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獣医師でありながら、トリマー、動物看護士、ドッグトレーナーとしての実務経験も持つ。病気の早期発見、未病ケアに努める0.5次医療を提唱し、精力的に活動。
犬は耳にトラブルを抱えがちです。犬がかかりやすい病気として、外耳炎がトップに挙げられるほどです。病気予防のためにも、犬は定期的な耳掃除が必要。そんな犬の耳掃除について、自宅でできる方法や注意点などを、獣医師の箱崎加奈子先生に解説していただきます。
目次
- 犬の耳掃除はなぜ必要?
- 犬の耳掃除を怠るとどうなるの?
- 犬の耳掃除の頻度やタイミングは?
- 犬の耳掃除に必要な道具は?
- 自宅で犬の耳掃除をする手順は?
- 耳掃除で犬の耳毛は抜くべき?
- 病院で犬の耳掃除はできる?
- 犬の耳掃除の注意点は?
犬の耳掃除はなぜ必要?
人間の場合は「耳掃除は過度にしなくてもよい」とか、むしろ「耳掃除はやらないほうがよい」と言われることがあります。でも、犬の場合も同様で、耳掃除をしなくても自浄効果でキレイな状態を保っている犬はたくさんいます。ただし、犬は外耳炎になりやすいため、ケアは大切です。
なぜなら、犬は耳の構造が蒸れやすくなっているからです。掃除をしないまま耳を放っておくと、外耳炎などの耳のトラブルを起こしがちです。特に垂れ耳の犬は耳のケアを怠ると、蒸れてしまって悪臭を放つことも。
そのため、飼い主が定期的に犬の耳の汚れ具合をチェックし、耳掃除をしてあげることが大切です。ただし、掃除の頻度や仕方については知っておきたいポイントがいくつかあります。順番にポイントを見ていきましょう。
犬の耳掃除を怠るとどうなるの?
基本的には、犬の耳には自浄効果があるので掃除をしなくてもよい状態を保つことができますが、外耳炎になりやすいため耳掃除は大事です。
また、犬種や体質によっては、病気予防のために定期的な耳掃除は欠かせません。そうした犬種や体質の犬では、耳の汚れがひどくなると、過度に耳垢が溜まったり、腫れたりかゆみが出たりするトラブルの原因になってしまうのです。犬自身も耳が気になって、頭を傾けたり頻繁に振ったりするなどの様子が見られることもあります。
外耳炎や腫瘍の発見が遅れてしまう
耳の状態がひどくなると、外耳炎などの病気が発症する場合があります。耳から内耳までの通り道である「耳道」内に腫瘍ができてしまうことも。病気の発見を早めるためにも、耳掃除で予防と定期チェックをすることは大事です。
犬の耳掃除の頻度やタイミングは?
犬の耳掃除をする頻度は、犬が健康であれば月1〜2回程度で十分です。日々のボディチェックをするときに、耳の状態も見てあげるとよいでしょう。
シャンプーのときに、耳掃除をするのもおすすめです。耳垢はベタベタしていることが多く、掃除で耳の周りが汚れてしまうことも。犬の顔を洗うのと一緒に耳掃除も行うと、汚れを簡単に洗い流すことができます。
耳の中で炎症が起きていると痛みが生じることがあります。犬が痛がるときは無理に耳掃除をせず、病院でチェックしてもらってくださいね。
犬の耳掃除に必要な道具は?
犬の耳掃除をするのに必要な道具をチェックしてみましょう。掃除の仕方によりますが、次のようなものがあればスムーズに行えます。
ガーゼやコットン
イヤークリーナーを浸して、耳の内側を拭くのに使います。
イヤークリーナー
耳掃除をするための専用液体。ガーゼやコットンを湿らせたり、直接耳の穴に入れたりして使います。固まった耳垢をふやかしたいときにも便利。ぬるま湯や水で代用できなくもないのですが、イヤークリーナーは成分によっては、抗菌作用があったり、外耳炎予防になったりするなどのメリットが。動物病院や通信販売などで入手できます。
綿棒
耳の内壁の細かい凹凸の拭き掃除に使うことがあります。慣れないときは耳垢を耳の奥に押し込んだり、耳の奥を傷ついたりすることがあるので注意しましょう。
鉗子(かんし)
耳毛を抜くときに使います。ただし、必要かどうかは動物病院などで一度相談するとよいでしょう。
自宅で犬の耳掃除をする手順は?
ご家庭で犬の耳掃除をする方法はいくつかあります。耳の汚れ方は犬の体質によって大きく変わるので、どんな方法が愛犬に一番合っているか、定期的に動物病院やトリミングサロンでアドバイスを受けるのがおすすめです。
基本的な耳掃除の手順をご紹介しますので、参考にしてみてください。
ステップ1:耳の汚れ具合やその他状況を確認
目に見える汚れがあるか、ないかを確認。赤み、腫れ、その他異常がないかどうかも確認します。(汚れが多い場合はステップ2へ。汚れが少ない場合はステップ3へ進みます)
ステップ2:奥の汚れを出す(汚れが少ない場合は不要)
イヤークリーナーを犬の耳の中へ垂らし入れ、耳の根元を20秒間ほどやさしくマッサージします。その後、犬から手を離して自由にさせると、犬はプルプルッと頭を振るため、耳の奥の汚れなどが耳の穴の入り口付近まで出てきます。
なお、重度の外耳炎などにより鼓膜が破れていることがあります。心配な場合は動物病院を事前に受診してから行うようにしましょう。
ステップ3:汚れを拭き取る
イヤークリーナーで湿らしたガーゼやコットンで耳を拭きます。穴の中は指の届く範囲まで。綿棒が使えそうであれば、イヤークリーナーで綿棒を湿らせ、ゆっくりと耳の穴の内壁を沿って拭いていきます。耳の穴は思っているよりも深いので、奥に汚れを押し込まないように注意。
擦り過ぎると炎症を起こすので、1回で汚れが取り切れない場合は、翌日にまた行うようにします。数日続けても綿棒に汚れの付着が続くようであれば、動物病院で一度診てもらうとよいでしょう。
耳掃除で犬の耳毛は抜くべき?
トイ・プードルやシー・ズーなどの長毛種は、耳の穴の中まで毛が生えていますよね。この耳毛を放っておくと、耳の中の通気が悪くなったり、毛に汚れが絡んだり毛がもつれたりすることも。そのため、以前は耳掃除の一環で耳毛を抜くのが一般的でした。
しかし、最近では獣医師やトリマーの間でも「耳毛を抜くことは百害あって一利なし!」という意見も出てきています。耳毛を抜かずに耳から出ている部分だけを切るという方法を選ぶケースがあるようです。
私個人の意見としては、耳毛についても個体差が大きく、状況に合わせて判断したほうがいいと思います。耳の中の環境によっては、耳毛を抜いてあげたほうがよいケースが時々、見受けられるためです。
このように耳毛を抜くかどうかは難しい問題なので、迷った時は動物病院で相談してみてくださいね。
病院で犬の耳掃除はできる?
「自宅で犬の耳掃除をするのは不安」というときは、動物病院で犬の耳掃除をお願いしましょう。動物病院では、耳鏡を使って犬の耳の奥や鼓膜付近までを観察し、汚れや炎症の度合いを確認。それに合わせて掃除を行ってくれます。
基本的な耳掃除の方法は、自宅での耳掃除の手順と同じですが、個々の犬の状態に合わせて獣医師が適切な耳掃除をしてくれるでしょう。汚れがひどい場合は、細いチューブを耳の中に入れ、大量の洗浄液を使って洗い流すこともあります。
犬の耳掃除の注意点は?
最後に、犬の耳掃除について、注意したいポイントをおさらいしてみましょう。
犬の耳掃除はやり過ぎない
耳掃除をやり過ぎると炎症を起こすので、頻度は週に1回から月に1回程度に留めておきましょう。すでに耳に炎症がある場合は犬が痛がるので、無理に続けないようにします。
犬の耳掃除で綿棒は慎重に使う
犬の耳の構造は人間とは違い、外耳道がL字型をしています。綿棒を使う場合は、汚れを奥に押し込まないように気を付けましょう。
犬の耳の汚れ具合は季節や体調によっても変わる
耳の汚れ具合は季節や体調によっても変わります。特に肌が荒れやすい時期は耳が汚れやすくなるので、耳の様子を普段よりも気にしてあげたいもの。逆に、普段は耳が汚れない犬にとっては、耳が汚れていることが肌荒れのサインになります。
犬の耳の変化は急に起こる
外耳炎になりやすい犬は、耳の中の変化が急に起こります。朝に耳の中をチェックして「大丈夫!」と思っていても、夜に見ると真っ赤になっているというケースはよくあること。犬の体質によっては、頻繁に耳の中をチェックしてあげるとよいでしょう。