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目次/ INDEX
今回のテーマは「水鉄砲」。
水鉄砲とは、暑さによって苦しめられる夏を、思わず笑顔に変えてしまう魔法のアイテム。
多くの人が慣れ親しんだおもちゃですが、最近ではプールで本格的な撃ち合いをする「ウォーターサバゲー」などにも使用され、大人も本気で遊べるアイテムになっていることを知っていますか?
見た目もより近未来的なスタイルになり、機能も昔に比べいろいろなものが搭載され、水鉄砲はどんどん進化を遂げています。
今回は水鉄砲マニアさんのもとへと向かい、水鉄砲の世界のさらに深いところまで、連れて行ってもらいましょう!
やってきたのは、玩具会社「マルカ株式会社」です。
マルカ株式会社は、水鉄砲業界の中でもトップシェアを誇り、数々のヒット商品を世に送り出しています。
今回は取締役商品部長の青木文吾さんに、お話を聞いていきます。
青木文吾
マルカ株式会社 取締役商品部長。1998年に入社し、今まで約280種類の水鉄砲の開発に携わる。テレビやラジオなどにも出演し、水鉄砲の魅力を発信している。タイの水かけ祭りにも参加するほどの水鉄砲好き。
青木さん
よろしくお願いします! こちらの部屋へどうぞ。話すにあたって、水鉄砲のサンプルをいくつか用意しておきました
ズラッと並ぶ今回の主役たち
はるまき
い、いくつかなんてレベルじゃないような……。すごい数ですね。水鉄砲ってこんなに種類があるんですか?
青木さん
これでもほんの一部なんですよ。1つ1つすべて紹介していくと明日の朝まで語ってしまうので、ある程度かいつまんで説明しますね。まずは水鉄砲の主な4つのタイプから紹介していきましょうか
青木さん
はるまきさんは水鉄砲って聞くと、どんなものをイメージしますか?
はるまき
子どもの頃は、駄菓子屋とか100円ショップに売っているような、小さめの水鉄砲でよく遊んでいました
青木さん
それはおそらく“引き金式”というタイプです。水鉄砲には種類があって、“引き金式”、“シリンジ式”、“加圧式”、“電動式”の4つに、大きく分類されるんですよ
はるまき
なんだか武器の属性みたいで、ワクワクしますね……! それぞれどんな特徴があるんですか?
青木さん
では、誕生した歴史が古い順に説明していきますね。まずは日本で1番古くからあるタイプ、“シリンジ式”です。これは江戸時代に火消しの真似っこをした子どもたちが、竹で作って遊んでいたのが始まりだそうです
青木さん
そのほかにも、桶にポンプがついていて、水を吸い上げて飛ばす『竜吐水』と呼ばれるものも昔はあったそうですよ。これは竜の口から水が出ているように見えたことから、この名前になったそうです
はるまき
今でいう消防士の真似っこだ。水鉄砲って結構昔から歴史があるものなんですね
青木さん
ほかのタイプもそうなのですが、水鉄砲は大人が使っているのを子どもたちが見て、憧れた気持ちがきっかけで生まれたおもちゃなんです。だから、意外とその国の地域性や時代背景が映し出されているんですよ
1番歴史が古い「シリンジ式」
青木さん
シリンジ式の特徴は、4つのタイプの中でも1番飛距離があることです。小さいもので7〜8メートル、大きいものだと14〜15メートルの飛距離があります
はるまき
ふむふむ。後ろの部分を押したら、水が出てくるんですか?
青木さん
そうですね。後ろのシリンダーを押し出して、水を飛ばすという原理になっています。難点としては、一度撃ったら水は使い切ってしまうので、そのたびに給水しなければいけないところです。そのため、連射をすることはできません
はるまき
手で押して、水を一気に放出させるんですね
青木さん
動力は完全に人間の力になるので、押し出す力が強いほど、その分水は飛んでいきます
駄菓子屋などで昔から馴染みのある「引き金式」
青木さん
2つ目のタイプは“引き金式”です。引き金を引いた分だけ水が出るという、シンプルなしくみになっています。飛距離は4〜5メートルくらい。小さめのモデルが多く、片手で撃つこともできますよ
はるまき
水鉄砲と言ったら、このイメージでした! シリンジ式のものに比べて、より銃に近づいた見た目をしていますね
青木さん
銃タイプの水鉄砲は、アメリカで誕生しました。映画やテレビで、銃を頻繁に見るようになった子どもが憧れを持ち、おもちゃとして開発されたそうです
はるまき
日本でシリンジ式の水鉄砲が生まれたきっかけと、似ていますね
青木さん
ですが、あまりにも本物の銃と形が似ていたので、間違われることがあったそうですよ。その間違いを防ぐために、水鉄砲の銃口はオレンジ色になっているものが多いのです。これなら、遠くからでも本物の銃と水鉄砲を区別することができます
はるまき
言われてみれば、銃口がオレンジ色になっているものが多い! そういった意味があったんですね……
今は主流のタイプ「加圧式」
青木さん
そして今最もポピュラーなのが、この“加圧式”です。これは水と一緒にタンクに空気を溜めて、その空気圧によって水を出します。飛距離は小さめのものだと、5〜10メートルくらいですね
はるまき
これが今の主流のタイプなんですね。この黄色いタンクの部分に、空気を溜めるんですか?
右側の赤い部分をシュコシュコし、内蔵しているタンクの中の空気に圧をかける。
青木さん
そうですね。この部分に空気と水を溜めて、その空気圧で水を押し出して撃ちます。この加圧式は、1990年頃にロニー・ジョンソンさんというアメリカの方が開発し、世界に販売されましたのが始まりなんです
はるまき
アメリカでは水鉄砲の開発が盛んなんですね。日本では、いつから加圧式を販売し始めたんですか?
青木さん
弊社でいうと2005年ごろから、本格的に加圧式を売り出し始めました。これが出た当時の子どもたちは大興奮したそうです。今までに見たことのないギミックを搭載されたおもちゃが、手に入ったんですからね!
ひと際違う雰囲気をまとった電動式「Spyra Two」
青木さん
そして4つのタイプの中で、1番歴史が浅いのが“電動式”です。乾電池、もしくはバッテリーの力で、給水から発射まで行います。これはドイツのメーカーさんが販売しているものになります。普通電動式の水鉄砲の飛距離は6メートル程度なのですが、これは通常時で約9メートル、パワーショット時では約14メートルの飛距離が出るんですよ
はるまき
かっこいい〜! なんだかSF映画に出てきそうな見た目をしていますね
青木さん
いや〜かっこいいですよね! 電動式は水鉄砲を本気で遊ぶ大人にうってつけのタイプです。生活防水機能だったり、完全電動式だったりするので、価格もその分大人仕様ですけどね
はるまき
ちなみにこれはおいくらなんですか?
青木さん
これは約28,000円になります
はるまき
に、28,000円……!
青木さん
これはちょっと別格ですね(笑)。一般的な水鉄砲の相場は、何百円〜3,000円くらいです。でも水鉄砲の開発をしていく上で、搭載させる機能と価格のバランスを取るのは年々難しく、いつも頭を抱えながら新商品を考えていますよ
はるまき
青木さんは、1年でどのくらいの新商品を開発しているんですか?
青木さん
多少変動はありますが、だいたい1年で10種類くらいの新商品を開発しています。僕が入社してから今まで開発に携わったものだと、約280種類になりますね
はるまき
それはすごい……。どうやったらそんなにたくさんの新しいアイデアを思いつけるんですか?
青木さん
できるだけ多くの水鉄砲に触れて、開発チームで意見を出し合ったりしながらアイデアを生み出しています。僕たちは夏に限らず1年中水鉄砲で遊んで……じゃなくて、研究して少しずつ水鉄砲を進化させていますね
はるまき
日々の地道な研究が、新しい発見につながっているんですね。ちなみに代表的な4つのタイプを紹介してもらいましたが、最近の水鉄砲は、そこからどう進化を遂げているんでしょうか?
シリンジ式「アクアシューターヴァルティー」
青木さん
1番大きな変化を遂げているのは“シリンジ式”ですね。これは水を溜めておくことができるタンクが本体に内蔵されていて、1回1回給水しなくても、水を出し続けることができるようになりました
はるまき
シリンジ式の特徴でもある飛距離を維持しつつも、水がなくなるまで撃ち続けられることができたら、楽しさ倍増ですね!
タンク式「アクアタンク バタフライ」
青木さん
シリンジ式はもう1つ、進化形態があります。それが、この背中にタンクを背負うタイプです
はるまき
かわいい〜! 見た目にかなりインパクトがありますね
青木さん
タンク式は子どもにとても人気です。今の時代はSNSが発達して、写真を多くの人とシェアができるので、見た目の部分でも進化をしてきました。シリンジ式の進化形態は、水が溜められるようになった実用性での進化と、見た目での進化、2つの方向性に成長していますね
はるまき
ちなみに、マルカさんの1番人気がある水鉄砲はどれになるんですか?
1番人気のシリンジ式「アクアシューター アイスファングネオ」
青木さん
これが弊社で1番人気の水鉄砲です。特徴としては、水を入れるための間口がかなり広いところですね。しかも水の残量が外から見てもわかるように、タンク部分をスケルトンにしているんです
はるまき
水鉄砲ごと水に突っ込んでしまえば、一瞬で給水ができますね!
青木さん
この進化は、給水する手間を減らすことができるのに加えて、あるとても重要な意味を持っているんですよ。それはなんだと思いますか?
はるまき
なんだろう……。よりかっこいい見た目にすることができたとか?
青木さん
それも正解です。たしかに中に水を溜めるようにしたことによって、シリンジ式はより近未来的なデザインのものを開発することができるようになりました
青木さん
ですが、水鉄砲の開発で重要なのは、楽しいと思う気持ちをできるだけ持続させることです。水鉄砲は、水を溜めている待ち時間を1番ストレスに感じます。せっかく楽しく遊んでいたのに、現実に引き戻されてしまう。その時間をできるだけ短くすることを心がけているんです
はるまき
なるほど、水鉄砲って奥が深いな……。細かいギミックや形状の進化には、そういう目的が根底にあったんですね
「アクアシューター スーパースプラッシュ」
青木さん
給水の工夫は常に試行錯誤していますね。たとえばこれなんかは、ペットボトルを切り替えたらずっと遊ぶことができます。事前に水を入れたペットボトルをいくつか用意しておくのもいいですね
はるまき
装填する弾薬をいくつか用意しておくようなイメージですね
青木さん
あともう1つ、水鉄砲の開発に重要なポイントがあります。それは、飛距離を落とさないことです。水鉄砲は水を飛ばしてなんぼなので、そこは軸としてブレないように開発をしていますね
はるまき
たしかに、水鉄砲は水が飛べば飛ぶほど楽しいですよね! ちなみに、特に飛距離が出る水鉄砲はこの中だとどれになるんですか?
上から電動式の「Spyra Two」、シリンジ式の「アクアシューター シューティングスター」、加圧式の「アクアコマンダー グラディエーター」
青木さん
なんだかんだ昔ながらのシリンジ式は、飛距離の面では強いですね
はるまき
1番下のものは、加圧式の水鉄砲ですか?
加圧式「アクアコマンダー グラディエーター」
青木さん
これも加圧式です。この加圧式は、タンクの部分が進化していますね。以前のものは、同じタンクに水と空気を溜めるものでした。ですが、これは水と空気が貯まる場所が分かれているんです
はるまき
タンクを仕切ることで、何かメリットがあるんですか?
青木さん
加圧式は、空気と水の量のバランスによって飛距離が変わってくるんです。ですから、水と空気が同じ場所に貯まるタイプだと、使っているうちに2つの配分が変わってきて、飛距離のコントロールが難しくなってきます。ですがこのように空気と水が別の層に貯まることによって、水が減っていっても飛距離が安定するんですよ
はるまき
なるほど! 構造部分が進化したことによって、水を安定して飛ばせるようになったんですね
青木さん
その通りです。この加圧式の構造には、The Constant Pressure Systemというものが関係してきまして……
はるまき
あ、青木さん。そろそろ私の脳の容量が限界です……すみません
青木さん
あ、ついつい止まらなくなってしまいました(笑)。次は引き金式についてお話ししますね。引き金式はそこまで大きな変化はないのですが、手軽さを活かして『応援グッズ』に加工できるようになっているものなどができました
はるまき
かわいい! 体育祭を盛り上げたりするのに、めちゃくちゃいいですね
青木さん
本当は一緒に使用するクリアファイルもセットで販売しようという案もあったのですが、グッズは自分たちで手作りをして、オリジナル性があったほうが楽しいですよね。なので、作り方だけ動画上で公開し、購入していただいた方たちに自分で作ってもらうようにしました
はるまき
作る過程も楽しめますね。水鉄砲には、本当にいろんな種類があるんだなあ。青木さんは、毎年たくさんの新商品を開発している中で、失敗したことはあるんですか?
青木さん
もちろんありますよ。たとえば、先ほど紹介した背中に背負うタンク式も、最初は失敗していました
はるまき
え、そうなんですか⁉︎
こちらもタンク式「アクアタンク ドラージュ」。最大7.6リットルの容量の水が入る。
青木さん
製品自体が失敗したというよりかは、世の中に出すタイミングが早すぎた、という感じですね。今までに見たこともないような新しいものを発表するのは大事なのですが、あまりにも世間にまだ認知されていない状態で出すと、まったく売れなかったりします。タンク式も最初は全然売れませんでした(笑)
はるまき
開発って、タイミングも大事なんですね
青木さん
今まで開発してきて、根強い人気があるものを変わらず売り続けるのももちろんいいのですが、僕たちは新しいものを提案する仕事なので、それを求めて冒険することをやめてしまったら、おもちゃ会社としては終わりですよね
はるまき
開発は冒険。生み出す人自身がワクワクする気持ちを持っているから、そのワクワクも多くの人に伝わっていくような気がします
はるまき
水鉄砲が誕生した背景や、進化の過程を見てくと、ただ夏に遊べるおもちゃというだけではなくて、笑顔を作るためにいろんな想いが詰まったものなんだ、ということを教えてもらいました
青木さん
水鉄砲は、銃に憧れた子どもたちの気持ちから生まれたものなので、実は少し悲しい歴史も交わっているものなんです。でも水鉄砲はあくまでも遊んでくれる人を笑顔にさせるものだから、その楽しい気持ちだけが残り続けてくれるといいですよね
今回取材にご協力いただいた青木さん(中央)、横田さん(右)、伊藤さん(左)。
青木さん
いつかこの世界から、“銃”と名のつくものは水鉄砲だけになればいいなと僕は思っています。そんな平和な世界にするためにも、これからも多くの人をワクワクさせるような、笑顔を生む水鉄砲を開発していきたいです!
はるまき
今回は、水鉄砲の世界に連れて行っていただき、ありがとうございました!
取材・執筆:はるまきもえ
はるまき
青木さんこんにちは! 今日は水鉄砲についてもっと知りたくて、お伺いしました