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転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- 愛犬・レイルの記念すべき10回目の誕生日
- 愛犬・レイルの大好物を揃えた、バースデーパーティー
- 心を支えてくれる「幸せな誕生日」の思い出
愛犬・レイルの記念すべき10回目の誕生日
11月。レイルは、我が家にやってきて10回目の誕生日を迎えた。
もう迎えることがないと思っていた誕生日に、私は興奮。レイルの好物のササミをたくさん茹で、バゲットも少しだけ用意することにした。
あとはやはりケーキか。今まであげたことがなかったけれど、記念すべき10回目なのだから、買ってあげようかな……。
普段は素通りするペット用ケーキのコーナーに立ち寄り、お肉とブロッコリーがのった小さなケーキを買う。
愛犬・レイルの大好物を揃えた、バースデーパーティー
レイルの誕生日は11月22日だ。
2歳で我が家にやって来たから、今年で12歳。
レイルを家の前に捨てた以前の飼い主が、我が家のポストに血統書を投函していってくれたおかげで、私たちは愛犬の誕生日を毎年祝えるのである。ほんと、ありがとね、前の飼い主よ……。
ちなみに夫と誕生日が近いため、毎年合同バースデーパーティーの形をとっている。
夫がひとつ歳を重ねたこともまぁまぁめでたいけれど、今年の主役は断然レイル。今年の誕生日をお祝いできるなんて、信じられないことなのだから。

小さなケーキの箱を抱え帰宅し、レイルのためにササミを茹で、人間の分は粉チーズとパセリを混ぜたパン粉でフライにしていく。
レイルの好物のバゲットは2本。パン屋さんでスライスしてもらったので、オーブントースターで焼いて、レバーのパテやディップを準備。
ブロッコリーやさつまいもを蒸して、温野菜のサラダとオイル煮をこしらえ、奮発した牛肉はステーキにした。
テーブルに食事を並べていると、「今日は何やらごちそうだ」と気づいたレイルがソワソワとテーブルの周りをうろうろし始める。
バゲットを焼くためオーブントースターを開けると、好物が登場する喜びに打ち震え、ヨダレをだらだら流し、主役だというのに娘に叱られた。
スパークリングワインを開け(娘はオレンジジュース)、家族で乾杯!
アルコールが回ってきた私は、感極まって泣き出し、家族に呆れられ、心配顔のレイルに手をベロベロと舐められる。

心を支えてくれる「幸せな誕生日」の思い出
レイルは、バゲットを何度も催促し、あえて味をつけずに焼いたステーキの端を娘に分けてもらった。特別に用意したケーキは、上にのったブロッコリーを綺麗に残して完食した。
絵に描いたような、完璧で幸せな誕生日だったが、実はこの日を境にレイルの体調は緩やかに下降していくことになる。
体調が悪い日が少しずつ増えていくなかで、誕生日の思い出を私は何度となく反芻していた。
レイルの最後の誕生日は、私にとって辛い日々を乗り越える力になった大切な一日であり、レイルが側にいない今も幸せな気持ちにしてくれる、私の人生にとって特別な思い出だ。
今、家中どこを見回しても、もうレイルはいないけれど、あの日の思い出があるから、私は踏ん張って立っている。