【速報】沖縄のジャングルから「ターザン」を発見! 「単身赴任先、森」の男に直撃してみた
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マイホームに水族館を作る──。
子どもが夢に描くような話を、41歳にして実現した男がいる。カインズで経営企画部の部長を務める、濵野剛稔氏だ。
彼は静岡県・伊豆半島で生まれ育ち、高校生までを海と山の自然に囲まれた環境で過ごした。友人が魚の飼育を始めたことに影響を受け、自身も魚の飼育を開始。濵野氏はだんだんと、魚の美しさや飼育の奥深さに魅了されていく。
大学生の頃に専門誌で魚マニアが所有する水槽のコレクションを見てから、自宅を“水族館化”することが、彼の密かな夢になっていた。
そうして2017年、念願だった巨大水槽付きのマイホームを建てる。
そんな彼は意外にも、自身の趣味について「普通ですよ。特別なことはない」と冷静に語る。
なぜここまで、濵野氏は魚の飼育という趣味を突き詰められているのだろうか。また、マイホームの建設はどのように実現したのか。濵野氏の飼育のポリシーについても話を伺った。
濵野さんの自宅
──濵野さんは今、巨大水槽付きのマイホームで暮らしているんですよね。
はい、そうです。2017年に家を建て、家族4人で暮らしています。
家には6本の水槽があり、一番大きいものだと、横幅が150cmあります。
一番大きなメインの水槽。熱帯魚を飼育している。
メインの一番大きい水槽では熱帯魚を飼育していて、スキアエノクロミス・フライエリーやキフォティラピアフロント―サなど、計10種の魚がいます。海水の水槽もあり、そこではクマノミ、サンゴ、ヒメシャコガイなどを飼育しています。
一番大きい横幅150cmの水槽は特注でつくってもらい、設置費用込みで45万円ほど。海水魚を飼育している横幅60cmの水槽は、一式で約20万円ほどかかりました。
──それだけお金がかかるとなると、家族の反対もあったのでは。
そうですね……。妻はかなり驚いた様子ではありました。
結婚する時に、魚を飼育する趣味はやめられない、と話していたものの、まさか部屋までつくるとは考えていなかったと思うので。
反対の気持ちもあったとは思いますが、最終的には受け入れてくれました。
伊豆半島の海
──そもそも、ここまで魚が好きになったのはなぜでしょうか。
育った環境が大きいと思います。地元は静岡県の伊豆半島で、家から車で5分の場所に海がありましたから。
友達と遊ぶ場所も海辺が多く、小学生の頃はモリを持ってタコやお魚を突いたりしていました。
──本格的に魚を飼育しだしたのはいつごろからですか?
高校生になってからですね。近所に魚好きのおじさんがいて、そのお家に学校の友達と遊びに行った際に、すごく大きなアフリカンシクリッドの水槽を見たんです。3mくらいあって、とても立派でした。
それに感化された友人が魚の飼育を始めて、一緒に仲間内で飼うようになりました。
アフリカンシクリッド(フロントーサ)Adobe Stockより
──初めて飼育した魚は?
入門魚から入りました。テトラ系とか、バルブ系、ネオンテトラやスマトラなど……小さい熱帯魚です。水槽も、ごく一般的な60cmサイズから始めました。
大学生になってからは一人暮らしを始め、自分の稼いだバイト代で設備を増やし、アロワナとアフリカンシクリッドを飼いました。
アロワナ(ノーザンバラムンディ)Adobe Stockより
当時の家にはアロワナ用の90cm水槽2つと、アフリカンシクリッド用の60cm水槽、そしてアロワナがエサとして食べる金魚用の水槽を置いていました。それこそ当時は金魚を買いに、カインズへよく通っていましたね。
──学生の一人暮らしだと、エサ代や魚の飼育のやりくりでいっぱいいっぱいだったのでは。
当時はバイトをしてお金を稼いでいましたが、魚の飼育で他のことができなくなる、ということはありませんでした。
今も昔も、どれか一つを優先させて、これだけしかやらない、というのは好きじゃないんですよ。やりたいことをいかに両立させるか、を常に考えていましたから。
だから、サークル活動やスポーツとか、他の趣味もするし、パートナーと遊びにも行く。バイトだって、ただお金を稼ぐだけではつまらないから、そこにプラスアルファの楽しみを見つける。むしろ、一つのことに固執していないからこそ、趣味をここまで続けられているのかもしれません。
──新卒でカインズに入社して以降、社会人になってからはどんな魚を飼育しましたか?
社会人になって、最初の7年くらいは忙しかったので、なかなか魚を飼う機会がありませんでした。
ずっと店舗勤務だったので、店長になったら飼育を再開しようと思いながら、それまでは専門誌だけを読んで過ごしていました。
そうして8年目に店長に昇進し、やっと魚を飼えるようになったんです。
『月刊アクアライフ』
──結構なブランクがあったんですね。
飼育を再開してから、「やっぱり魚っていいな」と実感して。この期間に水槽付きのマイホームを実現したいと考えるようになりました。大学生の頃からなんとなくの憧れではあったんですが、明確な目標として描くようになったのはこの頃ですね。
感化されたのは学生時代から読んでいた『月刊アクアライフ』の「我が家の水槽自慢」というコーナーです。そこにはマニアの自宅にあるこだわりの水槽がたくさん掲載されていて、こんな飼い方もあるのか、と衝撃を受けました。
雑誌には具体的な画像が載っているので、どうすれば実現が可能なのかも解像度高くイメージできるんですよね。
それまでは、飼いたいものがあっても、自分の持っている飼育環境や住まい的に諦めていましたが、いろんな人の水槽を見たことで、ほしい環境は自分でつくればいいのか、という考えになりました。
水槽の手入れをする濵野さん
──2017年にマイホームが完成しましたが、建設まではどれくらいの時間がかかったのでしょうか。
土地探しから合わせて丸一年くらいでした。とんとん拍子に進みましたが、ハウスメーカーの選択に一番時間がかかりましたね。
大きな水槽を家に置くには、クリアしないといけない条件がたくさんあるんです。
まず、床の耐荷重ですね。レギュラー水槽という、横幅60cmの水槽が一番オーソドックスで、それの容量がだいたい51〜2リットル。砂を入れたり、ろ過装置や照明をつけると60〜70キロと、非常に重くなります。60cmの上、90cmの水槽だと水の量だけで200リットル。アップライトピアノと同じくらいの重さです。
小さい水槽だと気温の変化によって水の温度が変わってしまうし、糞やエサの食べ残しでアンモニアが蓄積して毒素になり、魚へも影響があるので、水の量はとにかく多いほうがいい。なので大きい水槽を置くには、その重さに耐えられる床が必要になります。
水槽の裏側
また、電気をかなり使うので、コンセントをたくさん用意しなくてはいけない。熱気がこもるので換気も大事ですし、汚れた水を排水するための設備がなくてはいけません。そして、定期的に水を入れ替えたり、魚の糞を処理するため、専用の流し台も設置します。そうしないと、洗面所や台所に糞を流すことになりますから。
──たくさん気を遣わないといけないんですね。
こういったことを考えて家を建てるので、水槽部屋に対応できるハウスメーカーはかなり絞られます。自由設計と謳っているところでも、実際は規格内での組み合わせで、希望通りにいかなかったり、建売をリフォームしたくても大体断られるか、できたとしても保証から外れてしまったりで。
何回も展示場に足を運んだり、いろいろな会社に当たった結果、自由設計で選択肢が多く、僕の要望に一番真摯に向き合ってくれたハウスメーカーにお願いしました。
──一番こだわったところはどこですか?
水槽を独立させるのではなく、埋め込み式にしたところですね。魚の魅せ方を一番に考えたら、このような形になりました。
家に巨大水槽を置くといっても、人によってさまざまなやり方があります。住まいとは別に、水槽専用の建物を建てるとか。水槽をたくさん置きたいと思ったら、水槽ごとよりも空間全体で空調を設定した方が楽だし安上がりですから。
例えばグッピーやメダカは、たくさん繁殖させて、自分の系統をつくっていくのを楽しんで飼育する方が多い。そのため、30cmくらいの小さい水槽を100本くらい用意します。棚にたくさん水槽を並べて部屋全体の温度を調節するので、ワンルームを借りたり、それ用の部屋をつくる飼い方になるわけです。
メダカ Adobe Stockより
僕は自分の好きな魚の色柄をつくるのには興味がなくて、自分の生活空間の中から魚が見れる環境にしたかった。
いろんなパターンを考えた結果、自分にとっては埋め込み式にするのが一番しっくりきました。例えばこれを、同じ空間にポンと水槽を置いたとしたら、水槽用のクーラーとか、水に空気を送り込むエアレーションの音や存在が目立ってしまいますから。そこを壁で仕切ることで、水槽が際立つようにしたんです。
試行錯誤の末たどり着いた埋込み式の水槽
あと、飼育環境はなるべくシンプルなもので揃えたのもこだわりです。照明器具やヒーター、ろ過装置なんかは、スタイリッシュで「見せる用」の商品も増えてきていますが、自分が見たいのは照明器具ではなく魚ですから。基本的に無骨なものを選びました。
──飼ってる中で、一番好きな魚種は?
アフリカンシクリッドです。正直、どうして好きなのかを言葉で言い表すのはとても難しいのですが……見た目の鮮やかさや形、フォルムが魚の中で一番好きなんです。
アフリカンシクリッドはその名の通り、アフリカの大地溝帯、ナイル川沿いにあるタンガニーカ湖、マラウイ湖に生息しています。もともとはヴィクトリア湖にも生息していましたが、1950年代に外来種のナイルパーチが放流されたことで、もともといた固有種が激減し、この2つの湖にしか原種が残っていないんです。
タンガニーカ湖とマラウイ湖にいるアフリカンシクリッドは、見た目がとても美しい。特徴的なのはスキアエノクロミス・フライエリーという種類ですが、青とか黄色とかオレンジとか、海水魚のような鮮やかな色をしていて、最初に見た時、惹かれたのを覚えています。
──濵野さんがここまで趣味を突き詰めるのはなぜなのでしょうか。
自分の父に影響を受けている部分があるかもしれません。
父は盆栽が趣味で、家に100鉢くらいの盆栽があったんです。そんな父に対して「出品すればいいのに」と提案する方がいたのですが、そういうことには興味を示していませんでした。父は純粋に自分が好きだから、という理由だけで続けていたんです。
僕も魚の飼育を自慢したいとか、承認欲求を満たすために続けているわけではなくて。こういった趣味への向き合い方は、父の姿を見て身についたのではないかと思います。
──盆栽と魚、全然違う趣味でも、向き合い方のところで影響を受けているんですね。
違うように見えますが、根本は似ていると思いますよ。
僕は、水槽という限られた空間の中で、自然を切り取っていかに表現・再現するかというのが好きなんですが、それは父の盆栽にも共通すると考えていて。
盆栽は、15cmとか20cmくらいの箱の中に自然を再現するものですが、それくらいの木の高さであれば、普通に育てていけば数年で成長します。
でもそうじゃなくて、上に伸びないように切りながら木を太くしていって、あの狭い空間で20年とか育てて、楽しむわけですよね。それに近いなと思っています。
──「生き物を飼う=ペットとしてかわいがる」というイメージがあるのですが、それとは違うということでしょうか?
違いますね。
僕自身の中では、魚だけでなく、水や岩、砂に水草と、そういった全部の環境で水槽は成立します。
──犬や猫を飼う感覚とはまた別物なのですね。
犬などは飼い主を認識してコミュニケーションが取れたりしますが、魚とのコミュニケーションはエサをあげて食べるだけ、すごくドライです。たまに、「魚に名前を付けないんですか」って質問をされることがありますが、個人的には名前を付ける気にはなりません。
もちろん、エサを食べているのを見ると、かわいいなと思いますし、水槽を眺めていると心が安らぎます。
ただ、それは魚単体に対してではなく、水が揺れているとか、サンゴが揺れているとか、エビが泳いでるとか、全体の環境があってこそなんです。
美ら海水族館にて。水族館に行くと、設備をよく観察する。
──お話を聞いていると、濵野さんは魚の飼育にポリシーを持ちながらも、自分の趣味を俯瞰的に捉えているような印象を受けます。
別に、普通のことですから。やりたいことをやり続けているだけで。
キャンプが趣味の人も、料理が好きな人も、スポーツが好きな人も、それぞれ、その領域にお金と時間をつぎ込むじゃないですか。私の場合は、それがたまたま魚だったわけで。なにも特別なことではないと思っています。