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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬も鼻血を出すことがありますが、犬が鼻血を出すのは人間と比較するとまれなケースです。重大な病気のサインである可能性もあるため、愛犬が鼻血を出したときは十分に注意しましょう。犬の鼻血の背景に隠れている病気や、愛犬が鼻血を出したときの対処法などについてchicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬の鼻血の原因とは?
- 犬の鼻血を引き起こす病気とは?
- 犬の鼻血でこんな症状なら病院へ
- 犬の鼻血の治療法とは?
- 自宅でできる犬の鼻血の対処法は?
- 犬の鼻血の予防法は?
犬の鼻血の原因とは?
犬はめったに鼻血を出すことがありません。犬の鼻血は、鼻腔内に異物が入り込んだり鼻をぶつけたりといったケガでない限り、何らかの病気が原因になっています。
鼻血が出やすい犬種や年齢
「この犬種は特に鼻血が出やすい」といった傾向はありません。ただし、体がしっかりできあがっていない子犬、免疫のバランスが崩れやすくなっているシニア犬、慢性疾患を持っている犬などは、健康な成犬に比べて鼻血を出しやすいと言えるでしょう。
犬にとって鼻血はストレス?
犬は人間ほど鼻血を出しやすい動物ではないため、鼻血を出すというのはまれな症状と言えます。そのうえ、犬にとっての鼻は、臭いをかぎ分けたり、嗅覚刺激によって食欲が出たり、呼吸をしたりする、生きていくうえでとても重要な器官です。鼻血が出ることで嗅覚が衰えたり、呼吸をしにくくなったりすれば、犬はストレスを感じるでしょう。
犬の鼻血を引き起こす病気とは?
犬の鼻血の原因となる病気は、鼻炎や鼻腔内腫瘍などの鼻腔に関する疾患、歯周病、熱中症、血液の凝固異常や止血異常などさまざまです。経過観察が必要な病気から命にかかわる重大な病気までありますが、多くの場合は動物病院での診察が必要になることを覚えておきましょう。
血小板減少症
血液中にある血小板の数が大きく減少する病気です。血小板とは、血液を固める役割を担う血液中の細胞成分の一種。これが減少することによって止血異常が起こり、突発的な鼻血が見られるほか、内出血によるアザや血便・血尿などの症状が現れます。
血小板減少症を患った犬は、最悪の場合、大量出血を起こして死に至る可能性もあります。マルチーズ、コッカー・スパニエル、プードルなどの犬種は、他犬種と比較すると遺伝的に血小板減少症を発症しやすいと言われています。
血液の凝固異常
血液を固める血液凝固という作用が働きにくくなる病気になると、わずかな刺激で出血しやすくなるうえ、出血が止まらなくなります。その結果として鼻血が出ることがあります。鼻血のほかにも、内出血や血便・血尿などの症状が見られます。
鼻腔内の腫瘍
鼻の中にできる腫瘍が原因となって鼻血が出ることもあります。鼻の中の腫瘍には扁平上皮ガンやリンパ腫、線維肉腫などさまざまな種類がありますが、これらが傷ついたり、くしゃみなどの刺激を受けたりすることで血管が破れ、出血が起こります。
鼻腔内腫瘍の初期段階では、くしゃみや鼻水が出て、そこに鼻血が混ざります。病気が進行すると鮮血が出るようになり、腫瘍が大きくなるとマズルという鼻の周りが腫れてくることもあります。
初期には腫瘍ができた方の鼻の穴から鼻血が出ますが、進行すると骨が侵され、両方の鼻から鼻血が出るようになります。犬の鼻の中にできる腫瘍はいずれも悪性で、動物病院での治療が必要です。シニア犬で鼻血が出た場合は特に腫瘍の可能性が高いため、十分注意しましょう。
歯周病
歯槽膿漏や歯肉炎などの炎症が歯の付け根にまで波及して、瘻管(ろうかん)という膿の通路ができ、それが鼻とつながってしまうと鼻血が出ることがあります。
歯周病からの鼻血は鼻腔内腫瘍と同じく、シニア犬に見られやすい症状です。しかし、若くても歯周病が進行すれば鼻血が出ることはあるため、日常的にデンタルケアを行い、適切な治療を受けましょう。
アレルギーや感染症による鼻炎
ウイルスや細菌、真菌、寄生虫による感染症やアレルギーによって鼻炎を起こし、くしゃみや鼻水が重症化することで、毛細血管が破れて出血が見られることがあります。
犬の鼻血でこんな症状なら病院へ
犬の鼻血は重大な病気が原因となっているケースも少なくないため、愛犬が鼻血を出したときに動揺してしまう人も多いかと思います。ここでは、しばらく様子を見てもいい鼻血と、すぐに動物病院を受診すべき鼻血の見分け方を紹介します。
すぐに受診が必要とは言えない鼻血
たとえ愛犬が鼻血を出しても、いつも通り元気で食欲があり、鼻血がすぐに止まった場合は少し様子を見てもいいでしょう。また、遊んでいる最中にぶつけたなど、体の中の疾患が原因ではないと特定できる場合も、あまり心配しすぎる必要はありません。
すみやかに動物病院を受診すべき鼻血
鼻血を出しているほか、元気がない、ぐったりしている、食欲がないといった場合は病気が原因の可能性があります。また、元気や食欲があっても、鼻血がなかなか止まらない場合も要注意。元気そうに見えてもなんらかの病気が隠れている可能性があるため、できるだけ早く動物病院で診察を受けましょう。
犬の鼻血の治療法とは?
鼻血の原因となる病気はさまざまなため、動物病院で診断を受け、それぞれの病気に対する治療を行います。また、出血があまりにひどい場合には止血剤を使うこともあります。
血小板減少症の治療法
血小板減少症が鼻血の原因だとわかったら、血小板を破壊する免疫機能を抑える治療を受けることになります。投薬治療で十分な効果が得られない場合には、赤血球が破壊される場所の一つである脾臓を手術で摘出することもあります。
血小板減少症の治療には数か月かかることが多く、いったん完治した場合でも再発する可能性もあるため注意が必要です。
血液の凝固異常の治療法
血液の凝固異常が起こる原因は複数あるため、まずは動物病院を受診して原因を特定し、適切な治療を受けるようにしてください。血液の凝固異常が見られる場合は、生涯を通した内科治療が必要となることがほとんどです。また、出血多量で命にかかわる場合は輸血を行います。
鼻腔内の腫瘍の治療法
鼻腔内の腫瘍が疑われる場合は、レントゲンやCT検査によって診断を行います。鼻腔内に腫瘍があると診断されたら、摘出手術のほか、放射線療法や抗がん剤治療を受けることになります。腫瘍は進行が速いため、早期発見・早期治療がとても重要な病気です。
歯周病の治療法
歯周病になった場合は、全身麻酔をかけて歯石を除去するなどの治療を行います。なお、口と鼻の間が開いてしまっている場合は原因となっている歯を抜歯し、歯を抜いた部分を縫い合わせて閉じる手術を行います。その後は自宅でデンタルケアを行い、再発を予防します。
鼻炎の治療法
細菌感染による鼻炎なら抗菌薬、寄生虫による駆虫薬といったように、原因に応じた治療を行います。また、鼻血の原因となる炎症を抑えるために抗炎症剤を服用します。
自宅でできる犬の鼻血の対処法は?
愛犬が鼻血を出したら、自宅で対処しようとせず動物病院に連れていきましょう。病院に到着するまでの間は、以下のような対処をしてください。
正しい対処法
マズル(鼻先~口の周り)を保冷剤などで冷やし、一時的に血管収縮を起こして止血します。長い時間、保冷剤を当てると低温やけどを起こす可能性があるため、冷えてきたら当てるのをやめ、少し時間が経ったらまた冷やすという処置を繰り返すようにしてください。
やってはいけないケア方法
愛犬が鼻血を出したときは、人間のように顎を上げさせるのはやめましょう。血液を誤嚥して誤嚥性肺炎を引き起こすおそれがあります。また、鼻の穴にティッシュを詰めるのも呼吸困難に陥る可能性があるためNGです。
犬の鼻血の予防法は?
愛犬の鼻血を防ぐには、原因となる病気の予防のほか、鼻をぶつけてケガをしないよう環境づくりが大切です。例えば、散歩コースや家の中からマズルがぶつかってしまう可能性があるものを排除したり、物がたくさん置いてある空間などで興奮させないようにしたりといったことを日々心掛けましょう。
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