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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
日本人にはなじみ深い犬種である柴犬。街中でもよく見かける犬種といっても良いかもしれません。日本では古くから愛されていたという柴犬のルーツや性格、飼い方やしつけの注意点などを獣医師の茂木千恵先生にお伺いしました。
目次
- 柴犬のこれまでの歴史やルーツは?
- 柴犬の体高、体重、平均寿命は?
- 柴犬の毛色の種類は?
- 柴犬の性格にはどんな特徴があるの?
- 柴犬は飼いやすい犬?飼う上で気をつけることは?
- 柴犬のしつけはいつから始めるべき?
- 柴犬を飼うのに向いている人
- 柴犬がかかりやすい病気やアレルギーは?
- 柴犬を散歩する際に気を付けることは?
- 柴犬におすすめの遊びは?
- 柴犬の食事の注意点は?
- 柴犬の日常のケアやお手入れ方法は
柴犬のこれまでの歴史やルーツは?
柴犬は日本犬の中で随一の小型犬種です。国内で最も古い犬の存在を示す証拠は9,500年前の遺跡から発見されているだけでなく、約7,000年前の遺跡から埋葬された犬の骨も見つかっており、すでに縄文時代に人と犬が共生していたと考えられています。現在の柴犬は縄文時代に大陸から人とともに移り住んできた犬がルーツであると考えられています。
柴犬のルーツを辿ると島根・益田市美都町にいた石州犬の「石号」に辿り着くと言われています。石号は昭和20年ごろまで生息していた石州犬で、猟犬としての優れた適性を持った小型犬でした。
実は柴犬には、信州柴犬、山陰柴犬、美濃柴犬の3種が存在します。同じ柴犬であることに変わりはありませんが、遺伝子研究によって、山陰柴犬は他の柴犬とは遺伝的に若干異なる内種であることが明らかとなっています。
信州柴犬と美濃柴犬は同一の先祖から作られた可能性が高いことも示されました。山陰柴犬はその毛色が赤茶色で、尾は差尾(さしお;巻かない前方に傾斜した尾)です。どの柴犬内種も、元来猟犬として飼われていましたが、特に山陰柴犬は鳥猟犬として活躍してきた歴史があります。
ちなみに1936年には天然記念物に指定されています。
柴犬の体高、体重、平均寿命は?
公益社団法人日本犬保存会によると柴犬の雄の標準体高は、39.5cm、雌は36.5cmです。平均的に、雄は38cmから41cm。雌は35cmから38cmの間になっています。平均体重は9~14kg、平均寿命は15歳だと言われています。
柴犬の毛色の種類は?
柴犬はその約80%が赤色の毛色で、他には黒や胡麻という毛色があります。胡麻は赤、白、黒が混ざった毛色で柴犬全体でもその1%程度の珍しい毛色です。
柴犬は寒冷地方原産の犬によくみられるダブルコートという毛の生え方をしています。硬いオーバーコート(主毛)と柔らかいアンダーコート(副毛)の二層からなる被毛で、副毛が暖かい空気を貯め込めるため、寒さが厳しい冬でも寒さに負けず外で活動することができます。春と秋にアンダーコートが抜け替わるため抜け毛が大量に発生します。そのためブラッシングで抜け毛を取り除く必要があります。
柴犬の性格にはどんな特徴があるの?
柴犬は遺伝的にオオカミと近い種とされ、原種に近いまま現代まで飼われてきました。もともと猟犬として育てられたことと、庭先で留守番をする役割を担っていたため、警戒心が強い性格です。
具体的には、柴犬は他の犬に対する攻撃性が高く、縄張り防衛行動(吠える、攻撃的になる)も見られる傾向が高いです。また、子どもへの攻撃性も他の犬種に比べて高いという調査結果があります。
またオスとメスでも性格が異なります。雌は雄に比べて人懐こさや服従性が高く、トイレのしつけなどがしやすいです。また母性を伴う行動を見せやすく、同居している犬や飼い主を守ろうとして、他の犬などに吠えることがあります。雄は雌に比べて縄張り意識が強く、活動的で攻撃性が高くなります。去勢手術を行うと、これらの特徴は弱められます。
柴犬は飼いやすい犬?飼う上で気をつけることは?
柴犬は喜怒哀楽の表現が分かりやすいので一緒に遊んだり出かけたりする活動を通して、楽しみを見出すことができます。一方で臆病な面もあり、周囲の刺激に過敏に反応する性質もあります。
また、子どもや他の犬への攻撃性が高いという研究結果もあり、初心者さんが飼うにはドッグトレーナーさんなど専門家にサポートしてもらうほうが良いでしょう。特に柴犬は社会化期にいろいろな新しい環境や人や犬、場所に慣れさせておくことで成犬になってからの不安や恐怖による問題行動が予防できますが、その社会化期が他の犬にくらべて比較的早めに終わってしまいます。
そして、若年期は不安が一時的に高まる時期ですので、問題行動の予兆が見られる犬も増えてきます。できるだけ幼いうちから家庭内のルールを教えて、号令を使った首尾一貫した関係性を続けて信頼を築くことが大切です。
柴犬は子犬の頃に飼い主に触られる経験を多く積んでいないと、触られることに過敏になる傾向があります。抱っこしたり撫でようとしたら嫌がったり、それがエスカレートして噛もうとしてきたり唸ったりするようになる場合も少なくありません。
柴犬のしつけはいつから始めるべき?
柴犬は原始的な品種ですから、もともと持っている行動パターンが出やすい特徴があります。また、比較的早熟なので母犬や兄弟犬とのやり取りの中で犬社会でのコミュニケーションの取り方と、我慢することを学んでから迎えるのが望ましいです。
自宅に迎えたらその日のうちからトイレトレーニング、ハウストレーニング、触られることに慣らす、フードに関する攻撃行動を予防するため、手からフードを与えるなどやるべきことが多くあります。
ただし、繊細な性質もあり、語気を強めた号令などはかえって飼い主さんへの不信感が高まることもあります。刺激に過敏に反応しやすいので、しつけの際は集中できる環境を用意しましょう。お子さんや他の家族が出入りしないような時間帯に始めると良いでしょう。また、首尾一貫した態度で柔らかな口調、穏やかな動きを心がけて、犬から信頼される態度を取ることが大切です。
柴犬を飼うのに向いている人
柴犬を飼うのに適しているタイプは以下のような人です。
日常的にお散歩ができる人
柴犬は、もともと庭で番犬ができていた性質のため、留守番は苦手ではありません。ただし、運動欲求は高く、運動不足になると欲求不満が高じて破壊行動や攻撃行動を起こしてしまうこともあります。そのため、日常的に散歩に十分時間をかけられるか、ペットシッターさんに散歩をしてもらえるような環境が必要です。
リーダーシップをとれる人
ペットとして飼うよりも猟犬としてリーダーに付き従いたいタイプなので、飼い主さんも一貫した態度を示していく必要があります。犬からリーダーとして認められるような関係ではない場合、自己主張が強くなりますので、親密な態度を示す犬を期待している飼い主さんの性格にマッチしないこともあるでしょう。
掃除好きな人
柴犬は換毛期に限らず抜け毛は多いので、飼っている部屋の掃除は欠かせません。犬アレルギーがある人は飼育するかよく考えたほうが良いでしょう。
柴犬がかかりやすい病気やアレルギーは?
柴犬は比較的平均寿命が長いので、病気にかかる機会も少なくありません。柴犬がかかりやすい病気を以下に詳しくご紹介します。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、3歳以下で発症しほぼ室内飼育の犬に見られます。発症時は体を掻いたり前歯でかじったり、舐め続けたりして、皮膚が赤くなったり毛が抜けたりします。特に前脚と耳に脱毛や赤みが発生することが多いです。かゆみがひどい時は夜も眠れなくなりますので動物病院で投薬と薬浴などの治療をしてもらいましょう。原因にはカビ、ダニ、食べ物、花粉、ハウスダストなどが考えられるため、掃除も徹底しましょう。
食餌アレルギー
食べ物の中に含まれるたんぱく質などが体内に取り込まれたときにアレルギー反応が起きて四肢のかゆみや下痢といった症状を示します。新しい食べ物を食べさせて1日以内にかゆみや下痢が見られた場合は、その食べ物を与えるのをやめて、獣医さんに相談しましょう。
僧帽弁閉鎖不全(そうぼうべんへいさふぜん)
僧帽弁閉鎖不全はシニア期に起こりがちな心臓の病気です。心臓の機能が低下して咳や息切れが頻繁に見られるようになってきたら状態は進行しています。動物病院で治療を受けることで進行を遅らせることができます。
膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)
膝蓋骨の脱臼は、ぶつかった衝撃や落下などの打撲によって起こる場合と遺伝的な要素のために起こりやすい怪我です。脱臼した足をかばうようにスキップしたり引きずるようにしたりして歩くことがみられると膝蓋骨脱臼の可能性があります。日頃から床や階段には滑り止め対策をし、段差をなくした家具配置や散歩も下り道は回避することで予防ができます。
白内障
瞳の部分にある水晶体が白く濁ってきて、物が見えにくくなる病気で、白内障が進行すると物にぶつかったりする機会が増えます。進行を遅らせるための点眼薬があります。また手術を行うことで視力が回復することもあります。
角膜炎
瞳の表面を覆う角膜が炎症を起こして、涙が止まらない、目やにがたまる、常に充血している、頻繁に目をこするなどの症状が見られます。放置しておくと視力にも影響し、場合によっては手術が必要です。早めに動物病院で点眼や服薬による治療を行いましょう。
外耳炎
耳道の分泌物による汚れや真菌の増殖、耳ダニの寄生などが原因で起こります。食餌性アレルギーの場合も起こります。犬が断続的に耳の付け根をかいたり、耳が臭ったり、黒っぽい耳垢が出てきたり、耳介の皮膚が赤く厚みを帯びてただれている場合はかなり状態が進行していますので獣医師の診察を受けましょう。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは脊柱の一部が神経を圧迫する形に変形することで起こります。動かない、歩き方がおかしい、背中に触れたり、抱っこしたりすると痛がるといった症状が見られます。進行すると神経が麻痺して運動失調が見られます。後ろ足が動かなくなったり排便・排尿が困難になったりします。脊柱(背骨)に負担のかかる動きや衝撃が加わることで徐々に起こる場合が多いです。例えば、縦抱き、階段の昇降、ソファからの飛び降り、肥満、加齢によるものなどが原因として挙げられます。
軽度の場合は痛みを抑える服薬を行い、ケージの中に閉じ込めて安静にさせ回復させます。重症の場合は、ヘルニア箇所を整復する外科手術を行います。
治療は長期にわたり、高額になる場合もありますので、しっかり予防しましょう。滑りやすい箇所、階段やフローリングの床は滑りにくくしたり、階段の昇降やジャンプを繰り返したりするような激しい運動は控えましょう。また、過体重によって腰に負担がかかることも原因の一つですから、食べさせすぎ、おやつの与えすぎなどはやめて体重をきっちり管理することが大切です。
認知機能不全症候群
柴犬は平均寿命が長く、高齢になるとこの症候群になりやすい傾向にあります。狭いところに入って出られなくなる、昼夜逆転の生活になる、トイレの失敗が多くなる、ずっとじっとしている、同じ場所をグルグルと歩く、夜中に吠えるなどの症状が出たら認知症が疑われます。痛みによる場合もありますので獣医師の診察を受けましょう。治療は難しいため、なってしまった場合は進行を遅らせることが対策となります。
予防策としては、シニア期になる前からの散歩や飼い主さんとの関りによる心身への適度な刺激を与えるたり、肥満を予防したりするといったことが挙げられます。
柴犬を散歩する際に気を付けることは?
柴犬は一般的に他の犬と比べて運動量が多いので、日々の散歩時間は1日2回、30分~1時間程度は必要です。他の犬との相性によっては散歩中に吠えることがありますので、散歩コースや時間帯はある程度決めておくと飼い主さんも犬も安心して出かけられます。
散歩前後のリードのつけ外しを嫌がって怒る犬も多くいます。子犬の頃から、散歩に出ても良い時期になる前に、屋内でリードのつけ外しの練習を始めておきましょう。散歩自体は好きな犬が多いので、家の外の方が号令を聞きやすいという場合もあります。外でも号令の練習をすることで飼い主さんとの信頼関係が築きやすくなります。
柴犬におすすめの遊びは?
柴犬には、触られるのが苦手で集中力が続かない、注意散漫という性質があるため、飼い主さんと触れ合う遊びよりは、視覚、聴覚、嗅覚を刺激する活動的な遊びが向いています。食欲が旺盛なため、おやつを入れた仕掛けおもちゃはひとり遊びをさせるのに役立ちます。奥歯で硬いものをかみしめるのも大好きです。ただし焦って飲み込んでしまうこともありますので、飲み込めそうなサイズまで小さくなったら他の物に交換しましょう。
また、新しいものを警戒する傾向が高いので、おやつが関連しない物には慣れにくいこともあります。飼い主さんが遊び方を教えたり、一緒に遊べたら褒めたりするなど、新しいおもちゃを見せる時に一工夫しましょう。
柴犬の食事の注意点は?
食餌性アレルギーが起こる場合もありますので、新しいフードに切り替えるときは今までのフードを1割ずつ置き換えながら数日間様子を見ましょう。痒みや下痢が起こらなければ混ぜる割合を増やせます。
柴犬は食餌への執着が強く、一気に食べてしまう子が多いため、吐き戻すこともあります。この吐き戻しは、何回かに分けて与えることで予防できます。また、食事の時間帯に興奮して攻撃的になってしまう犬も少なくないです。早くほしいと要求して吠えることも多くあります。
フードの皿を片づけようとした時に、取り上げられないようにと唸ったり噛もうとしたりすることもあります。食餌は開放的な場所ではなく、必ず犬のハウス(クレートが望ましいですが、ゲージやサークルでも)内で与えるようにし、犬も飼い主さんに奪われるかもしれないといった心配がなく安心でき、飼い主さんも不用意に近づいて攻撃されることがない環境を作りましょう。一部のフードを飼い主さんの手から直接与えるようにすることで飼い主さんの手を怖がらないようになります。
柴犬の日常のケアやお手入れ方法は
柴犬は春と秋に換毛期があります。換毛期は大量の抜け毛が発生しますし、ブラッシングで取り除けないと毛玉になってしまいます。こまめにブラッシングしましょう。
また、柴犬の被毛はダブルコートであるため、アンダーコートが抜けやすい特徴があります。換毛期ではない時期でも衛生状態を良く保つためには毎日ブラッシングが必要でしょう。シャンプーはやりすぎると表皮の油分が過剰に奪われてしまい、かえって被毛のコンディションが悪化します。2か月に1回程度行うのが良いでしょう。
皮膚炎を起こしている場合はシャンプーの間隔を短めにします。アンダーコートが多くてシャンプー剤の流し残しが起きがちですが、皮膚炎の原因ともなりますのでしっかりと洗い流すようにしましょう。シャンプーが嫌で飼い主さんへ攻撃的になる犬もいます。幼いころからシャンプーとご褒美を関連付けるよう慣らしていきましょう。
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