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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
寒さと乾燥で体調管理が難しい冬は、人間だけでなく犬にとっても健康トラブルが増える季節です。子犬やシニア犬であったり、持病を持っている犬を飼っている場合は、心配が尽きませんね。愛犬が健やかに春を迎えられるように、寒い季節に注意したい病気やケガについて、chicoどうぶつ診療所の所長で獣医師の林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 冬に犬の健康トラブルが増える原因とは?
- 冬に特に気をつけるべき犬の病気やケガとは?
- 犬はお風呂の後にヒートショックを起こすことはあるの?
- 犬が冬に健康に過ごすためポイントとは?
冬に犬の健康トラブルが増える原因とは?
犬種や個体差はありますが、一般的に人間よりも体温が高い犬は、寒さには強い動物と言われています。寒さへの耐性はあるとはいえ、冬は空気の乾燥とそれに伴うウイルスの活性化もあって、どうしても健康トラブルを起こしやすい季節です。
冷たい空気が喉などの粘膜を刺激する
冬場は人間同様に、空気の乾燥によって咳が出やすくなります。また、外気温が下がっているので、冷たい空気を吸い込むことで喉粘膜が刺激されることもあります。
ウイルスが発症しやすい
冬場に飛散するウイルスは、空気の乾燥と気温低下で表面の水分を失っているので、空中に浮遊する時間が長くなります。
水分を取りづらくなる
犬は暑さを感じた時には水を欲しがりますが、喉が渇くという感覚を感じにくい生き物です。そのため、冬の寒い時期には特に水を飲まないことが多く、飲水量が低下し、場合によっては脱水症状を起こします。
運動不足になりがち
シベリアンハスキー 、ゴールデン・レトリバー、柴犬など、被毛がダブルコートで寒さをものともしない犬種がある一方、チワワ、トイプードル、ヨークシャー・テリアなどシングルコートで寒さが苦手な犬種もいます。犬種だけでなく個体差や年齢にもよりますが、寒い季節には寒さが原因で散歩をしたがらなくなる子が多く、どうしても運動不足になってしまうことがあります。
冬に特に気をつけるべき犬の病気やケガとは?
冬に気をつけなければならない病気やケガとして、寒さによる冷えや乾燥が原因のもの、ウイルスが活性化することで引き起こされるものなどいろいろな種類があります。冬場に注意すべき病気やケガについてチェックしておきましょう。
肉球の凍傷
犬の肉球は冷たくなると自律神経が働いて動静脈が拡張し、血流量が増えて凍傷を防ぐようにできています。ただ、雪の中や冷たいアスファルトの上で遊ぶことによって、凍傷が起きてしまう恐れもあります。また、乾燥によって肉球のひび割れなどが見られることもあります。
咳(呼吸器系の疾患)
冷たい空気や乾燥した空気が気管粘膜を刺激することによって咳が生じます。生理的反応の場合もありますが、ケンネルコフなどの呼吸器疾患を伴って起きていることも考えられます。
犬ジステンバー
空気の乾燥と気温低下で、ウイルスが空気中に飛散しやすくなるため、感染しやすくなります。感染初期は目やにや鼻水、高熱や食欲不振などの症状が引き起こされ、進行していくと咳やくしゃみなどの呼吸器症状や、嘔吐や下痢などの消化器症状がみられ、最悪の場合は死に至ることもあります。
犬パルボウイルス
ジステンパー同様、ウイルスの飛散により、感染しやすくなります。口や鼻から強い感染力で体内にウイルスが侵入し、高熱や元気消失、食欲不振や下痢、嘔吐や目やになどの症状がみられます。最終的には脳まで広がり、行動の異常やけいれんがみられ、身体の麻痺などの後遺症が残ることもあります。
気管虚脱
気管が変形することによる疾患で、シニア犬でよく見られます。冬場の激しい気温差で気道の粘膜が刺激され、咳が頻発するようになります。
関節疾患(ヘルニアなど)
寒さによる運動不足からの肥満が影響したり、血流が滞ったり、筋肉が固まったりすることによって関節に痛みを伴ったりします。足を引きずるしぐさや運動をしたがらなくなる、食欲が落ちてしまうといったような兆候が見られます。
心臓病
寒い場所に突然移動することで血管が収縮し、心臓に負担がかかります。咳をしたり、運動を嫌がったり、すぐに疲れてしまったりするなどの症状(いわゆる、運動不耐性という症状)が見られます。
泌尿器系の疾患(膀胱炎など)
寒さから飲水量が低下したり、運動量が低下したりことによって排尿量が少なくなり、膀胱炎などの泌尿器トラブルが起こりやすくなります。トイレに何度も出入りしたり、排尿時の痛みで苦しんだりするような場合があります。
誤飲、誤食
冬はイベントが多いため、家庭内に人が出入りする機会が増え、飼い主も忙しいことが多いせいか、誤飲や誤食が増えやすくなります。犬が口にするものには細心の注意を払うようにしてください。
肥満
寒さから運動をしたがらなくなることで、摂取カロリーが消費カロリーを上回ってしまい、肥満になりやすくなります。運動不耐性や関節への負荷からの痛みなどが生じやすくなるほか、呼吸器疾患や循環器疾患の原因にもなります。
肌の乾燥、フケ
空気が乾燥する冬は、犬の肌や被毛も乾燥しやすく、フケも見られやすくなります。シャンプーには保湿力があるものを使い、シャンプー後には風邪をひかないように手早く、しっかり乾かすようにしましょう。
低温やけど
寒さ対策として使っているヒーターや暖房の近くにいることで、低温火傷を起こしてしまう子もいます。犬は被毛があるため、熱さに気づきにくく、さらにシニア犬になると感覚が鈍くなるため、いつの間にか火傷してしまっているということも少なくありません。皮膚の赤みが見られるほか、ひどい場合には皮膚が剝けて、体液が出てきてしまうようなこともあります。
犬はお風呂の後にヒートショックを起こすことはあるの?
冬場には愛犬をお風呂に入れる機会が多くあるかもしれません。ただし、暖かい空間から寒いところに移動したときに、心臓がその気温変化についていけずヒートショックを起こすことがあります。犬が突然倒れたり、ふらついたりする様子がみられたら、ヒートショックを疑って、すぐに病院に連れて行きましょう。特にお風呂に入れた後や、寒い屋外に散歩に行く時には、ヒートショックにならないように注意してあげてください。家の中で洋服を着させ、少し動いて体を温めてから外に出たりするとよいでしょう。また、散歩の際には屋外に出たら、まずは外気温に慣れるまでゆっくり歩かせるようにしてください。
犬が冬に健康に過ごすためポイントとは?
犬は人間より寒さに強いと言っても、寒さからしっかり守ってあげたいですね。以下のポイントを押さえたケアをして、愛犬に健やかに冬を乗り切ってもらいましょう。
しっかりと準備をして散歩を行う
前述しましたが、ヒートショックを防ぐためにも、着るものなどでしっかり防寒し、お部屋の中で軽く運動してから外に出ましょう。肉球の保護のために犬用靴下なども活用するといいでしょう。
室内環境を整える
低温火傷をしないよう、暖房器具の前には柵を置くなどすると安心です。寒さ対策だけではなく、乾燥対策として加湿器なども準備するのもオススメです。
異常を感じたらすぐに病院へ連れていく
ちょっとした異常でも病院で早期に対応することで、体調の回復が早くなります。愛犬の様子に気を配って、すぐに対応してあげてくださいね。
定期検診やワクチン接種を受ける
冬に感染が広がりやすいウイルスにより病気はワクチン接種で予防することが可能です。ただ、むやみに打つものではないため、抗体検査を受けながら、必要に応じて接種させるようにしましょう。また、定期検診を行っておくことで、体の異常にいち早く気付ける場合もあります。シニア犬になったら半年に1回、高齢犬は3か月に1回程度のペースで受けることをおすすめします。