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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
家のインターホンが鳴ったり散歩中に車やバイクが近付いたりしたとき、愛犬が激しく反応して吠えてしまうということはありませんか? 飼い主がなだめようとしても、興奮した犬には声が届かないことも多いでしょう。この記事では、犬が無駄吠えしてしまう理由と、その予防・対処法について、動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生監修の元、解説します。
目次
- 犬の「無駄吠え」ってそもそも何?
- 犬の無駄吠えの主な事例と吠える理由は?
- 無駄吠えしやすい犬種や性格は?
- 犬に無駄吠えをさせないために普段からできる予防策は?
- 犬が無駄吠えをやめないときの対処法は?
- 犬の無駄吠えをやめさせるには、吠えの理由を見極めることが大事
- 犬の無駄吠え防止グッズは効果がある?
- 犬の無駄吠えが病気のサインになることもある?
犬の「無駄吠え」ってそもそも何?
「無駄吠え」と聞いて、皆さんはどのようなシーンを思い浮かべますか? 無駄吠えの定義は、飼い主ごとに異なります。飼い主の目線で「無駄」な吠えのことを指し、いわゆる問題行動としての吠え、またはささいな刺激に過剰に反応して吠えることを「無駄吠え」と呼ぶようです。獣医行動診療科では、問題行動としての吠えを「過剰咆哮」と言います。
ただし、犬の目線で考えてみると、多くの場合は「吠え」に理由や意味があるものです。その吠えが犬にとってどんな意味を持つかによって、飼い主の望ましい対応も変わります。まずは、なぜ愛犬が無駄吠えをしているのか、犬の心を理解することが大切です。
また、現在家庭で飼育されているイエイヌは、祖先であるオオカミと比べてよく吠えると言われています。これは、人が犬を人のパートナーとして家畜化する過程で起こったことで、よく吠える犬種は元々の与えられた仕事として吠えが役立ったのだと考えられます。
犬の無駄吠えの主な事例と吠える理由は?
前章の通り「無駄吠え」かどうかは、飼い主の感じ方やそのときの環境によって変わります。例えば、番犬として知らない人に吠えている場合、それは無駄吠えとは言えません。その点を踏まえて、犬がよく吠える主なシーンを紹介します。
インターホンや来客に吠える場合
縄張りを守るため、または恐怖から吠えることがあります。また、「インターホンが鳴ると知らない人が来る」と学習していると、インターホンが鳴っただけで吠えるようになる犬も多いです。多くの場合は、犬が吠えている間に訪問者や家の前を通った人や動物は去っていくでしょう。それによって、犬は「自分が吠えたことでテリトリーを守れた」と学習し、吠えは悪化していきます。
家の中から外の車や人に吠える場合
インターホンの例と同じように、多くは縄張りを守るため、または恐怖から吠えています。犬が吠えている間に車や人が去っていく経験を重ねると、吠えが自分を恐怖から身を守るために有効だと学習して悪化していきます。
散歩中に他の人や犬に吠える場合
怖がりな性格や社会化の不足によって、他の犬に対して恐怖から吠える犬が多くいます。また、とてもフレンドリーな犬は吠えることで他の人や犬との交流を要求することも。そのまま放っておいたり、無理に犬を他の犬と交流させると吠えは悪化してしまいます。
家族の食事中に吠える場合
犬が「要求」として吠える場合は、飼い主から目を離さず、飼い主に向かって吠えます。要求の種類はさまざまで、ご飯がほしい、ケージから出たい、飼い主に注目されたいなども考えられます。要求として吠えている場合、飼い主がしっかりと無視して要求に応えないでいれば、犬は吠えなくなるでしょう。しかし、時々でも要求に応じることがあれば吠えは悪化するので注意が必要です。
家族が外出の準備中に吠える場合
大好きな飼い主が外出することは、犬にとって大きな出来事です。飼い主が外出の準備をしているときから不安を感じる犬は多いでしょう。また、吠えることで飼い主が相手にしてくれると学習すると、さらに吠えるようになることもあります。
留守番中に吠える場合
飼い主と離れることに、不安を感じて吠える場合もあります。それ以外にも、大きな怖い音がしている、犬の縄張りに近づく人がいるなど、さまざまな原因が考えられるでしょう。飼い主がいるときには吠えない刺激に対しても、飼い主がいないことでは不安が強まり吠えることも考えられます。この場合は放置すると悪化することが多いので、吠えの原因を探す必要があります。
夜中に吠える場合
夜鳴きは飼い主が眠れないばかりか、近所トラブルにもつながる深刻な問題です。理由はさまざまであり、早期に解決できる場合も多いので専門家に相談してみてください。
シニア犬になってから急に吠える場合
認知症の症状として諦めたり、睡眠薬で眠らせることで解決できると期待されることも多いですが、実際には理由がちゃんとあり、しっかり対応をすることで改善できる場合もあります。獣医師に相談してみるといいでしょう。
犬の無駄吠えは放置しない方がいい?
上記以外にも、犬が吠える理由はたくさんあります。無駄吠えは、放置すると悪化することがほとんどです。飼い主が対応に困っている場合は、どんなときに吠えるのかをよく観察し、犬が吠えているところを動画に撮って専門家に相談してみてください。
無駄吠えしやすい犬種や性格は?
吠えやすさは、他の行動に比べると犬種差が出やすいと言われます。
吠えやすい犬種
・シェットランド・シープドッグなど牧羊犬
・ダックスフンド、ビーグルなどハウンド犬
・ヨークシャー・テリア、ジャック・ラッセル・テリアなどテリア犬
いずれも、本来与えられた仕事で吠えることが良いとされていたものです。
吠えやすい性格
吠えやすい性格というものもあります。警戒心が強く、神経質な犬はよく吠えるでしょう。また、小型犬は大型犬と比べて落ち着きがない犬が多いと言われています。
子犬やシニア犬の場合
子犬は、要求や刺激への興奮として吠えることが多いものの、縄張りを守るため、警戒しているから吠えるという本格的な吠えには発展していません。生後6カ月を過ぎたあたりから吠えが悪化することが多いのも特徴です。
シニア犬の場合は、不安や体の痛み・不快が出やすく、若い頃には吠えなかった犬でも吠えるようになることがあります。
犬に無駄吠えをさせないために普段からできる予防策は?
愛犬に無駄吠えをさせないために、飼い主は日頃からどんな対策ができるのかを見ていきましょう。
子犬期の社会化
成犬になってからの深刻な無駄吠えは、怖いものから守りたい、縄張りを守りたいといった警戒からくる行動であることが多いです。子犬のうちに、さまざまな動物やものに慣れさせておくことが役立ちます。
子犬期から吠えを放置しない
子犬期には要求や刺激への反応として吠えることがありますが、その時から「吠えると要求が叶う」と学習してしまうと、多くの自己表現を吠えることでするようになります。また、吠えは悪化しやすい行動なので、子犬のうちからやめさせるように飼い主が接し方を考える必要があります。
安心できる環境作り
吠えのきっかけとなる刺激を少なくすることは、吠えを減らすために有効です。窓から通行人や来客が見えにくくしたり、インターホンの音量を小さくしたり、すぐにできることから試してみましょう。
また、犬が安心できる場所をつくることも大切です。犬がくつろげそうな場所に、犬用ベッドやクレートなどを複数用意してあげましょう。犬が快適で落ち着ける生活を与えるように心がけてください。
運動をさせる
エネルギーがあり余っていると、さまざまな場面でより激しく吠えるでしょう。散歩や室内遊びで体をたくさん動かしたり、同時に頭を使うような遊びができると、エネルギー発散になります。知育玩具を使ってひとり遊びさせるなど、愛犬の認知活動を促すことも吠え予防には効果があります。
飼い主との信頼関係を築く
吠えやすい犬種であっても、飼い主の指示で吠えをやめさせられるようにすることができます。そのためには、まず飼い主と愛犬との間に信頼関係が築かれているかがとても重要です。日頃から犬にたっぷりと愛情を注ぎ、犬にとってわかりやすい一貫したルールを持って交流するようにしましょう。
飼い主の指示に従って一緒に作業することを犬が楽しめるように、アイコンタクトや「おすわり」「ふせ」「待て」「おいで」などのコマンドトレーニングも役立ちます。決まったルールを守れたら、たくさん褒めてあげてくださいね。
犬が無駄吠えをやめないときの対処法は?
前章のような予防策をしっかりとした上で、もし愛犬が無駄吠えしてしまったときには、「静かに」「おすわり」「ふせ」などの指示で落ち着かせましょう。
それでも無駄吠えをやめない場合は、犬が安心できる環境がつくれているか、運動不足でエネルギーを持て余していないかなど、予防策を振り返ってみた上で、専門家に相談してください。
犬の無駄吠えをやめさせるには、吠えの理由を見極めることが大事
吠えへの理想的な対応は、吠えの理由によってまったく異なります。愛犬の無駄吠えをやめさせるためには、なぜ吠えていのるかをしっかりと見極めなくてはいけません。
例えば、飼い主の関心を得るために吠えている場合には、無視をして応じないことが有効ですが、来客に吠えている場合は放置して吠え続けさせることで「吠えたら人を追い払える」と学習して悪化します。
同じように、痛みがあって吠える場合はなだめることで一時的な吠えが改善するかもしれませんが、飼い主の関心を得たくて吠える場合は、なだめたり声をかけたりすることで悪化するでしょう。
一般的には、吠えること自体が吠えを悪化する行動だとも言われています。放置することで悪化する可能性が高いので、要求や関心を得るための吠えだと飼い主が確信できる場合を除いて、放置はしないようにしましょう。なかなか吠えが直らず悪化する場合は、早めに専門家に相談してください。
犬の無駄吠え防止グッズは効果がある?
犬の無駄吠え防止グッズも市販されています。それぞれの特徴を見てみましょう。
無駄吠え防止口輪
メッシュタイプのものや、アヒル口タイプの口輪があります。メッシュタイプのものは、短時間の限られた状況下で吠えないように制御することができますが、犬がパンティングできず、水を飲んだりものを食べたりすることもできないので、長時間の利用は危険です。アヒル口タイプは、犬に対しての負担は少ないですが、完全に口が閉じるわけではないのでまったく吠えなくすることは難しいでしょう。
無駄吠え防止首輪
匂いがついたスプレーが出るもの、震えるもの、電気ショックが与えられるものまで種類があります。これは首輪自体が吠えを感知して作動するものと、リモートで飼い主がスイッチを押して作動するものに分かれます。いずれも吠えに対して罰を与えるものであることから、一時的には有効です。しかし、どんどんとその罰の強さを上げないと効果がなくなることが多く、犬への負担も大きいです。
吠えは、犬が感じている不安や恐怖に関連したものが多いですが、罰を与えるタイプのグッズはさらに恐怖や刺激を与えることになります。根本的な解決には繋がらないと考えられるのでおすすめできません。
犬の無駄吠えが病気のサインになることもある?
吠えに関して、いつもと行動パターンが変わった場合は、一度動物病院を受診して健康状態をチェックしましょう。愛犬が今まで吠えなかった場面で吠えるようになった場合、体に何らかの痛みがあったり、病気や体調不良が原因で不安が増している可能性もあります。逆に、普段よく吠える犬が吠えなくなった場合にも、病気や体調不良により元気がなくなっているかもしれません。
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