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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
外から聞こえるサイレンや他の犬の鳴き声につられて、愛犬が「ワオーン」と遠吠えをすることはありませんか? 犬らしい行動とはいえ、近隣への迷惑になると不安に思う飼い主もいることでしょう。この記事では、そもそもなぜ犬は遠吠えをするのか、やめさせるための対処法などについて、動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生監修の元、解説します。
目次
- そもそも「遠吠え」とは?
- 飼育されている犬が遠吠えをする心理とは?急にするのはなぜ?
- 遠吠えしやすい犬種は?
- 犬の遠吠えは「認知症」のサイン?
- 犬の遠吠えをやめさせる方法とは?
そもそも「遠吠え」とは?
コヨーテやオオカミなど、野生の犬科の動物でよく見られる行動です。特にイエイヌの祖先であるオオカミの場合、遠吠えは離れた場所にいる親子がコミュニケーションをとるための手段として使われています。また、異なる群れのオオカミの遠吠えを大人のものか子どものものかを聞き分け、大人のオオカミの遠吠えにだけ返事を返すということもわかっています。
このことから、オオカミの遠吠えは、家族や群れの中でのコミュニケーション手段であるのと同時に、群れの仲間以外への警戒や縄張りの主張をする際の手段としても使われているのだと考えられています。
飼育されている犬が遠吠えをする心理とは?急にするのはなぜ?
では、現代の家庭で飼われ人と暮らす犬が遠吠えをする理由はなんでしょうか? 実は、まだ科学的にはっきりとした答えは出ていません。しかし、オオカミと同様に、犬の遠吠えは親子のコミュニケーション手段が主な役割であるかもしれません。
不安や寂しさを感じている
子犬を母犬から離したときに子犬が遠吠えをするといった話があります。母犬と離れた不安から遠吠えをし、それに母犬が応じる。犬は、不安や寂しさを感じたときに遠吠えをするのかもしれません。飼い主にかまってほしくて遠吠えをする犬もいるでしょう。
サイレンなどの騒音に対する反応
また、外からサイレンの音が聞こえたとき、スポーツ観戦の音が聞こえたときなどに犬が遠吠えするとも言われます。サイレンやスポーツ観戦などの音は、遠吠えと似た高いピッチの音です。これに反応して犬が遠吠えを返しているという風にも考えられますね。オオカミの習性を考えるならば、警戒の意識が関係している可能性もあります。
他の犬とのコミュニケーション手段
この他、オオカミの習性を引き継いでいることを考えると、知らない犬とのコミュニケーション手段として使っている可能性はあります。しかし、現在飼育されている犬の多くは、室内で安全な暮らしをしているので、知らない犬にその環境を侵害される経験はおそらくないでしょう。オオカミのように、警戒や縄張りの主張として遠吠えをしなくてはならない状況に置かれることは少ないはずです。
遠吠えしやすい犬種は?
一般的には、シベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュートといった犬種、ハウンド系の犬は遠吠えをすることが多いと言われています。また、遺伝的にオオカミに近いとされる日本犬にも多いようです。野生に近い、原始的な犬ほど遠吠えをしやすいのかもしれません。
犬の遠吠えは「認知症」のサイン?
犬の認知症(高齢性認知機能不全症候群)の症状としては 時間や場所がわからなくなる見当識障害、飼い主や他の動物との関わりの変化、昼夜が逆転してしまうなど睡眠サイクルの変化、トイレの失敗や学習した習慣の消失、活動性が低下する、繰り返し行動が増える、不安が増すといった特徴が挙げられます。
「吠え」の増加は、昼夜逆転による夜鳴きや不安の表れ、繰り返し行動としてみられる一般的な認知症の症状の一つです。そしてこの吠えの特徴は、一本調子の吠えを繰り返すほか、遠吠えも該当します。
認知症は進行性であり、治癒することはできませんが、症状を改善したり進行を遅らせたりすることはできます。特に吠え・遠吠えは、身体的な問題から自分の望み通りに体を動かせない、歩きたいのに歩けない、立ちたいのに立てない、水を飲みたいのに皿に近づけないなど、体の痛みや要望、不安を伝えるために見られ、飼い主がサポートしたり近くにいたりすることで改善することが多いです。
ただし、全ての介護を行うことは飼い主にとっても大きな負担になるでしょう。薬やサプリメントなどで不安や痛みを軽減したり、夜の眠りを導いてあげたりすることで、夜鳴きが軽減することがあります。愛犬が認知症かもしれないと感じたら、まずはかかりつけの獣医師に相談しましょう。
犬の遠吠えをやめさせる方法とは?
サイレンや楽器音に反応して愛犬が頻繁に遠吠えをしていると、近所トラブルに発展したり、家の中で楽器が演奏できないなどの困りごとにもつながります。遠吠えの習慣をやめさせるためには、どうしたらいいのでしょうか。
犬が反応する音が聞こえにくい状況を作る
多くの場合は、外から聞こえる音への反応として遠吠えが始まると考えられます。まずは、反応してしまう音が聞こえる時間帯や、その音が聞こえたら窓を閉めて室内に音楽をかける、窓や扉に近づけないようにするなど、音が聞こえにくい状況を作ってみましょう。愛犬を移動させるときは、快適で安心できる場所作りを意識してあげてくださいね。
それでも遠吠えをやめない場合は?
犬が反応る音が聞こえにくい状況を作っても遠吠えしてしまう場合は、吠えないように誘導する必要があります。具体的な対応は犬の性格や家族の生活スタイルによって異なりますが、例えば下記のような方法を参考にしてみてください。
・おやつやドッグフードで気を引き、集中させる。長時間楽しめる知育玩具を使うのもおすすめ
・遠吠えしそうになったら飼い主がすぐに呼び寄せ、一緒に遊んだりトレーニングをしたりする
・「静かに」という言葉を教えておく
・飼い主の指示に従って「ケージで静かに伏せる」など正しい行動を教えておく
また、テレビの音や楽器の演奏音など、室内の音に反応する場合は、まずその音のする部屋の扉を閉め、犬はできるだけ遠くの部屋にいさせるようにしましょう。外からの音と同じように、それでも遠吠えしてしまう場合には吠えないように誘導を。
他にも、愛犬の遠吠えが不安からくるものなら、その不安を改善する必要があります。どんな時に遠吠えするのか、その不安は何かを検討し、できるだけ改善してあげることが重要です。
困ったときには、行動診療をしている獣医師やトレーナー、しつけインストラクターに相談することをおすすめします。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。