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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
皆さんが飼っている犬はお留守番をすることにどれだけ慣れているでしょうか。家の中で過ごす時間が増えている人も多くなっているかもしれませんが、お買い物やお仕事などで家を留守にする機会は意外と多いものです。今回はヤマザキ動物看護大学で動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生に教えていただいた、愛犬が留守番を苦に思わないように心がけておきたいことや留守番に慣れさせるためのトレーニング、しつけの仕方などについて解説していきます。
目次
- 犬の留守番時間の限界は何時間くらい?
- どれくらいの時期から犬は留守番ができるようになる?
- 犬に留守番をさせるために必要な環境づくりとは?
- 留守番中の愛犬を退屈させないためにはどうすればいいの?
- 犬に留守番をさせるために必要なしつけやトレーニングにはどんなものがあるの?
- 犬に留守番をさせる際の注意点とは?
犬の留守番時間の限界は何時間くらい?
例えば、平日共働きの家庭の場合、1日に9~10時間の留守番が週5日繰り返されていることになります。犬に大きなストレスを与えないで長時間の留守番させるためのポイントは、排泄のタイミングにかかわることが大きく、犬の年齢によって異なります。
子犬の留守番時間の目安
子犬の場合は3~5時間おきに排泄リズムがあるためトイレトレーニング中に放置するのは3時間以上とならないようにしましょう。生後3か月を過ぎると排泄の間隔が開いてリズムが生まれてきます。一般的に月齢が間隔の時間となるので、生後5か月なら5時間となります。
成犬の留守番時間の目安
成犬(1歳以降)では排泄の間隔と食事の間隔が開くため、一般的に6~8時間は留守番が可能と考えられますが、飼育環境や留守番の頻度によっても異なります。落ち着ける環境に暮らしていて、これまでも留守番の機会が多かった犬が最も長く留守番に耐えられます。週に2~3回の「毎日は留守番しない」成犬は思わぬ問題行動を起こすことがあるので、注意が必要です。
高齢犬の留守番時間の目安
7歳以上の高齢犬であっても、健康であれば成犬と同じように留守番できます。痛みなどの慢性的不調を抱えるようになると、それまで平気だった長時間の留守番が苦手になって、粗相をしてしまったり、鳴き続けたりといった行動が起きる場合もあります。留守番中は遠隔モニターなど使って不安を感じていないかを確認できると良いでしょう。
どれくらいの時期から犬は留守番ができるようになる?
もともと犬は群れで暮らすことを好むので、留守番が苦手な動物といっていいでしょう。そのため、不安を感じずに留守番をさせるには、トレーニングが必要です。
子犬のうちに留守番に慣れさせる
子犬の頃から繰り返し留守番させる習慣を作っておけば、独りで過ごしても平気となります。大切なのは、信頼関係が生まれ、待っていれば飼い主さんが帰ってくると覚えさせることです。成長するにつれて、習慣を変更するのは難しくなるので、家庭での日常生活のルーティンが決まってしまう子犬のうちに留守番に慣れさせるようにするといいでしょう。
留守番に慣らす練習は計画的に
飼い主さんが出て行けば、強制的に犬に留守番を経験させることができますが、それでは不安を感じて留守番が苦手になってしまいます。その結果、排泄のリズムを崩して粗相をしてしまう犬もいます。犬にストレスを与え問題行動を引き起こさせないためにも、計画的に留守番に慣らす練習をして、少しずつ時間を伸ばしていくといいでしょう。
犬に留守番をさせるために必要な環境づくりとは?
犬を室内でフリーにさせるか、あるいはケージやサークル、クレートという屋根のついた箱型のハウスに入れて留守番させるかによって、注意点が違います。室内の場合は安全性の確保に気をつけなければなりませんし、長時間ケージなどで留守番させるためには、その中での温度や湿度の管理、水分補給と排泄が可能な状態にしなければなりません。
口にすると危険なものはしまっておく
室内でフリーな状態で留守番させると、子犬や好奇心旺盛な若い犬の場合は、いろいろなものを噛んでしまいます。口に入れたら危険なもの、電化製品のコード、人用の薬、洗剤、殺虫剤などは絶対に犬の口や手が届くところに置かないように。鍵のかかる戸棚にしまうのが良いでしょう。
快適に過ごせるような室温管理は鉄則
移動がしづらいケージやクレートで留守番をさせる場合、夏場は熱中症に気をつけなければなりません。一方で、クーラーの冷風や暖房の近くに置いてしまうのも、逃げ場がなくて辛い思いをさせてしまうかもしれないので、注意が必要です。ペット用にホットカーペットや電気あんかなどが売られていますが、これも低温やけどの危険があるので、犬が自分で快適な場所を選べるように一面を覆わない配置にしましょう。
室内の湿度管理も重要
エアコンの空調では、湿度が下がりすぎることがあります。乾燥は水分不足や被毛の不調にもつながりますので、適切に加湿してあげましょう。湿度が高まる時期は除湿も重要です。犬は口から息を吐きだすことで体温を下げる調節をします。舌の水分が蒸発するときに気化熱を奪い体温を下げています。湿度が高いと水分の蒸発が滞り、その結果体温が下がらず、熱中症などの状態になる場合もあります。
留守番中の愛犬を退屈させないためにはどうすればいいの?
以下のような方法を意識することで、愛犬も留守番中に過ごしやすくなるでしょう。
おもちゃやおやつで工夫する
普段与えていないような珍しいおもちゃやおやつの使用がおすすめです。珍しさが犬の集中を持続させ、飼い主さんがいなくなっても気がまぎれます。おやつの場合は食べ過ぎてしまわないように、長持ちするタイプがいいでしょう。
安心できる場所の提供
犬は巣穴に似た形状のものを好みます。外からの刺激が届きづらく、日ごろから安心して体を横たえられるような場所があるとリラックスできます。箱形のクレートは清潔に保ちやすく、持ち運びも可能なのでお勧めです。
いつもの音環境に近づける
飼い主さんが在宅しているときと似たような音環境にすると落ち着けるという場合もあります。TVやラジオなどを適度な音量で聞かせることは、外からの音を紛らせて不安を感じさせにくくしてくれます。
留守番前に疲れさせる
留守番前にしっかりと散歩に行く時間を持ちましょう。排泄がスムーズにできるだけでなく、心地よい疲労を感じさせることができ、留守中に寝て過ごす時間を長くすることができるからです。
犬に留守番をさせるために必要なしつけやトレーニングにはどんなものがあるの?
はじめにお伝えしたように、留守番の時に気をつけなくてはいけないのは排泄のコントロールと、犬が安心して過ごせることです。ここではトイレ、クレート、ひとりで過ごす練習について説明します。
トイレトレーニング
決められた場所に排泄するトイレトレーニングは、留守番をさせるために必要です。トイレの場所を決めておきましょう。トイレに使うペットシーツなどを購入する際に、そのシーツより一回り大きいサークルを用意します。そのサークル内に設置したトイレの場所に時間を決めてつれて行き、成功したらご褒美として外に出してあげます。排泄中にトイレを示す号令「ワンツー」「シー」など声をかけます。これは号令で排泄させる習慣をつけるためです。
トイレをサークルなどで囲うのは、しても良い場所を教えるためです。囲われていれば飛び出せないので、絶対にシーツ上に成功します。シーツの上に排泄できて他の場所を汚さなかった日が3日間続けばトイレトレーニングは完了です。
クレートトレーニング
犬の習性のひとつに「暗くて狭い穴のような場所が落ち着く」という性質があります。クレートの中の空間は、まさに犬のその習性にぴったりですが、慣れないうちに強引に閉じ込めると苦手になります。そうならないようにクレートトレーニングが必要です。
トレーニングの方法は、まずクレート設置して、そのクレートの中にごはんやおやつや大好きなおもちゃを入れます。犬を入れないで、扉は閉めたままにして、犬が入りたくなって外から扉を開けたがるように誘導します。扉を開いて中に顔を入れたらまずはOK。中へ全身が入るように励まします。全身が入って、向きを変えて出てこようとした時、扉の前に立って(座って)おやつやごはんを与えます。「クレートの中にいるとご褒美がもらえる」と学習させるためです。
ご褒美をあげながらクレートを示す号令「ハウス」「入って」「クレート」などを言い、クレート内でご褒美をもらうことと号令を一緒に学習させていきます。扉を閉めるのは、犬が自分でクレートに入って出てこないで待てるようになるまで待ちましょう。少しずつ扉を閉めている時間を長くし、中で30分ほど遊べるようになったらトレーニングの完了です。落ち着けるように、クレートの上にタオルや布をかけてあげるのも良いでしょう。
離れて過ごすトレーニング
寂しがり屋の愛犬をいきなり留守番させるのはハードルが高いという場合は、おうちの中で別の部屋で過ごす時間を持つところから始めましょう。1階と2階に分かれるなど、気配が分かる距離からはじめると良いでしょう。まずは、犬が集中できるようなおやつやおもちゃを与えてから離れます。おもちゃに飽きる前に戻ってあげれば、遊んでいたら飼い主さんは戻ってくると学習しやすくなります。戻った時に褒めてあげたくなりますが、早く戻ってきてしまうようになってしまうため、戻った時に反応しないで、犬が落ち着いたら、落ち着いていることに対して褒めましょう。
留守番トレーニング
いよいよおうちで独りで過ごすことに慣らすトレーニングをします。はじめは出かけるそぶりを見せるだけにします。段階を踏んで時間を延ばしていくのがとても大切です。犬が落ち着いていられたらよく褒めます。何度も「出かけそうなのに出かけない」様子を目の当たりにすると、犬も学習し、出かけるそぶりでは慌てないようになってきます。
次にほんの少し外出してみます。すぐに戻ります。「飼い主さんは出かけてもすぐに戻ってくる」と分かってもらうためです。1日に何度も出入りすると慣れるのも早いです。離れて過ごすトレーニング同様に、戻った時に大いに褒めるのではなく、飼い主さんが片づけや手洗いうがいを済ませて、犬が落ち着くのを待って穏やかに褒めます。犬が歓迎していても飼い主さんは無視をするようにしましょう。
犬に留守番をさせる際の注意点とは?
愛犬に留守番をさせる上で、日頃から注意すべきポイントを以下にご紹介します。
留守番前後に過度に構うのはNG
飼い主さんが居なくなることが記憶されてしまい、次から留守番が苦手になってしまう可能性が高まります。あくまでもさりげなく平静を保って外出しましょう。犬が飼い主さんに注目してしまい、こっそり出かけられない場合、犬の集中を誘うようなおもちゃやおやつを使いましょう。
不安レベルを高めないように
不安になりやすいタイプの犬は留守番を苦手とする傾向にあります。リラックスできる場所が無い、家の周りがにぎやかである、留守番トレーニングがまだできていない、トイレトレーニングがまだ不完全、長時間の留守番をさせたことがある、恐怖を感じる出来事があった、興奮するような出来事があった、という場合は不安を感じやすいと考えてください。できるだけ不安要素を取り除くことで留守番を落ち着いてできるようになります。
体罰は厳禁
引っ張って言うことを聞かせるチョークチェーンのような首輪、電気ショックを与える首輪、厳しい口頭での罰は厳禁です。飼い主さんへの不信感がやがて不安につながります。
第3稿:2021年10月18日更新
第2稿:2021年2月15日更新
初稿:2020年10月26日公開
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。