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人類の英知、ボタンに関する考察と工作

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西村まさゆき

西村まさゆき

ライター。ふざけて国語辞典を集めているうちに、国語辞典マニアのイベントを行うほどになってしまった。その他にも、路線図や、地図、なぞなぞ本などを集めるのが趣味。移動好き。鳥取県出身。著書に『ぬる絵地図』(エムディエヌコーポレーション)、『押す図鑑 ボタン』(小学館)、『ふしぎな県境』(中公新書)など。

ボタンこそが技術の発展なのである

ホモサピエンスが直立歩行を完成させ、自由になった両手でもって数々の道具を生み出し、数百万年を経て、テクノロジーを発展させ、文明を進化させてきた。

そしていまや、地球外にまで飛び出す科学技術を持つまでに至ったが、その中で常に人の意思と機械のなかだちとなってきたのが「ボタン」だろう。

「ボタン」がなければ、技術は発達し得なかったといってもよい。

ボタンとは? いったいなに?

ボタンスイッチ(面倒なので、以降スイッチのことも適宜ボタンと表現することがあります)には、押さざるを得ない衝動をかきたてるなにかがある。

子供のころ、バスのボタンや火災報知器のボタンを押したくてしょうがなかった記憶はないだろうか。バスのボタンはともかく、火災報知器のボタンは、押したことがない人の方が多いかも知れないし、むやみやたらに押さないほうがよいが。

バスのボタン

バスのボタン

大人になるに従って、そんな衝動もあまりわかなくなっているかもしれないが、深層心理では、ボタンを押したいという欲求「ボタン欲」は変わらずあるはずだ。

ボタンとはいったい何なのか。ここ最近、そればかりを考えてきた。

ボタンの歴史を語らせてくれ

そもそも、ここでいうボタンとは、スイッチのことである。スイッチのうち、形が服のボタンに似ているものを「ボタンスイッチ」と呼んでいたが、それがいつのまにか、押すスイッチそのものをボタンと呼称するようになった。

ちなみに、服のボタンは、紀元前から使われていたが、古い時代のボタンは、神様や文様などが施された装飾品であった。今日のように、衣服を留めるためのボタンは18世紀ごろから広まりだした。ナポレオンの肖像画もよく見ると、ボタンらしきものが見える。

一方、押しボタンスイッチはというと、その始まりを厳密に断定するのが難しい。 私が個人的に調べ、考察した結果、現在のように「押すと電気が流れる装置」が、実用的に広く使われた最初期のものとして、19世紀に登場した無線通信機が挙げられるのではないか。いわゆる、モールス信号で使う「電鍵」というやつだ。

マルコーニの無線機と電鍵

マルコーニの無線機と電鍵

無線通信機で特に有名なものはイタリアのグリエルモ・マルコーニが、20世紀はじめ、大西洋を横断する無線通信に成功したものだろう。彼は後にノーベル物理学賞を受賞しているが、このような無線通信機に使われた電鍵がボタンという部品の嚆矢ではないか、というわけだ。(マルコーニが使った無線機の電鍵は、彼が発明したものではなく、それまでにあった部品を改良して使用したものだといわれている。つまり、これよりも前に似たような装置が確実にあったことがわかる)

どこまでボタン?

世の中にはどんな押しボタンがあるのか考えてみる。押しボタンの仕組みを単純化して考えると、人が、機械を動かすために押すと、機械(や仕組み)が反応する仕掛け……ということだろう。そう考えると、ピアノやチェンバロの鍵盤も押しボタンではないかという気もする。

ピアノの鍵盤

ピアノの鍵盤

ピアノの鍵盤は押すと、ピンと張られた鋼の線がハンマーで叩かれ、音がなる仕組みになっている。そして、チェンバロは押すと、鍵と連動したツメが弦をひっかく形で音が鳴る。これらも先ほどの定義に照らし合わせると、立派なボタンの仲間といえる。

さらにいうと、吹奏楽器で音色を変えるために押すピストンや、レバーも、ボタンの仲間にいれるべきだろう。アルゼンチンタンゴで使うバンドネオンなどは、まさに押したくなるようなボタンが側面にいっぱいついている。

バンドネオン

バンドネオン

ここで、さらに考えを一歩すすめてみると、押すという行為が必要だろうか。という疑問がわいてくる。

最近は、モニタ画面上で操作するボタンも増えており「ボタンに触れてください」という言い方も普通になってきている。「触れると、何かが反応をするもの」という風にボタンの解釈を広げてみると「ハエトリソウはボタンである」という考えに行き着く。

ハエトリソウ

ハエトリソウは、貝のような形をした葉っぱで、葉っぱの中に入った虫を捕らえて栄養源にする食虫植物だ。ハエトリソウは、葉っぱの中にセンサーとなる棘が二つあり、その二つが反応してやっと葉っぱが閉じる仕組みになっている。片方が反応した時点であわてて葉っぱを閉じていては、獲物の昆虫が逃げ出してしまう可能性があるからだ。

これも、「触れると、何かが反応をするもの」という定義にピッタリだ。しかし、本能的にそれはボタンじゃないだろという気もする。

生物と機械は違うだろうという意見もあるけれど、逆に生物のなかにボタンのような仕組みを持っているものがいるのは、大変興味深いことだし、これもボタンのひとつだと思っていたほうが、なんだか心が豊かになるようなきがしませんか? 僕はします。

ボタン欲を満たすために……

ボタンの定義について色々と考えると、ボタンがいったいなんなのか、逆にわからなくなってきた。何がボタンなのか考えるのはひとまず置いておき、基本に立ち返って、ボタンの魅力について考えてみたい。

ボタンの魅力を考えたとき、それぞれいろんな魅力があると思うけれど、押したときの感覚というものもかなり大きい。必要以上に押したくなる「カチッ」というクリック感、あの感覚が好きな人は僕だけじゃないはずだ。

こういったクリック感をもったボタンを、実際に手で触って押す……という、脳へ直接うったえかけるようなボタン欲を満たすため、電子部品として販売されているボタンを、いろいろと購入してみた。

買い集めたボタン

買い集めたボタン

このように、手に入れたボタンを並べて眺めていると、ポケモンを集めたときのような満たされた気持ちが心の底から湧いてくる。どこともつながってないのでカチカチも仕放題だ。

電子部品のボタンは、一個数百円程度で売られており、高くてもせいぜい数千円ほどのものが多い。機械の部品としてではなく、コレクション品としてボタンを見ると、つい大人買いしてしまいそうになる。そして実際した。

とくにお気に入りのボタンをいくつか紹介したい。

トグルスイッチ

トグルスイッチ

いきなり押すタイプのボタンでないのは申し訳ないが、一応スイッチの仲間なので許してほしい。飛行機のコックピットや、古いラジオなどによくついていたあのパチパチするスイッチ、名称をトグルスイッチという。

トグルとは、留め釘という意味の言葉で、ダッフルコートによくついている棒状のボタンをトグルボタンという。

パチパチという乾いた操作音と適度な固さ。なんらかの操作パネルに、いくつも並べて「パチパチパチ」としたくならないだろうか。

キーロックスイッチ

キーロックスイッチ

すでに、ボタンではなく穴だろうと怒られそうだが、車やバイクのイグニッションキーでおなじみのキーロックスイッチだ。キーを差し込んで押し回すと入になる仕組みのスイッチだ。だが、近年はキーレススタートでボタンに置き換わっている車も多い。

基本的に物理的に押すボタンはどんどん減っていく傾向にあるのだが、これはスイッチがボタン化している。この部品に関していえば、めちゃくちゃ小さいのもたまらない。

オルタネート型プッシュスイッチ

オルタネート型プッシュスイッチ

やっと押しボタンが出てきた。これは、オルタネート型といわれるスイッチだ。ボタンには大まかに分けてこのオルタネート型と、モーメンタリ型というものがある。

オルタネート型は、ボタンを押すと、指を離しても入の状態が続き、切にしたいときはもう一度ボタンを押し込むと切れる。家電製品の主電源や、トグルスイッチなどもオルタネート型となる。

一方、モーメンタリ型は、ボタンを押している間だけ入の状態が続き、指を離すと切になるボタンだ。ゲームのコントローラーのボタンや、回転寿司の熱いお湯の出るボタンもモーメンタリ型になる。モーメント(瞬間)だけ入になるので、モーメンタリ型というわけだ。

普段見かけるボタンに、実は機能によって名称がきちんとあることがたまらなく愛おしい。パソコンのキーボタンは、オルタネートか、モーメンタリか、横断歩道のボタンは、昔のテレビのひっぱって電源を入れるタイプのボタンは……と、日常生活に新たな「考えシロ」ができて、生きるのが楽しくなってくる。

かっこいいミサイルスイッチで作る「“非”緊急警報スイッチ」

さて、これらのボタンスイッチ、後生大事に、このまま手元に置いておいてもいいのだが、やはり実際に稼働するスイッチとしても使いたい。ということで、スイッチを使って勝手に工作し「“非”緊急警報スイッチ」なるものを自作したい。

不安になる設計図

不安になる設計図

スイッチを入れると、ランプが光り、警報音が鳴る。それだけの箱を作りたい。

ここで使うミサイルスイッチは、カバーがついたディップスイッチで、戦闘機などで、ミサイルのスイッチを間違えて入れないようカバーがついたスイッチのことだ。カバーを戻すと強制的にスイッチが切になるというギミックがかっこいい。

ミサイルスイッチ

ミサイルスイッチ

飛行機のコックピットなどを見ると、いくつかついているのが見つけられるかもしれない。

まず、入手したのが。子ども用の防犯ブザー。

子供用防犯ブザー

子供用防犯ブザー

ピンを引っこ抜くとけたたましいブザーがなる子供用防犯ブザー。だが、これをスイッチに連動させたい。

しかし、ずぶの素人である僕に、電気回路や電子工作のことはさっぱりわからないので、できるだけ破壊せず防犯ブザーの機能はそのままにスイッチだけ割り込ませたい。で、考えたのが、ボタン電池の片方を絶縁し、アルミホイルで電気の通り道を外に引っ張り出すというアイデアだ。

防犯ブザーの改造

防犯ブザーの改造

上の写真が試作である。ボタン電池のプラスとマイナスがアルミホイルでつながってショートすると大変なことになるので、しっかり絶縁したうえで、紙とアルミホイルを電池と回路の間に割り込ませる。

右側に飛び出している上下二つのアルミホイルを指で抑えると、ブザーがけたたましく鳴りはじめた。いきなりうまくいった。しかし、アルミホイルだと強度に問題があったので、最終的には銅線を直接割り込ませることにした。

ボタン電池

電池の下に絶縁用の紙と銅線をわりこませた

さて、次は回転灯である。ミサイルスイッチを押すと回転灯が点灯し、ぐるぐる回りだす……という仕掛けをつくりたいのだが、一般的な回転灯は電源が家庭用コンセントから取らなければいけないとか、デカすぎるとか、なんだか面倒くさそうなものが多い。もっと素人の電子工作で気軽に扱える回転灯はないかと探したところ、LEDライトで点灯して回転する回転灯が、あった。

電池で駆動するLED回転灯

電池で駆動するLED回転灯

工作に使う前にせっかくなので、家の扉につけてみた。

かっこいい

かっこいい

底にかなり強力な磁石がついているので、鉄の扉に簡単にくっつく。そして、回転灯を点灯させると、家に警察署か、内部で異常が発生した何らかの重要施設感が出てめちゃくちゃかっこ良くなる。

このまま飾っていてもいいが、今回はミサイルスイッチと連動させるために、工作につかう。

この回転灯も、防犯ブザーと同じように電源の回路を外部に取り出し、ミサイルスイッチと連動させる。

回転灯内部

回転灯内部

電池ボックスの銅線がどこにどうつながっているかをよく観察したところ、真ん中の右上と左下部分からそれぞれ銅線を外側に出せばLEDライトの点灯が制御できそうなことが分かった。試しに銅線でつないでみると……。

光った

光った

光った! まんまと目論見通りになった。右上と左下にはんだをすこし足してそれぞれ銅線をくっつける。そうすると、ボタンを押さなくても、LEDが点灯するようになった。

めちゃくちゃ難しいはんだ付け

狭いのでめちゃくちゃ難しいはんだ付け

さて、続いてはミサイルスイッチ。じつはこのミサイルスイッチ。レバーの頭頂部にLEDが組み込まれており、12Vの電源をつなぐと、そこを光らすことができる。逆にいうと、普通に電池ボックスから銅線をひっぱってきて電池をつなげてもLEDはつかないということだ。

乾電池の電圧は1.5Vなので、これを8本直列につないで……と思ったが、これは面倒くさいしそれでLEDがつくような気がしない。どうしたものかと調べたところ、単三電池2本3Vを12Vまで昇圧してLEDを点灯させることができる魔法みたいな電池ボックスが売られていた。

魔法みたいな電池ボックス

魔法みたいな電池ボックス

回転灯、ブザー、ミサイルスイッチ、電池ボックスをそれぞれ配線し、家にあった適当な木箱に穴を開け、取り付けてみた。

カシメ機を初めて使った

カシメ機を初めて使った

設計図通りだ……

設計図通りだ……

完成。恭しく、ミサイルスイッチをONにすると……。

きゃー! 動いた!

きゃー! 動いた!

けたたましいブザー音と共に、回転灯が回りだす。が、ちょっとブザー音がうるさい上に不快なので、ティッシュをまるめてスピーカーにあてたところ、多少落ち着いた。

素人の工作にありがちなぐちゃぐちゃした配線

素人の工作にありがちなぐちゃぐちゃした配線

ここで心残りだったのが、ミサイルスイッチのLEDは、電池ボックスの電源を入にしている限り、常時点灯していることだ。

常時光るLED

常時光るLED

本来ならば、スイッチをONしたときだけ点灯するようにもできたはずだが、ついぞやり方が分からなかった……。

完成

完成

見てほしい、人類の英知の結晶、「ボタン」を使った21世紀の工作である。

こういったヘボい工作でさえ、きちっとした機能を発揮してくれるボタン。科学技術の懐の広さを物語っている。

で、結局ボタンとはいったいなんなのか

ボタンのきもちよい感触を追い求め、工作まで行ってその心地よさを満喫したものの、ボタンとはいったいなんなのかという謎が解けたわけではなかった。

イギリスの登山家、ジョージ・マロリーに「なぜ山を登るのか」と問うたら「そこに山があるから」と答えたという。

もし、われわれ人類が「なぜボタンを押すのか」と問われたら「そこにボタンがあるから」と答えるだろうということは分かった。

ボタンとは、一体何なんだ。

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