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転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- しつけがされていない2歳の大型犬との散歩
- まさに怪我の功名。散歩当番が変わって…
- 愛犬がいい子になった?
- 愛犬のしつけに悩んでいる人へ
しつけがされていない2歳の大型犬との散歩
我が家にやって来たばかりのレイルとの散歩は、困難を極めた。
レイルは、ゴールデンレトリバーのなかでも大柄な方で、骨太な上に力が強い。
40キロを超える、しつけのされていない2歳の大型犬は、うら若き(実のところ当時すでに30歳を過ぎているから別にうら若くはない)女子の腕力では、全く太刀打ち出来なかった。
きちんと散歩のしつけがされるまで何度となく転び、ひどい時は靭帯を損傷し、歩けずに唸っているところをご近所さんに助けてもらったことさえある。
レイルは……といえば、私が唸っている横に寝そべり、ぼーっとしていた。どう考えても主従関係が成り立っていない。
まさに怪我の功名。散歩当番が変わって…
当時、レイルの取り柄は凶暴でないことだけだった。しつけも何にもされていないおバカな大型犬だが、レイルはただひたすらに優しい性格。その頃の私にはそれだけが救いであり、暗闇に差す一筋の光だった。
しつけさえちゃんとすれば、レイルは優しく賢い犬になるのだ!
……とは言え、そのしつけをする側(私だ)が、適当な人間なので、どうにもうまくいかないし、何しろ完全にレイルになめられている。
頭を抱えていた時、さらに大怪我だもの。泣きっ面に蜂とはこのことかね……。ところが、この怪我をしたことで事態は好転する。
私の代わりに、夫が朝晩の散歩を担当するようになったのだ。
当時の夫は仕事が激務だったため、「平日は私が散歩をするよ!」と宣言したのだが、数週間で撤回。激務の間を縫って、夫が朝晩レイルを連れ出すことに。
これが、めちゃくちゃ良かったのだ。
まず、夫は腕力に自信がある体育会系。レイルにも力負けしない。
そして、そしてだ。ここが一番大切なポイントで、夫は非常に根気強いのだ。
しつけで最も重要なのは、根気である。
私には全く備わっていないスペックだ。
夫婦は弱点を補完し合える関係だとうまくいくと聞くが、初めて実感した出来事だった。
愛犬がいい子になった?
怪我が完治して、夫とレイルの散歩に同行したら、今まで全く言うことを聞かず、玄関ドアを開けた途端に走り出していたレイルが、「待て」を覚えていた。しかも、夫の横にピタッとついて歩いていたので、私は言葉を失った。
こりゃー私では無理だったわ。夫よ、ありがとう!
君って最高の飼い主だね!!
レイルは、私が安静にしている間に、「待て」と「おすわり」を覚えていた。
「お手」は、レイルがどうにも意味が理解出来ず、夫も「別に出来なくても問題はないな……」と思ったそうで、熱心には教えなかったそうだ。
たしかに、「待て」と「おすわり」、「ふせ」あたりは、しつけ上、必要なコマンドだが、「お手」は出来なくても何ら問題はない。
おバカなレイルが、座って待てるようになっただけで、私たちは満足であった。
だって、今のレイルは、猛ダッシュもしないし、赤信号の時は静かに座って待てる。
たったそれだけのことが尊い……!
もう私、怪我をすることもないんだわ!!
私は、レイルを褒めたたえ、夫に感謝しまくった。

愛犬のしつけに悩んでいる人へ
結果、レイルは賢い犬にはならなかった。
私たちが、最低限のコマンドを教えたところで満足してしまったからである。
実のところ、その後の散歩でも、他のワンちゃんと会って、はしゃいで私を転倒させたり、素敵な木の棒を見つけて、はしゃいで私をリードでぐるぐる巻きにしたり、急に反対方向に走り出し、リードを持っていた夫が腕を痛めたりした。(屈強さを売りにしていた夫はショックを受け、その後筋トレの時間を増やした)
今、これを読んでいる方のなかには、一緒に暮らす愛犬のしつけに悩んでいる方もいるのではないかしら。あのね、やっぱり初期のしつけってとっても大事だと思うのです。
私たちは適当なところで満足しちゃったけど、やっぱり転んだら痛いし、イタズラも度を超すとめちゃくちゃ困る。
もし時を戻すなら、スクールに通うことも考えるかな。その後のいろいろなダメージを考えたら、全然お得だと思うもの。
でも今の年をとったレイルは、イタズラをしなくなったし、歩くスピードもびっくりするくらいゆっくり。そうなると勝手なもので、私はレイルがイタズラばかりしていた頃を懐かしく思い出すようになった。
毎日、家じゅうめちゃくちゃにされていたけれど、でもいつかレイルがいなくなったとき、私が思い出すのはきっと、あのどうしようもない悪ガキ時代のレイルなんじゃないかな、と思っている。