食べられる家具をショコラティエが本気で作ろうとした
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『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)をはじめ、数々のドラマや映画・舞台に出演してきた俳優の藤田朋子さん。そんな藤田さんは知る人ぞ知る、あるユニークな趣味をお持ちです。
それは、ゴミを解体してコンパクトにすること。この「ゴミ解体」の様子は藤田さんのInstagramやYouTubeチャンネル、TikTokで日々アップされ、どんな形状のゴミでもあっという間に解体してしまう技術力や手際の良さが、ネット上でじわじわと注目を集めています。
ゴミを小さくする理由は、ゴミ袋代の節約やゴミ収集業者の方のケガ防止──という目的もありつつ、それ以上に「楽しいから」だと言います。
今回は藤田さんにゴミの解体を実演いただきながら、その深すぎる「ゴミ解体沼」に迫ります。最後まで読めば、明日からのゴミ捨てがちょっぴり楽しくなる、かも……?
──あの、さっそくですが、藤田さんがとにかくゴミを小さくするのが得意だと伺っていまして……。本日は家庭で出やすく、ゴミ袋に入れるとかさばりやすいゴミをいくつか用意させていただきました。20Lのゴミ袋に詰めると結構キツキツです。どうやって小さくするのか、実際にレクチャーいただいてもいいですか?
藤田朋子さん(以下、藤田):いいですよ! じゃあ、一番簡単そうだからこの人(肉・魚を入れるトレー)から切ろうかな。……切り始めたら一瞬ですよ。
──(は、速い……!)迷いがない……。どういう基準で切る箇所を決めているんですか?
藤田:とにかく小さくすればいいと思って雑に切っちゃうと、ゴミ袋に入れた時にかさばるんです。だから、「同じサイズ・同じ形の部品がたくさん集まる」ように切る。最終的にはパーツをまとめて重ねて、ゴミ袋の中の隙間をなくしたいんです。小さくするというより「全員(全パーツ)を平らにする」のが目的です。
──なるほど……。一瞬で解体されてしまった。卵パックはいかがでしょう?
藤田:いくつか方法がありますが、今回はより小さくするためにつぶしましょう。つぶすのはすごく簡単ですよ。連結部分をはさみで切って上下二つに分けたら、あとはつぶして凹凸を真っ平らにするだけ。足でいきますね。
──あっ、もう平らに……。
藤田:同じ要領でペットボトルもつぶしてみましょうか。この人たちはわりと立ち上がりやすいので、立ち上がっちゃう前にさっさとゴミ袋に入れてあげてください。
ちなみに、プラスチックは再利用のため資源ごみに出すことも多いと思いますが、うちは汚れが取れないものは小さく切って燃えるゴミとして、きれいなものは資源ごみとして出し分けています。ただ、(資源ごみに出す場合は)あまり小さく切り刻むと再利用しづらくなると聞いたので、プラマークは残した上で、手のひらサイズまでに抑えるといいようです。
──なるほど。一人暮らしの家ではおなじみのこちら(カップラーメンの容器)もお願いします。
藤田:これははさみじゃなく、手で分解します。
──手で!
藤田:その方が底の出っ張りが残らず、凹凸が少なくなるんですよね。そして、「平らにする」という原則に従うなら、本当は縁の丸まった部分もグイッと立ち上げるべき。ゴミ袋に詰める時、意外とこの部分がかさばって平らにならないことが多くて。
──わずかな段差に見えますが、ストイックですね。
藤田:うん、これはね、わざわざやらなくていいやつです。ここまでして平らにするというのはもう趣味の域なので、本っ当にやらなくて大丈夫。……と言いつつ私はやるんですけどね。あっ、この人たちも平らになりましたね。
──もとからこういう平面体だったように見えます。
藤田:ふふ、そんなに褒めていただくようなことじゃないんですよ。毎日やってるし。
さて、このお弁当の容器が今回だと一番の難敵かな。
──こういうちょっとイレギュラーな形の容器が来ても、一切の迷いがなく切り進みますね。
藤田:どうしたらコンパクトになるかはもう、形を見ただけでだいたい分かりますね。まぁ、基本は平らにしていくだけなので、迷ったら高さを削るという原則を覚えておけば大丈夫。
藤田さんが愛用する「PLUS」のキッチンばさみ。「切れ味がよくて長時間作業しても手が痛くならない」という
──あれだけカサのあったゴミたちが、あっという間に解体されてしまって驚いています……。
藤田:この量はね、ホントはこんなに大きな袋(20L)に入れるものじゃない(笑)。
──すみません、ここまで小さくなるとは思わなかったので……。そもそも藤田さんって普段、何Lのゴミ袋を買うのですか?
藤田:ゴミ袋はもう買ってなくて、取り置きしていたスーパーの中くらいサイズのレジ袋を利用しています。レジ袋一つに、だいたい2週間分くらいのゴミを入れてますね。
──レジ袋一つに2週間分……!?
藤田:もちろん、真っ平らにしてギュウギュウに詰めないと入らないですよ。先ほどお伝えした通り、私はとにかく、ゴミ袋の中に無駄な空気を入れたくないんです。
──では、先ほど小さくしたゴミを再度ゴミ袋に詰めていただきましょうか。
藤田:できるだけ隙間なく入れて……。ただ、つぶしただけだと立ち上がってきちゃう人も多いので、例えば卵のパックはもともと付いている密封用のテープとか、使ったラップとか、他のゴミを取っておいて、最後にそれでまとめてあげると立ち上がらなくなります。
──あのテープにそんな活用法があったとは。そうすると、ゴミ袋の中でいつの間にか膨らんでかさばることもなくなりますね。
藤田:そうなんです。あと、小さくするコツではありませんが、先が尖っているプラスチックゴミは、できるだけ丈夫なお菓子の外袋とか、使わなくなったジップロックに詰めると、袋を破って飛び出てこないので安心です。割り箸はなるべく1/3のサイズに折って、チラシとかダイレクトメールの封筒なんかに入れてねじると飛び出てこない。
──ゴミを梱包するためのお菓子の外袋や封筒って、そのためにストックしているんですか?
藤田:いえいえ、使えそうなものがあれば軽く洗って乾かしておくくらいのことはしますけど、基本的にはそれも1~2日で使い切ってますね。その場にあるものでどうまとめるか、しか考えてないので、1回1回が即興コラボというか……。
──なるほど。そんなお話を聞いていたら、ゴミを詰めたゴミ袋がとんでもなく小さくなっていた……。
切る前(左)と切った後(右)
藤田:でもこれ、もっと小さくできますよ。私、「今日使えるかも」と思って頑丈そうなお菓子の外袋を持ってきたんですけど、ゴミの一部をこれに詰め直した上で、圧迫してみてもいいですか?
──えっ!? も、もちろん。お願いします……!
藤田:じゃあこの袋の中にちょっとずつ、できるだけ隙間が生まれないようにゴミを詰めていきますね。
──なんだか、大事なものをかばんにしまっているみたいですね。
藤田:そうなんです。全部丁寧に詰めた後で静か~に空気を抜いていくんですけど、なんていうか、最終的に抱く(いだく)感じになるんですよね。空気が残っていたら膨らんでしまうので、ゆっくり優しく抱くことで圧縮していく。我が子を抱くような感じで。
──ああっ、抱かれていたら見る見る小さく……。
藤田:こうなったらもうこっちのもんですね。暴れる人がいなくなった。もう、最初にゴミを詰めていた袋が大き過ぎてもったいないくらい。
抱く前(左)と抱いた後(右)。さらにコンパクトに
──実演していただいて、改めて藤田さんのゴミの解体技術と知識量に驚かされました。これらは全部、実際に解体する中で身に付けたのですか?
藤田:そうですね。とにかく平たくする、というコツは小さくしているうちに分かってきました。でも、ゴミを小さくしたい人はみんな最終的にそこへ行き着くんじゃないかな……。
──そもそも藤田さんは、いつからゴミを小さくすることにそこまでこだわるようになったのですか?
藤田:いつからなんでしょうね。でも振り返ると、昔から色んなものをこまめにチョキチョキ切っていたな……。それこそ、舞台の稽古に出ると、楽屋でお菓子の差し入れが配られますよね。その空き箱が大きなゴミ袋にそのまま捨てられてるのを見ると、どうしても気になっちゃって、誰も見ていない時にそ~っとゴミ袋から出して平らに切っていましたね。なんかこう、雑然としたものをまとめたいんですよね。細いものを見ると、指でこよりたくなるし。
──ゴミ袋に捨ててある空き箱まで平らにしてしまうのはさすがすぎる……。でも、細いものをこよりたくなる感覚はちょっと分かります。
藤田:ですよね! まとめたり小さくしたりするのが好きな性分なんでしょうね。旅行前の荷物パッキングも好きなんです。お土産が入る隙間をあらかじめ作っておいて、帰りに荷物が増えたらまた平らに直す、というプロセスが楽しい。
──スペースがなくなっていく快感、のようなものがあるんでしょうか?
藤田:ゴミを詰めたゴミ袋がパンパンになっていくのを見るのは、たしかに好きですね。全部のゴミが整然と入ると、中の(ゴミたちの)居心地も悪くなさそうというか。
──(居心地……?)藤田さんはゴミの解体のどの部分に一番「楽しさ」を感じますか?
藤田:やはりゴミを捨てる時でしょうか。「今週もこの袋にしっかり収まってくれたな」っていう達成感ですね。もちろん、詰める瞬間も楽しい。袋に入れる順番を考えながら詰めて、手元のゴミ袋がパンパンになると「うん、詰まってるね」と満足します。でも一番楽しいのは、やっぱり高さのあるゴミが平らになっていく瞬間かもしれない……。
──根っからの「平ら」好きなんですね、藤田さんは。
藤田:そうですね、いわゆるフェチですよね。実は趣味で着物を着るようになって、自分のその「平らフェチ」がよく分かったんです。着物って、どんなものでも畳むと真っ平らになって、どのパーツも同じ形になるじゃないですか。
──確かに。洋服よりもベターっと平たくなって、「布」に戻る感じですよね。
藤田:そうそう! だからゴミの中でも、小さくすると極端に高さが低くなるものは「ふふ、いいね……」と興奮しますね。圧縮されて平面になっていくのがうれしい。
あとやっぱり、なにかが延々と進んでいく様子そのものが好きなのかもしれません。ゴミを小さくするTikTokを始めたのも、そういう(解体の)SNS動画を見て、この動画なら私にも作れそうだと思ったからなんですよ。単純作業に没頭しちゃうタイプで。
──単純作業って苦手な人は苦手だけれど、それ自体がストレス解消になるという方も案外多いですよね。
藤田:『レ・ミゼラブル』(1987年)っていう舞台でデビューした時の話。渡された台本の紙がやわらかいから、バインダーにとじる前に、とじ口にリング状のシールを一つずつ貼って固定する、という地味な作業が出演者にお願いされていたんですよ。
その単純作業が「本当に苦手だ」と訴える先輩が多かったので、先輩の台本にも私が代わりにシールを貼らせてもらいましたね(笑)。作業が捗ること自体に幸せを感じるんですよね……。
──何かを生み出すわけじゃなく、ただ単純作業そのものが楽しいという感覚は個人的にとても共感します。
藤田:ですよね! うちの旦那さん(アコーディオン奏者の桑山哲也さん)もそういうタイプで。最近インパクトドライバーを買った彼に、「何か作りたいの?」と聞いたら「ただくぎが打ちたい」と(笑)。くぎを打つ口実が欲しいから、「フックとかいる?」「棚とかいらない?」ってしつこく聞いてくるんですよ。
──そこは藤田さんとタイプが似ていらっしゃるんですね。ちなみに、桑山さんは藤田さんの「ゴミ解体」に関して何かおっしゃっていますか?
藤田:小さくし始めた当初は、切る音が大きいせいか「なんか嫌なことあった……?」って心配されたんですけど、今はさすがに「ただ切るのが好きなだけ」だと分かってくれていますね。
でもやっぱり切る音自体は結構大きいので、彼が家にいない時に思う存分切ってます(笑)。TikTok用の動画も同時に撮影してるんですけど、どうしても切るのが楽しくて、よく動画を撮り忘れちゃうんです。
──なるほど。もうルーティンになっているんですね。
藤田:そう、だから切り始めてから「これ珍しいゴミだった、撮ればよかった!」って後悔することが多くて。手が勝手に切り始めてしまうので、気が付いたら全部のゴミが平らになってるんですよね。
──藤田さんのTikTokやYouTubeにはファンも多いですよね。ゴミを小さくすることに関して、視聴者やフォロワーの方からの反響っていかがですか?
藤田:「私も同じです!」とコメントいただく方は多いですね。一方で、ゴミ解体のライブ配信をしていると「そんなことをしてる暇はない」という辛口のコメントもいただきます。最近はフォロワーさんが「藤田さんはただ好きでやってるだけで、別に強制してるわけじゃないんだ」って守ってくれるようになりましたね(笑)。ただ、たまにそこで言い争いが起きちゃうので、みんなゴミでけんかはやめてほしいなって……。
取材・文:生湯葉シホ
写真:関口佳代