押し入れ・クローゼットの湿気対策やってますか?収納スペースにカビが生えないようにする方法を解説
リンクをコピーしました
目次/ INDEX
アイスクリーム。夏の主役であり定番のスイーツです。そんなアイスクリームの歴史はいつごろからあったのでしょうか。雪と氷を山から運び、氷室に貯蔵して飲み物を冷やす習慣は世界各国に残されています。最古の記録では、古代メソポタミアで内壁の穴を覆った氷室が確認されており、少量の雪や氷を運んできて地下に藁でくるみ、外気と隔離して保管し飲み物を冷やすために利用したそうです。厳しい暑さのメソポタミアでは、王や高官のみが享受しうる贅沢でした。
その後、中世ヨーロッパになると、硝石と雪、塩と氷の技術が掛け合わされ、冷凍技術が発展していきました。特に17世紀になると、果物のシャーベットが登場し、イタリア半島のナポリから氷菓がヨーロッパに駆け巡ることとなります。そして、大西洋を渡り、イギリスでアイスクリームが誕生することとなりました。
そして、時は17世紀末。イギリスで1680年代に出版された『グランヴィル伯爵夫人のレシピ集』に「クリームを砂糖で甘くして、オレンジ花の水を流し込む」という王室のレシピが載っています。こちらが世界で初めてアイスクリームの作り方を収録した料理書だと言われています。
続いて、18世紀に入ると、チョコレートやレモンなど他のフレーバーのアイスクリームが誕生します。イギリスのアン女王(1665‐1714)の菓子職人だったメアリ・イールズは、著作『メアリ・イールズ夫人のレシピ集』を1733年に刊行しました。そこにはソフトクリームやチョコレート・アイスクリームなどたくさんの甘い喜び(と書いてレシピと読みたい)が収録されました。今回はメアリ・イールズのアイスクリームの作り方を紹介します。
すず製の容器にプレーン、加糖、果物入りなどお好みのクリームを入れて容器を密閉します。容器6個に対し、18~20ポンド(約8~9キログラム)の氷を用意し、細かく砕きます。大きな桶を用意し、その底と上に置く用に大きめの氷も用意します。容器の底に麦わらを敷き、氷を入れ、1ポンド(453グラム)の天日塩をそこに加えたら、クリームの入った容器を全てその中に入れます。容器同士がくっつかないように、氷と塩で容器をつつみます。容器の上に氷をたっぷり載せて、桶を麦わらで覆います。日光や明かりの入らない地下室に置いて、4時間経って凍ったクリームのできあがり。必要な時に地下室から取り出します。
サクランボ、ラズベリー、カラント(スグリ)、イチゴなどの果物を凍らせたい場合は、果物をすずの容器に、間隔を少し開けて入れます。泉の水と甘く味付けしたレモネードを入れます。凍ったクリーム(アイスクリーム)のときのように、果物の容器を氷の桶に入れます。
これが、当時のレシピです。簡単にまとめると、
|
となります。シンプルですね。
18世紀の中頃には、イギリスからヨーロッパ全土に広がり、コーヒーハウスや屋台で売られるようになりました。
1733年の衝撃的なアイスクリームレシピは、100年経ったオーストリアのウィーンでもレシピのベースとなりました。今からおよそ200年前、1827年に刊行された『最新・総合ウィーン料理大全』という料理書には、次の通り記されています。
656.アイスクリーム
フルーツの果汁に砂糖を必要なだけ混ぜる、クリームを加え(クリームは中くらいの濃さでなければならない)、冷凍箱で冷やす。
シンプルなレシピですね。1820年代はまだ冷凍庫が存在せず、ウィーンでは冷凍箱という錫でできた金属容器を使って、アイスなどの食材を冷やしていました。およそ100年前のメアリ・イールズ夫人の時代のイギリスと同様ですね。
さて、ここまでのおさらいです。氷と塩を混ぜ合わせると、氷の温度が下がり、氷が水に融解する時に、吸熱反応が起こると、周囲の熱を奪います。これによって、氷の温度はマイナス20度まで下がり、氷菓を十分に凍らせることができるようになる。そのため、冷凍庫のない300年前から人々はアイスクリームを味わうことができたのです。
過去のレシピも入手したところで、19世紀人の思考もインストールしていきましょう。例えば、自分が今、200年前の1820年代のウィーンを生きる氷菓職人で、1730年代と1820年代のレシピを理解して、アイスクリームを作る途上だとしましょう。そんな職人が幸か不幸か21世紀の日本にタイムリープしてしまいます。
異世界転生したとしてもアイスクリーム作りを忘れられない職人の自分は、「さて、弱ったぞ」と思うはずです。氷菓職人の自分は、ウィーンのグラーベン通りにあるレモネードの簡易型屋外販売店にレモンアイスクリームを納入しないといけない。氷菓職人は、異世界(現代日本)でもアイスクリームを作り始めます。それも、過去の2つのレシピから。
さて、買うべき材料は次の通り。
|
転生の際、初めに発見した村人A から話を訊いたところ、桶や容器はカインズというホームセンターで、食材(氷と塩含む)は近くのスーパーで買うとよいとのアドバイスをいただけました。まずはカインズに行ってみましょう。
徒歩でてくてく3時間ほど東のほうへ歩いていくと、村人Aに教えていただいたカインズ南砂町SUNAMO店に到着しました。ここで桶とすず製の容器を入手します。店員さんに該当の物があるかと質問すると、それに近しいものがあるとの回答で、置いてあるコーナーに向かいました。
「保存容器」「漬物用品」コーナーに到着
アイスであればしっかり凍らせられる容器ということで、「急速冷凍」というアルミ急速冷凍保存(M)を推薦され、こちらを手配しました。19世紀氷菓職人にとっても有益な情報となりますが、すず製の容器は低温下で使用すると「スズペスト※」という現象を引き起こすので、その点でもアルミ製容器でアイスクリームを作りたい次第です。
※スズが低温における同素変態によって強度が低下し、徐々に破壊されていく現象のこと。
続いて探すは「桶」ですが……
店員さんに桶はないかとお訊きすると、桶はないがどんな用途で使用したいのかと問われたので、アイスクリームを入れたアルミ容器を保存するためのもので、氷と塩を加えた袋も中に入る大きさの容器が欲しいと伝えました。するとクーラーボックスがちょうどいいだろうと、該当コーナーに案内してもらえました。正に、クーラーボックスは桶に代わる「顧客が本当に必要だったもの」と言えるでしょう。19世紀タイムトラベラーも満足し、異世界の調理場へと帰路につきました。
その後スーパーに立ち寄り、食材と麦の敷きわらも入手できたので、早速19世紀氷菓職人としてアイスクリームを作っていきます。
食材は以下の通りです。
砂糖、レモン、生クリーム、ミント
先に紹介した1827年『最新・総合ウィーン料理大全』の料理書によるアイスクリームレシピには「フルーツの果汁に砂糖を必要なだけ混ぜる、クリームを加え(クリームは中くらいの濃さでなければならない)」とありましたね。
今回は、200年前のウィーン・キオスクでのレモネード屋台で供されたアイスクリームですので、フルーツの果汁はレモン果汁にします。砂糖を加え、クリームは中くらいの濃さということで、乳脂肪分35%前後の生クリームを選びました。また、ミントはこのレシピにはありませんが、仕上げの飾りと色合いも持たせるために使用します。非常にシンプルなレシピです。
当時のウィーンレシピでは分量の記載がないレシピも多いため、レモン果汁=レモン1個の分量から他の食材の分量を当てはめていくことにします。今回は、生クリーム 400ml、砂糖50gで作ります。
レモンを半分に切り、絞ります。現代日本には果汁絞り機が備わっていたので、レモン1個分の果汁を搾り取ります。
ボウルに砂糖を50g前後入れて計量します。
そのボウルに絞ったレモン果汁を注ぎます。
泡だて器でかき混ぜ、混ぜ合わせます。
鍋に生クリームを入れて、弱火にかけます。
3分ほど熱したら、火にかけた生クリームをボウルに少しずつ混ぜあわせていきます。
カインズで入手したアルミ容器に移し、
封をして、作業工程の半分が終わりました。ここまでが1827年ウィーンレシピです。
さて、1733年のレシピに再登場してもらいましょう。
すず製の容器にプレーン、加糖、果物入りなどお好みのクリームを入れて容器を密閉します。
これは先ほどアルミ製容器に密閉しましたね。
今回は、容器1個に対し、1キログラム程度の氷を用意し、細かく砕きました。氷袋は3個使用し、そのうちの1個が容器用の氷です。
大きな桶を用意し、その底と上に置く用に大きめの氷も用意します。
「桶」として、14リットルのクーラーボックスを用意。容器用以外の氷袋は2つ用意します。
容器の底に麦わらを敷き、氷を入れ、1ポンド(453グラム)の天日塩をそこに加えたら、クリームの入った容器を全てその中に入れます。
容器の底に麦わらを敷き
「桶」の底部に「麦わらを敷き」ます。
氷を入れ、1ポンド(453グラム)の天日塩をそこに加えたら、クリームの入った容器を全てその中に入れます。
「氷を入れ、1ポンド(453グラム)の天日塩をそこに加えたら」……。
この1ポンドの氷は、総量なのか容器6つに対する氷に使う塩の割合なのか判然としなかったので、今回は氷3ポンドに使う量の塩=1ポンドと考え、氷:塩=3:1の割合で氷塩袋を作ります。
容器同士がくっつかないように、氷と塩で容器をつつみます
今回は容器1つのため、このようになりました
氷袋2つの上に、アイス冷凍箱を置きます
こうして、氷と塩で容器をつつみました
写真ではわかりづらいですが、日光の入らない暗室に置いて数時間待ちます。あとは時間が経つのを待ちながらアイスができるのを待ちます。もちろん冷凍庫なんて、使いません。
1733年レシピでは4時間とありますが、もっと早く凍るのではという期待の下、早い時間帯に確認してみました。
1時間40分経過
早くも固まりました。斜めに傾けても、ビクともしません。 が、中が柔らかかったので、もう少し冷やしたほうがよさそうです。ここまでは順調ですね。
3時間経過
無事固まり、「アイスクリーム」となりました。飾りのミントを添えて完成です。
氷と塩を使えば冷却できるという知識があっても、実際に300年前のレシピに記されていて、当時の人々が味わっていたという事実をレシピから体験し、実際に味わってみると、人類の美味しく食べるための知恵と科学技術の凄さに驚かざるを得ません。百聞は一見に如かず。1733年のレシピで300年前の人々が冷凍庫を使わずにアイスクリームを作って味わっていたことを追体験できました。
また、素朴なレシピとなりますが、生クリームと砂糖の甘さとレモン果汁の酸っぱさが絶妙なバランスとなっていて、飽きることのなく食べ続けられるという知見も得ました。もし、ふと冷凍庫のない時代にタイムリープしてしまったとしても、桶と麦わらと氷と塩を入手して、アイスクリームを作って味わってから、未来にどうやって戻ろうかと考えあぐねたいですね。