更新 ( 公開)
バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
大好きな愛犬の顔や体、肉球に顔をうずめてその匂いを吸い込む「犬吸い」。疲れやストレスを癒し、リラックスできることから、犬吸い中毒になっている飼い主も多いようです。しかし、犬吸いされている犬は一体どんな気持ちになっているのでしょうか? この記事では、犬吸いがもたらす効果や、される側の犬の心理、犬吸いをする際の注意点などを、バーニー動物病院千林分院分院長で獣医師の堂山有里先生監修のもと詳しく解説します。
目次
- そもそも「犬吸い」とは?
- 犬吸いが飼い主にもたらすと言われている効果は?
- 犬吸いをされる側の犬の心理は?
- 犬吸いをする際の注意点は?
そもそも「犬吸い」とは?
「犬吸い」とは愛犬のもふもふとした顔や体、肉球に顔をうずめながら、思い切りその匂いを吸う行為のこと。犬を“吸う”と聞くと驚く人もいるかもしれませんが、「大好きな愛犬の匂いで心が落ち着き、幸せな気持ちになる」と多くの愛犬家の間で、話題になっています。その多幸感から、やみつきになってしまう飼い主も少なくないようです。
犬吸いが飼い主にもたらすと言われている効果は?
犬吸いがもたらす飼い主にもたらす効果には、大きく分けて2つの「癒し効果」が考えられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
触覚による癒し効果
さまざまな研究で、動物とのふれあいがストレス軽減に役立つとわかってきています。動物に触れることで、愛情ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」が分泌され、心身のリラックス効果につながるためです。愛犬に顔を埋める犬吸いも、一種のアニマルセラピーとして機能していると言えるでしょう。
匂いによる癒し効果
匂いは、脳の学習や記憶・情動に関わる大脳辺縁系に、直接働きかけます。そのため、大好きな犬の匂いを嗅ぐと、強烈な心地よさや幸せな気持ちが感じられ、アロマテラピーのような効果がもたらされると考えられるでしょう。さらに、匂いは脳の視床下部を通り、自律神経や内分泌機能に影響を与えると言われています。そのため、自律神経を通して直接的なリラックス効果が期待できるでしょう。
犬吸いをされる側の犬の心理は?
スキンシップが大好きな犬だったら、飼い主の犬吸いを大歓迎し、嫌がる素振りを見せずに飼い主の側を離れることはないでしょう。ただ、中には犬吸いのような過度なスキンシップを嫌がる犬もいます。犬は人間の言葉を喋りませんが、代わりに全身で今の気持ちや相手に伝えたいことを表現しているもの。もし、犬吸いをしたときに「カーミングシグナル」と呼ばれる行動が見られたら、犬は少し嫌がっているかもしれません。カーミングシグナルとは、犬がある種のストレス状態にあるときに見せるしぐさのことを指します。自分を落ち着かせたり、興奮を鎮めようとしたりするときに出すサインです。以下のようなカーミングシグナルが見られた場合、犬吸いは控えましょう。
- まばたきが多くなる
- あくびをする
- 頭をブルブルと振る
- 鼻をぺろっと舐める
- 顔を背ける
- 体をかく
- おしっこをする
- 視線を合わせない
- 伸びをする
- 目を細める
犬吸いをしすぎると愛犬に嫌われる?
スキンシップが大好きな犬もいるため、犬吸いのしすぎで嫌われるとは一概に言えません。しかし、スキンシップが苦手な犬に無理やり犬吸いを続けると、当然嫌われる可能性は高くなります。もちろん、スキンシップ好きな愛犬でも、犬の許容範囲を超える過度な犬吸いは嫌われる場合があるので注意してくださいね。カーミングシグナルや犬の行動から判断して、ストレスサインが見られるときはしつこくスキンシップしないようにすると良いでしょう。自分の気持ちだけでなく、犬の気持ちも考えることが大切です。
犬吸いをする際の注意点は?
犬吸いをする際には衛生面などにも注意が必要です。犬吸いをする際に飼い主が気をつけるべき点を詳しく見ていきましょう。
ズーノーシス(人獣共通感染症)に注意
人と動物の間でうつる病気を「ズーノーシス(人獣共通感染症)」と言い、犬から人だけでなく、人から犬にうつる可能性も。ズーノーシスは世界に約150種類あり、このうち日本には約50種類の感染症が確認されています。なかには重症化リスクや、命を落とす危険性の高い感染症もあるため、十分な注意が必要です。
2006年6月1日に改正された「動物の愛護及び管理に関する法律」では、飼い主の責務として「動物による感染症について正しい知識を持ち感染症の予防のために必要な注意を払うこと」が明記されました。ズーノーシスの原因のひとつは口移しでご飯をあげたり、同じ食器を使ったり、一緒に寝たりなどの過剰な接触で、もちろん犬吸いも同様です。ズーノーシスを予防するためには、愛犬の体や生活環境を清潔に保つこと、犬がゴキブリやネズミなどの病原菌を媒介する昆虫や動物を口にしないよう注意することが大切でしょう。
飼い主が花粉症の場合は注意
犬の毛にはさまざまなものが吸着しやすいので、アレルギーを持っている飼い主は注意しましょう。特に散歩帰りの犬の被毛にはたくさんのちりやほこり、花粉などがくっついています。その状態で花粉症を持つ人が犬吸いをすると、症状が悪化する恐れがあるでしょう。
シャンプーをしてから吸う
花粉やほこりなどのアレルゲンだけでなく、犬の毛に病原体が付着している可能性もあります。感染症を予防するためにも、犬の体を清潔にしてから犬吸いをしたほうが良いでしょう。定期的にシャンプーをして、体を清潔に保つようにしてあげてくださいね。
嫌がっていたらすぐやめる
犬がストレスを感じたときに出すカーミングシグナルをしていないかよく観察するようにしましょう。もし記事内で紹介したようなカーミングシグナルが見られる場合、犬吸いを嫌がっている可能性が高いです。何度もカーミングシグナルが出ていたら、犬吸いをやめるようにしてくださいね。