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転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- 【ご報告】
- 愛犬・レイルが急に体調不良に
- 腹水が溜まっている状態…
- 大型犬の腹水を抜いてくれる病院へ
- 腹水は抜いたけど、新たな病気が発覚
【ご報告】
『今日もレイルとみじかいさんぽ』をお読みいただいている皆さま
レイルは、2025年5月31日に旅立っていきました。
病気が判明したときに先生から聞いた余命の何倍もの時間を頑張って生きて、私たち家族にたくさんの幸せをくれました。この場をお借りし、レイルのことを愛してくださった皆さまにお礼を申し上げます。
レイルとの楽しい思い出を綴りながら、闘病を支える日々のなかで、私は何度も病気についてネットで検索をしました。
病院や保険会社、同じ病気で苦しんでいる子の飼い主のかたの日記、たくさんの情報をネットの海の中から探し、時にはレイルの状況に落胆し、時には知らない人のことばに支えられ、長いレイルの闘病を終えることができました。
そして、思いました。情報は、ひとつでも多い方が良い。
たとえ同じ病気であっても、うちの子も同じようになるとは限らない。症状や残された時間は、それぞれです。
それでも、たくさんの情報に私が救われたことは事実。一般的に病状がこれからどうなっていくのか、通院費用はどれくらいかかるものなのか。不安になるたび、私はスマホやパソコンの画面とにらめっこしていました。
いち発信者として、レイルが病気になったあと、我が家に何が起こったのかを書くことで、私のように救われる人がひとりでもいることを願って、病気になったあとのレイルについてお話しさせていただければと思っていますので、お付き合いいただけたら幸いです。
愛犬・レイルが急に体調不良に

10年ほど前の話が続いたが、ここで現代に時間を戻そうと思う。
一昨年の秋、レイルは急に体調不良に陥った。
散歩に行きたがらず、出かけてもすぐに家に戻ろうとする。極めつけは、散歩の後のおやつを食べたがらないこと。
散歩と、その後に待っているおやつを何より愛するレイルが……。これはおかしい。異常事態だ。
私は、すぐにかかりつけの病院に向かうことにした。
かかりつけの病院へは、徒歩10分ほど。歩いて行くことが難しく、車に乗せる。
我が家に来た日のことが思い出され、私は不安な気持ちでハンドルを握った。
腹水が溜まっている状態…
診察してもらうと、腹水が溜まっているということ。
先生は、「このままでは、いつどうなってもおかしくない」と言い、すぐに大学病院に連絡して予約を入れてくれた。
それまで知らなかったことだが、隣の市に動物向けの緊急医療センターがあるそう。
のちに、この病院が近かったことに、泣いて感謝することになる。すぐに転院出来たのは、非常に幸運な出来事だったが、予約が出来たのは4日先。大学病院という場所は、動物の世界でも混み合っているようだ。
かかりつけ医からは、「このままだと大学病院に行く前に力尽きてしまう可能性もあるから、処置出来る病院で腹水だけでも抜いてもらった方がいい」と助言された。
いつも通っているこの病院では、大型犬の腹水を抜くことが出来ないのだそう。
病院から帰宅すると、私は片っ端から近くの動物病院に電話をかけた。
何件もかけたのだが、どこの病院も申し訳なさそうに対応が出来ないと言う。途方に暮れつつも、最後にかけた病院の先生が「いいですよ。すぐ来てください」と言ってくれた時には、電話口で泣いてしまった。
レイル、ついてるよ! 大丈夫、絶対元気になるからね!
大型犬の腹水を抜いてくれる病院へ
引き受けてくれたのは、家から一番近い動物病院。我が家の猫たちは、ここでお世話になっている。今まで見てきたどの病院よりも避妊手術が上手だと思う。傷跡が全く見えないので、術後に腫れたりすることがほぼ無いのだ。
なのになぜ、ここに真っ先に電話をしなかったのか。
そもそも、なぜ猫とレイルでかかりつけが違うのか。
理由はたったひとつ。その病院の立地だ。
車の往来が激しい通り沿いにあるため、歩いて連れて行くのは危ないということと、入り口が2階にあるため、具合が悪い時の階段の昇り降りが厳しい。めちゃくちゃ腕の良いお医者さんだけに、レイルもまとめてお世話になりたいところだったが、そんなわけで諦めざるを得なかったのである。
しかし、今回ばかりは諦めるわけにはいかない。やっと引き受けてくれたのだもの、どうにかして連れて行かねば。
前述の通り、病院は家から近く、歩いて5分ほどなのだが、具合の悪いレイルを歩かせられるような道ではないので、車を出し、コインパーキングに停める。
2階の入り口はいかんともしがたい。当時中学生だった娘と汗だくになりながら、どうにかレイルを運び込んだ。
腹水は抜いたけど、新たな病気が発覚
レイルを預け、半日かけて腹水を抜いてもらうことにする。
心配でならないけれど一旦帰宅し、夕方に迎えに行くと、診察室ではバケツ2杯分の腹水と、生気を取り戻したレイルが待っていた。
「大学病院の予約はもう済んでいるんですよね? なら良かった。お腹の水はある程度抜きましたが、たぶん心嚢水(しんのうすい)が溜まっているはずで、それはうちでは抜けないので……」
先生は、ゴールデンレトリバーにはよくある病気だとしつつ、「血管肉腫の可能性が高いと思う」と言う。
それは治る病気なのか、治らないのであれば余命はどれくらいなのかと問う私に「血管肉腫だと、一般的にはかなり厳しく、この状態になると2カ月くらいかもしれない。大学病院できちんと検査してみてください」
深刻な私たちの横で、レイルは体が楽になったのか、ニコニコしながら娘に撫でられている。
本当に、病気なのだろうか……? 先ほどまでは確かにぐったりしていたのだが、今の様子を見ていると、とてもそんな重篤な状態には思えない。
その後、私が診察代を支払い、娘がリードを手に取ると、来る時は大変な思いをして昇った階段を、レイルは軽やかに駆け降りた。
