汚部屋から“生活感のない家”へ。整理収納アドバイザー「自分が効率よく動くための収納を」
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目次/ INDEX
最近、やけに地震や大雨が多い! ……そう感じませんか?
実際に、大きな地震はデータ上でも増えています。気象庁の震度データベースによると、2022年前半は震度5弱以上の地震が6回発生していますが、これは2021年の同時期と比べるとちょうど2倍です。
大雨による災害も増えています。気象庁のアメダスによると、1時間に50mmを超える大雨の平均年間発生回数は、統計期間の最初の10年間に比べ、直近10年間で1.4倍に増加しています。
もはや日本に住んでいる以上、災害への備えは、老若男女を問わず必須です。いざという時に、周囲の人に迷惑をかけないためにも、自分の身は自分で守ることが大事になっています。が、しかし! 防災意識の低い方がまだまだいらっしゃいます!
……ということで今回、防災について一家言を持っている、ハンズとカインズの防災用品の担当バイヤーに集まってもらいました。
大仲秀孝
ハンズ 商品本部 防災用品担当バイヤー
防災士の資格を持ち、「多様性社会の防災=それぞれにとって必要な防災用品」の視点から、防災グッズに関する情報を発信。「日常」と「非日常」の境目をなくし、いつもの生活や暮らしの中で普段使いができる防災用品の提案をしている。
簾野祐司
カインズ プロ事業部 PROツール部 防災用品担当バイヤー
店舗での経験を経て金物担当バイヤーに着任。防災用品に関して普段時はもちろん、災害時でもお客様に早く提供するをモットーに品ぞろえを強化している。DIYが好き。
私も同じ理由で呼び出されました。ハンズの防災用品を担当している大仲です。
大仲さんは防災士の資格を持ってるんですよね?
はい、「日常」と「非日常」の境目をなくして、普段使いできる防災用品の提案をしています。
※防災士とは、社会のさまざまな場で減災と社会の防災力向上のための活動が期待され、かつ、そのために十分な意識・知識・技能を有するものとして、日本防災士機構が認定した人たちのこと。
おふたりさん、待ちくたびれましたよ。
ん?
スーーーッ!!
あ、あなたは……!
木原実
1960年7月17日生まれ。テレビ番組でもおなじみの気象予報士・防災士・俳優・ナレーター。
日本を代表する気象予報士にして防災士の木原実さん!
びっくりした! レジェンドがなぜここに!?
イチオシの防災グッズをご紹介いただけると聞きましてね。ところでその前に、僕からもお二人に、防災の授業をさせてもらってもいいですかね?
えっ……?
テレビのお天気コーナーは尺が短くて、防災に対する僕の熱い想いをしゃべり足りないんですよね。
そ、そうなんですか……!?
それから、ほとんどの人が「備蓄」から防災を考えがちなんですが、死んでしまったら備蓄していても使えませんよね?
防災意識をアップデートすれば、もっと防災グッズや備蓄の重要性を理解できますから……!
……。
……。
よし! それでは授業をはじめます!
レジェンドのオーラにぐうの音も出ない二人。防災グッズを机上に並べたまま授業に突入
まずはこちらをご覧ください! 気象庁の観測データです。
緑は年間の時間50ミリ以上の雨の回数。赤い線はその増加傾向をしめす「全国(アメダス)の1時間降水量50mm以上の年間発生回数」(気象庁ホームページより)
1時間に50mm以上の非常に激しい雨が降った回数が、1975年から右肩上がりで増え続けているのがわかりますよね?
は……はい。
空気が温まると、空気中の水蒸気の量が増えて、雲ができたときに強烈な雨を降らせる、それが天気のメカニズムです。
木原さん、このグラフは、地球の温暖化によって大雨や台風も増えている……ということなんでしょうか?
レジェンドを前に興奮を隠せないバイヤー
いい質問です! そう考えたいところなんですが、一概にそうとも言い切れません。
台風に関しては温暖化によって上空も温まるので、地上との温度差は広がらず、上昇気流が穏やかになります。そうすると積乱雲の勢いが弱まるので、強い台風が発達しづらくなるとも考えられます。
台風は温暖化と関係ない可能性もあると……!?
はい、気候変動の解明は難しく、科学的には諸説あります。しかし、確実にわかっているのは、温暖化が進んでいること。
そして明確な関連性はわからないが、雨の降り方が明らかに変化していて、1時間に50mm以上の大雨が増えていること。
レジェンドにうっとりするバイヤー
これがなぜ問題かというと、多くの都市の下水道は、降水量50mm/時に対応するように計画されているからなんです。
ニュース番組でも、行き場を失った雨水が地表にあふれる、いわゆる「都市型水害」の映像をみる回数が増えていますよね。
「『急な大雨』による災害」(気象庁ホームページより)
それに「記録的短時間大雨情報」という言葉もよく聞くようになったと思います。その地域にとって数年に一度といわれるような極端な雨の降り方が確実に増えています。
ゲリラ豪雨も増えています(ちなみに、ゲリラ豪雨の意味を間違っている人が多い。予測できている雨はゲリラ豪雨とはいいません。予測できなかったのがゲリラ豪雨です)。
2000年の東海豪雨。駐車場が冠水している
しかも、排水機能が弱い地域では、降水量が50mm/時より少なくても、道路が冠水したり、マンホールから水が吹き出したり、水が床下や地下空間に流れ込んできたりします。
排水能力が限界を超えていて、激しい雨の回数が増えれば、災害にもつながりやすくなりますよね……。
はい、都市の脆弱化ですね。それと同時に、国土や人間も脆弱化してきているのが問題だと言いたい!
国土の脆弱化、ですか?
そうです。たとえば、東京・江東区のデルタ地帯は、国土交通省のデータによると、過去100年間で4m以上も地盤沈下しています。高度経済成長時代に地下水をくみ上げすぎたと言われています。
このような「海抜ゼロメートル地帯」(満潮時の海水の表面よりも低いエリア)が昔より増えています。
そういえば新聞でも以前、海面が1メートル上昇すると、東京のゼロメートル地帯は約3倍に広がるという記事をみたような……。
ゼロメートル地帯は、非常に強いスーパー台風なんかが来たら洪水になる可能性が高い。
実際、江東5区では2日前に自主的広域避難情報が出されたら、江東5区以外の地域へ逃げることになっているんです。世田谷区とか板橋区とか、親戚や友人を頼って避難、ってことになる。
これはかなり深刻でしょ?
もう一つの、人間の脆弱化とは何ですか?
「キキクル」という防災情報をご存じでしょうか?
はい。
※キキクルとは、気象庁が提供する危険度分布情報。大雨警報、洪水警報、土砂災害警戒情報などが発表されたときに、「どこで」「どの程度の危険」が迫っているかを地図上で視覚的に色分けして確認できる。白、黄、赤、紫、黒の5段階で危険度をあらわし、無料アプリもある。
キキクルの色と5段階の警戒レベル(リーフレット「土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)の活用 ~土砂災害から命を守るために~」/気象庁ホームページより)
キキクルのように、災害から身を守るための情報提供はさまざまなかたちで発達してきています。でも、人間は脆弱化している、大仲さん、なぜだかわかりますか?
個人的な意見でもいいでしょうか?
もちろんです!
防災用品のバイヤーとして常々感じているのですが、想像力を働かせないと防災や備蓄は進まないと思っています。
「いま、ここで、大きな災害が起きたら、どのような災難に見舞われるのか?」という想像力を働かせることが防災備蓄では大切だと考えていて、その想像力を喚起させるための売場提案をこころがけているのですが、すべてのお客様に届けられているかというと……。
まさに、おっしゃる通りです! さまざまな防災情報が国や自治体から出されていますが、それにただただ従えばいいわけでない。マニュアル化されていて形骸化している面も否めないんです。
自分で考えずに情報をそのまま受け取ると、むしろ危険になることだってありえます。
たとえばキキクルでは、紫色の警戒レベル4の状況になると、市町村は避難指示を出す判断を検討します。しかし、この避難指示を待ってから避難するのでは遅いんです。
情報をまとめてから避難指示が出るまでにタイムラグが発生するからです。赤色の警戒レベル3だとしても、お年寄りや身体にハンデがある人は、すでに避難を開始すべき。年齢や家族構成も考慮して行動すべきです。
熱く語る木原実先生
警報そのものの形骸化も進んでいます。大雨、落雷、突風……気象庁は「記録的短時間大雨情報」や「土砂災害警戒情報」など、さまざまな警報を出しています。
しかし、思ったよりも被害が少ないと警報に慣れてしまって逃げなくなってくる。
たしかに、自宅の前に濁流が流れてくる状況は、なかなか想像しづらかったりしますし、警報が出ても避難するのに腰が重かったり……。
警報の種類も多くて、一般人の方にはわかりにくいかもしれませんね。
だから最近は、キキクルにさまざま情報を集約して、あとはそれぞれで判断してくれという方向に変わってきているわけですが、まだまだその認知度も低い。
かといって、このキキクルだけを信頼すればいいというわけでもない、ということです。
そうなんですか。
キキクルだと紫色だけど、ハザードマップを見ると、いま住んでいるところよりも避難所のほうが危ないかもしれない。その場合は、避難所よりも自宅の2階にいたほうが安全かもしれない。そういう可能性まではキキクルだけでは把握できないんです。
キキクルの警戒レベルの色だけで判断してしまうのも不十分だと……。
そうなんです! 警戒レベルだけでなく、ハザードマップも確認し、自分の環境に応じて自分で考えて避難行動をとることが、キキクルをもとにした新しい危機判断なんです。
台風や水害は、地震とは違って、いきなり災害が起きるのではなく、時間に猶予があるわけです。だからこそ、ハザードマップとキキクルを前提にして、さらに「タイムライン」(防災行動計画)に基づいた行動をすることが大切。
※タイムラインとは、災害時に発生する状況をあらかじめ想定した上で「いつ」「誰が」「何をするか」を時系列で整理した計画のこと。
タイムラインと言っても難しいことではない。台風が来るとわかった数日前に、非常用持ち出し袋の中身を確認する。電池が切れていないか。常備薬はあるか。
あるいは避難所まで何分かかるのか。それは実際に歩いてみないとわかりませんよね? だから台風が来る前のひまなときに一度歩いてみる。ハザードマップを確認して、自宅から避難所までの道のりに危険がないのか確認しておく。
自分で考えてタイムラインで逆算して用意しておくことが必要ですね。
そうです! ハザードマップを見て、長年その土地に住むお年寄りに昔の話を聞いたり、その土地の成り立ちや地名の由来を調べてみるのも有効です。
宅地開発で田んぼや畑を埋め立てたところは、水が迫りやすくて危ない、とかですね。
はい。気象情報は何のためにあるのか、わかりますか? 命と財産を守るためです。自分の置かれている状況に応じて自分で判断する力が、防災力なんです。
もう「国は情報を出すから、あとは自分で考えてください」という時代になっているんです。
ちょっ……ちょっといいでしょうか? これを見てほしいです!
ジャーーーン!!
こ、これは……?
カインズが金井昌信教授(群馬大学)と一緒に制作している「自分らしい防災をつくろう」という防災パンフレットです。
自分の防災意識のレベルをチェックできて、準備しておくべき備蓄用品を確認できるチャートになっています。防災意識を高めていただけるように、カインズの店舗やWebでお客さんに無料配布しています。
す、素晴らしい! 収納場所にも触れていますね。……でも、あれ? レベルMAXの場合、何を準備すればいいか書いてないですね……。
木原さんのようなレベルMAXの方には、ご自分で考えていただくという……(苦笑)
そっか!(笑) ともかく、防災は受け身ではなく「自分らしさ」が求められるステージに入ったんだと思いますよ。
カインズ亀岡店の防災用品コーナー
ところで、このチャートは突発発生型の地震を想定していますね。
はい。
では、そろそろ地震の授業に移りましょうか?
なかなか商品紹介できないバイヤーの複雑な表情
……。
思わず笑みがこぼれるバイヤー
……(笑)。
「緊急地震速報の仕組み」(気象庁ホームページより)
南海トラフ地震は起こります。絶対に起こります。2022年5月、国土交通省は首都直下型地震の被害想定を10年ぶりに改訂しました。そこには、こう記されています。
地震の発生直後は電気・ガス・水道が止まり、水道は1ヶ月後も復旧しない可能性もある、と。
1ヶ月後も水道が止まると、マンションではトイレも使えず大変ですね。
はい、最悪のケースを想像すると、もうお先真っ暗です。想像してみてください。
平安時代の貞観地震のように建物の倒壊、圧死、津波、火山の噴火、疫病が重なる。さらに現代では原子力発電所の電源が喪失して爆発する可能性もゼロではない。火山灰によって電線はショートし、電気も止まったままで、農作物も被害を受ける。
水道も復旧せず、備蓄はすぐに底を突く。いつまでも供給は届かない。マンションのトイレは使えず、悪臭がひどく不衛生になる。電車も動かない。復旧は進まず、疫病と飢饉が広がっていく……。
恐怖ですね……。
はい。ちなみに京都の祇園祭は、貞観地震の被害が悲惨すぎて、疫神や死者を鎮めるための御霊会から始まったと言われています。しかし、今ではそういう災害関連の伝承は忘れ去られています。祇園祭は「防災のお祭り」だったと言ってもいいかもしれません。
貞観地震が発生した当時のことは伝承なので事実はわかりませんが、想像するだけでも大地震が起こると、この世の終わりのような気持ちになりませんか?
こんな状況になっても生き抜かないといけません。
絶望的な光景をイメージしてしまいました……。
でも、悲観しても仕方ありません。自分でできる限りのことをしましょう。地震防災でも自分で考えて避難する力が大事です。
たとえば、いまの子供たちは地震がきたらダンゴムシポーズで机の下に隠れようと教えられています。ところが、ある実験では校庭で遊んでいる時にアラートを鳴らすと、わざわざ教室の中に戻ろうと校舎に向かう子供が続出した。机の下にもぐろうとしたのでしょうか。これではかえって危険なわけです。
大雨と同様、自分の置かれた場所や状況に応じて、自分で判断する力が必要ですね。
そうです。理屈から考えられないといけません。テンプレートに凝り固まった行動は逆効果になる可能性があります。だから、お子さんにはシチュエーションごとに教えていくのは有効だと思います。
例えば、大木聖子先生(慶應義塾大学SFC准教授)は、音楽室や理科室などシチュエーションごとに逃げ方を変えて教えることを提案されていたりします。もしかすると、理科室で火を使った実験をしているときに地震が起きることも考えられますよね。
高齢の方が避難する場合の課題もありますか?
国土交通省が2015年に発表した『新たなステージに対応した防災・減災のあり方』にこう書かれています。
「高齢化の進展、限界集落の増加、地域コミュニティの衰退等のため、自助・共助による避難等がより困難になってきている」。
つまり、おじいさんおばあさんの手を誰かが引っ張って逃げてくれる状況ではないわけです。
団塊世代より上の世代は、スマホやアプリを使いこなせない方も多いので、防災情報の取得が遅くなるという問題もありますよね。
だからこそ、地域コミュニティを復活させなくてはなりません。近頃はご近所さんとのお付き合いやコミュニケーションが無くなってきた。こうしたコミュニティの断絶も人間の脆弱化の一つです。
1995年に発生した阪神・淡路大震災では、近所の人たちが多くの命を助けています。それをきっかけに、防災士会のネットワークが整備されるなど、地域の防災が強化されるきっかけにもなりました。コミュニティは重要です。
阪神・淡路大震災では、地震直後に16万4,000人ががれきの下敷きになり、約8割が自力で脱出、3万6,000人が生き埋め状態だったといいます。しかし、いちばん被害の大きかった場所には救助の手がなかなか届かなかった。
というのも、周辺地域にも多くの人々が生き埋めになっていて、消防車も救急車もそこで止まって救助活動していたから。救助の手が届かなかった地域では、近所の人たちが助け合ったんです。
地域コミュニティをつくるには、どうすればいいでしょう……?
そんなに難しく考える必要はありません。昔から「向こう三軒両隣り」なんて言うように、自分の家の両隣りやお向かいさんに挨拶したり、道で会った時に立ち話をしたりする。みんなが「向こう三軒両隣り」とつながれば、自分が四軒目の人を知らなくても、隣の家の人にとっては三軒目だから知っている、という具合にコミュニティ連鎖はつながっていく。
近所での立ち話は、立派な地域防災です。これが災害時に「あそこのおじいさん、避難できているかな?」という意識につながって、大きな力になります。地域防災では今、コミュニティを形成するための個々人の日々の努力が求められています。
地震は恐ろしい。でも東日本大地震から10年以上が経過し、地震に対する意識が「恐れ」から「慣れ」へと変わっているのをとても心配しています。
あ、それは思います。カインズでは、震度6以上の地震が来ると、備蓄関連の防災用品がよく売れるんですが……。
そうですね、昔は震度5でお客さまが防災関連の売り場によく来られた。それが今では震度6以上を観測しないと売れにくくなっていますよね。
この傾向は地震への慣れとも考えられるし、逆に、みんなの防災意識がアップデートされて、すでに最低限の備蓄が済んでいるかもしれない、とも考えられます。
木原さんの感覚としてはどうなんでしょう?
そうですね。以前は、防災についての情報を大々的に発信する機会は年に一回、関東大震災にちなんだ9月1日「防災の日」だけだったんです。ところが阪神淡路大震災や東日本大震災を経験して以降、1月17日、3月11日にもアナウンスされるようになった。情報発信の回数が増えたので、防災意識は高まっていると思います。
そうですよね。高まっていると考えたいです。
でもそのぶん、慣れちゃうものなんですよ。震度6弱でも大きな被害がなかった経験が重なると、大したことがないと思ってしまう。次に震度7の地震が来るかもしれないことは忘れてしまう。
繰り返しますが、地震は突発型災害なので、大雨や台風と違って予測不可能です。1995年の阪神・淡路大震災も、2011年の東日本大震災も、誰も予測できませんでした。生命保険と同じで、全然発生しないから、準備をやめちゃおうというものではありません。
特に若者の防災意識を啓蒙するのは難しい感覚があります。
そうですね、やはり若い世代は一人暮らしの方も多くて、コンビニ生活に慣れています。何かあればコンビニに行けばいいと思ってしまう。
しかし、何かがあってから揃えるのでは遅いんです。コンビニはいざという時には完売しているかもしれないから備蓄は大事ですね。
備蓄! やっとわれわれの商品紹介ですね!(笑)
待ってました!
ちょ、ちょっと待った! まだ備蓄よりも大事なことがあります!
地震防災の優先順位は「死なないこと」「怪我しないこと」「困らないこと」の順です。これを忘れてはいけません!
死んだら備蓄は使えません!
……。
……。
地震防災の優先順位
いくら非常食などの備蓄が万全でも、死んでしまったら使えません。
ということで、死なないために、まずは自宅の耐震性を確認しましょう。地盤がどうなのか、「新・新耐震基準」(2000年に改定された基準)に則った建物なのか。
それでも倒壊する家屋はあると思います。不安な人は家屋の耐震診断をしましょう。
その次に、怪我をしないこと。家具の下敷きになったり、器物の破損で負傷したりすることを避けましょう。
災害時には病院も重傷者から対応していくので、骨一本折れたくらいでは診てもらえないと思っておいたほうがいい。
だから転倒防止が重要です。転倒防止器具は、地震対策の基本中の基本。でも、転倒防止器具は、時間稼ぎだと思ってください。
絶対に家具が倒れなくする、というよりは最初の揺れを感じた時、家具から離れる時間を稼いでくれる……。
はい。例えば、突っ張って固定するタイプのポールは、震度7以上の地震では弾け飛んでしまうこともあります。
あと、タンスや本棚などの上に重たい物は置かない。
もしも外に逃げられない、家が全壊するかもしれない、と感じたら、どうすればいでしょう?
そういう場合は、建物の隅に避難すると生存率が高まります。崩れるのはだいたい部屋の真ん中です。隅には柱があって、柱は強度があり、梁がつながっていて三角形の空間が出来やすいので比較的安全だそうです。
アメリカでは「命の三角形」と呼ばれていて、家具の隣にいたから助かった事例もあります。これには反対する意見もありますが……。
なるほど……。
ここで突然ですが、クイズです。青い部分に入る言葉はわかりますか?
答えはこちらです! エビデンスがはっきりしていない情報なので大々的に発信されない情報ですが、こういう方法もあると覚えておいて損はありません。
どうしても転倒物から逃げられないような時は、「ゴブリンポーズ」を取りましょう。
しゃがんで片膝をつき、拳で後頭部を守る。体が倒れない体勢を保つことで、スムーズに次の動作に移れるようにします。天井が崩れて来ても、拳を骨折させることで頭蓋骨は守る。
こちらもエビデンスがないからあまり喧伝されていませんが、知っておくと良い知識です。
ゴブリンポーズ
とにかく死なないこと、怪我しないことが重要。地震直後は自分の身を守る。それから火の始末と脱出口の確保。その後、自宅の安全確保、隣近所の安否確認という順番です。
ここまでクリアしてはじめて、日頃の備蓄が生きてくるわけです。
【地震発生後の対応のタイムライン】
たしかに、備蓄を活用する以前のシミュレーション、想像力が圧倒的に足りていない気がしてきました……。
大きな災害時には、公助が間に合わない可能性もあるから、2〜3日しのげる備蓄が必要だと言われます。木原さんのご自宅では、どんな備蓄をされていますか?
うちでは、水は12リットルのウォーターサーバーを3本常備しています。4人家族で3日はもつ計算です。1本1,404円なので500mlのペットボトルに換算すると58円、意外と安くて経済的です。
電気が来ないときのために、カセットボンベで使えるガス暖房も用意しています。この辺は、お二方のほうが詳しいと思います(笑)
非常食について、何か知っておいたほうが良いことはありますか?
重要なのは、自分たちの分は、自分たちで用意しておくことです。避難所で備蓄の非常食が足りなかった場合、9割の人が非常食を持っていなかったら、残り1割の人は自分の非常食を食べにくいですよね? 逆に、みんなが非常食を持っているなら気にしないで食べられる。
つまり、非常食は自分のためであると同時に、他人のためでもあるんです。誰かに迷惑をかけないように、一人ひとりが自分の非常食を用意しておく。そういう考え方が重要。
その視点は新鮮で、とても納得感もありますね。
最近の非常食は、温めなくても食べられるレトルトカレーなど、おいしくて手のかからないものがたくさんありますから、いろんなバリエーションを揃えるといいと思います。
サッ!!
ん?
ついに躍り出て商品紹介するバイヤー
こちら、ハンズで人気の非常食セットです。日本の有名9ブランドから選りすぐった食品をセットにしました。いつもの味が、いつも側に。一人で2日しのげる内容になっています。
BRAND FOODS SET 非常食
※セット内容は画像をクリック
おお! 防災用品って、そっけないものが多いけど、この非常食セットはバラエティがあってすごく楽しい感じですね。
聞き手にまわった木原実さん
災害時は子どもたちも不安になるので、見慣れたものや楽しいものは、緊張を和らげて精神衛生上もすごく良い商品だと思います。
あ、ありがとうございます!!
私が動画で詳しく商品紹介しているサイトもあるのでぜひご覧いただきたいです!
※参考:ハンズオリジナルの防災用品セットを防災士の資格を持つバイヤーが自ら解説
褒められて勢いづくバイヤー
続いてこちらは、湖池屋さんのお菓子シリーズで人気です。他にも、CoCo壱番屋さんと尾西食品さんがコラボしたカレーライス、井村屋さんの「えいようかん」など、有名ブランドさんの防災食は、若い方にもご購入いただけてとても売れています。
缶詰の消費期限は長いし、いろいろなバリエーションもあるので、ローリングストックにも便利です。
でも、どれもおいしそうで、備蓄しないで買ったらすぐに食べちゃいそう(笑)
あ、ありがとうございます!!! ギフトにもおすすめです!
スッ!
ん?
ここぞとばかりに商品紹介するバイヤー
こちら、カインズの「耐震マット」です。小型家具・家電を止めておくもので、ゲル状のマットが震度7相当の揺れを吸収します。
耐震マットにはホコリが付くことがありますが、洗えば何度でも繰り返し使えます。
転倒防止 強力耐震マット
※商品詳細は画像をクリック
転倒防止マット
※商品詳細は画像をクリック
洗えるのはいいですね。わが家ではパットとポールを組み合わせて家具を固定しています。
でも、ちょっとした地震が何回かあると、少しずつ動いて緩むことがあるんですよね。だから防災の日を目安に締め直すようにしています。次は洗ってみようかな。
ありがとうございます!
サッ!
こちらは、ハンズオリジナルの「自宅待機セット」です。自宅を一時避難場所とする場合の必要最低限の防災用品を揃えています。
ハンズオリジナル 自宅待機セット
※セット内容は画像をクリック
全身を拭けるウェットタオル、水がなくてもシャンプーできるウェット手袋、ペーパー歯磨きも揃っています。
災害時は体力の低下やストレスで噛む力が弱くなっていて、食べ物が気管に入ってしまう誤嚥が増えると言われています。その際、口内が不衛生だと細菌も一緒に気管に入る危険性があるので、口内ケアがすごく大事なんです。
ペーパー歯磨きを紹介
あと、自宅待機セットの中で珍しいのは、水が止まった場合でも野菜を洗浄できる除菌スプレー。容器自体も耐荷重が180kgあるので、この上に座ったり立ったりすることもできます。
衛生用品が充実していて良いですね! あれ? 容器の取っ手に輪っかが付いているけど、それは何ですか?
この容器はバケツにもなるので、ホースを固定するためのものです。給水車が来たときに水を入れやすいように設計しています。
なるほど! 細かいところは、さすが防災グッズ専門家ですね!
あ、ありがとうございます!!!
ハンズオリジナル 帰宅困難者支援セット
※セット内容は画像をクリック
こちらは『帰宅困難者支援セット』です。東日本大震災の発生時に、私自身、ハンズ渋谷店で働いていて、帰宅困難者を目の当たりにした経験から作りました。
ハンズオリジナル 車載防災セット
※セット内容は画像をクリック
こちらは『車載防災セット』。災害時に自動車を一時避難場所として使用する場合に便利なものを集めました。車のグローブボックスにちょうどしまっておける大きさにしています。
「ブランケット」「ピンチ」「ロープ」の3つを使うと、車の中でも目隠しカーテンを作ってプライバシーを確保できます。
これ、いいなあ。自動車専用というのは初めて見ました。車内で避難生活することもありますもんね。これはいい。
ありがたき幸せ!
ジャーン!
こちらはトイレに被せてすぐ使える『抗菌抗臭非常用トイレ』です。特長は、洋式トイレの便座すべてにしっかり掛かるように設計されている点です。
抗菌抗臭 非常用トイレ
※商品詳細は画像をクリック
便器にかけるタイプの処理袋は、便座にしっかり掛からなかったり、掛けにくいものもあるので、横の間口を広くして工夫してあります。
おお、これはすごい! 私も非常用トイレは用意していますが、実はまだ一度も使ったことがないんです。いざという時になって、便座に掛けられない、使いづらい、とかありそうだから、一度試しておかないといけないと思いました。
これはすごい気付きだ。さすがとしか言いようがありません。
ありがとうございます!!!
デデーン!
次々に繰り出す
こちらは、カインズの「転倒防止家具固定ポール」。パッケージが2種類あり、同じ商品なのにあえて工場を2つに分けています。
転倒防止 家具固定ポール
※商品詳細は画像をクリック
本当だ、別々の工場で作ってる。どうして? 醤油の濃口薄口みたいなこと?(笑)
なぜかわかりますか?
被災時のリスク分散のため……?
さすが木原さん! 実は2018年6月にあった大阪北部地震の直後、この「転倒防止ポール」が1日300本売れる店舗もあって、あっという間に店頭から消えてしまいました。ちょうど在庫が少なくなっていた時期に、地震が重なってしまったんです。
なるほど。大阪北部地震で危機感を抱いて、それまで転倒防止ポールを使っていなかったお客さんが売り場に殺到したわけだ。
そうです。それ以来、工場を2つに分けて在庫リスクを分散させるようにしています。一方は西日本で作り、もう一方は東日本で作る。
ふだん西日本で作ったものは西日本に優先的に供給し、災害などで東日本の在庫がなくなったら、西日本の分を東日本に持っていくようにしています。
なるほど! でも、転倒防止ポールは本来、地震が起きる前に買っておいてほしいですよね(笑)
そうなんですよね(笑) でも次の危機に備えていただける、というのは良いことだと思います。
じつは、カインズでは、ポールだけでなく、災害用のさまざまな商品を、店舗や倉庫に備蓄しています。そして、全国214の自治体と災害関連の協定を締結しています(2022年9月現在)。
すごい数! どんな協定内容なんですか?
地震や風水害に遭った被災住民を救助するため、カインズが応急対策に必要な物資を供給する、というものです。
具体的には、作業シート、土のう袋、スコップ、飲料水、毛布、タオル、紙おむつ、カセットコンロ、カセットボンベ、石油ストーブなどを、被災地域に優先的に届けるようにしています。
ホームセンターは地域の防災インフラでもありますから。
それは頼もしいし、心強い! そういった取り組みは地域防災にとって重要です。
最近は、短い周期で災害が発生していて、ビニールシートが足りないなんてことも起きやすいので、カインズのある地域の住民は安心感がありますよね。
あ、ありがとうございます!!! カインズは防災に本気なんです。
カインズの店頭で無料配布している「防災BOOK」。防災グッズや防災関連の情報がまとまっている
毎年発行して無料配布している「防災BOOK」は、地震、火災、台風、豪雨などのシーン別に必要な商品をまとめてカタログ化していて、自治体や地域の防災委員からも役立つと好評です。
なるほど。カインズさんの防災への情熱をビシバシ感じます(笑)
あ、ありがとうございます!!!
防災グッズは、生命を守るものだから、だいたい実質的で味気のないものが多いんです。でも、ハンズさんの商品は、普段使いを意識したうえで、実用性の範疇を越えた魅力的なグッズを作っているのが素晴らしいと思いました。
ありがとうございます!
ハンズさんは、お店に行っても、建物の階層自体が不思議で、フロアがズレていたりしますよね。ああいうおしゃれな遊び心や発想が、防災グッズにも出ているのかもしれないですよね。
おお、お世辞でも嬉しいです!
やっぱり災害時であっても、人間には楽しみが必要です。小さいお子さんにとっては、心の傷になりかねない大きな出来事ですし、そんな時にちょっと夢のあるもの、遊び心のあるものがあると全然違うんです。
避難所の掃除を一緒にするだけでも、災害時の過ごし方は大きく変わってきますし、避難所に手遊びをしてくれるお兄さんお姉さんがいるだけでも華やぐ。
実質的でないところは、防災を考える際に抜けがちです。つまらないから防災に対する興味関心が低いという側面もあるので、それに改めて気付かされて、私も勉強になりました。
その一方でカインズさんは、自分や家族の生命を守るために、きちんとしたものを開発している。実用的でありながら、さまざまな種類や機能、サイズを取り揃えていて、比較しながら吟味できるので、新しい発見や楽しみがある。
しかも、商品そのものの工夫や開発だけでなく、平時と緊急時の物流も意識していて、災害時の緊急対応や社会貢献まで視野に入れているからすごい。
ありがとうございます!!!
それから、今回いろいろなグッズを手に取ってみて、防災グッズは売り場で実際にさわってみるのが大事だと痛感しました。ネット注文して、被災するまでしまったまま、というのでは、いざという時に使えない、想像していたのと違う、ってことになる可能性もあるんだなと気付かされました。パソコンの接続端子も時代を反映してどんどん変わってますしね。
それに実際に手に取ってみると、楽しいんですよね。同じようなものでも、さわってみると、ちょっと違うこともわかる。防災グッズはなるべく実際に見て買うのが良い、被災前に試しておくのも重要だと思いました。
おふたりは、今回の授業どうでしたか?
より多くの方々の生命を守れるように、普段使いできる防災グッズをもっと開発していかねばと改めて感じました。
もっと防災専門家や被災した方々の意見をヒアリングして知識を増やし、実際に役立つ機能を強化していきたいです。
つくるだけでなく、もっと売り場でもお客さんの防災意識を高めていけるように精進していきたいと気持ちが引き締まりました。
まずは自分自身の生命を守るためにもっと考えないといけないことがあるだなと気付かされました。
今後、社内のメンバーやお客さんにも、防災の重要性についてもっと考えていただける機会をつくっていきたいと思います。
貴重な授業ありがとうございました!
ところで、ハンズさんとカインズさんが組めば、もっとすごい防災対策ができそうですよね?
あ、じつは先日ハンズとカインズは同じグループ会社になったんですよ。
えっ! 冗談だったけど本当? だから一緒にいるんだ(笑)
では、もっと期待していますね(笑)
はい……! 簾野さん、これから一緒に頑張っていきましょう!
はい! あ、そういえば……。
デデーン!
こちらは窓ガラス用の防災フィルムです。貼っておくと大違い……
え……!? どんだけ持ってきてるの?
このあとも商品紹介は続いたとか……。
……防災に情熱を注ぐ三人の話、いかがでしたか?
災害について考えるとき、われわれは死の話題を避けられないため、つい深く考えるのをためらったり、しかめっ面で真面目に話さないといけないと思い込んだりしているのかもしれません。
広くて深い防災の世界。真剣に取り組むなかにも、楽しかったり、美味しかったり、おしゃれだったり、仲良くなったり、生命を守るための人間の工夫や思いがいろいろとあふれています。
みんなも自分なりの防災のあり方を考えて、真剣に楽しんでみてはいかがでしょうか?
こんにちは、カインズで防災用品のバイヤーをしている簾野です。今日はカインズの防災グッズを紹介できると聞いて、この会場にやってきました。