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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
飼っている愛犬もいつかは年をとります。年齢を重ねれば、生活面や身体面でさまざまな変化が訪れるでしょう。きたる高齢化に向けて愛犬とどう向き合って行けばいいのか、不安を抱えている飼い主さんも多いのではないでしょうか。そこで、今回は獣医師の茂木千恵先生に教えていただいた、老犬(シニア犬)のケア方法や老化現象について解説していきます。
目次
- 老犬(シニア犬)に介護が必要な理由とは?
- 老犬(シニア犬)にはどのような場面で介護・サポートが必要になるの?
- 老犬(シニア犬)介護のポイント1:食事
- 老犬(シニア犬)介護のポイント2:お口のケア
- 老犬(シニア犬)介護のポイント3:運動、散歩
- 老犬(シニア犬)介護のポイント4:トイレ(排尿、排便)
- 老犬(シニア犬)介護のポイント5:無駄吠え、夜鳴き
- 老犬(シニア犬)介護のポイント6:寝たきり、床ずれ
- 老犬(シニア犬)介護のポイント7:グルーミング
- 老犬(シニア犬)介護のポイント8:バリアフリー
- 老犬(シニア犬)介護のポイント9:認知症への対応
- 老犬(シニア犬)が寝たきりになった時の心構え
- 知ってきたい老犬(シニア犬)介護のサポートとは?
老犬(シニア犬)に介護が必要な理由とは?
犬も年齢を重ねると徐々に臓器や骨格の機能が低下していきます。主な症状としては視力や脚力の低下、認知機能の低下による夜鳴き、排泄困難などです。若いときに比べ、活動様式や生活習慣に変化が出るため、飼い主さんによるサポートは欠かせません。
老化の早期症状は口臭、食欲減退、痛みによる不活性、関節炎による身体のこわばりなどが挙げられます。愛犬の状態の変化にいち早く気づき、対処することが重要です。
老犬(シニア犬)にはどのような場面で介護・サポートが必要になるの?
体の機能低下で影響を受ける散歩や食事、排泄などの場面で介護が必要になってきます。特に認知機能が低下した犬の場合、普段通りの生活を送るのが困難になるため、愛犬が生活しやすい環境と整えるなどのサポートも重要です。
寝たきりにならないまでも足元が安定しない、一定方向に回りながら歩くという状態の場合は、運動をサポートすれば比較的安全に過ごせるようになります。
老犬(シニア犬)介護のポイント1:食事
老犬(シニア犬)の介護はポイントがいくつかありますが、まずは食事について紹介しましょう。高齢になると消化機能や噛む力が衰えます。消化吸収のよいフードを選ぶ、ぬるま湯でふやかして食べやすくする、一気に与えずに少しずつ食べさせるなどの工夫が必要です。硬いものや大きいものは嚥下困難や逆流性食道炎の危険があるため、とろみをつけた食事や流動食に変えてみてください。
食器類にも工夫を
首の筋肉低下や腰の痛みから頭の上げ下げが難しい犬もいます。食べやすい姿勢になるようフチの立ち上がりが低いお皿を使うなどの配慮が必要です。また、自力で舐められない状態の場合は、給与用シリンジの活用を検討しましょう。
老犬(シニア犬)介護のポイント2:お口のケア
人間と同じように犬も歯周病のリスクがあります。歯や歯の周辺組織に炎症を起こし、進行すると歯を支える歯槽骨の破壊まで招きます。放っておくと細菌の感染が進み、肝炎や骨髄炎などの二次疾患を引き起こす恐ろしい病気です。また、原因となる歯垢や歯石、歯周病による炎症部位は悪臭を伴い口臭のもとにもなります。
予防するためにもっとも効果的なのは毎日のブラッシングです。日頃から愛犬に口まわりを触らせてもらえるようトレーニングしておくと、歯ブラシがしやすくなります。
老犬(シニア犬)介護のポイント3:運動、散歩
筋肉は使わないと急速に衰えるので、愛犬が寝たきりになるのを防ぐために、最後まで自力で動けるようサポートしましょう。さらに、高齢になると代謝が落ち、体重も増加しやすくなります。運動を続ければ血行促進から関節の強度もアップするため、関節や骨への負担を減らす意味でも運動は必要です。頻度は1日2回程度、1回あたり30分以内を目安にしましょう。
ただの雨でも老犬(シニア犬)にとっては体温を奪い、関節に影響を与える可能性がありますので屋内での運動に切り替えるのも1つの手です。一方、気温が高い場合は日陰を歩き、こまめに休憩をとってくださいね。
散歩を助ける補助具を活用
下半身が弱り歩行が不安定な犬は、腰を支えるためのハーネスやウォーキングベルト、引き上げるタイプの介助ベルトが効果的です。腰痛を緩和するコルセット、足の甲がすりむけるのを防ぐ足首サポーターなど、愛犬の状態に合わせて併用してみてもよいでしょう。また、運動前のストレッチやマッサージも体を動かしやすくなるのでおすすめです。
上記で紹介したサポートでも歩くのが困難な場合は、車椅子の使用を検討してみてください。前のように自分の力で歩ける実感は犬にとって本能的に快感を得やすいものです。
老犬(シニア犬)介護のポイント4:トイレ(排尿、排便)
足腰の衰えや関節痛がひどくなると、今までと同じ排泄のポーズが困難になります。正しく排泄できないと腸や膀胱の病気を患ってしまう可能性が高くなり心配です。排泄しやすくするため犬の前方または後方に立ち、腰から後肢を支えて安定させましょう。
また、高齢になると腸の働きがにぶり、便秘になりがちです。腸内環境を整えるサプリメントや食物繊維を含んだ食事を適度な水分とともに与えつつ、腹部マッサージなどを施してあげてください。
もし、排尿や排便自体が難しくなった場合は、獣医さんに相談してみましょう。排尿の場合はカテーテルの利用、排便なら病院での浣腸、飼い主さんの手による排泄の促し方も教えてもらえます。
トイレまわりの環境を整備する
筋力が低下すると、散歩の時間まで待てずに室内で排泄してしまうことが増えます。あらかじめ環境を整え、室内での排泄を習慣づけるのも大事です。慣れない場所での排泄は姿勢を安定しないので、排泄物が飛び散ることを想定してペットシーツを敷いて準備をしましょう。体が汚れたら濡れたタオルで拭き取ります。
始めは庭やベランダなどにペットシーツを引き、慣れてもらう方法もおすすめです。排泄のタイミングがわかってきたら定期的に誘い、うまくできたら優しく褒めてあげてください。
場合によってはおむつも検討
認知機能低下によりトイレにたどり着けず、別の場所で排泄する様子も見受けられるでしょう。飼い主さんが外出する時間帯や介助が難しい場合は、おむつの使用を検討してみてください。
おむつを嫌がる犬は多いですが、排泄の間際に装着するようにすれば愛犬の負担も減りますし、おむつによるかぶれも予防できます。つけている間は、優しく声がけをして愛犬を励ましてあげてくださいね。
老犬(シニア犬)介護のポイント5:無駄吠え、夜鳴き
認知機能の低下が進行すると夜鳴きが見られることがあります。また、病気の苦痛や不安から無駄吠えしてしまうケースあるため、まずは病院を受診してみてください。睡眠導入剤を処方される場合もありますが、個体差で効き目は変わってきますので、獣医さんと相談しながら進めるのがベストです。
老犬(シニア犬)になると視力の低下から不安で夜鳴きしてしまうことがあるので、睡眠時はそばにいて不安を解消してあげましょう。認知機能の低下による夜鳴きの対応策については後ほど解説します。
老犬(シニア犬)介護のポイント6:寝たきり、床ずれ
寝たきりになってしまった場合、気をつけたいのが床ずれです。体の一部分が長時間圧迫され続けることで血流が滞り、皮膚や筋肉が壊死してしまう状態です。また、排泄物で汚れて生じるかぶれも壊死の原因となります。
悪化するのが早いため、こまめに寝返りをうたせ体勢を変えるよう促してください。ベッドをペットの介護用高反発マットに変えるだけでも効果が期待できます。さらに、小さめのペットシートを敷いておくと排泄時は楽です。もし、すでに床ずれが起きてしまっている場合は、細菌感染のリスクが高くなりますので、早急に病院で治療を受けてください。
老犬(シニア犬)介護のポイント7:グルーミング
老犬(シニア犬)はグルーミングが大切です。ブラッシングは静電気や切れ毛を防止するため、水分をスプレーしてから毛並みを整えましょう。
体力や体温調節機能が低下しているため、全身を濡らすなどの長時間のケアは禁物です。シャンプーはあらかじめ泡立てて部分的に洗う、吸水性の高いタオルですばやく拭き取るなど工夫しましょう。また、寝たきりの場合はドライシャンプーがおすすめです。
グルーミングは衛生管理の側面だけでなく、愛犬とのコミュニケーションとしてこまめにおこなうとよいでしょう。
皮膚病が見られる際は一刻も早く病院へ
愛犬が自分の皮膚を掻いたり舐めたりする場合は皮膚病が疑われます。毛が抜け始めるような症状が出た際も同様です。いずれにせよ早めに獣医さんにみせるようにしてください。
皮膚病を防ぐにはこまめなケアも大事です。衛生状態を保ちやすくするため毛は短めにカットしましょう。ただし、毛が短いと排泄物が皮膚に直接つき、かぶれる場合があるため排泄した後にふき取っておくと安心です。
老犬(シニア犬)介護のポイント8:バリアフリー
身体機能が衰えると、ちょっとしたことでも体への負担が大きくなります。愛犬が過ごしやすいよう生活環境を整えましょう。
例えば、滑りやすいフローリングにコルクマットやヨガマットを敷くと脚への負荷を減らせます。体温の調節機能も低下するため、夏はクールマット、冬はポカポカと暖かい介護用マットを活用するなど工夫が必要です。寝たきりの場合は自分で動けないので温度調整に気を配ってあげましょう。
ケガ防止に行動範囲を制御
愛犬の視力が低下していると家具や建物の角にぶつかる危険性があります。クッション材などを使い、角を覆ってあげればケガを防止できます。
また、家具のすき間に挟まったり、階段でつまずいたりといった危険性も見逃せません。クッションを使ってすき間を埋める、階段に近づけないようペットゲートを取り付けるなどの対策をおこないましょう。
老犬(シニア犬)介護のポイント9:認知症への対応
犬の長寿化に伴い、認知症にかかるケースは増加していると言えます。認知症とは、高齢性認知機能障害という病気です。
認知症の症状である深夜徘徊や夜鳴きは昼夜逆転の生活を正すことである程度の改善効果が見込めます。昼に寝ていたらなるべく起こす、日中によく運動させて夜の睡眠を促すようにするとよいです。目的なく動き回る徘徊行動が多い場合は、ケガをしないよう室内のバリアフリー化を進めましょう。お留守番をさせるときは、サークルにぶつかっても痛くないようにヨガマットやバスマットなどでカバーしてあげると安心です。
認知症を進行させないためには
認知症は進行性の疾患です。加齢による影響が大きく、ほかには基礎疾患やストレスなどが原因となり発症します。
認知症を予防したり進行を遅らせたりする手立てとして、脳に刺激を与えることが大事です。たくさん話しかけてスキンシップをとる、散歩のときにほかの犬と接する機会を与えるなど楽しい刺激を与えてください。歩けない場合は抱っこして散歩する方法でも構いません。特に嗅覚への刺激は脳をリフレッシュさせるので、新しいおやつの臭いを嗅がせるのもよいでしょう。
老犬(シニア犬)が寝たきりになった時の心構え
老犬(シニア犬)の介護は長期間にわたることもあります。特に寝たきりになってしまった場合、飼い主さんは身体的にも精神的にも追い詰められてしまいがちです。実際に寝不足や、ストレスでノイローゼになる事例も多いと聞きます。飼い主さんだけで抱え込まずに、まずは獣医さんや動物看護師さんなどへ相談してみてください。介護の負担と不安を分担すれば明るい気持ちでケアライフを送ることができます。
知ってきたい老犬(シニア犬)介護のサポートとは?
現在、ペット介護において頼れるのは、動物介護士やペットシッターです。動物介護士は寝たきりや食欲不振、認知機能障害などに対して知識を持っているため、食事管理や排泄の世話、床ずれケア、マッサージなど幅広くサポートしてくれます。
ペットシッターの訪問介護はシニア犬の生活介助を代行してくれるサービスです。主なケアは散歩や食事、入浴、トイレですが、希望すれば爪切りや歯磨き、床ずれケアにも対応してもらえます。
そのほか老犬(シニア犬)用の介護施設もありますので、検討してみてくださいね。
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