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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
飼い主としてはかわいい子犬とずっと一緒にいたいところですが、いずれはひとりで留守番をさせる必要があります。けれども、好奇心旺盛な子犬にいきなり留守番をさせるのはちょっと心配ですよね。子犬に留守番をさせるために必要な準備やトレーニング、留守番時のトラブルを回避するにはどうすればいいかなどについて、獣医師の茂木千恵先生に解説していただきます。
目次
- 子犬に留守番はいつからできる?
- 子犬を留守番させる時間の目安は?
- 子犬に留守番をさせる前の準備
- 子犬の留守番トレーニング方法
- 子犬の留守番の注意点
- 留守番をさせた子犬がうんちまみれになっていたら?
- 外出の際は見守りカメラなどの便利グッズを活用するのもおすすめ
子犬に留守番はいつからできる?
まずは、子犬の留守番のトレーニングを始める時期について知っておきましょう。
生後3か月くらいからトレーニングを始めるのがおすすめ
当然ですが、犬はトレーニングしなければひとりで留守番をすることはできません。トイレの場所の認知と便意のコントロールは生後6か月ごろからできるようになると言われていますので、留守中にトイレの心配がなくなるのはそれ以降ということになります。生後3か月ごろはまだ社会化期にあり、環境への順応性が高いため、留守番にも慣れやすいので、短時間から練習し始めるといいでしょう。
子犬を留守番させる時間の目安は?
犬は群れで過ごす動物なので、ひとりでいることに不安を感じやすいという特徴があります。短時間でのトレーニングを開始して、ひとりで留守番ができるように慣れさせていく必要があります。ただし、排泄のコントロールができない生後6か月未満の子犬を2時間以上放置することは極力避けたほうが良いでしょう。この時期にどうしても留守番が必要な場合には、ペットシッターや犬のデイケアを利用する方法もあります。
6か月を過ぎると月齢の時間(例えば6か月だと6時間)は排泄を我慢できるようになると言われています。ただし、子犬は食事の間隔が短いので、6〜8時間以上の留守番をさせることは避けましょう。急に体調を崩すこともあるでしょうし、留守番ができる時間には個体差もあります。基本的に、犬は飼い主を必要としますので、なるべく早く帰宅するように心がけましょう。
子犬に留守番をさせる前の準備
子犬が留守番を嫌な経験と認識させないためには配慮が必要です。留守番をさせる際に必要な準備についてチェックしておきましょう。
留守中でも子犬が快適に過ごせるように、室温を調整する
犬は足の裏にしか汗腺がないため、人のように汗をかいて体を冷やすということができません。その上、子犬は体温調節がまだうまくできないため熱中症などの危険があります。夏場でも室内温度を20〜22℃に調節してください。一方、冷えすぎることによる免疫力の低下も懸念されますので、冬場には15℃未満にならないようにします。犬自身の体感温度を判断しつつ、ベッドの上などで過ごせるように家具の配置なども工夫したいですね。
子犬が快適に過ごせる専用スペースを用意する
犬は狭くて暖かく、薄暗い横穴のような場所を居心地よく感じます。なので、周囲が見えてしまうケージタイプよりも、屋根がついていて三方が壁になっているクレートやドッグキャリーなどの方が落ち着いて過ごすことができます。
行動範囲が制限されているほうが間違えずにトイレで排泄できる確率は上がりますが、長時間閉じ込めているとトイレシーツを破いたりして遊んでしまう子には、シーツを破られないように専用のメッシュ付きペットシーツトレーを試してみるといいかもしれません。習慣がついたらトイレトレーを変更しない方が上手に排泄できますので、トイレトレーニングを始めるときから同じトレーで慣れさせるといいでしょう。さらに、サークル内にハウス、水、トイレを設置し、留守番の時にその中でフードを与えるなどして慣れてもらいましょう。飼い主のにおいがついた敷物などをハウスに敷くのもおすすめです。
お気に入りのおもちゃを与えておく
食べることが好きな子には「中にフードを仕掛けるタイプのおもちゃ(知育玩具)」を与えると夢中になり、遊んでいる間に飼い主が外出して戻ってきても気づかないことがあります。成長期の子犬は常に空腹なので、食べ物を使うこの遊びは特に好まれます。子犬の頃から知育玩具を与えて「ひとり遊び」に慣れてもらえると理想的ですね。そのためには、飼い主との信頼関係が大切です。普段から褒めることで自信を植え付けましょう。自信に満ちた犬は満足を感じやすく、ひとりで遊びに集中でき、遊び疲れたらそのまま眠って過ごすことができます。
知育玩具は犬が飲み込めないサイズのものを選ぶように注意してください。耐久性があるかどうかを事前に確認してから留守番時に使うと安心です。
窓の外が見えないようにして、通行人や車の音のストレスを無くす
子犬に留守番をさせるときには、クレートやケージを窓辺に近づけないような配置にした方が良いでしょう。窓の外が見えると、窓の向こうを通りがかる人や犬、車の音に犬がストレスを感じてしまうことがあります。これは、自分の縄張りを守りたいという本能によるものです。窓のカーテンを閉めても、カーテンの隙間から頭を出して外を見てしまうかもしれないので注意が必要です。
留守番の前後にお散歩へ行ったり、遊んだりしてストレスを発散させる
犬はストレスを感じると分離不安が強まる動物です。なので、こまめにストレスを発散するような関わり方がおすすめです。留守番前に散歩に出ることで排泄も済ませられ、肉体的にも心地よい疲労感があると留守番時に落ち着いて過ごすことができるでしょう。
ストレスを感じると不安感が募るのは、人間にも言えることかもしれません。散歩に連れ出して、運動させ、飼い主と触れ合うことはストレスの発散になります。運動による心地よい疲労も心を落ち着かせるので、留守番の前に散歩の時間を作ることをおすすめします。
留守番後は飼い主の帰宅に興奮してしまい犬が落ち着かないことが多いのですが、落ち着くまでの数分間は興奮を誘わないためにも相手をせず、犬が落ち着いたところで関わりましょう。「おとなしくしたら関わってくれた」と認識させることが目標です。
子犬の留守番トレーニング方法
お迎えして飼い主や家の環境に慣れたら、留守番の練習も早めに始めなければなりませんが、どんなことから始めたらいいか迷ってしまいますよね。そこで、留守番をするために必要なトレーニングについて解説します。
クレートやケージに慣れさせる
サークル内が子犬にとって留守番時に安心できて、安全に過ごせる場所となります。飼い主のにおいがついた敷物などをハウスの中に敷くのもよいでしょう。在宅時にもサークル内のハウスでフードを与えるようにして、心地よい場所であると認識させる工夫が必要です。
飼い主が視界にいない環境に慣れさせる
はじめのうちは「玄関に行き、すぐに戻ってくる」といったごくごく短時間の経験をさせます。犬が不安になる前に戻ってくるのが理想です。おとなしく過ごせているのが確認出来たら、次に少しずつその時間を延ばしていきます。いきなり30分以上の留守番は、愛犬が留守番を不安がるようになるのでおすすめできません。
ひとり遊びをできるようにする
過度に犬が飼い主に依存しないように、注意を逸らす目的で、犬が熱中できるような仕掛けやおもちゃを活用し、飼い主が視界から消えることに気づかないように外出するようにしましょう。
飼い主が必ず戻ってくるということを覚えさせる
飼い主が戻らないことに気づくと不安が高まります。犬が他のことに注目しているか、休んでいるうちに戻るように、短時間の留守番を繰り返して「待っていれば、飼い主は戻ってくる」と学習させることで自立心も養うことができます。
ひとりでいることの訓練も大切
飼い主の姿が見えないと落ち着きをなくしてしまうようなら、まずは在宅時に別々の部屋で過ごす練習から始めましょう。部屋の出入り口にベビーゲートを設置し、犬が飼い主の後をついてこないようにし、ひとりでいることに慣れさせるのもいいでしょう。飼い主の姿が見えなくても、短時間でも安心していられるようにできるといいですね。
子犬の留守番の注意点
子犬に無理やり留守番させて、トラブルになることはもちろん避けたいですが、なにより子犬が留守番嫌いにならないような配慮が必要です。
いきなり長時間の留守番をさせない
子犬をいきなり長時間ひとりで過ごさせると、その経験は犬の将来の行動に大きな影響を与えることがあります。ひとりで過ごすことにトラウマを持っている犬は、飼い主が不在時に遠吠え、無駄吠え、場合によってはトイレ以外への排泄、そのほかストレスに関連する問題行動を示すことがあります。いったん分離不安による問題行動が起こるようになると、修正するには多くの時間と労力が必要となります。そのため、留守番の練習はごく短時間から少しずつ始めることが大切です。
分離不安とは?
犬の分離不安は飼い主と離れた際に不安やストレスを感じてしまい、いろいろな問題行動を起こしてしまうことです。犬が不安やストレスを感じていることは、様子を観察しているとわかります。少し不安を感じると鼻を鳴らす、ハアハアと喘ぎつづける、股の間にしっぽを巻き込む、唇をなめる、耳を後ろに引く、前足が上がる、あくびをくりかえす、ペーシング(うろうろと動き回る)といった行動が出ます。さらに不安が強まると、吠え続ける、食欲不振、下痢、嘔吐、地面を掘る、逃げようとするなどの行動がみられることもあります。
分離不安になる主な原因は家族が不在になることへの不安感です。長時間の留守番を経験したり、ペットホテルに預けられた、入院したという環境の急な変化、家族の日常スケジュールが変更して留守番時間が増えることも原因と考えられています。日常的に一人の飼い主のそばで過ごすことが多いと離れることに不安を感じやすくなります。犬にとっておうちが落ち着けない場所であったり、体のどこかに不調がある、同居の動物との関係が悪いなどのことから不安感も高まり、やがて分離不安の症状がみられるようになることもあります。
分離不安の兆候が認められる場合、状態が軽くなることは少なく、むしろ時間を追って悪化していきますので、早めの対策が必要です。不安の原因がわからず問題行動を認める場合は、獣医師に相談し治療を始めましょう。不安が強すぎて留守番のトレーニングが始められない場合は、不安を軽減する薬物療法も併用することもできます。
問題行動とは?
犬の問題行動とは飼い主や周りの人が問題と感じる犬の行動、または人の社会に協調しない行動のことを指します。具体的には吠える、遠吠えする、うろうろする、排泄する、家具を破壊するなどの行動です。
遠ざかってしまった家族に対して自分の存在を伝えたい気持ちが生じたり、落ち着ける場所を持っていないとき、欲求不満を感じているときなどに問題行動を起こしたりしやすいと考えられています。これらの問題行動は留守番のトレーニングが充分に行えていないことなども関係しているかもしれませんが、遺伝的な要因や母犬の妊娠期の過ごし方なども影響している場合があるので、どうしても対処に困る場合は速やかに獣医師に相談してください。抗不安薬などを処方してもらうことができます。
口にすると危険なものはしまっておく
子犬が家の中を自由に動き回ると誤食や誤飲の危険があります。子犬は気になった物を探索するためににおいを嗅ぎますが、食べられるものかどうかの正体が分かりかねるとき口に含んで味を確かめようとします。犬が口にすると危険な物はあらかじめ片づけておきましょう。特になんでも口に入れてしまう子犬のうちはサークルなどで行動範囲を制限する必要もあります。
トイレスペースの確保を忘れない
2時間以上の留守番させる場合、その間に愛犬がトイレに行きたがると想定して使い慣れたトイレトレーを近くに用意しましょう。トイレトレーが遠くにあって間に合わず、トイレ以外の場所で排泄すると、それが癖になってしまうことがあります。トイレは失敗させないよう、配置を含めてスペースの調整が必要です。
外出時と帰宅時はあえて素っ気なく接する
留守番の前に大げさなお別れをしたり、帰宅時に再会を喜んだりしないようにしましょう。飼い主がいるときといないときの雰囲気の差が大きいことは、犬の分離不安の原因のひとつと言われています。
また、飼い主が出かける前に外出の準備として、着替える、時計をつける、バッグを持つ、お化粧をする、鍵をもつ、靴を出すなどの動作を始めると犬が外出を察知してしまい、不安や興奮が高まって落ち着かない様子になることがあります。外出準備の前から、犬が飼い主ではなくおもちゃなどに注目できるように用意し、犬に気づかれないように準備をして、素早く玄関から出てしまうことも不安を感じさせないために有効です。準備を夜のうちに済ませておいたり、玄関を出てからメイクアップしたりするなどの工夫をすると良いでしょう。
留守番をさせた子犬がうんちまみれになっていたら?
帰宅して、子犬がうんちまみれになっているのを見たら、飼い主は慌ててしまうと思いますが、片づけは淡々と行うことを心がけてください。飼い主がイライラしながら片付けることは、犬の不安を募らせることになり、さらに留守番への印象が悪くなります。
この状態を繰り返さないためには、トイレの配置と分離不安への対処の二つの方向から対策しましょう。まずは、トイレとハウスの違いが明確に理解できるようなトイレ配置が必要です。トイレのしつけが出来るドッグルームサークルなど、トイレとハウスが物理的に区切られているサークルを使うと良いでしょう。
また、分離不安も解消するよう対処しましょう。つまり、留守番に不安や恐怖心を抱かせず、安心し過ごせることを目指します。犬には狭く小さな場所のほうが落ち着く習性がありますので、クレートのような狭い空間に入れておくのもいいでしょう。もちろん、いきなり閉じ込めて外出するのはいけません。必ずクレートトレーニングを行なってから留守番時に使用するようにしてください。クレートのように狭い場所では便意も起こりにくくなります。排泄の失敗は、尿路感染症、喉の渇きや排尿の増加を引き起こす医学的問題、胃腸疾患、さらには体のどこかの痛みが原因である可能性があります。帰宅時にこのような問題行動に気づかれたらすぐに分離不安だと決めてしまうのではなく、原因として潜在しているかもしれない病気を疑って獣医師に相談してください。
外出の際は見守りカメラなどの便利グッズを活用するのもおすすめ
愛犬がなにをきっかけに分離不安を感じて問題行動につながってしまったのかを知ることは飼い主であっても難しいことです。なぜなら、それは留守番中に起きているからです。可能であれば、犬が留守番している時に犬が何をしているかを確認できる見守りカメラを設置するのもひとつの方法です。家の前を通り過ぎる人、大きな車やトラックの音、さらには隣人の犬の吠え声など、問題行動のきっかけ刺激をより正確に特定するのに役立つでしょう。
見守りカメラを選ぶ際は、外出先からスマホ連動させてアングルも変えられるものがおすすめです。固定型のものと比べると、歩き回る愛犬の様子をとらえやすいでしょう。また、自動給餌器と連動していて犬がうろうろと動き回るのが確認されたらフードが出てくるようにすることができるのも問題行動の予防に役立つでしょう。声を聞かせることができる機能がついている場合がありますが、飼い主の匂いや存在が目視できないのに声だけ聞こえるのは不安を募らせる場合があるのであまりおすすめしません。