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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬は食べることが大好きで、出されたご飯はなんでもペロリと平らげます。ただし、なかなかご飯を食べてくれない犬も。犬の偏食・食べムラ・食べ渋りなどには、どう対処すればよいでしょうか。犬がご飯を食べてくれないときの対処法について、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生に解説していただきます。
目次
- 犬がご飯を食べない主な原因は?
- 犬がご飯を食べないときの対処法①:フードを切り替える
- 犬がご飯を食べないときの対処法②:おやつを与える回数を減らす
- 犬がご飯を食べないときの対処法③:トッピングで匂いを変える
- 犬がご飯を食べないときの対処法④:手作りフードにする
- 犬がご飯を食べないときの対処法⑤:フードの保管方法を変える
- 犬がご飯を食べないときの対処法⑥:食べなかったらすぐにフードを取り上げる
- 犬がご飯を食べないときの対処法⑦:フードのお皿を変えてみる
- 犬がご飯を食べないときの対処法⑧:フードを元に戻す
- 犬がご飯を食べないことの注意点
犬がご飯を食べない主な原因は?
犬がご飯を食べない原因は、主に3つ挙げられます。原因によって、効果的な対処法も変わってきますので、見極めましょう。
偏食
犬がご飯を食べない原因のひとつに、同じものを食べ慣れた結果、それ以外の味や匂いの食べ物を避けるという偏食が挙げられます。警戒心の強い性格の犬は、子犬の頃に均一な味だけで育てると、成長後も異なる味つけを避ける傾向が高まります。
食べムラ
食事が日によって異なったり、おやつとして総合栄養食以外を日常的に与えていたりする場合、嗜好性の高く大好きなものを食べたことによって、嗜好性の低い食べ物を避けるようになることがあります。中でも子犬やシニア犬、小型で活動性の低い犬などは、その傾向が高いです。この場合、好きなものなら食べるのが特徴です。直前におやつを食べた、人の食べ物を盗んだなど、空腹でない場合も食べムラが見られるでしょう。
食べ渋り
疲れていたり、体や口が痛かったり、不安などの心理的なストレスがかかっていたりするときに、犬の食欲がなくなることがあります。おやつなど好きなものを与えても口にできない場合もあり、長時間にわたると体調への悪影響が心配されます。急に食べものをまったく口にしなくなり、1日経っても様子が変わらないときは、獣医師の診察を受けましょう。
犬がご飯を食べないときの対処法①:フードを切り替える
食べムラに有効です。食欲がわくような匂いや味つけのフードを与えると、食べるようになることが多いです。子犬やシニア犬の場合は、フードが食べにくかったり硬かったりすると食が進まないこともあるため、食感が異なるものを与えるのも良いでしょう。ただし、それまで与えていたものから100%切り替えてしまうと、犬によっては胃腸への負担が変わり、嘔吐・軟便などの影響が出ることも。まずは10%程度だけ切り替え、様子を見て変化がなければ徐々に混ぜる割合を大きくしていくと安心です。
犬がご飯を食べないときの対処法②:おやつを与える回数を減らす
食べムラの中でも、おやつの食べすぎで食欲が減退し、総合栄養食を食べなくなってしまった犬に有効です。「総合栄養食を食べずにいたら、心配した飼い主がおやつをくれた」という経験は、犬が学習してしまいがち。こうした場合は、おやつをできるだけ与えないようにして修正していきましょう。
犬がご飯を食べないときの対処法③:トッピングで匂いを変える
食べ渋りに有効です。嗜好性の高い匂いをつけることで、犬の食欲を高めることができます。嗅覚が低下しているようなシニア犬には、フードを温めて匂いを立ちやすくするのも効果的です。
犬がご飯を食べないときの対処法④:手作りフードにする
食べ渋りに有効です。フレッシュな食品は、多くの犬に好まれます。含まれる水分が多く食感も柔らかいため、体調が悪い場合も食べやすいでしょう。ただし、完全な手作り食にしてしまうと、必要な栄養素をバランスよく与えることができなくなる恐れも。また、犬に不適切な食材を含んでしまう危険性もあります。手作りする際には正しい情報をもとに調理することを心がけましょう。
犬がご飯を食べないときの対処法⑤:フードの保管方法を変える
食べムラ、食べ渋りに有効です。フードは開封するとどんどん酸化し、食味が悪化します。そのため、開封直後は食べるのに、日を追うごとに食べなくなっていくことも。こうした場合、小さいパッケージの商品を選んだり、密閉容器に入れて冷蔵庫で保管したりするといいでしょう。味の劣化を防いで食べムラや食べ渋りを起こさせないだけでなく、廃棄量も減って経済的です。
犬がご飯を食べないときの対処法⑥:食べなかったらすぐにフードを取り上げる
食べムラに効果的です。「食事をせずにいたら、飼い主が別の食べ物やおやつをくれた」という体験をすると、犬は別の食べ物をもらいたい一心で出されたフードを拒否するようになっていきます。犬が食事しない場合は一度フードを下げ、空腹時にもう一度同じ食事を与えると食べるようになることも。
ただし、空腹なのにフードを拒否した結果、低血糖になって倒れる犬もいるため、飼い主が頑なに食事を与えないのはおすすめできません。犬の食欲が高まるよう、運動を取り入れたり、楽しい雰囲気や安心できる環境を作り出したりすることも大切です。リラックスして食事できるよう、号令やエクササイズのご褒美として食べ物を与えるのもいいでしょう。
犬がご飯を食べないときの対処法⑦:フードのお皿を変えてみる
食べ渋りに有効です。「お皿の縁が高すぎて、顔を突っ込むのが不安」「お皿の位置が低すぎて、首や腰が痛くなった」などの不快な経験があると、犬は食事を避けるようになります。特に、家に来たばかりの犬やシニア犬には、こうした傾向が見られます。縁が低いお皿に替えたり、お皿を台に乗せて頭を下げずに食べられるような工夫があったりすると、無理なく食事できるようになるでしょう。
犬がご飯を食べないときの対処法⑧:フードを元に戻す
偏食に有効です。新しいフードを食べない場合、元のフードに戻すと食べるようになります。療養食やライフステージの変化でフードを切り替えたいときは、必ず最初は10%程度だけ切り替え、様子を見て変化がなければ徐々に混ぜる割合を大きくしていくようにしましょう。
犬がご飯を食べないことの注意点
食欲は、犬の健康状態を表わすバロメーター。食事をとらないことが、犬の異変を表わしている可能性もあります。
病気の可能性
痛みや胃腸の不調があると食欲がわかないことがあります。シニア犬は状態が急に悪化することもあるので、「昨日と違う」と気づいたら、すぐに獣医師に相談しましょう。
また、痩せている犬や小型犬が長時間食事をせずにいると、低血糖で倒れて失神するなどの発作に見舞われることも。犬が食べ物を口にした時刻は獣医師に症状を相談する上で重要な情報となるため、日頃から気をつけ、メモを取る習慣を作りましょう。食欲増進の薬もあるので、獣医師に早めに相談してください。
分離不安症
飼い主がいないときだけ食事をしないとき、例えば留守番前に与えた食事が手つかずになっていて、飼い主が帰宅したら食べ始める場合、その犬が分離不安となっている可能性が高いです。問題が悪化する前に、獣医師に相談するなど分離不安の対策を講じましょう。
高齢性認知機能不全
高齢性認知機能不全の症状として、食欲の減退があります。高齢で、活動性が低くなってきて食欲が減退している、家の中で迷うようになった、排せつの失敗が起きてきたといった兆候が見られる場合は、早めに獣医師に相談しましょう。進行を遅らせる対処をすることができます。
ご飯を食べないことに関係する犬の問題行動
食べずに残しておいたご飯を守ろうとして、近づく飼い主を攻撃してくる犬もいます。これは「食物関連性攻撃行動」という所有欲に関わる問題行動です。安心できる空間、例えばハウス内で食べ物を与えることで改善させることができます。突進する、噛もうとするなど攻撃性が高い行動が頻繁な場合は、飼い主が怪我をする危険性が高まるため、速やかに獣医師や行動の専門家に相談しましょう。