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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
生命の維持活動に必要な水。しかし、時として愛犬が全く水を飲まなくなってしまうこともあります。突然に水を飲まなくなってしまったら、体の不調を心配してしまうかもしれません。今回は、犬が水を飲まない理由や病気の可能性、どうしても飲まない場合の対処法などをchicoどうぶつ診療所の所長で獣医師の林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬が水を飲まない理由とは?
- 犬が水を飲まない場合、病気の可能性はある?
- 犬が水分不足になると起こる病気とは?
- 犬が脱水症状かどうかの見極め方は?
- 犬が水を飲まない時は病院に連れて行ったほうがいい?
- 犬が1日に必要な水分量とは?
- 犬が水を飲まない時の飲ませ方
- 犬の水分不足を予防する方法とは?
犬が水を飲まない理由とは?
犬が水を飲まない理由はさまざまです。単純に不調といったこともありますが、一つの理由ではなく、いろいろな理由が重なってしまうことがあるので注意が必要です。どういった理由があるのか見ていきましょう。
ストレス
犬にとって生活環境が落ち着かない、水飲み場が好みではないなどの理由でストレスを感じていることも。ストレスが溜まってしまった場合には不安を感じてしまい、水を飲まなくなることがあります。
加齢
加齢により喉が渇いたという感覚が鈍くなることがあります。また、体の代謝が落ちることで、水分を必要としなくなってしまい水を飲まなくなることがあります。
身体の痛み
怪我により身体に痛みを感じていると、犬は体を動かしたくないと考えてしまいます。なので、水を飲まない以外にも食事を摂らなくなったり、散歩へ行きたがらなくなったりといった行動が見られます。
気温・気候の影響
夏場には水分を欲することがありますが、寒い時には身体の水分の蒸散が少なくなるので水を飲まないということがあります。
水や容器が合っていない、用意されている場所が悪い
水の温度や容器の材質(置くタイプなのか、流れて出てくるタイプなのか、ステンレス、陶器、プラスチックなど)、置いてある場所が落ち着かないなどの理由で飲まなくなることがあります。
水が新鮮でない
何日も放置されている水など、犬が新鮮ではない水と感じた場合は飲まないことがあります。
そもそも水分が足りている
どんな食事にも水分が含まれているものですが、ウェットフードや手作り食など、水分が多く含まれる食事をしている場合は、水を飲むことが少なくなります。その他、水分により体が浮腫んでいる状態だったり、胃内停水という状況だったりすると水を飲まなくなることがあります。
環境の変化
新居に引っ越したり、新しいケージを用意したりするとその環境に慣れずに緊張・ストレスを感じてしまい、水を飲まないということがあります。
犬が水を飲まない場合、病気の可能性はある?
犬が水を飲まない場合、今まで挙げた理由以外にも病気が原因である可能性もあります。どのような病気が考えられるのか見ていきましょう。
犬が水分不足になると起こる病気とは?
犬が水を飲まないことで、体内の水分量が減ってしまい病気になることも。水分不足になると起こる病気には下記のようなものがあります。
尿路結石
水分不足になることで、尿のミネラル(結石の成分)が飽和状態になり、体内に結石ができる恐れがあります。また、定期的に排尿することで膀胱内を清浄に保てますが、尿が濃縮すると細菌繁殖が起こりやすくなり、膀胱炎を発症してそこから結石ができてしまうこともあります。症状が悪化してしまうと、膀胱が許容量を超えてしまい破裂してしまったり、急性腎不全が引き起こされたりすることもあります。
腎臓病
腎臓は尿を作って、身体にある老廃物を外に送り出す臓器です。水分が足りなくなり、腎臓の機能が弱ってしまうと腎臓病にかかることがあります。腎臓病にかかると排尿できなくなり、老廃物が身体に溜まっていってしまいます。
けいれん
水分不足が続き、脱水症状になるとけいれんを引き起こすことがあります。最悪の場合、呼吸困難を引き起こし、死に至ることがあります。
体調不良になりやすくなる
犬も人間同様に体の約60~70%が水分で構成されているため、水分不足によって脱水症状になると、老廃物の排泄ができなくなるだけでなく血液の流れも滞り、全身に栄養素が巡らなくなって体全体に不調が生じます。
犬が脱水症状かどうかの見極め方は?
犬が脱水症状を起こしているかどうかを見極めるには、以下のような症状が出ているかどうかをチェックしてください。
・皮膚の戻りが悪い
・口の中が乾いている
・歯茎や結膜が白っぽく乾いた感じに見える
・目が少しくぼんでいる
・目が渇いていて、目やにがたくさん出ている
このような症状が出ていたら、すぐに動物病院を受診してください。
犬の脱水症状を放置してはいけない理由
犬の脱水症状を放置してしまうと、前述した病気が引き起こされますし、心臓に負担がかかってしまって、最悪の場合ショック死してしまうことがあります。心臓以外にも肝臓や腎臓などの多くの臓器に影響が出てしまうことがあるので、脱水症状には何かしら対処をするようにしましょう。
脱水症状が起きた場合にはどう対応すべき?
脱水症状が起きた際の応急処置としては、自宅で経口補水液(ペット用、なければ人間用のスポーツドリンクを薄めたものを、OS-1であればそのまま飲ませても大丈夫です)をスポイトでゆっくり飲ませてあげるのが良いでしょう。もし、経口補水液を買いに行けない場合は、沸騰した水1Lに砂糖40g、塩3gを加えて混ぜたもので手作りの経口補水液も作ることが可能です。ただし、無理やり飲ませることで誤嚥を引き起こすこともありますので、無理に自宅で処置しようとせずに出来るだけ早く病院を受診するのが望ましいです。
犬が水を飲まない時は病院に連れて行ったほうがいい?
愛犬が急に水を飲まなくなってしまうと心配になりますよね。しかし、水を飲まないだけで病院を受診していいのかどうか悩んでしまう人も多いかと思います。どんな状態の時に病院へ行ったほうがいいのか判断する基準を紹介します。
心配がいらない場合
元気で食欲に問題なければ基本的に心配いらないと考えられます。ただし、夏場は気温が高く、どうしても脱水が懸念されます。そういう場合は2〜3日様子をみて、何も症状が出なければ良いですが、異常が出てしまった場合は病院を受診しましょう。
病院を受診すべき場合
脱水症状が見られる場合(前述した症状が出ている場合)には病院を受診してください。特に子犬やシニア犬の場合は、少しでも早く病院を受診するようにしましょう。
犬が1日に必要な水分量とは?
犬が1日に必要な水分量は、体重によって違います。愛犬がどのくらい水を飲んでいるか飼い主として把握するためにも、必要な水分量の計算方法と実際に飲んだ量の計り方を知っておきましょう。
犬が1日に必要な水の量の算出方法
成犬が健康でいるために必要な1日あたりの水分量は以下の2つの計算式で算出することができます。
1.体重(kg)×50~70ml程度(フードでの水分摂取量を含まない。厳密には飲水量。)
2.体重(kg)の0.75乗×132(ml) (フードでの水分摂取量を含む)
(※体重の0.75乗は、電卓で体重×体重×体重の値に√(ルート)を2回押すことで計算できます)
この2つの計算式を使って出る水分量はあくまでも目安です。普段飲んでいる量や健康状態をチェックしつつ、都度判断するようにしましょう。
犬の1日の飲水量の計り方
計量カップなどを使って容器に水を入れて、24時間経過した時点で容器に残っている水の量をチェックしましょう。残っている水の量を元々の水の量から差し引けば、大よその1日の飲水量が分かります。
犬が水を飲まない時の飲ませ方
犬がなかなか水を飲んでくれない場合にはさまざまな工夫を凝らす必要があります。犬に水を飲ませるために考えられる方法をそれぞれ見ていきましょう。
ウェットフードにする、フードを水でふやかす
ドライフードよりも水分量が多いウェットフードに変更したり、ドライフードに水を加えてふやかしたりすることで、食事と一緒に水分も摂ることができます。
容器を変える
犬にも容器の好みがありますので、ステンレス、陶器、プラスチックなど、材質によっても飲水量が変わります。また、容器の高さによっても水の飲みやすさが変わることから飲水量が変わります。さまざまな容器の材質や高さを試して、愛犬に合った容器を探しましょう。
水を飲む場所を変える、水を飲む場所を増やす
人の出入りが多いなどの犬にとって落ち着かない場所だと飲まないことがあります。また、犬によってもお風呂の近くの場所が好きなど、場所の好みがあるので水を飲む場所によって飲水量は変わります。さまざまな場所に水の容器を置いて、どこが愛犬にとって良い場所なのかを試してみてください。
手やシリンジであげる
直接水を口元に持っていくと飲んでくれる場合があります。どうしても水を飲ませるために強制的に飲ませる場合は、口角のところから少しずつ飲ませるようにしましょう。
蛇口から水を流してみる
流水を好む犬もいます。ただこの方法をとると、1日の飲水量が分かりにくくなりますので注意が必要です。
経口ゼリーを与える
口周りが濡れるのを嫌がる場合があるので、そのような場合には水を与えるよりも経口ゼリーが効果的です。
水の種類を変える
硬水や軟水、水道水などといった水の種類によっても飲水量が変わります。結石に既にかかったことがある子の場合には、硬水を与えるのは控えるほうが良いかもしれません。また、水の温度でも飲み方は変わります。冷水や人肌くらいに温めたものなどさまざまな温度で試してみてください。ただし、冷水はお腹を冷やしてしまうことがあるので、注意が必要です。
スープを与える
水分に味をつけることで飲んでくれることがあります。熱いとすぐに飲むことができないので、人肌程度に冷やすと良いでしょう。うまみの成分を感じることで、喜んで飲んでくれるかもしれません。
犬の水分不足を予防する方法とは?
犬が水をどうしても飲んでくれない場合の対処法を紹介しましたが、そうならないために普段から以下のようなことに気をつけて愛犬が水分不足にならないように気を配りましょう。
食事から水分を摂らせる
前述しましたが、水分を食事で摂らせるのは有効な方法です。ただし、食事での水分量が多すぎないかの確認が必要です。食事とそれ以外の水分摂取で水分量が体重×100mlを超えているような場合には過剰摂取となるので、食事の水分量を減らすか、水飲み場の水分量を減らすかして調節するようにしましょう。
おおよその飲水量を掴んでおく
愛犬にとって適切な飲水量を知っておきましょう。水の飲みすぎは犬には負担となりますし、既に疾患を患っているサインである場合も。また、1日の飲水量を把握しておくことで水を飲んでいないことにもすぐに気づくことができます。
水飲みスペースを増やす
犬が水を飲みやすいよう、水飲み場を増やすのもいいでしょう。ただし、水飲み場を増やすと、いろんな場所で水を飲んでしまうので1日の飲水量が把握しにくくなることがあります。なるべく1日の飲水量は把握できるようにしてください。