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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
全身が毛皮で覆われ、汗腺も少ない犬は、熱中症になりやすい生き物です。人が少し暑いなと感じているときに、そばにいる犬は熱中症になっているかもしれません。そこで、犬の熱中症の症状や見分け方、応急処置や予防法などを、「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生に解説していただきます。
目次
- 犬はどんなときに熱中症になる?
- 熱中症になりやすい犬種、年齢は?
- 犬の熱中症の症状は?
- 犬の熱中症の見分け方は?
- 熱中症の犬を病院に連れて行くタイミングは?
- 病院での犬の熱中症の治療法は?
- 犬が熱中症になったときの応急処置は?
- 犬の熱中症を防ぐための予防策は?
- 散歩中の犬の熱中症対策は?
- 室内での犬の熱中症対策は?
- 留守番中の犬が熱中症にならないために注意すること
- ブラッシングや食事でできる犬の熱中症対策とは?
- 犬の熱中症の注意点は?
犬はどんなときに熱中症になる?
熱中症は外出時にだけ注意すればいいというイメージを持ちがちですが、実は屋内でも熱中症になるリスクはあります。特に気をつけておきたい状況について解説していきます。
家で過ごしているとき
人でも熱中症患者のうち40%が室内で熱中症になると言われています。家の中だからといって安心せず、犬が必要以上にハアハアと呼吸をしていないか、舌は赤くないかなども観察してあげてください。室内が高温多湿になると熱中症のリスクが高まります。窓を開けて風通しをよくしたり、気温が高い場合は除湿や冷房、冷感グッズを活用したりしましょう。
散歩中などの外出時
熱中症は夏だけではなく、気温が上がりはじめる春先でも注意が必要です。特に気温が高い日は、犬の様子を観察しながら散歩をしましょう。また、コンクリートの近くは熱が反射して、気温以上に暑さを感じやすくなっています。ダックスフンドやコーギーなどの背丈の低い犬は特に、コンクリートの道は避けたほうが無難です。
密閉された車内にいるとき
車の中は熱がこもりやすいため、天気が良い日は特に気をつけてください。日差しが強い日はあっという間に車内温度が上がるため、犬を置き去りにして車を離れるのは危険です。
熱中症になりやすい犬種、年齢は?
短頭種は特に熱中症になりやすい傾向があります。短頭種かつ子犬やシニア犬は、他の犬以上に気を使ってあげましょう。また、循環器や泌尿器、呼吸器などに持病をもっている犬も、熱中症には注意が必要です。
熱中症になりやすい犬種
短頭種のフレンチ・ブルドッグやブルドッグは特に暑さに弱い犬種とされ、短頭種のお預かりサービスをNGにしている航空会社もあります。また毛色が黒っぽい犬や、寒さに強いアラスカン・マラミュートやシベリアン・ハスキーなどのダブルコートの犬は、熱がこもりやすいため注意が必要です。
熱中症になりやすい犬の年齢
体が未熟な子犬や、体力がないシニア犬は、暑さへの抵抗力が低く、熱中症にかかるリスクが高いです。
犬の熱中症の症状は?
犬の体に熱がこもり、ぐったりした様子が見られたら、熱中症を疑いましょう。最悪の場合は命を落としかねません。軽度と重度、それぞれの症状について解説していきます。
軽度な熱中症
- 口を開けて「ハアハア」と呼吸が早い
- 体がいつもより熱い
- 舌や口の中の色が通常時よりも赤い
- 舌の先が巻いてくる
- 顔つきが変わり目に力がなく、具合が悪そうにうなだれている
- ぼーっとしたり、ふらついたりしている
- いつもより元気がなく、じっとして動かない
- おやつなど好物を与えても食べない
- 水を飲まない
- 大量のよだれを垂らす
重度な熱中症
このような症状が見られた場合、犬は熱中症に陥っている可能性があるため、すぐに動物病院へ行く必要があります。
熱中症は命を落とす危険がある!
熱中症は早期発見と早期対処が重要です。犬が熱中症の初期症状を見せていることに気づかないでいると、病院に連れて行ったときには多臓器不全など取り返しのつかない状態で、最悪の場合は命を落としてしまう危険もあります。犬は人よりも熱中症になりやすいので、人にとっては涼しいと感じる気候でも、犬が熱中症になっていないか注意してあげてください。
犬の熱中症の見分け方は?
気温と湿度が高い日は体調を崩しやすく、犬が熱中症になる可能性が高まります。熱中症かほかの体調不良かを見分けるためには、日頃から愛犬の様子をよく観察しておきましょう。顔つきや体に触れた時の体温、普段の行動などを見ておくと体調の変化に気づくことができます。犬は体温が急上昇すると、口を開けて「ハアハア」する、パンティングと呼ばれる呼吸をします。犬は人の体と異なり汗腺が体全体に発達していないため、パンティングをすることで唾液を蒸発させ熱を放散し体温を下げるのです。熱中症のときは、このパンティングが普段よりも速く荒くなります。「熱中症かも?」と思ったら、パンティングをしていないかよく様子を見てください。
熱中症の犬を病院に連れて行くタイミングは?
犬に軽度な熱中症の症状が見られた段階でも、動物病院を受診するのが望ましいです。犬が自力で立てない、意識がもうろうとしているなどの症状が出ている場合は非常に危険です。すぐに病院へ連れていきましょう。
病院での犬の熱中症の治療法は?
症状によって対応が異なるため、治療法や料金は動物病院によっても変わってきますが、主な治療法と治療費・入院費の目安について解説します。
犬の熱中症の治療法
症状によって治療方法が異なりますが、一般的には体を冷やした上で、脱水している場合は点滴をすることが多いです。重度の場合は血液検査をしたり、投薬をして治療したりします。
犬の熱中症の治療費、入院費の目安
症状が軽度か重度化によって治療費も変わります。軽度であれば、診察料、血液検査、点滴、注射などの処置で、30,000円前後が目安になるかと思います。入院をする場合はそれ以上かかりますが、病院により費用設定が異なるため獣医師やスタッフに確認すると良いでしょう。
犬が熱中症になったときの応急処置は?
室内であれば、エアコンや扇風機を使って涼しい風を送れる環境を整えましょう。屋外にいるときは、木陰など日の当たらない場所に移動し、涼むことが大切です。水が飲める状態であれば、少しずつ飲ませてあげてください。太い血管がある首、内股、脇の下にお水をかけたり、保冷剤を使って冷やしたりすることも効果的です。ただし、冷やしすぎないよう注意しましょう。
犬の熱中症を防ぐための予防策は?
犬に適した気温と湿度を保つよう心がけましょう。事前に熱中症週間予報を見て予定を決めることも効果的です。
犬に適した温度・湿度
犬の平熱は38~39℃と人間よりも高めです。そのため、温度は18~25℃、湿度は40%~60%と、人が好む気温と湿度よりやや低めが適しています。犬は人間よりも体が小さいので、室温と湿度を測るときは、愛犬の高さで計測するようにしましょう。
犬の熱中症週間予報を事前にチェックしておく
事前に確認しておくことで、気温や湿度に配慮して予定を組むことができます。犬種や年齢などに合わせてチェックしましょう。最近は「犬の熱中症週間予報」など、犬のための天気予報もありますので、気になる方はそちらもあわせて確認してみてください。
散歩中の犬の熱中症対策は?
季節によって散歩をする時間帯を変えましょう。特に日差しが強くなる時期は、路面の温度が高くなるため、早朝や夜などに散歩をすることで、犬の熱中症を防げます。その日の犬の体調や、年齢、犬種によっては、真夏の屋外の散歩は避け、室内のドッグランを活用するのも良いアイデアです。
また、冷たい水を用意し、体を冷やす洋服やクールネックなどを犬に身につけさせて、できるだけ木陰を歩けば、暑い日も心地よく散歩を楽しむことができるでしょう。
室内での犬の熱中症対策は?
エアコンをうまく活用し、犬が快適に過ごせる環境を整えてあげてください。風が直接当たらないか、日当たりが強すぎないかなどを確認しておきましょう。
カーテンで日差しを防ぐ
暑い日の室内でも、犬は日向を好むことがあります。短い時間であれば問題ありませんが、長時間、日に当たり続けてしまうと熱中症になる危険があります。カーテンなどで日光を遮断し、扇風機などで風を送ってあげるなど工夫しましょう。
必ずエアコンを使用する
暑い季節のエアコンは必須です。犬がいる部屋は少し涼しくなるように設定してあげてください。また、風向きも配慮してあげましょう。エアコンの設定温度を18~25℃にし、風が直接当たらないようにするのが望ましいです。
ケージを置く場所に注意
犬をケージで留守番させる場合は室内の温度に気を使いましょう。ケージを窓辺においている場合は日差しが当たらない場所に移動させ、エアコンの風が犬に直接当たらないかを確認してください。
ひんやりグッズを利用
室内の暑さ対策として、接触冷感タイプのマットや大理石タイルなどを使うことで、手軽に犬の体を冷やすことができます。
留守番中の犬が熱中症にならないために注意すること
犬をケージで留守番させる場合は、日差しが当たらないか、こまめに水分補給ができるかなどを確認しておくことが大切です。
ケージの場所を日光が当たらない場所に移動する
夏場は時間帯によって、犬のケージに日が強く当たることが考えられます。太陽の光が当たると、ケージ内の室温が上がるため注意が必要です。日が当たらない場所に移動しておきましょう。
犬に適した室温をキープできるようにする
犬に適した室温は、季節や犬の年齢、犬種によって若干変わります。室温は約18~25℃、湿度は40~60%が適切とされていますが、人間の体感で設定すると犬にとっては少し暑い可能性があります。状況を見ながら、人が少し涼しいと思うくらいの室温を保ちましょう。
いつでも犬が水を飲めるようにしておく
犬がいつでも新鮮な水で水分補給ができるようにすることが大切です。水が循環する給水器を使用するなど、意識して水分を与えましょう。犬が1日に摂取する水分量の目安は、食事に含まれる水分も含み体重1kgにつきおおよそ70mlです。
ブラッシングや食事でできる犬の熱中症対策とは?
犬の被毛が多いと体に熱がこもってしまうため、熱中症の原因にもなり得ます。日頃からブラッシングを習慣にして無駄な毛をなくすことで、犬の体に熱がこもりすぎてしまうのを防ぐことができます。
食事については、暑い季節は水分をたくさん含んだフードを与えてあげてください。特に、缶入りのウェットフードは水分量が多いため、ドライフードよりも多くの水分を取り入れることができます。フードを手作りする場合は、汁だくのものを作るのが良いでしょう。また、きゅうり、トマト、アスパラ、梨、ズッキーニなどの夏野菜や果物は、水分補給と同時に体を冷やすことができるので、夏に犬に与えるには最適です。
犬の熱中症の注意点は?
暑い季節はどんな場所でも、犬は熱中症になるリスクがあります。たとえ人が涼しいと感じていても、犬には暑いケースがあるので、こまめに様子を見てあげてください。また、お子さんのいる家庭では子どもに気を取られてしまいがちなので、家族での外出の際は忘れずに犬の様子も観察するようにしましょう。
第2稿:2021年5月21日更新
初稿:2020年6月29日公開