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「Googleの横にカインズ」違和感しかないb8ta出店の謎

スタッフ

関 剛士

関 剛士

カインズ b8taプロジェクト事務局。1996年に入社し、6店舗で店長を経験。その後、eコマース事業部、中国事業部などを経て現職。群馬県前橋市出身、高崎市在住の生粋のグンマ―。趣味は洗車と音楽。

小売革命なるか。b8taにカインズが出品する狙い

違和感しかない――。Googleなどの最新ガジェットと一緒に、カインズのごく普通の生活用品が陳列されているらしい。

2020年8月、日本に初上陸したb8taストアでの話だ。

b8taとは、世界中のイノベーティブな製品を紹介するシリコンバレー発の体験型の小売店。アメリカでは新しいモノ好きたちから注目を集め、RaaS(Retail as a Service)のパイオニア企業として、小売業に革命を起こすのではないかと期待されている。

なぜ、そのような最先端のb8taストアに、カインズのような“ごく普通”のホームセンターの商品が出品することになったのか。

「場違いなんじゃないか?」と本音をこぼす、カインズのb8taプロジェクト事務局・関剛士に話を聞いた。

カインズ b8taプロジェクト事務局 関剛士

カインズ b8taプロジェクト事務局 関剛士

RaaSのパイオニアb8taの正体

b8taは2015年、最新ガジェットを発見できる体験型の小売店として、サンフランシスコ近郊のパロアルトでオープンした。2020年1月現在、アメリカで24店舗、ドバイで1店舗を運営し、急成長しているRaaSのパイオニアだ。

RaaSのパイオニアb8ta

RaaSとは、Retail as a Serviceのことで、日本では「サービスとしての小売」あるいは「小売のサービス化」などと呼ばれる。簡単に説明すると、ECサイトなどのオンラインでしか商品を販売できていないスタートアップ企業やブランドなどに対して、リアルの店舗スペースを貸し出すサービスだ。

b8taは店舗内を一定の区画(1区画、約60cm×40cm)に分け、その区画を月額で提供する「実店舗のサブスクリプション」モデルを提供している。しかし、ただ単に、店舗スペースを貸し出すだけではない。

実店舗のサブスクリプションを提供するb8ta

「実店舗への出品をまるでオンライン広告を掲載するのと同じくらい手軽なもの」にすることを目指しているb8taでは、店員やシフト管理、在庫管理といったリアル店舗につきまとう煩雑な業務も同時に提供している。そのため、スタートアップ企業にとっては、実店舗に出品するハードルが劇的に下がることになる。

たとえば、ある企業が家電量販店などの実店舗に商品を陳列するためには、一般的に次のような課題があるとされている。

  • 売上に対するマージンを支払う必要がある
  • 人件費がかかる
  • 什器代がかかる
  • 売り場のコントロールが難しい
  • 価格のコントロールが難しい
  • 顧客データが開示されない

b8taによる実店舗出品の課題解決

しかし、b8taへの出品では、これらの不安が解消されることになる。

売上に応じたマージンは一切発生せず、定額の区画代のみ支払えばよい。また、b8taストアのスタッフが売場での接客から在庫管理、POS(販売時点情報)管理、商品配送までのオペレーションをすべてこなすため、人件費、店員のトレーニング、什器も不要だ。

スタートアップにとって、b8taへ出品するメリットは大きい。

では、どうしてスタートアップの真逆ともいえる老舗ホームセンターが、b8taに出品するのか?

カインズは2019年度の売上高ランキングは業界トップ。2020年5月現在、国内に218のリアル店舗を展開し、b8taに出品する理由は見当たらない。

しかも、取り扱っている商品のほとんどはガジェットとは程遠い、ふつうの生活用品だ。

b8taとカインズの関係

b8taストアが、日本に初上陸したのは2020年8月1日。新宿マルイ本館の「b8ta Tokyo – Shinjuku Marui」(以下、新宿店)と、有楽町電気ビルの「b8ta Tokyo - Yurakucho」(以下、有楽町店)の2店舗を同時に出店した。

b8taはそれに先立ち2020年1月、b8ta JapanをベンチャーキャピタルEvolution Venturesと合弁で設立している。そのb8ta JapanにEvolution Venturesを通じて出資したのが、丸井グループ、三菱地所、そして、カインズだった。

カインズ b8taプロジェクト事務局 関剛士

「そもそもカインズがb8taに出品する背景には、たしかに資本関係がベースにあります。しかし、そうした関係がなくても遅かれ早かれ、カインズはb8taに出品していたはず」——そう語るのはカインズのb8taプロジェクト事務局の関だ。

しかし、いざ出品準備を進めてみると「カインズには場違いなんじゃないか」という心配が関の頭をよぎった。特に、有楽町店のブースがGoogleの横だと聞いた時は「地方のホームセンターのオリジナル商品が、グローバル企業の最新ガジェットと同じステージに立って大丈夫か!?」と焦ったという。

b8taオープン準備中の有楽町店ブース

b8taオープン準備中の有楽町店ブース

その反面、関には自信もあった。

カインズのオリジナル商品は、日常のPain、不便を不便と思わずに生活している事柄の解決をミッションにしている。「要するに、デジタルかアナログかの違いだけ。むしろミスマッチ感を楽しんでもらえれば、逆においしい」と強気だ。

「まだ日本の多くの方、とくに都心部にお住まいの方は、ホームセンターが自社で開発した商品と聞くと、“安価でそれなりの品質と機能”という固定概念を持っていると思います。でも、カインズの商品開発に対する本気度ってちょっと他と違うんです。

カインズでは単品で売れるものを思い付きで開発しているのではなく、すべての商品を“世界を日常から変える”という強烈なコンセプトのもとで開発しているんです。

たとえば、カインズのキッチン用品やランドリー商品は、実は国内トップクラスの売上ですが、その理由は、日常生活の中で“なるほど確かに”を感じる工夫を随所にちりばめているからです。

今回、b8taに出品する商品についても、都心部の方々には、“なるほど確かに”と感動していただく自信があります。むしろ、ガジェット好きの方々には、新鮮に映るかもしれませんね。ご自分も気づいていないpainを解消させていただきますので(笑)」

カインズがb8taに出品する16商品

カインズがb8taに出品するオリジナル商品は、次の16点。生活シーンを4つのテーマに分けて提案する。

カインズがb8taに出品するオリジナル商品16点

カインズがb8taに出品するオリジナル商品16点

 

【楽カジ】

【SMALL SPACE】

【CREATIVE DIY】

【& Pet】

以上の出品商品はすべて、カインズの約200店舗に寄せられた顧客の声と、顧客と実際に接する機会の多い店舗メンバー約1万人の声を集め、開発に取り入れたものだ。

「たとえば、この何の変哲もない菜箸ですが、“料理中に箸を置く場所に困る”という何気ないpainを解決するために、そのまま台所に置いても先端が付かないように設計されています。台を汚さず、転がらず。“禅みたいな箸”が裏コンセプトです」

インテリアハンガーは、洗濯物を取り込んだり、竿に掛けたりする際の負担を軽減するために、下から持ちやすいハンドルを付けている。ピンチの先はローラー形状で、洋服を引っ張るだけで外れる仕組みだ。

スパッと切れるラップケースは、ラップを切る際、斜めに力を入れないと切れない、という無意識のpainを解消するために開発された。フタを閉めるだけでスパッと切れる構造だ。使用後の巻き戻りもないので次に使うときに便利。裏面にはマグネットが付いているので、冷蔵庫にもくっつく。

「カインズのオリジナル商品は、“世界を日常から変える”というブランドメッセージの下、生活シーンを想像するところから生まれていて、それが“楽カジ”であったり、“&Pet”であったり、“SMALL SPACE”といった今回のコンセプトだったりするわけです。

ハンガー一筋20年みたいな開発者が細部までこだわって開発しているので、b8taで実物を手に取っていただければ、きっと“WOW!”と感じていただけるはずです」

新しいホームセンター像をお見せしたい

カインズは、b8taへの出品にあたって、次の目的を掲げている。

  1. カインズブランドのプロモーション、店やECなどの認知アップ
  2. オリジナル商品の開発、アイディア発掘の場としての効果判断

カインズの課題は、ずばり東京都心部に在住している方、流行や新しいモノが好きな方にリーチできていないこと。これまで地方に大型店舗を出店して成長してきたが、その反面、都心部での認知度が低い。

「カインズに行ったことがない、名前しか知らない、もしくは名前すら知らない方、さらに言うならホームセンターという言葉を聞いて、都心部にある生活雑貨店や家具店を想像するような方々に、b8taへの出品を通じてカインズの哲学について知ってもらいたい」と関は語る。

カインズ b8taプロジェクト事務局 関剛士

カインズにとって、b8taに出品するメリットは、それだけではない。

b8ta店内では、複数のカメラが顧客の行動をトラッキングしている。

そして、その顧客データを出品企業にリアルタイムで提供。顧客の年齢、商品の前を通り過ぎた顧客の人数、5秒以上立ち止まった顧客の人数、スタッフがデモを実施した回数、販売実績などの消費者データがリアルタイムで出品企業にフィードバックされる。

価格の設定や店員の接客方法についても、出品者がリアルタイムで変更でき、接客での会話内容もフィードバックされる。そのため、リスクをおかして東京都内に直営店を展開しなくても、b8taに出店すれば商品改良やテストマーケティングを試しやすいというメリットがある。

カインズはいま急速にデジタルシフトを進めており、b8taの売場データを活用し、「これまで以上に楽に、楽しく、心地よく、“なるほど確かに”を感じる商品」を開発していく計画だ。

「カインズ自体の店舗も、デジタル化をどんどん進めているので、b8taへの出品は商品開発だけでなく、新たなサービスや店舗の開発など、複次的な効果があると私自身も期待しています。近い将来、新しいホームセンター像をお見せしたいですね」

b8ta新宿店、b8ta有楽町店では、カインズのようにガジェット製品ではないモノを出品している企業も多い。ライフスタイル、ファッション、チョコレート、ビール、伝統工芸品など多種多様な製品が並ぶ。

「購入目的でなくても良いので、ぜひお店で体験、発見して、楽しんでみてください。b8taに並んでいる商品は、カインズ以外のモノも優れていて面白いですよ。

あ、でも、箸先がつかない菜箸は税込398円なので、ご来店いただいた際は記念に買って帰っていただけるとうれしいです(笑)」

b8ta × CAINZ特設サイト

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