庭に残る切り株を除去したい! 自分で伐根する方法や道具とは?
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貝塚は、文字通り貝がたくさん積もって集積した場所で、古代の人々の生活の痕跡(=遺跡)のひとつだ。基本的には、食べた貝や加工した貝の殻を捨てた場所だが、場合によっては動物や人が埋葬されることもある。
同じ場所が何百年、何千年と使われることもあり、発掘調査でその断面を観察すると、時代によって貝の違いや様々な生活痕跡の違いがわかる。
ちなみに、日本列島で見つかっている貝塚は縄文時代のものがほとんどなので、現在は内陸や海から離れた場所でも、縄文時代に海だったと言われる場所では貝塚が残っていたりする。
マガキ(いわゆる牡蠣)とハイガイ(食用の二枚貝)の層が上下に重なった貝塚の断面
家の近くに貝塚がある人なんて、そうはいないだろう。私もそうだ。
そもそも遺跡は土器や石器と違って不動産なので、自分からその場を訪れない限り、なかなか存在を感じることができない。しかし、テレワークやワーケーションといったライフスタイルが当たり前化した今、貝塚だって工夫次第では場所に縛られずに持ち運べるものであるべきだ。
そう、「モバイル貝塚」こそ、現代の貝塚界に求められているイノベーションである。
とはいえ、貝塚の一部を勝手に切り出すようなことは、文化財保護法と私の良心が許さない。全国の考古学ファンや研究者だって黙っていないだろう。ならば、貝塚を作ってしまおう! ということで、私の得意とするお菓子の見立てを使って、お菓子の貝塚を再現してみることにした。
まず用意したのは、持ち運ぶための容器である。必須要件は、密閉性と、適度なサイズ感、そして貝層(貝塚の断面)が観察できることの3つだ。そして私は、この3要件を満たすアイテムを手に入れた。
モバイル貝塚の3要件を満たすガラス製角型保存ビン
まずは、貝塚に堆積させる土や貝層の素を作らなければならない。
ベースとなる黒色土にはオレオを採用することにした。真っ黒なクッキーが黒色土に最適だ。オレオのクッキー部分だけを砕いて、土にしていく。
ひたすらクリームをはがす作業が続く
袋にオレオのクッキーを入れて叩き、細かくする
野菜がよく育ちそうな、食べられる腐葉土ができた
次に、砂や細かい貝のかけらが混ざった土の層は、お米パフ(「にんじん」)で作ることにした。きっといい感じの砂粒ができるだろう。オレオと同じく、まずは細かく砕く。
にんじん」の「に」の字がかわいい
ある程度お米粒が残っていてもそれっぽいのでよしとする
基本の黒色土と砂、破砕された細かな貝ができたところで、いよいよ貝の登場だ。今回入れるのは、縄文時代の貝塚から出てくる貝のベスト5には入るであろう、牡蠣(マガキ)である。牡蠣の殻の見立てに選んだのは、コーンフレークだ。
前後左右に不規則な形状をしたコーンフレークは牡蠣の殻に見立てる
先に作っておいた材料をコーンフレークと混ぜながら、なんとなく貝塚らしい目分量で配合していく。ココアパウダーと食用の竹炭も混ぜて、色味も調整していく。
ココアパウダーと竹炭は結構たくさん入れた
お米パフにも色をつけて砂利化
ここからは貝層を重ねていく作業だ。下ごしらえをしておいた材料を、ビンの中に順番に入れていく。ビンを少し斜めにしながら入れていくと、斜面に堆積した貝塚の雰囲気が出る。これは以前に貝塚や動物骨を専門に研究している先輩から教わった裏技だ。
だんだん牡蠣の層に移行していくシーンを想像しながら内容を調整する
貝塚には、もちろん貝や骨以外のものも眠っている。土器や石器だって出土するし、それらの示す時期によって貝層の時期がわかる。そこで今回、「モバイル貝塚」には土器片を入れることにした。普段、私は自分で土器片風クッキーを焼いて作ることが多いのだが、今回は貝塚に集中したいので、土器片の見立てには「しるこサンドクラッカー」を使うことにした。ここは外注だ。
普通の「しるこサンド」よりもミニサイズでさくっとしている
土器片クッキーの既製品
貝層に添えても全く違和感がない
土器片を忍ばせたら、その後の堆積作業を続ける。実際の貝塚であれば、ここまでの作業で何百年か経っていてもおかしくない。だんだん神の視点になってくる。
ビンの上部まで層を堆積させる
ビンいっぱいに貝層を積み上げ、シリコーン製パッキンのついたストッパーでしっかり蓋をすれば完成だ。
マイボトル! マイ貝塚!
これで、どこへでも持ち運べる私だけのモバイル貝塚ができた。早速トートバッグに入れて外へ飛び出してみよう。電車の中でも、バスの中でも、ずっと貝塚と一緒だ。
貝塚をトートバッグに忍ばせる
どこへ行こうかあれこれ考えた挙句、やっぱり行くべき先は貝塚だと思った。
このお菓子の貝塚を本当の貝塚と並べてみたい!
東京都港区にある三田台公園
辿り着いた先は、都会のど真ん中にある縄文時代の貝塚、伊皿子(いさらご)貝塚。
写真の三田台公園には、伊皿子貝塚の断面を剝ぎ取ったものと、竪穴式住居を模した建物が設置されているが、実際の伊皿子貝塚はここから少し離れたところにある(現在は消滅)。博物館の中に食べ物を持ち込むのは少し気が引けるので、屋外で貝塚の断面を間近で見られる場所を選んだ。
剥ぎ取られた伊皿子貝塚の断面
竪穴式住居の中では、ガラス越しに縄文人一家の生活がのぞける
さて、本物の貝塚とお菓子の貝塚のご対面だ! トートバッグからモバイル貝塚を取り出し、伊皿子貝塚の断面にかざす……。
手前のボトルが食べられる貝塚、奥が食べられない貝塚
こ、これは……なかなかの「貝塚味」ではないだろうか。これで私は合法的に貝塚を手中に収めることができたし、自宅から気軽に貝塚を持ち運ぶことにも成功したと言えよう。できれば、歴史好きのうちのおばあちゃんと、伊皿子貝塚にいた縄文人達にもこの瞬間に立ち会ってほしかった。喜びをシェアしたかった。
モバイル貝塚とハート形土偶のモニュメント(※伊皿子貝塚からハート形土偶は出土していません)
お菓子で作った貝塚なのだから、やはり最後は食べるのがお約束だろう。せっかくきれいに堆積させた貝層を台無しにしてしまうのは胸が痛いが、「貝塚で貝塚を食べる」というまたとない機会だ。少しだけ食べてみることにした。
お椀に貝塚の素を入れる。貝塚を無造作に破壊するのは胸が痛い
胸は痛いものの、清々しい天気にピクニック気分も高まる
モバイル貝塚の主な材料は、オレオ、コーンフレーク、お米パフ、ココアなので、相性が良さそうな牛乳と一緒に食べることにした。近くのスーパーで牛乳を買った。
牛乳を入れた貝塚
見た目はほぼ泥だった。こんな状態の貝塚は発掘調査にとても苦労しそうだ。しかし、抜群においしい! 貝や磯の香りはまったくしないが、チョコ風味の甘い泥だ。朝食やおやつにおすすめしたい。牛乳の量を多くすれば、ドリンクにもなりそうだ。
おいしい泥を食べる筆者
この後、残りのモバイル貝塚はもちろん家に持って帰った。観葉植物やお気に入りの食器と並べて愛でたりしながら、しばらくの間、自分の朝食として貝塚を楽しんだ。貝塚がある生活が実現できて、とても嬉しかった。
私の暮らしに溶け込むモバイル貝塚