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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
耳を後ろに倒すヒコーキ耳は、愛らしい姿から多くの方が癒されています。なかには「ヒコーキ耳になっている犬はどのような気持ちなのだろう?」「ヒコーキ耳はすべての犬種で見られるの?」と気になる方もいるでしょう。
この記事では、ヒコーキ耳をするときの感情やなりやすい犬種や見分け方などを解説します。ヒコーキ耳は嬉しいときや、甘えたいとき、恐怖や不安を感じているときなどに見られます。ヒコーキ耳の特徴を理解し、愛犬とのスキンシップに活かしてください。
目次
- ヒコーキ耳とは?イカ耳とは何が違う?
- ヒコーキ耳をする犬の気持ちや状態とは?
- ヒコーキ耳かを判別できるカーミングシグナル
- ヒコーキ耳になりやすい犬種
- ヒコーキ耳以外にも犬の気持ちを耳で見極めることは可能?
- まとめ
ヒコーキ耳とは?イカ耳とは何が違う?
ヒコーキ耳とは犬の耳が後ろに倒れた愛らしい仕草のことで、SNSを中心に日本のみならず海外でも人気です。垂れた耳が飛行機の翼に見えることから「ヒコーキ耳」と呼ばれるようになりました。
犬は感情や気持ちを表すときに、尻尾や目線など全身からシグナルを出します。耳でもさまざまな表現を見せます。耳の動きに関する筋肉は耳介筋(じかいきん)と呼ばれ、犬は前後に倒したり回旋させたりと、自由に動かすことが可能です。
また、ヒコーキ耳と似た名前に「イカ耳」がありますが、これは猫に見られる動きで、耳の先がピンと立ち外側を向いた状態のことを指し、警戒した気持ちを表します。
ヒコーキ耳をする犬の気持ちや状態とは?
犬は気持ちが高ぶることでヒコーキ耳になりやすく、感情を見分けるためには耳以外の仕草や表情の確認も必要です。ここでは、ヒコーキ耳をした犬について、同時に見られる表情や仕草によってどのような気持ちになっているかを詳しく解説します。
リラックスしている
ヒコーキ耳をしながら穏やかな表情で尻尾を振っている犬は、リラックスした心情になっているでしょう。犬は聴覚が優れ音に敏感なため、気になる音が聞こえると耳をピンと立てて集中します。緊張が解けて筋肉が緩むと自然に耳が下がり、ヒコーキ耳になります。
舌や歯茎が見えない程度に口元が半開きになっている状態でヒコーキ耳が見られたら、リラックスしていると判断して良いでしょう。
嬉しい気持ちを示している
ヒコーキ耳とあわせて口角が上がっている場合は、嬉しい気持ちを表現しています。この仕草は飼い主が帰宅したときやご飯の支度をしているときに多く見られ、大好きな人がいることに心から喜びを感じています。
ヒコーキ耳に加え、目を細めて尻尾を大きく振る動きが見られたときは喜びが溢れ出ているため、たくさん撫でて気持ちを満たしてあげましょう。
撫でてほしい、甘えたい気持ちを示している
ヒコーキ耳は「飼い主に撫でてほしい、甘えたい」と感じているときにも見られます。頭の面積が広がり触れやすくなるヒコーキ耳は、理にかなった行動と言えるでしょう。
また、ヒコーキ耳は「子犬のように、か弱い存在なのでかまってほしい」と飼い主の気を引くためとも考えられています。耳を後ろに倒しながら飼い主をじっと見つめる仕草が見られた際は、甘えたい気持ちを表現しているため、できる限りスキンシップをとるのがおすすめです。
敵意を示している、威嚇している
ヒコーキ耳とあわせて歯を剥き出したり険しい表情をしていたりするときには、敵意を示し威嚇する心情を表している可能性があります。威嚇や敵意に気づかずに手を出すと噛まれる可能性が高いため、犬自身の気持ちが落ち着くまでそっとしておきましょう。
好意的な気持ちを示している
ヒコーキ耳に加えて口角や尻尾が下がっている、飼い主を舐めるなどの仕草が見られた場合は、好意的な気持ちを表現しています。飼い主が緊張しているときにも同様の仕草が見られますが、そのときは犬がなだめようとしている可能性が高いでしょう。
犬は飼い主がどのような反応をするのか不安な気持ちで様子をうかがっているため、驚かさないように注意が必要です。感情を受け止めつつスキンシップをとって愛情を伝えると、犬も安心できます。
不快や緊張、恐怖を感じている
ヒコーキ耳は雷や花火などの大きな音に驚いたときのほか、怖い思いや嫌なことを思い出したときにも見られます。顔がこわばっている場合は恐怖や不安を感じている可能性が高いため、気持ちを受け止めながら不安を取り除いてあげることが大切です。
ただし、触る際に身を引く動きが見られた場合は、そっとしておく必要があります。状況や仕草を元に感情を汲み取り、犬の気持ちに寄り添って対応しましょう。
ヒコーキ耳かを判別できるカーミングシグナル
ヒコーキ耳かを判別するには、生まれつき犬に備わっているボディランゲージを参考にすると見分けやすくなります。
犬のボディランゲージはカーミングシグナルと呼ばれ、ノルウェーの動物学者「テゥーリッド・ルーガス」により提唱されました。「Calming(落ち着かせる)」と「Signal(信号)」を掛け合わせた造語で、犬はカーミングシグナルで気持ちを表現して争いを避けていると言われています。
感情別のカーミングシグナルは、以下のとおりです。
感情 |
カーミングシグナル |
リラックスしているとき |
・お腹を見せる ・口が半開きになる |
嬉しいとき |
・飼い主の鼻や口を舐める ・仰向けになる ・耳を低くする ・尻尾を左右に大きく振る ・上目遣いで飼い主を見る |
威嚇や敵意を示すとき |
・唸る ・歯を見せる ・鼻に皺を寄せる ・尻尾を高めに振る |
撫でてほしい、甘えたいとき |
・体を低くする ・耳を後ろに倒す ・口を半開きにする ・目を細める ・ゆっくり歩く |
好意的な気持ちを示している |
・飼い主の口や鼻を舐める ・おしっこをする ・お尻の方からゆっくりと近づく ・体の横を見せる ・斜め上を見る ・視線を逸らす |
不快や緊張、恐怖を感じているとき |
・震える ・目を細める ・あくびをする ・地面のにおいを嗅ぐ ・前足を上げる ・手足を舐める、噛む ・耳を後ろに倒す ・鼻を舐める ・口を開けたり閉じたりする ・ゆっくり動く ・周りながら歩く ・体をかく ・尻尾をしまう ・静止する ・背中を見せる ・おしっこをする |
ご紹介した内容は一例です。ヒコーキ耳は嬉しいときのほか、不安や警戒、緊張を感じるときにも見られます。口を半開きにする仕草や口や鼻を舐める仕草など、異なる感情で同じ動きをするものがあります。一つだけではなく、ほかにもカーミングシグナルが見られるかどうかをチェックし、愛犬の気持ちを把握しましょう。
ヒコーキ耳になりやすい犬種
犬の耳は「立ち耳」「半立ち耳」「垂れ耳」の3つに分けられますが、ヒコーキ耳になりやすいのは立ち耳の犬種と言われています。その理由は、立ち耳は普段から耳が上向きの動きが大きく、ヒコーキ耳を見分けやすくなるためです。立ち耳の代表的な犬種は、以下のとおりです。
1. 柴犬
2. 秋田犬
3. シベリアン・ハスキー
4. ポメラニアン
5. チワワ
6. パピヨンなど
ヒコーキ耳ができるかは性格や遺伝によっても決まるため「なぜうちの犬はヒコーキ耳をしないのだろうか」と心配する必要はありません。
ヒコーキ耳以外にも犬の気持ちを耳で見極めることは可能?
犬は耳でも感情を表現できるため、動きによって気持ちを見極めることは可能です。ここでは、代表的な耳の動きを5つ紹介します。普段どのように耳を動かしているのかチェックしてみましょう。
ピンと立っているとき
犬は優れた聴覚で物音や人の気配を察知しているため、耳がピンと立っているときは、何かに注目したり興味を示したりしている可能性があります。耳を立てながらどのような表情をしているかによっても感じている気持ちは全く異なるため、表情にも注目してみましょう。
表情がこわばっている場合は何かに集中しているか緊張している可能性があり、反対に優しい表情で口角が上がっていれば、嬉しい気持ちになっています。
ピクピク動かしているとき
耳をピクピク動かしながらキョロキョロ辺りを見回す仕草があったときは、不安や恐怖を感じている可能性があります。体がこわばる、口を閉じる、足に力が入るなどの仕草が見られたら、落ち着かせてあげましょう。
また、就寝中に夢を見たときにも耳をピクピクと動かすことがあります。
少し前方に倒れているとき
耳を少しだけ前方に倒すときは、威嚇や警戒・緊張状態であると考えられます。威嚇時は歯を剥き出しにして唸り、鼻に皺が寄っている仕草が見られるため、わかりやすいでしょう。
どのような危険を感じているのか、何に警戒をしているのかを理解することで、警戒心を解ける可能性があります。
前方に倒れているとき
耳が前方にしっかり倒れているときは、戦闘態勢に入っている状態です。この仕草は犬同士の喧嘩でよく見られ、かなり怒っている状態です。無理に威嚇行為を止めようとすると噛みつかれて怪我をする恐れもあるため、十分注意しながら対応してください。
横に倒れているとき
耳を横に倒すときは「遊びたいのに相手にしてもらえない」「かまってくれない」などの状況下で不満を感じている可能性があります。散歩や遊びの時間をつくってストレスを発散し、メリハリをつけた生活を送りましょう。
犬同士が近づいた際に尻尾を立てて耳を横に倒していたら喧嘩が始まる可能性が高いため、注意が必要です。
まとめ
言葉を話せない犬にとって、ヒコーキ耳は人や周りの犬に感情を伝えるための手段の一つです。ヒコーキ耳は好意的な気持ちのほか、リラックス、緊張、甘えなどのさまざまな感情を耳で表現しています。
また、犬の感情は顔の表情や耳以外の仕草からも読み解くことが可能です。ヒコーキ耳になりやすいのは、耳が上向きのポメラニアンやチワワなどの犬種ですが、なかには感情を耳で表現しない犬もおり個体差が大きいと言えます。
ヒコーキ耳以外にもカーミングシグナルや耳の動きによって、犬の気持ちは把握できます。愛犬との意思疎通によって関係性を深めるためにも、日頃から感情表現をチェックしてみてください。