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東京大学大学院工学系研究科修了。小児アレルギーを専門とし、アレルギーの診療、研究にいそしむ毎日。日本小児科学会専門医・日本アレルギー学会専門医・工学博士。
動物への想いとは裏腹に、体が反応してしまう動物アレルギーは辛いものです。犬を飼いたいけれど、アレルギーが心配という方がいらっしゃるかもしれません。また、犬を家にお迎えした後に、飼い主さんやそのご家族に急に症状が出て、犬アレルギーの人がいることに気づく方もいらっしゃるでしょう。ここでは、そもそも犬アレルギーとはどんなものなのか。症状や治療方法はあるのかなどについてアレルギーの専門医であり、国立成育医療研究センターにご所属の樺島重憲先生に解説していただきます。
目次
- 人の犬アレルギーとは?
- 人の犬アレルギーの原因は?
- 犬アレルギーの症状とは?
- 自分が犬アレルギーかどうかを確認する方法は?
- 犬アレルギーかどうかを確認する検査とは?
- 犬アレルギーの治療方法は?
- 犬アレルギーの症状を軽くするために生活環境を見直そう
人の犬アレルギーとは?
犬アレルギーの症状は、犬と触れ合ったり、同じ空間にいたりする時にだけ現れます。原因は過剰な免疫反応で、本来ならば無害なはずの異物に免疫系が反応を起こし、結果として体にさまざまな症状が引き起こされる病気です。
アレルギー症状には2つのパターンがある
アレルギーには、「即時型アレルギー」と「非即時型アレルギー」の2つのパターンがあります。即時型では、アレルギーの原因物質(アレルゲン)に触れると数分から2時間程度で、くしゃみ、鼻汁、咳、目のかゆみ、蕁麻疹などの症状が現れます。非即時型アレルギーでは、アレルゲンに触れたあとに半日以上経って、アトピー性皮膚炎の湿疹が悪化するといったような症状が見られます。犬アレルギーの人が犬に触れるとこういった全ての症状が起こりえます。
人の犬アレルギーの原因は?
犬とともに過ごすだけで、くしゃみ、鼻汁、蕁麻疹などの症状が現れる犬アレルギー。犬アレルギーが発症している時、人間の体にはどんなことが起きているのでしょうか。
犬アレルゲンが体へ侵入することでアレルギー症状が起こる
人間の体に犬の毛やフケ、唾液、尿などに含まれるアレルゲンが侵入すると、免疫系がアレルゲンを有害な異物と誤って認識し、記憶します。こうしてアレルゲンが体に害のあるものとして記憶されてしまうと、犬と触れ合ったり、一緒に過ごしたりするだけで、アレルギー症状が起きるようになってしまうのです。アレルゲンは鼻やのどの粘膜、皮膚から人間の体に侵入します。アトピー性皮膚炎のように、皮膚に炎症があってバリア機能が低下している人の場合、皮膚からアレルゲンが侵入しやすいために、犬アレルギーを発症しやすくなる可能性があります。
犬アレルギーの原因物質について
犬アレルギーの原因は、犬の体内で生成される7種類のアレルギー物質「Can f1」から「Can f7」にあります。特に「Can f1」は非常に小さいものなので、手や服などのいろんなところに付着して人間にアレルギーを起こします。アレルゲンは犬の毛やフケ、唾液や尿に多く含まれているので、アレルギーを持つ方は注意しなくてはいけません。
リポカリンとアルブミン
犬アレルギーのアレルゲンの代表的なものとしてはリポカリンとアルブミンがあります。リポカリンというたんぱく質から成る「Can f1」というアレルゲンは、犬の毛やフケ、尿や唾液に多く存在します。アルブミンは犬だけでなく人を含めた他の動物の体内にも存在していますので、犬以外の動物に触れた場合でも症状が起きるかもしれません。
犬によって犬アレルギーの症状の差はあるの?
長毛種の犬だとアレルギー症状が出やすいと言われることがあるようですが、実際にアレルゲンの量を調べたところ差がなかったという報告があります。また、犬種による差もないようです。一方、犬の性別によってアレルギーの症状の程度に多少の差があるかもしれないと言われています。前立腺由来の「Can f5」というアレルゲンは、オスにだけ存在します。
犬アレルギーの症状とは?
犬を家に迎えた方は、ご自分の体調を観察してみるといいでしょう。また、すでに犬と暮らしている方も犬アレルギーを突然発症する可能性があります。いつでも誰にでも、犬アレルギーを発症する可能性があるということを頭の片隅に置いておくと、早めに対処できるでしょう。
犬アレルギーの症状が軽度な場合
軽度のアレルギー症状は、咳や鼻水、くしゃみなど、風邪や花粉症に似ています。症状が重くなると皮膚の湿疹やじんましんなどを発症し、目が腫れてかゆくなったり、充血したりします。
犬アレルギーの症状が重度な場合
重度の場合は、喘息や呼吸困難などの深刻な症状を発症し、日常生活に困難が生じることもあります。こういった場合は速やかに病院を受診するようにしましょう。
自分が犬アレルギーかどうかを確認する方法は?
犬にアレルギーがあるかどうかは検査では判断することはできず、犬に触れてみて症状が出るかどうかで確認するしかありません。まずは、実際に犬に触れてみましょう。犬との接触が短時間であったり、接触が薄かったりすると、症状が出ないこともありますので、下記の中から、長時間に濃厚に接触するシチュエーションを順に選んで確認してみてください。誰にアレルギーがあるかわからないので、家族全員で確認するのもおすすめですよ。
・しつけ教室やパピークラスを見学する
・犬を飼っている友人に頼んで犬と遊ばせてもらう
・ドッグカフェを利用してみる
・ペットショップやブリーダー、動物愛護センターなどに行く
犬アレルギーかどうかを確認する検査とは?
血液検査やプリックテストによって、アレルギーのあるなしを判断することができます。以下にそれぞれの検査方法について詳しく紹介します。
血液テスト
犬アレルゲンに反応する免疫蛋白が血液の中にどれくらい含まれているかを調べます。含まれる量によってアレルギーの強さを7段階に判定します。
プリックテスト
皮膚を使ったテストにもいくつかの方法がありますが、現在、一般的なのはプリックテストという方法です。プリックテストでは、皮膚に犬アレルゲンの液を一滴たらし、同じ場所を針で軽く突きます。そうすると、ごく微量のアレルゲンが皮膚に入り、少し腫れるなどのアレルギー反応が起こります。採血をする必要がないため、小さな子どもでも受けることが可能です。
最終的な判断は症状の有無で判断する
ただし、血液検査やプリックテストでわかるのはアレルギーを持つ可能性だけです。どちらの場合も陽性と判定されても症状が出ない人もいます。確実な判定の決め手は、アレルギーを疑わせる症状があるかどうかです。
犬アレルギーの治療方法は?
もし、犬アレルギーの症状が出てきた場合はどのように症状を治療、改善させていけば良いのでしょうか。
犬アレルギーは完全に治すことはできるの?
現在の日本では、効果と安全性が確認されている犬アレルギーの根本的な治療法はありません。一般的にアレルギーの根本治療として、アレルゲンを皮下に注射したり、口に含んで飲みこんだりすることで、体をアレルゲンに「慣らす」方法があります。
薬による対症療法
日本では、スギ花粉やダニのアレルギーについての治療用アレルゲンが承認・販売されていますが、犬のアレルゲンで承認されたものは現状ありません。海外から犬アレルギーの免疫療法に用いられる犬アレルゲンを個人輸入して使うクリニックもあるようですが、効果や安全性は保障されておらず、万が一、事故が起きても自己責任となってしまうためおすすめできません。犬に接することでアレルギー症状がある場合は、対症療法として抗アレルギー薬の内服、点鼻、点眼をします。
どの病院にかかればいいの?
内科、小児科、アレルギー科に相談しましょう。鼻づまりや鼻水が止まらないなどの症状ならば耳鼻科、目のかゆみや腫れなどが辛いようならば眼科を受診するのもいいでしょう。急に重い症状が出て、呼吸が苦しいなど、症状が重い場合はすぐに内科や小児科を受診してください。
犬アレルギーの症状を軽くするために生活環境を見直そう
すでに犬と暮らしているのに犬アレルギーの症状を持つ方は、少しでも症状を軽くする必要があります。アレルギー症状を改善させる方法は、花粉症などその他のアレルギー対策と重なる部分が多いです。ただし、花粉症対策に使われることが多い空気清浄機などを使用して空気中のアレルゲンを除去しても、症状が治まらなかったという報告があります。犬との暮らしを念頭に、アレルギー対策について項目ごとに解説します。
シャンプー・ブラッシングで犬の体を清潔に保つ
週に2回程度犬を洗うことで、家の中のアレルゲンを効果的に減らすことができます。犬の体をきれいに洗うことやブラッシングは、犬アレルギーだけでなくダニアレルギーを持つ場合にも有効です。
室内の掃除をこまめに行う
ハウスダスト対策と同様に、掃除はこまめに行うといいでしょう。HEPAフィルターのような細かい粒子を除去できる掃除機を使うことで、家の中のアレルゲンを減らすことができるという報告があります。ただし、古いフィルターを交換しないで使うと効果が弱まるようです。
犬に触れたらこまめに手を洗う
アレルゲンが付いた手で、目や鼻を触るとアレルギー症状が誘発されますから、犬に触れた後はこまめに手を洗うといいでしょう。
犬との居住スペースを分けて接触を減らす
寝室などの長く過ごすスペースに犬を入れないことで、その部屋のアレルゲンを減らすことができます。屋外で飼えば、さらに少なくなります。犬が入ってはいけないエリアを作って、症状がひどいときに避難できるようにしておくといいかもしれません。ご自身の症状と犬の様子を見ながら試してみましょう。
ほこりが付着しにくいインテリアを選ぶ
カーペットやカーテンにはアレルゲンが蓄積しやすいので、できるだけこまめな洗濯を行うと良いでしょう。床はフローリングにすれば、掃除することでアレルゲンを除去しやすくなります。ソファは、革や合成皮革などツルツルしたものの方がいいでしょう。
洗濯物を犬のものと別々にする
犬が使っているものと合わせて洗濯をしてしまうと、アレルゲンが付着してしまう恐れがあります。できる限り、人と犬のものは別々で洗うことを意識すると症状を改善できる可能性があります。
食生活の改善
食事のバランスの崩れや動物性タンパク質、脂質や糖分の過剰摂取はアレルギー体質になりやすくなる要因と言われています。野菜や魚中心のバランスのよい食事を心がけるといいでしょう。また、アレルギー症状が出ている時に、アルコールや香辛料など血流をよくする食品を取ると、症状が強くなってしまう場合があります。食事を見直すことでアレルギー症状が改善されることがあります。
睡眠習慣の見直し
睡眠不足などの生活習慣の乱れは、免疫系やホルモンのバランスを崩し、アレルギーの症状にも悪い影響を与えます。不規則な生活や寝不足をなくして体調を整えるうちに、症状が和らぐこともあります。
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