【今すぐマネしたい収納事例】プロから学ぶつっぱり棒の使い方10選
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「さすまた(刺股)」という名の道具をご存知ですか。さすまたとは、U字形に分かれた金具に長い柄がついた防犯用品。江戸時代から「捕り物」に用いられ、火災時には延焼を防ぐため家屋を壊す用途でも使われました(消防署を表す地図記号は現在もさすまたが描かれています)。
この「さすまた」が令和のいま、注目されています。2021年12月に札幌の大型商業施設で暴れていた男がさすまたで制圧され現行犯逮捕されるなど、さすまたが活躍するニュースがあったのです。
そんな「さすまた」の機能をさらに向上させるべく独自開発している会社があります。それが、学校教材や医療・介護用品を手がけている三和製作所。さすまたの存在意義はどこにあるのか。威力をアップさせた「進化したさすまた」とは、いったいどんなものなのか。事業統括部 事業戦略室 室長の中嶋貴之さんにお話をうかがいました。
株式会社「三和製作所」 事業統括部 事業戦略室 室長 中嶋貴之さん
——三和製作所では、一年にどれくらいの数“さすまた”が売れるのでしょう。想像がつかないのですが。
「さすまたの販売本数は2022年春現在、年間1,000本から2,000本のあいだを推移しています。実は、弊社で製造・販売を始めた2003年からしばらくは、年間20,000本から25,000本が売れた時期がありました」
——「2003年にさすまたの製造を始めた」とのことですが、きっかけはなんだったのでしょう。
「きっかけは、過去に国内で起きた無差別殺傷事件でした」
——かつての痛ましい事件がきっかけだったのですか。
「そうなんです。事件後、全国の学校で防犯対策が強化されるようになりました。その流れで学校関連の教材を多く企画製造している弊社へ、近隣の小学校様から『さすまたを導入したい』というお話をいただいたのです。
というのも弊社ではもともと学校教育用に、花壇・菜園用の蔓棚(つるたな)など、パイプを組み立てる園芸用品を製造していました。そのため、パイプ加工の前例があったのです。そうしたノウハウを活かして、さすまたの開発が始まりました」
三和製作所では園芸用品をつくるパイプ加工の技術を活かし、さすまたの開発が行われた
——へちまなどを育てる蔓棚をつくる技術が、さすまたに活かされたとは意外です。しかしながら、さまざまな防犯用品があるなか、なぜ江戸時代に生まれたといわれている古典的な「さすまた」にスポットライトが当たったのでしょう。
「きっかけとなった事件の翌年、文科省が『学校の危機管理マニュアル』を作成しました。そのマニュアル内で“教育現場の防犯で配備すべきもの”の一つとして、具体的に『さすまた』の名前が挙げられたのです。この記載が、学校がさすまたを導入する大きな動機となったようですね」
——さすまたってとてもシンプルなかたちをしていますが、省庁の危機管理マニュアルに掲載されるほど便利なものなのですか。
「さすまたの最大の利点は、“犯人と距離をとって対峙できる”部分です。さすまたで犯人を抑えて近づかないようにしながら警察官が来るまで時間稼ぎをする。そういう用途があるのです」
——なるほど。さすまたは「自分の身を守り」、なおかつ「犯人の身柄を拘束する」という二つの機能を兼ね備えているのですね。それは確かに便利ですね。
「はい。そのため学校以外でも、鉄道会社や税務署など犯罪が想定される公共の施設からご購入いただいています」
長いものでは200cm以上の長さがある、三和製作所のさすまた。この長さのおかげで犯人と距離をとりながら身柄を確保できる(猪八戒ではない)
——三和製作所のさすまたは「スタンダードシリーズ」と「スプリンガーシリーズ」の二種類がありますね。どこが違うのでしょうか。
「スプリンガーシリーズでは、二股に分かれたジョイント部分と柄の上半分にコイルスプリング(バネ)を装着しています。この機構は弊社のオリジナルです。素材はアルミ製とスチール製の2タイプがございます」
——さすまたにバネがついていると、何が便利なのでしょう。
「さすまたの弱点として、取り押さえようとする際、犯人にU字部分や柄をつかまれてしまう可能性があります。形勢が逆転し、犯人側から反撃される危険性があるのです。そうならないため、つかまれても空転して力が分散するよう、バネを着けています」
さすまたのU字や柄の部分にバネ(コイルスプリング)を装着した。犯人が握っても力が入らず、反撃ができなくなる
——なるほど! バネがついているおかげで犯人が握ってもグニャっとなってしまい押し戻せないのですね。こちらのシリーズも、2003年から販売されていたのですか。
「いいえ。当初はバネではなく、さすまたの二股部分そのものが回る『回転さすまた』という商品でした。バネと同じく、二股の先を握った犯人の力を奪う目的で、くるくる回転する仕組みにしたのです」
——「回転さすまた」もとても便利そうですね。もう製造していないのですか。
「はい。構造上、どうしてもパイプにパイプをかぶせるかたちになり、総重量が上がってしまったのです。『この重さでは女性が使いづらいんじゃないか』と指摘があり、試行錯誤を経て、バネを着けるアイデアが生まれにました」
——いざとなったとき女性が使えるかという観点は、とても大事ですよね。
「そうなんです。さすまたを開発するにあたり、『女性が安全に使いこなせるか』は、きわめて重要な要素です。たとえば幼稚園や保育園では職員に男性が少ない、あるいは男性がいない場合があります。そのため女性がさすまたを持って立ち振るまえるよう、軽量化は大きな課題でした」
——他に進化した部分はありますか。
「大きく変わった点は鍔(つば)ですね。販売開始当初、鍔はありませんでしたが、犯人が刃物など凶器を持っていた時に、応戦する自分の手を護るために鍔を取り付けたのです」
鍔を着けることにより、犯人が凶器を持っていても自分の手に危害が及ぶ可能性が低くなる
——およそ400年前から使われていたさすまたが、まだまだアップデートされているのですね。
「改良は続いています。最近ですと、持ち手の部分にウレタン製のパワーグリップがつきました。以前にも増して握りやすく、力を入れやすく、手が離れづらくなりました」
握り手部分に備わったパワーグリップ。いっそう握りやすくなった
——さすまたの進化具合には、目を見張りました。とはいえやはり、「こんなシンプルな棒一本で、果たして自分一人で応戦できるのだろうか」と不安なのですが。
「いいえ、いいえ。誤解されがちですが、さすまたはお一人で使うものではありません。基本的に1対1で使うケースは想定していないのです」
——ええ! そうなんですか!
「はい。事件が起きると、犯人がどういった動きをするかは予想がつきません。1対1だと犯人にさすまたを奪われてしまうリスクがあるため、少なくとも3人、できればそれ以上の人数で犯人を取り囲んでいただきたいです。警察でも3人以上で使うように指導しているそうですね」
「さすまたは一人で使う場面は想定されていません。必ず3人以上で使ってください」と中嶋さん
——3人でどのようにして使うのでしょう。
「犯人の胸部と腰部、あと後方で脚を押さえ込む。これによって犯人を抵抗しづらくするのです」
——わかったような、わからないような。実際にやってみてもいいですか。
「やりましょう」