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ふくふく動物病院院長。得意分野は皮膚病。飼い主とペットの笑顔につながる診療がモットー。キャバリアと5匹の保護ねこ、わんぱくなロップイヤーと一緒に暮らしている。
犬は虫歯になりにくい動物だと言われています。ただし、食生活や口腔ケアの頻度によっては虫歯になる可能性もあるため、日頃から注意が必要です。今回は、犬の虫歯や口腔内トラブル、予防や日頃のケアや治療法について紹介します。
目次
- 犬が虫歯になりにくい理由
- 犬の虫歯の見分け方
- 犬の虫歯の治療法や費用はどうなっているの?
- 犬が虫歯になる原因
- 虫歯だけじゃない!犬に多い口の中のトラブルは?
- 犬が歯周病にかかる原因は?
- 犬の歯周病のサインにはどんなものがあるの?
- 虫歯や歯周病にかかりやすい犬種は?
- 犬の虫歯や歯周病の予防に効果的なデンタルグッズ
- まとめ
犬が虫歯になりにくい理由
犬の虫歯は非常に稀で、「犬に虫歯はない」と考えられていたほどです。そのため、獣医学でも人間の歯科のような研究はされていませんでした。犬に虫歯が少ない理由としては以下の点が挙げられています。
歯の形が人と違って尖っている
人と犬では歯の形状が違います。人の奥歯は臼歯と呼ばれ、臼の形をしていますが、犬の奥歯は一部の歯を除いて薄く尖っており、奥歯は一部を除いて、いわゆる虫歯菌がたまりにくい形となっています。
唾液にアミラーゼがないため、デンプンを口にしても糖質に変化されない
人間の唾液にはアミラーゼという酵素が含まれており、このアミラーゼによってデンプン等を消化することができます。虫歯菌は糖質を餌にして、粘り気のあるグルカンを生成し歯の表面に付着します。しかし、犬の唾液にはアミラーゼが含まれないため、糖質が存在しにくく虫歯菌が繁殖しにくいとされています。
ph値が人より高い
ph値が低いほど、口内が酸性傾向になり、歯が溶けやすく虫歯になりやすいと考えられています。犬の口腔内のphは、人のように酸性ではなくアルカリ性です。アルカリ性の環境下では虫歯菌が繁殖しにくくなるため、虫歯になりにくいといわれています。
犬の虫歯の見分け方
犬が虫歯になったときの虫歯のサインを紹介します。以下のような兆候が見られたら虫歯の可能性があるため、動物病院に連れて行ってください。
口臭が気になる
犬の口臭が生ゴミのような嫌なニオイになっている場合、虫歯の可能性があります。犬を抱き上げたときや。顔を舐められたときに普段とは違った口臭がしたら、口の中を確認してみましょう。
歯に変色箇所や穴がある
虫歯になると、歯が茶色・黄色などの濁った色になり、ツヤがなくなります。進行するにつれて、黒ずみができたり、穴が空いたりといった症状が見られます。変色や穴は写真に撮っておくと、診察の際にスムーズです。すぐにわかるほど変色穴が目立つようになると、犬自身が痛みを感じている可能性も高いでしょう。
食欲に異変がある
虫歯になると歯の痛みから、犬の行動に変化が見られます。ドッグフードが上手く食べられなかったり、途中で食べるのを止めたりといった兆候が代表的です。とくに硬いものや冷たいものを食べづらくなる傾向があります。ドッグフードの食いつきに気になる点があれば、動物病院に相談してみてください。
口に違和感がある
虫歯の痛みによって、ごはん以外の場面でも犬の仕草に変化が見られることがあります。たとえば、口を気にする素振りを見せたり、口に触ろうとすると嫌がったりする様子を見せたりする場合は、虫歯の可能性があるでしょう。
犬の虫歯の治療法や費用はどうなっているの?
犬の虫歯の治療法は、人と同じ初期治療、歯周外科治療、再建治療から成り立っています。それぞれの大まかな内容を紹介します。
初期治療
虫歯を削り取ったり、患部に詰め物をしたりします。虫歯がひどい場合には、歯の神経を抜いたり歯そのものを抜いたりします。
歯周外科治療
歯周病を改善させるための治療です。歯周病の原因である歯垢や歯石を手術によって取り除きます。
再建治療
歯を失った際に、入れ歯などで代用させる治療です。
実際に虫歯治療を行うのか、歯肉炎・歯周炎治療を行うのか、抜歯などを行うのか、などそれぞれの症状や状態に合わせて総合的に検討が必要です。麻酔をかけてから診断をして初めて症状が分かるという場合もあるので、事前に費用を確定させるのはなかなか難しいところです。
費用は症状や病院にもよって異なるため30,000円前後だと言われていますが、事前に、飼い主さんの要望等も伝え、よく相談して下さい。犬の虫歯の場合、治療の際にほとんどが全身麻酔となります。ただし全身麻酔は負荷が高いため、なるべく予防を徹底しましょう。また、同じ状況が繰り返されぬよう、処置後の予防法についても確認しておくことが重要です。
犬が虫歯になる原因
犬の虫歯はめずらしいためまだ研究段階にあるものの、虫歯の原因だと考えられているものはいくつかあります。
糖分を含む食べ物をよく与えている
虫歯の原因とされている糖分は、犬の総合栄養食にはあまり含まれていません。しかし、甘い味つけがされた犬用おやつや、人間用の食べ物は糖分が多いため、与えすぎると虫歯菌が活性化します。総合栄養食中心の食事を心がけていれば、基本的に虫歯になりづらいでしょう。
歯の手入れが不十分
犬も歯磨きを怠っていると、口内の衛生環境を清潔に保てないため、虫歯菌が繁殖しやすくなります。犬は人間よりも歯垢が歯石に変わるスピードが速いと言われていて、歯垢を早めに取り除くことが大切な虫歯対策です。虫歯予防のためにも、歯磨きや歯磨きペースト、デンタルガムを活用したデンタルケアをこまめに行うようにしてください。
虫歯がある犬や人間とのスキンシップ
虫歯菌は犬から犬、人から犬へも感染します。飼い主さんに虫歯があるまま犬に口を舐めさせると、虫歯がうつってしまうリスクがあるため要注意です。虫歯治療中は、犬と顔を近づけるのは避けるようにしましょう。
虫歯だけじゃない!犬に多い口の中のトラブルは?
犬は虫歯になりにくいのですが、口の中のトラブルで多いのが歯肉炎・歯周炎です。歯肉炎・歯周炎になると、歯肉の赤み(発赤)や腫れ(腫脹)、血が出る(出血)、重度の場合は口臭が強くなり、膿が出ることもあります。また、歯根部まで炎症が及ぶと、口から鼻に通じて、くしゃみや鼻水が出たり、頬や目の下の皮膚にも影響が出たりして、あたかも皮膚炎のように血や膿が出てくることがあります。
犬が歯周病にかかる原因は?
歯垢が歯肉溝(歯周ポケット)に溜まり、感染がおこることで歯周病が進行します。歯垢自体は細菌のかたまりであるため、放置しておくと歯ぐきに炎症を起こしたり、歯を支えている周辺組織が破壊されてしまったりします。
犬の歯周病のサインにはどんなものがあるの?
歯周病のサインを見つけるためにも、口腔内を定期的にチェックしましょう。
歯肉炎・歯周炎については
- 歯肉の赤み(発赤)や腫れ(腫脹)
- 血が出る(出血)
- 重度の場合は口臭が強くなり、膿が出る(排膿)
といった症状が見られます。
また、歯根部まで炎症が及ぶと、口から鼻に通じて、くしゃみや鼻水が出たり(口鼻瘻)、頬や目の下の皮膚に影響が出てしまい、皮膚炎のように血や膿が出てきたり(歯根膿瘍)することもあります。
ただし、人と違って、犬は虫歯や歯周病になっても違和感を示さないことがあります。ごはんを食べない、元気がない、好きなおやつを口にしない、フードを口の片方だけで食べているといった状態が続く場合、虫歯とは断定できなくても、かかりつけの動物病院に相談してみましょう。
虫歯や歯周病にかかりやすい犬種は?
犬の虫歯については不明点が多いため断言できませんが、歯周病にかかりやすい犬は、人と同じで、歯並びやかみ合わせに問題がある犬種と言えます。チワワやマルチーズなどの小型犬、シーズーやフレンチブルドッグなどの短頭種が該当します。口元が長い犬種でも、高齢のミニチュアダックスフンドの歯周病の症例も数多く報告されています。
犬の虫歯や歯周病の予防に効果的なデンタルグッズ
犬の歯磨きトレーニングをはじめる目安は、生後3ヶ月ごろです。歯ブラシは嫌がる犬が多いですが、他にもさまざまなデンタルグッズが販売されていますので、犬にあったものを組み合わせて口腔内を健康に保ちましょう。ここでは、犬の虫歯・歯周病予防に効果的なグッズを紹介します。
犬用歯ブラシ
犬用の歯ブラシには、力を入れても歯を傷つけないよう柔らかいブラシが使われています。適切なヘッドの大きさは犬によって違うため、犬種やサイズ、年齢にあったものを選ぶようにしましょう。
歯磨きシート
歯磨きシートは、指に巻いて歯を磨くグッズで、歯磨きトレーニングにも便利に使えます。犬は口の中に指を入れられるのを嫌がるため、歯磨きシートで口周りをタッチして慣れさせるところからはじめるといいでしょう。
歯磨きジェル
チキンや果物など、犬が美味しく感じるフレーバーがついたジェルです。歯磨きジェルには飲み込んでも問題ない素材が使われているため、人間の歯磨き粉と違ってすすぎは必要ありません。指につけて舐めさせるだけでも効果があるため、歯ブラシや歯磨きシートを使った歯磨きへの抵抗を減らすのにも役立ちます。
デンタルウォーター
飲み水に混ぜて使用するデンタルグッズで、口臭低減や歯の健康維持に効果的な栄養素が含まれています。飲み水と一緒に摂取できるため犬の体にも負担をかけにくいことが魅力です。歯磨きジェルと同じく、犬が好きなフレーバーがついた商品もあります。
デンタルガム
食後の歯磨きに使えるガムも販売されています。ガムが好きな犬であれば自ら齧ってくれるので、歯磨きトレーニングが難航している間も取り入れやすいでしょう。ただし、丸呑みしてしまい窒息したり胃腸を傷つけたりするリスクがあるため、与え方には注意が必要です。子犬や体が小さい犬には、ガムを手で持って、虫歯になりやすい奥歯を含め左右まんべんなく噛ませるといいでしょう。
まとめ
犬が虫歯になるリスクは比較的低いものの、犬が虫歯になると口に痛みや違和感をおぼえて食欲にも影響します。さらに、歯周病を併発するリスクもあるため、日常的な口腔ケアをしっかり行いましょう。犬の口腔ケアは歯ブラシだけでなく、歯磨きシートやデンタルガムなどさまざまな方法があります。犬種や年齢にあった口腔ケアを取り入れて、歯を健康に保ちましょう。