡

会社や商品の魅力をデザインの力でうまく発信できるようになると、他社さんからお声がけいただく機会も増えました。たとえば、リニューアルしたWebサイトがきっかけで、大手ファッションブランドとつながりができたんです。

FLAT CART 2×4

花岡

「FLAT CART 2×4」という商品をそのブランドさん限定で販売していただいたのですが、これがすごい人気で。発売した瞬間に売り切れて、Webストアでも、衣服や雑貨を含めた全アイテムの中でランキング1位になりました。

淺野

へー! 正直、台車がファッションブランドで扱われてる姿はイメージできなかったのですが、ここまで格好良いなら納得です。ツートンカラーもおしゃれだなぁ。

FLAT CART 2×4

使わない時にはフラットに畳め、防災グッズとしても需要がある「FLAT CART 2×4」。2輪でも4輪でも使える便利さで、大きな車輪はアウトドアやキャンプなどのレジャーとも相性バツグンです。

その佇まいは、台車というよりもはや「ギア」。デザインの力によって、単なる実用品から愛着を持てるアイテムへと、台車の価値が広がっているように思えます。

花岡

うちの工場がある埼玉県鴻巣市のふるさと納税返礼品に選定されると、金額ベースで全体の1/3を占めると言う好評ぶりでした。

淺野

めちゃくちゃ人気じゃないですか!

花岡

みんなこんなに台車が好きだったの? と驚くほどで(笑)。花岡車輌としては初めてのBtoC製品だったのですが、想像以上の評判で、その後も有名ブランドとのコラボレーションにも繋がっていきました。

これからも、チャレンジは大胆に。台車の進化は続く

DANDY PORTER KAKU

オフィス3階の大きな会議室に並ぶのは、花岡車輌のホテルカート「DANDY PORTER KAKU」。ホテルのイメージに馴染むモダンなデザインで、用途に合わせて天板の位置も変更可能。椅子と組み合わせれば、可動式のテーブルとしても使えます。

花岡

2021年に公開された映画『マスカレード・ナイト』では、荷台のマットを劇中のホテル仕様に変え、舞台美術としても利用されました。空港のシーンを撮影するために、空港用カートを貸し出すこともあるんですよ。

淺野

台車やカートは用途ごとに形状が違うから、空間演出の装置にもなるんですね!

台車やカートは用途ごとに形状が違う

ただものを運ぶだけでなく、キャンプのギアや舞台美術など、新たな用途で使われている台車たち。多様な進化を果たした背景には、花岡車輌ならではの企業理念が息付いているようです。

淺野

色々な製品を見せてもらい、台車はただものを運ぶ以上の役割があるように思えました。

花岡

会社のコーポレートサイトにも書いている「『モノを動かす、人をつなぐ』新たな感動を届ける」という言葉。これが私たちのミッションであり、会社の存在意義です。日本で初めて台車や空港用カートを作った実績のある私たちが、他と差別化しながら、共感性のあるデザインを打ち出していく。そうすることで、今まであるようなものだけでなく、新しい価値を創造して感動を与えたいと考えています。

淺野

「ヤバい2年」から続く大胆なチャレンジ精神が、今でも花岡車輌に根付いているように感じました。初代「ダンディ」が台車をDIYから工業品に変えたように、また常識を変えるような製品が生まれていきそうですね!

インタビュー中、花岡さんの首元には最新技術が詰め込まれた小型の「何か」が。き、気になる〜!

インタビュー中、花岡さんの首元には最新技術が詰め込まれた小型の「何か」が。き、気になる〜!

モノを動かし、人を動かし、新たな感動を生み出す花岡車輌。今後はIT技術を積極的に活用し、自動運転や位置情報サービスなどにも取り組んでいくとのこと。長い歴史を引き継ぎながら、領域を超えて大胆にチャレンジしていく姿は、まさに「老舗系ベンチャー企業」という表現がぴったりです。

花岡さんと淺井さん

台車のことをもっと知りたい! そんな思いでお話を伺うと、かつて「ダンディ」と呼ばれていた台車の歴史や、デザインやITの力でアップデートを繰り返すチャレンジ精神にも触れることができました。

ただものを運ぶだけでなく、人の心も一緒に動かしていくーー。当たり前に使っていた台車に込められた想いや工夫に気づいたことで、愛着はいっそう強くなりました。これからは、世の中にあふれる台車やカートを、もっとじっくり味わっていきたいと思います!

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