花粉症に怯えている。盲点だった手法で今年はバトルを仕掛けてみることにした
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「サステナブル」、「エシカル」、「エコ」で「クリーンな」…
地球や自然環境への意識は、今や特別なものではなくなっている。個人のみならず企業においても、サステナブル経営を念頭とした事業への取り組みなど、その関心は高まるばかりだ。
今回のキーワードは「アップサイクル」。本来であれば捨てられてしまう廃棄物が、デザイン・アイデアによる付加価値で別の新しい製品となることを指す。アパレル業界を筆頭に注目される概念だが、これをアウトドアブランドの雄、コールマンが手掛けるとどうなるのか。
Movement For Your Right、MFYRプロジェクトに込めた想いを聞いた。
コロナ禍で一気にブームが加速したアウトドア領域だが、キャンプビギナーがまず間違いなく出会うであろうブランドがColeman(コールマン)だ。
定番アイテムはもちろん、ヴィンテージランタンなどはプレミアがつくほどの人気を誇り、初心者から玄人まで幅広い層に愛されている。
そんなコールマンがひっそり、しかし着実に進めているMFYR(Movement For Your Right)というプロジェクトがある。
ひとことで言えば、廃棄テントやタープを再活用してバッグやポーチなどを製造するアップサイクル事業。言われなければアップサイクル品だとわからないほどのスタイリッシュなアイテムが揃っている。
販売の裏には、消費者のエコに対する高い意識があったという。担当者の髙橋佳世子さんにお話を聞いた。
プロジェクト第一弾となったバッグの発売は2021年6月。コールマンの本国はアメリカだが、本プロジェクトは日本独自の活動だ。社内でも初の試みとなったMFYRプロジェクト、反響は果たしてどのようなものだったのか。
コールマン ジャパン株式会社 マーケティング本部 髙橋佳世子さん
「発売に際し、宣伝費をかけたPRはしませんでした。事前にニュースリリースを出してSNSで告知した程度でしたので、消費者がどれくらい知ってくれていて、どんな反応をするのか予想もつきませんでしたし、社内でも初めての試みなので、正直、不安の方が大きかったです」
そんな髙橋さんの気持ちとは裏腹に、アイテムは発売直後に売り切れに。9月の第二弾においても、ECではものの20分で完売したというから驚きだ。
プロジェクトのコアは製品そのものよりもサステナビリティ理念だという。同商品に対する消費者の反応は意外なものだった。
「私たちが思っていた以上に、お客さまのサステナビリティやエコに対する意識は高い。9月のリアルイベントに実物を持っていったときは、プロジェクト内容を知った上で足を運んでくれた若い世代の方もいたのです。ブランドやアイテムの裏にある理念や思想までチェックして、そこに共感して購入する、そういった消費行動が多く驚きました」
ネットやSNSを駆使し、消費者自らが常に情報を取りに行ける時代。「何を買うか」ではなく「なぜ買うのか」をベースとした消費行動は実に現代的とも言える。
「製品開発の意図と合わせて『良いもの』とわかれば買ってくださるんですよね。だからこそ、 “質” にこだわって良かったと思います」
MFYRを製品化するにあたり、プロパー製品(アップサイクルでない正規ラインの製品)と同様、第三者機関に依頼し厳しいテスト基準を設けたという。二次製品とも言えるアップサイクル品のクオリティにそこまでこだわった理由は何だったのだろうか。
もとはテント生地なので丈夫で軽く、撥水性もある。ちょっとした汚れならササッと水で拭き取ってしまえるラフさも良い
「適当なものをつくっても消費者に見抜かれてしまいますし、活動を持続できないのでは?と感じていました。捨てるものをアップサイクルしたのはいいけれど、それもすぐに捨てられてしまうのでは意味がない。ちゃんと『使えるもの』にするという意識は、プロジェクト立ち上げ当初から強かったですね」
「MFYRのメイン製品であるバッグのテスト基準は、弊社のバックパックと同等レベルに設定しています。もともとはテントやタープであり、最初からバッグとして作られているわけではないので、強度などを含めて合格ラインに達するまでは本当に試行錯誤でした。実際に販売してみてお客さまの意識の高さを知った今、プロパー品とクオリティを合わせて良かったと深く思います」
廃棄を減らす、ゴミを出さない。すべての前提がここに集約される以上、利益を追求した量産は目的になり得ない。
「目的が『廃棄を減らす』ことなので、無駄のない生地取りはとても重要な視点。ただこれが簡単ではない。テントひとつとっても、数多くのモデルがありますし、そもそも形状がフラットではない。立体であったものを平らにしてから、どの部分を使っていくか考えるのです。生地取り・パーツ取りはデザインに直結する部分でもあり、とても手間がかかる。その結果どうしても作れる数は限られてしまいます」
できあがった姿をイメージしながら、デザイナー自身が粗裁ちする
どこまで無駄なく生地取りができるか、どこまでデザインに落とし込めるのか、複合的に考えながらデザイナー自身が粗裁ちをする。型紙はあれど、作業を画一化するわけにはいかない理由だ。
デザイナーによって粗裁ちされた生地は、工場で抜型される
創意と技巧を凝らした属人性の高い作業。数日かけてもさばけるテントはそう多くない。
そして1点ずつ縫製されて仕上がっていく
「本当に丁寧に作られている、まさに “ハンドメイド” 品です。すべてが1点もの」
廃棄を減らすことが目的である以上、すべてのアイテムを同じデザインにすることは難しい。テントのロゴにしても、ひと張りにつき二箇所ほどが通有。ものによっては、ロゴなしのソリッドカラーテントだってある。毎回テントロゴを入れたデザインにするわけにはいかないのだ。
アイテムの型は選べるものの、細かい色や柄はどんなものが送られてくるかはわからない。が、間違いなく世界にひとつだけのバッグだ
「プロジェクトの軸は廃棄品を活用すること。必ずテントのロゴを入れることはできないですが、MFYRタグをひとつ付けています。お客さまは理念に共感した上で購入してくださっているので、注文したモデルがどんな柄や色で届くのか、その出会いも含めて楽しんで頂けたらなと思います」
アウトドアだけでなく、毎日使える気軽さが魅力。バケツトートの大きさならコインランドリーへの持ち運びに重宝しそうだ
志だけ立派では意味がない。一度きりの発信で終わってしまっては、社会全体で見た変化は微々たるものだろう。SDGsは持続できることに最大の意味がある。
MFYRによって人々の意識が変わるきっかけになれば、そう髙橋さんは話す。
「弊社だけがこのようなプロジェクトを発信していっても、世の中全体で見たサステナビリティの成立には程遠い。実際にMFYRですべての廃棄テントがなくせるかというと、それも難しい。だけどMFYRが意識を変えるきっかけにはなるはず」
モデル右手のポーチは、髙橋さんが「絶対作りたかった」一品。メッシュ部分やファスナー部まで廃棄テントをうまく活用している
「キャンパーの皆さまをはじめ、消費者の方々に『捨てようと思っていたものをバックにできるかも』、そんな形でアイデアに気づいてもらいたい。MFYRをフックにして、アップサイクルやリサイクルがムーブメントとして起こっていったらという願いを込めて活動を続けています」