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転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- トイレの回数が増えた愛犬・レイルを、家族でサポート
- 14歳の娘と12歳の愛犬の関係
- 永遠の“チビちゃん”から脱却?
トイレの回数が増えた愛犬・レイルを、家族でサポート
レイルが病気になってから、朝から晩まで一緒に頑張ってくれたのは、当時は中学生だった娘。
夫は仕事で帰宅が遅い上に、途中からまた単身赴任になったし、大学生の息子は家にいればまぁやるけれど、そもそもあまり家にいない。
レイルは最後の最後まで頻尿が続いたし、後半戦は消化器系が弱くなって、下痢との闘いだった。
トイレは完全に外派なので、1日に何度となく外に連れ出す。基本的に朝晩は私が担当。私が仕事に行っている時間帯は主に午前中が息子、午後が娘だ。
夜中、数時間おきに何度かと、朝の時間にかなりしっかりトイレに付き合うと、午前中いっぱいレイルは眠り続けることが多かった。次は正午過ぎに息子が家を出るタイミングで一度外に連れ出す。その次は学校から帰宅した娘が何度も外に連れ出すのだ。
14歳の娘と12歳の愛犬の関係

当時、受験生の娘にはかなり負担をかけたと反省したものだが、今になって話を聞いてみると、「ずっと机に向かうよりも定期的に外の空気を吸う方が、勉強の面では良かった。今はレイルがいないから出る理由が無くなって、ちょっと困ってる」と言っていた。
さらに、娘は推薦で早々に入学を決めたため、他の同級生たちが大変な時期、実はまぁまぁ暇でもあった。
とはいえ、中学生が病気の犬に寄り添うのは大変だっただろう。
元来ポーカーフェイスの娘は、特に表情を変えることなく「当然やるべきことなんだから」と日々淡々とレイルとの散歩を繰り返してくれた。
一方のレイル。
娘にトイレに付き合ってもらい、お腹を壊せば掃除をしてもらい、お尻を拭いてもらい、薬とおやつを定期的に与えてもらい……、そんな状態にも関わらず、娘にお世話されるのが不満そうだった。
「レイルは私のことをナメてる」と娘は言うが、私から見ても「うん、まぁそうかな」って感じであった。
レイルは娘のことを妹か何かだと思っている。
レイルが家に来た当時、娘は4歳。当然ながらレイルの方が大きく、娘のことを“小さき者“と認識していたのだろう。
14歳になり、身長も私を大きく超え、体力も私よりある娘を、レイルは晩年になってもなお、“チビちゃん”だと思っていた。
病気が判明する前も、娘が散歩担当の日は不満そうにしていたし、戯れて遊ぶ相手としか認識していなかったのだ。

永遠の“チビちゃん”から脱却?
ある日、私の仕事中に娘から電話が入り、「レイルの下痢がひどく血便も出ている」と言う。
仕事を早退させてもらい、慌てて帰宅すると、困り顔のレイルと、娘が迎えてくれた。
床は掃除され、消毒したのだろう、アルコールの匂いが漂い、換気のため窓が開いている。
娘が、病院から処方されているお腹の薬を飲ませたと言うので、その話もあわせて主治医に電話で伝え、様子を見ることに。
その結果、レイルのお腹は落ち着き、その日、もうお腹を壊すことはなかった。
そして翌日から、レイルは娘に対する認識を変えたようだった。
娘のことを妹だとは思っているかもしれないが、“チビちゃん”ではないと理解したようで、きちんと言うことを聞くようになったのである。
娘にレイルのことをどう思うか聞いてみると、「レイルは私の弟」と言っていた。
「そりゃそうでしょう。レイルは私が4歳の時に、2歳でこの家に来たんだから」
仲良しのふたりだったけれど、この点は最後まで、認識を同じにすることが出来なかったんだなと、今、私はふたりの写真を微笑ましく見ている。
