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オールペットクリニック院長。動物福祉社団法人の運営や東日本大震災時の「石巻動物救護センター」設立・運営など、家庭動物に関わる社会活動を数多く行う。
フィラリア症という犬の病気をご存じでしょうか。かつては犬の死亡原因1位になるほど、致死率の高い恐ろしい病気でした。現在は予防薬の投与により感染リスクは低下してはいるものの、発症すると命にかかわる疾患です。今回は犬のフィラリア症について、オールペットクリニック院長で獣医師の平林雅和先生に解説していただきます。
目次
- 犬のフィラリア症とは?
- 犬のフィラリア症の原因とは?
- 犬がフィラリア症にかかりやすい季節は?
- フィラリア症にかかりやすいライフステージや犬種は?
- 犬のフィラリア症の症状は?
- 犬のフィラリア症の治療法は?
- 犬のフィラリア症を予防するには?
- 犬のフィラリア症の注意点は?
犬のフィラリア症とは?
犬のフィラリア症(犬糸状虫症)とは、蚊を媒介にして広まるフィラリア(犬糸状虫)という寄生虫が起こす病気のことです。フィラリアが犬の肺動脈に寄生すると、全身の血液循環が低下し、肺循環や心機能にさまざまな障害を発症します。
感染初期は無症状であることが多く、徐々に咳や食欲の低下などが見られるようになります。これはフィラリア症特有のものではなく、他の病気などでも同じような症状が見られるため、初期症状だけでフィラリア症と断定するのは非常に難しいでしょう。
犬のフィラリア症の原因とは?
犬がフィラリア症に感染するのは、蚊によって媒介されるフィラリアという虫が原因です。地域によっても媒介する蚊の種類は変わり、日本国内でフィラリアを媒介する蚊の種類は16種類と言われています。フィラリアは次のようなライフサイクルで、犬に感染します。
フィラリアのライフサイクルと感染の流れ
- 蚊がフィラリアに感染した動物の血液を吸うと、蚊の体内にミクロフィラリア(フィラリアの子虫)が入り込みます。
- 蚊の体内に入り込んだミクロフィラリアは、約2週間で感染能力を持つフィラリア幼虫にまで成長し、蚊の口吻(吸血するためのストロー状の部位)へ移動していきます。
- 体内にフィラリア幼虫を持つ蚊が犬を吸血する際に、犬の体内にフィラリア幼虫が侵入します。
- フィラリア幼虫は犬の体内で2〜3か月かけて成虫(長さ約20cmのソーメンのような形状)になり、肺動脈に寄生。全身の血液循環の低下からくるさまざまな障害を引き起こします。また、肺動脈に寄生したフィラリア成虫は7〜8か月で成熟して繁殖を始め、ミクロフィラリアを産むようになります。
- ミクロフィラリアが体内で増殖したフィラリア感染犬を蚊が吸うと、蚊の体内にミクロフィラリアが入り込みます。(2.に続く)
犬のフィラリアは猫にも感染します。猫では突然死に至ることがありますので、猫でも予防は大切です。また、人間に感染することはごく稀です。
犬がフィラリア症にかかりやすい季節は?
フィラリアは蚊が媒介するため、蚊が発生している時期はフィラリア症の感染リスクがある時期です。蚊の季節といえば夏のイメージが強いですが、気温が15℃を超えると蚊は吸血活動を行います。日本では地域にもよりますが、気温が15℃を超えることがあるのは4月から11月ごろまでです。
フィラリアの予防薬は、フィラリアの幼虫を駆除するお薬です。そのため、投与を始めるタイミングは蚊が飛び始めてから1ヶ月後、投与の終了は蚊がいなくなってから1ヶ月後までです。
フィラリア症にかかりやすいライフステージや犬種は?
犬種、年齢、性別、体調に関わらず、蚊がいる環境では、どんな犬でもフィラリア症に感染する可能性があります。
完全に室内飼育の場合であってもフィラリア症に一切感染しないわけではありません。フィラリア幼虫を体内に持つ蚊が家の中に入り込んだ場合、犬が吸血されてフィラリアに感染する可能性が十分考えられるのです。愛犬をフィラリア症から完全に守りたい場合は、定期的な予防薬での対策が欠かせません。
犬のフィラリア症の症状は?
フィラリアの寄生数によっても変わりますが、感染初期は無症状で、多くは感染して数年後から症状が見られるようになります。症状には「慢性犬フィラリア症」と「急性犬フィラリア症」の2種類あり、それぞれ異なります。
慢性犬フィラリア症
犬がかかるフィラリア症の多くは、慢性犬フィラリア症です。痩せたり、咳が出たり、元気消失、運動低下、疲れやすい、呼吸困難、黄疸、腹水などが見られるようになります。
急性犬フィラリア症
急性犬フィラリア症(大静脈症候群)は虫体が肺動脈から三尖弁口部へ移行し、心機能が著しく害された病態です。犬が動くことを嫌がったり、激しい呼吸困難や、心雑音、ヘモグロビン尿(コーラのような色)、貧血、黄疸などが突然見られるようになります。非常に危険な状態ですので、すぐにかかりつけの獣医師に見てもらいましょう。
犬のフィラリア症の治療法は?
犬がフィラリア症にかかった場合の治療法は、外科手術やフィラリア成虫駆除薬による駆除が本来の治療法です。しかし、現在は手術に用いる特殊な器具や駆虫薬が市販されていません。そのため、フィラリア成虫の駆除はせず、予防を開始し、成虫が寿命を迎えるのを待つこともあります。獣医師は、感染した犬の状態を見ながら適切な治療法を選択します。
また、治癒後に体力が回復したとしても、肺や心臓の疾患とは一生付き合い続けなければならないでしょう。
犬のフィラリア症を予防するには?
フィラリア症を予防するためには、蚊に刺されない環境を整えることが大切ですが、蚊を完全に排除することはできません。そのため、月に1回、フィラリア幼虫を駆除する予防薬を投与します。
フィラリア予防薬は、蚊に吸血される際に侵入したフィラリア幼虫を駆除する薬剤です。フィラリア幼虫は2〜3ヶ月かけて犬の体内で成虫にまで育ち、肺動脈に寄生できるようになります。フィラリア予防薬は、この期間の成長途中にある幼虫を駆除することで、肺動脈に寄生する成虫が存在しないようにするのです。
フィラリア予防薬には、飲み薬やスポット剤の他、年に1回の投与で幼虫を1年間駆虫できる注射剤もあります。毎月1回投与するタイプの予防薬は、蚊が発生する時期から見かけなくなった1か月後まで投薬する必要があります。日本だと地域により異なりますが、4月から12月までが投薬期間です。どの予防薬を用いるかは、蚊が発生する4月までに、かかりつけの獣医師とよく相談してください。
また、予防薬を使用する前にはフィラリア症に感染しているかどうかの検査をする必要があります。万が一フィラリア症に感染した状態で予防薬を使った場合は、アナフィラキシーショックにより最悪の場合は死に至る可能性があります。十分に注意しましょう。
犬のフィラリア症の注意点は?
犬のフィラリア症は、発症すると命にかかわる疾患です。しかし、フィラリア幼虫を駆虫する予防薬を定期的に投与することで、ほぼ100%予防できる疾患でもあります。
近隣地域でフィラリア予防がしっかりなされていると、蚊がフィラリアに感染した犬を吸血することが減少し、フィラリアに感染するリスクも低下していきます。しかし、感染リスクが低下したからといって油断せず、愛犬のフィラリア感染対策を行っていきましょう。
また、一度でも予防薬の投与を忘れると、フィラリア幼虫の駆虫に失敗する可能性があります。フィラリア予防は飼い主の責任であるということを認識し、しっかり投与スケジュールを管理して愛犬の命を守りましょう。