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土砂を防ぐ「砂防ダム」。その役割と問題点を、防災の専門家に聞いた

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地主恵亮

地主恵亮

ライター。1985年、福岡県生まれ。基本的には運だけで生きているが、取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に『妄想彼女』(鉄人社)、『ひとりぼっちを全力で楽しむ』(すばる舎)がある。

日本には数万基もの砂防ダムがある

山間の村の川沿いを歩いていると砂防ダムを見かけることがある。川を横断した建造物で、土石流による被害を軽減することを目的に作られたものだ。日本には何万基という砂防ダムがあり、砂防法に基づき国土交通省および都道府県が管轄している。

砂防ダムの存在を知ってはいるけれど、その役割について深く知らない人も多いのではないだろうか。もちろんメリットもあれば、デメリットもないわけではない。専門家に砂防ダムについて教えてもらおうと思う。

砂防ダムとは?

日本での砂防ダムの本格的な歴史は明治に入ってからだ。政府のお雇い外国人により、砂防ダムの基礎が構築された。今でもその頃の石積みなどが残っているところもあり、四国の大谷川堰堤は国の登録有形文化財にも指定されている。オランダ人技師ヨハニス・デ・レーケの指導の元で建設されたものだ。

砂防ダム

これが砂防ダムです

ニュースなどで砂防ダムを見たことがある人も多いだろう。台風などによる土石流被害が出ると砂防ダムが取り上げられることも少なくない。一般的には砂防ダムは水を貯めるダムではなく、土石流などを貯めるためのダムだ。土石流を砂防ダムにより堰き止めることで、下流の街に土石流の被害が広がらないようになっている。

今回は東京農業大学で、「自然災害に対する地域防災機能の評価と強化」を研究テーマとしている本田尚正教授に砂防ダムについて教えていただいた。本田教授は、大阪府土木部職員としての経歴もあるので、研究と現場の両方を知っている方でもある。また砂防学会にも所属している。

本田尚正教授

東京農業大学 地域環境科学部 地域創成科学科 本田尚正教授

治山ダムの構造と役割

砂防ダムとよく似た構造物で「治山ダム」というものがある。砂防ダムは、渓流の中に横断的に建設されるが、治山ダムは渓流を構成する左右の斜面上の谷筋や窪地に設置され、別名「谷止め工(たにどめこう)」とも呼ばれる。形は砂防ダムにそっくりであるが、ダムの高さは砂防ダムに比べて低く、コンクリートの厚みも概して薄い。またそれぞれの距離が砂防ダムより近いことが特徴だ。

治山ダム

治山ダム

できたばかりの治山ダムには当然、土砂が貯まっていない。設置後、風化作用などによって斜面上で生産された土砂が長い年月をかけて貯まっていく。土砂が貯まってしまうと、大きな台風などによる、土石流が貯まらないから本来の活躍ができないのではないか、と思うかもしれない。しかし、治山ダムは土砂を堰き止めることを大きな目的としていない。

土砂が溜まった治山ダム

土砂が溜まった治山ダム

土砂が貯まった部分を「テラス」と呼ぶ。テラスの上を水や土砂が流れることで、本来の勾配による流れより緩やかな流れとなる。治山ダムは水の流れを緩やかにすることを、大きな目的として作られているということだ。

本田教授アイコン

土砂を貯める機能を最初から持っているけど、それだけをあてにしているわけはないのが治山ダムです

治山ダムにより流れが緩やかに

流れが緩やかになる

砂防ダムの構造と役割

一方で砂防ダムのメインの働きは土砂を止めるということになる。

本田教授アイコン

砂防ダムは渓流を流下する土石流を直接捕捉して貯留し、下流への土砂氾濫を防止する構造物であり、貯砂量の大きさによって土砂流出をコントロールする。砂防ダムは十分な貯砂量を確保し、かつ、流下土石流の衝撃力に対抗するため、治山ダムに比べて規模(高さ、幅、厚みなど)が大きくなる

砂防ダム

これが砂防ダム

土砂災害などを防ぐ役割

土砂災害などを防ぐ役割

上記のような機能が砂防ダムにはあるため、土石流の被害を軽減できるわけだ。もちろん先の治山ダムと同じように、砂防ダムもいつかは満杯になってしまう。その場合は本来ならば土砂を取り除くのが望ましい。ただそれは難しいことでもある。

本田教授アイコン

山の中の土木構造物ってどうやって作るかというと、最初にダンプとかユンボ(正式名称「バックホウ」)とかが通れる工事用の進入路を工事現場の奥まで作るんです。その後、工事が完了したら、今度はその進入路を潰しながら逃げていく(=工事をしまう)んです。その際、構造物を維持管理するための作業車,せいぜい2トン程度のトラックが通れるくらいの道は残すけれど、除石を行うためにはダンプやユンボが必要で、それらが通れるほどの道は残されていない。だから、昔は砂防ダムが満杯になると、適地を求めて新しい砂防ダムを作ってきました。しかし、今の時代、もはや適地は潤沢に残っていないことに加えて、安易に新たな砂防ダムを作り続けること自体、環境保全上も許されなくなってきています

土石流でいっぱいになった砂防ダム

土石流でいっぱいになった砂防ダム

では、満杯になった砂防ダムは意味をなさないかと言えば、そうではない。大きな土石流で砂防ダムが満杯になると「堆砂勾配」が生まれる。もともとの渓流が持っている勾配は「渓床勾配」と言う。

満砂状態の砂防ダムにも、堆砂勾配と安定勾配の間で土砂を貯留することによって、下流に流下する土石流の土砂濃度を小さくし、流勢を減じる土砂調節機能(=減勢効果)がある。

本田教授アイコン

水に砂糖を大量に入れると、全部溶けますか? 溶けないですよね。液体の中に含み得る固体の濃度は決まっていて、それ以上は溶けません(=飽和状態)。土石流も、勾配の急な所では土砂を侵食して自らに取り込み、土砂濃度を増しますが、逆に、砂防ダム背面のような勾配の緩い所では、それまでの侵食によって取り込んだ土砂をその場に置いていく。つまり土砂を堆積させて自らの土砂濃度を減少させます。その結果、砂防ダム背面は「安定勾配」から「堆砂勾配」にまで増加し、下流に流下する土石流の質は変わります(=土砂濃度が小さくなる)。一方、土石流終了後の「普段の少雨」は、土砂を含んでいない水(=濃度0%)ですから、土砂の取り込み能力(=侵食力)は高く、ダム背面の土砂を侵食して「安定勾配」にまで回復させます。これは、砂糖を含んでいない水が砂糖を溶かす能力が最も高いのと同じことです

安定勾配

安定勾配になります!

ここまでの話で出てきた砂防ダムは、いずれも流下してくる土石をコンクリートの壁で全量捕捉する「不透過型砂防ダム」だ。この砂防ダム形式では、砂防ダムの下流に土砂が供給されず、下流部の河床低下などを引き起こす可能性があるほか、生態系への影響も懸念される。

本田教授アイコン

上流からの流出土砂が砂防ダムによって全量捕捉されると、先の説明のとおり、砂防ダムの下流には「水またはごく薄い土砂濃度の流体」が流出することになります。また先に述べた通り、水の土砂侵食能力は高く、砂防ダムの下流の河床を侵食して局所的な河床低下を引き起こしたり、新たな土砂流出を引き起こしたりする可能性があります

この不透過型砂防ダムの弱点を克服するのが「透過型砂防ダム」であり、その代表例が「スリットダム」である。不透過型砂防ダムと同じようにコンクリートで作られているが、コンクリート壁面の中央部を格子状にして「スリット化」し、大きな石礫や流木は止めるけれど、中小の土石は下流に流すように工夫されている。

スリットダム

スリットダム

全部を堰き止めると流れるのは水だけになる。すると起きるのが、その水による再侵食。それを防ぐにはそこそこの土砂を流すことも必要となる。そこでスリットダムというわけだ。じゃ、全てスリットダムにすればいいではないか、とも思うけれど、そこにも課題はある。

本田教授アイコン

スリットダムも実用化されて随分と経つんだけど、いろいろと課題はあるんですよ。コンクリートと鉄の異物で作っているわけでしょ。そうなると接合部がどうしても弱点になるから、その部分の補強は絶対に必要です。これについては、材料メーカー各社が涙ぐましい努力と技術力で克服しています。それと、スリットは「隙間が空いていてこそ効果を発揮する」ものだから、土石流のイベントが終了する度に巨石や流木を取り除いて次のイベントに備えておかなければ、スリットダムの意味がない。ところが、除石の難しさは先に述べたとおりです。このように、構造物のメンテナンスフリーって、なかなか難しいんですよね

本田先生の部屋

本田先生の部屋

海岸が痩せる問題

砂防ダムでよく話題になるのが、砂防ダムで土砂を止めるので、下流域に土砂が運ばれずに、海岸が痩せるという問題だ。砂防ダムの話題になるとよくこれが話題に上がる。

本田教授アイコン

よく「砂防ダムを上流に作れば、下流への砂の供給がなくなって、海岸が痩せて行く」とか言われますが、土砂移動現象はそんな単純なものではありません。たとえば、砂防ダム群から海岸線までの距離が数キロ程度と至近であれば、砂防ダムによる土砂供給の途絶は下流の海岸線にも影響します。しかし、両者の距離が遠くなれば、一概にそうともいえません。近年では研究者レベルではなく、民間レベルでも「河床変動計算」という河道内の土砂動態の予測手法が使えるようになり、流域一貫で土砂管理を考え、砂防ダムなどを計画しています

しかし、日本の海岸が消えていっているのは間違いない。では、なぜそのような現象が起きるのだろうか。たとえば、宮崎海岸では汀線がここ50年で平均65m、最大94mほど後退している。日本全体を見てもここ15年ほどで品川区ほどの面積の海岸が侵食により失われている

本田教授アイコン

海岸が痩せるのは、上流部からの土砂供給が止まる以上に、「波による侵食」が大きく影響しているんです

温暖化で波力が強くなっているという話もあるが、必ずしもそれがすべてではない。波でどんどん砂浜は削られるのだ。時間が経てば削られるもの。それを守るために、沖に「離岸堤」を作ったり、それが進化した「人口リーフ」があったり、ポケットビーチからヒントを得た「ヘッドランド」が作られたりしている。

本田教授アイコン

海からの漂砂(ひょうさ)の供給量のバランスが崩れると、波による侵食によって海岸が痩せたり、逆に、波によって運ばれた砂が河口部や港口部に堆積したりして閉塞を引き起こします。実際、明治初期には全国で幾つかの港の工事が港口閉塞などにより失敗しているんですが、その当時は波による漂砂の動態が明らかでなかったことが大きな原因ですね。これは、「技術というのは、失敗を経験しながら進歩していく」という典型的な例だと思います

今も、波による侵食から海岸線を守る研究や、現場での努力が継続されている。

希少な「自然海岸」

現代社会において、人の手が加わっていない「自然海岸」は本当に希少です

砂防ダムのメリットとデメリット

話は砂防ダムに戻る。砂防ダムのメリットは先述の通りだ。治山ダムも含め、設置される場所でメインとなる役割は変わるが、土砂を貯留したり、土砂の流れの質を変えたりすることによって、流れの勢いを弱め、大きな石と中小の石を振り分け、土砂災害による被害を軽減させる機能がある。

ではデメリットはないのだろうか?

本田教授アイコン

景観がよくないという話があります

確かに上流部なので自然豊かな場所に人工構造物が現れるので、景観を損ねるかもしれない。確かにできたばかりの砂防ダムは無機質で白っぽい。しかし、砂防ダムのある場所は木々が茂っていることが多く、やがて草木に覆われて、コンクリートも黒くなり見えなくなる。素人にはわからないレベルになる。

本田教授アイコン

もう一つは生態系の分断。横断構造物って大なり小なり、そういうことがあります。だから、砂防ダムに魚道を併設したりするんだけど、お魚が魚道を通るかは「お魚が決めること」だから、成功例も失敗例もたくさんあります

本来の流れを分断するので、魚が上流に行くことができなくなる。一つの対策として魚道を作るけれど、魚道から離れた所で渡り鳥が魚を食べている写真(=魚が魚道を通っていない何よりの証)もあったりする。つまり、魚道を通るかは魚次第、ということだ。

このように生態系の分断などが起きているのに、人はなぜ砂防ダムを作るのだろうか。

本田教授アイコン

生態系の分断がわかっているのに、何で作るのか、と問われれば、「生物の多様性の中に人間もいるから」ですよ。だから私は、生物の中で人間を観察し、人間と関わるのが一番面白いです

私たち人間が安全安心な社会で生きるということは、もしかしたらどこかにしわ寄せが行っているのかもしれない、だからこそ私たちは必要なものを、それに関わる課題をきちんと把握し、改善していくほかないのだ。現に砂防ダムを作らなければ、土石流による被害は甚大なものになるのだから。

砂防ダムの設計計算の検算

70年近く前に作られた砂防ダムの設計計算の検算(これができる研究者も、もはや希少だそうです)

災害に備えて持っておくもの

本田教授は防災の専門家でもあるので、土石流だけではなく、なにか災害が起きた時に持っておいた方がいいものを聞いた。まず間違いないのは、カインズで売っているような防災バッグや避難所便利セットなどは家にある方がいい。

防災用品セット

こちらです!

必要なものが揃っている

必要なものが揃っています!

さらにあった方がいいものは、「スマホの充電ケーブル」と教えてくれた。電気は提供されたりするが、ケーブルがないということが起きるそうだ。そのためにも上記のようなバックに、スマホの充電ケーブルも入れておくのがいい。エネルギーがあってもそれを使えなければ、文字通り「お先真っ暗」になってしまうと先生は言っていた。

スマホの充電ケーブル

入れておきましょう

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