手袋1つで家中お掃除「そうじの神様おそうじミトン」がズボラ向けで優秀だった!
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目次/ INDEX
※怒涛のごとく昆虫写真がたくさん登場します。苦手な方はお気をつけください。
昆虫が好きすぎて日本中の朽木を漁る男、矢吹健太。
朽木を漁る矢吹さん
「矢吹さんは仕事もプライベートも昆虫ひと筋ですね」
「矢吹さんの自宅には昆虫専用の部屋があるらしいです」
矢吹さんの昆虫部屋
カインズのペット事業部に所属している矢吹健太は、社内のメンバーから“カインズの昆虫博士”と呼ばれています。
── どうして日本中の朽木を漁っているんですか?
── マイマイカブリってどんな虫ですか?
矢吹
マイマイカブリは日本の固有種で、カタツムリを食べることで有名な昆虫です。マイマイ(カタツムリ)の殻に頭を入れてカタツムリを捕食しているので、その様子からマイマイカブリと名付けられました。
マイマイ(カタツムリ)を捕食中のマイマイカブリ
── ほんとだ! カタツムリを被っていますね! マイマイカブリは朽木の中で生活しているんですか。
矢吹
冬は、朽木や地中にいますね。朽木や地中で越冬しているマイマイカブリを探すことを「オサ掘り」と言い、 釣り好きな人がさまざまな場所に釣りに行くように、マイマイカブリ好きの人は色んな場所に「オサ掘り」に行きます。朽木の中で集団越冬していることもあり、宝探しのようで面白いですよ。
※マイマイカブリはオサムシの仲間なので「オサ掘り」
── 「オサ掘り」、初めて聞きました。夏は採れないんですか?
矢吹
夏場はエサを入れたプラスチックコップを地面に埋めた落とし穴(ピットホールトラップ)や樹液を食べに来たマイマイカブリを採集しています。 ちなみに、ピットホールトラップは多いときには100個くらい仕掛けます。
── すごい! 100個も仕掛けるんですね!
マイマイカブリ採集用の落とし穴(ピットホールトラップ)
矢吹
ピットホールトラップの中には、エサとして蛹粉(さなぎ粉)やお酢を入れています。ちょっとしたコツなんですが、唐辛子を振りかけておくと、タヌキやネズミなどの野生動物対策になります。
野生動物に荒らされないように唐辛子を振りかけている様子
矢吹
マイマイカブリ採集は、楽しくも厳しい世界です。車の中に蛹粉と酢の匂いを漂わせ、穴を100個掘っても1匹も採れず、動物に引き抜かれて無残に転がったコップやダンゴムシが詰まったコップを涙を流しながら回収することがほとんどです。
── ピットホールトラップで、壮大なドラマが繰り広げられている・・・。マイマイカブリは、カタツムリだけを食べるわけではないんですね。
矢吹
そうです。カタツムリ以外にも、ミミズや小昆虫も食べるので、普通に路上を歩いていたりもします。その中でも特にカタツムリを好んで食べているのは、カタツムリには“マイマイカブリが卵を生むために必要な栄養素が含まれているから”だと言われています。
── マイマイカブリ採集の注意点はありますか。
矢吹
いい質問ですね! マイマイカブリは捕まえようとすると、おしりから強い酸の匂いがする液(エタクリル酸やメタクリル酸などの混合液)を発射します。手につくと中々匂いが取れないので、注意が必要です! ただ、このなんとも言えない強烈な匂いを嗅ぐと、私の昆虫採集魂にスイッチが入り、自然と共に生きている実感が湧きますね。
── だんだんとマイマイカブリのことがわかってきました。 矢吹さんが思う、マイマイカブリの魅力を教えてください。
矢吹
魅力は数えきれないくらいあります。最大の魅力は、同じマイマイカブリの種でも体の形や色が地域によって異なることですね。 せっかくなので、北海道から順番にマイマイカブリの特徴をお伝えします。
── ありがとうございます!
矢吹
まず、北海道の「エゾマイマイカブリ」は頭部と胸部に緑色や赤色の光沢がありとても綺麗です。
「エゾマイマイカブリ」 写真提供:山岸雅晃さん|矢吹さんのご友人
矢吹
次に、東北地方北部の「キタマイマイカブリ」は胸部が紫や赤紫色をしています。最大の特徴は背中の前翅(前羽)が緑色を帯びているところです。僕の中では、一番綺麗なマイマイカブリです。
矢吹さんが採取した「キタマイマイカブリ」
矢吹
さらに、東北地方南部の「コアオマイマイカブリ」は、頭部と胸部に赤紫色〜青紫色の光沢があります。
矢吹さんが採取した「コアオマイマイカブリ」
矢吹
次に、新潟県の粟島(あわしま)の「アオマイマイカブリ」は、ほぼ「コアオマイマイカブリ」と同じですが、前翅の先端が尖っていないのが特徴です。
「アオマイマイカブリ」 写真提供:紺野洋樹さん|矢吹さんのご友人
矢吹
続いて、新潟県の佐渡島(さどがしま)の「サドマイマイカブリ」は、普通のマイマイカブリと比べると、頭部と胸部が太いのが特徴です。
ピットフォールトラップにかかったサドマイマイカブリ|写真提供:山岸雅晃さん|矢吹さんのご友人
矢吹
関東地方から中部地方に生息している「ヒメマイマイカブリ」は頭部と胸部が青藍色、紫色、黒色をしています。
矢吹さんが採取した「ヒメマイマイカブリ」
矢吹
西日本に広く分布している「ホンマイマイカブリ」は全身黒色で前翅の先端が尖るのが特徴です。
矢吹さんが採取した「ホンマイマイカブリ」
── なぜこんなに、地域ごとに特徴が異なるのですか。
矢吹
その理由はマイマイカブリが飛べない虫だからなんです。 後翅(後ろ羽)は退化していて、前翅も左右がくっついているため、飛べません。 おそらく、大昔は飛べたはずですが、進化の過程で飛べなくなりました。
── (飛べないと、特徴が異なる…なぜだ)
矢吹
多くの虫は飛んで長距離移動をしています。その結果、他地域の個体と交配ができるため、地域ごとの種の特徴の変化が現れにくいんです。 一方、マイマイカブリは飛べないので、特定の地域のみで交配しています。そうすると、同じマイマイカブリでも地域ごとに特徴が異なってくるんです。
── なるほど!
矢吹
先ほどご紹介したマイマイカブリの種類以外にも、さらに細かく特徴が分かれています。例えば、長崎県五島列島・福江島に生息しているマイマイカブリは、関東地方よりも体のサイズが倍近く大きいのが特徴です。
写真中央〜右側「長崎県五島列島・福江島に生息しているマイマイカブリ」
矢吹健太が全国各地で採集したマイマイカブリ
── 標本で見ると、大きさや色の違いがよくわかりますね! こちらの標本、矢吹さんが作られたんですか?
矢吹
そうです! 各地で採集したマイマイカブリを観察や記録用に標本にしています。
── さすが、カインズの昆虫博士!
矢吹
実はマイマイカブリ以外にも色々な昆虫標本を作っています。こちらをご覧ください。
世界最大級の大きさを誇るヘラクレスオオカブトやコーカサスオオカブトの標本
クツワムシやカミキリムシの標本
オオスズメバチの標本
日本のカブトムシの標本
展翅板で作った蝶と蛾の標本
蝶、蜂、甲虫の標本
世界最重量のカブトムシ アクティオンゾウカブトの幼虫の標本
矢吹
ただいまご覧いただいた標本は、ひとつひとつ私が作りました。
── すごい、マイマイカブリだけじゃなかった(というか、カブトムシの幼虫も標本にできるんですね)
矢吹
こうして標本にすることで、飼っていた大切な昆虫の思い出を残すことができるんです。
── 標本を作るようになったきっかけは何だったんですか?
矢吹
中学生の頃に、外国産の綺麗なクワガタやカブトムシを自宅で飼い始めたことがきっかけです。たまたま行った昆虫展で昆虫標本に目が止まり、生きていたときの姿をそのままに残せる標本に魅力を感じました。その際、自分が飼っている虫が亡くなったら、綺麗な標本にしようと決意したんです。
外国産のクワガタ(ニジイロクワガタ:グリーンとパープル血統の個体)
── そこから矢吹さんの昆虫の世界が広がっていったんですね。
矢吹
めちゃくちゃ広がりましたね。 大学生の頃には、地域のボランティアで子どもたちに昆虫標本の作り方を教えていました。自分の趣味の域を超えて、昆虫を通した社会とのつながりが生まれて、嬉しかったことを覚えています。
── ちょっと気になったんですが、昆虫標本を作るのって大変そうですよね。道具の準備もありそうですし……
矢吹
たしかに、昆虫標本作りって難しいイメージですよね。 一口に昆虫標本と言ってもさまざまな種類があるんですよ。
矢吹
代表的なのは「虫体に針を刺した乾燥標本」です。昆虫の大きさに合わせて、昆虫針と呼ばれる針を使用して作ります。虫の体が小さくて針を刺すことができない場合は、「虫を台紙に貼りつけた標本」がおすすめです。
虫を台紙に貼りつけた標本
── 昆虫標本って虫を針で指しているイメージがありました。 針を使わない標本もあるのですね。
矢吹
ほかにも、蝶々やトンボなど翅(羽)を広げた方が綺麗に残せる虫は台の真ん中が凹んでいる「展翅板を使った標本」、クモなど乾燥すると腹部が潰れてしまう生き物には、エタノールに浸す「液浸標本」、さまざまな角度から観察しやすいように昆虫の周りを透明な樹脂で固めた「樹脂封入標本」などがあります。
展翅板を使った標本
── 昆虫標本の種類が多い。やはり、ハードルが高そうです。
矢吹
難しい言葉をたくさん使ってしまいましたが、実はカインズで購入できるアイテムで簡単に標本が作れるんですよ。 せっかくなので、標本の作り方をお見せしますね。
── 昆虫標本作りを見るのは、生まれて初めてなのでワクワクします。
矢吹
まずは、昆虫標本作りに必要な3つのアイテムをご紹介します。
矢吹
ひとつめは、昆虫を固定するための昆虫針(虫ピン、まち針で代用可能)です。ふたつめは、昆虫を乗せるためのスチレンボード(発泡スチロール・コルクボードで代用可能)です。最後に、昆虫を格納するためのケース(タッパーや奥行きのある写真立てで代用可能)です。
── 意外と必要な材料は少ないですね。
矢吹
基本はこの3つです。応用でスチレンボードの代わりに木を使うと、また違った見え方になりますよ。
DIYした写真立てを活用(右は標本、左は採集時の写真)
コレクションケースの標本 より長く保存するなら、より密閉性が高いタッパーがおすすめ
矢吹
それでは実際に、昆虫標本を作っていきましょう。
冷凍庫から取り出したヘラクレスオオカブト
矢吹
昆虫標本に取り掛かる前にやっておきたいのが、昆虫の解凍です。冷凍しておいた昆虫を常温で2〜3時間くらい軟化(自然解凍)させます。
矢吹
解凍後は、水で湿らせたキッチンペーパーやティッシュで昆虫の表面についた汚れを拭き取ります。
乾燥してからだと足や触角が折れてしまうことがあるので、昆虫の体がまだ柔らかいうちに汚れを拭き取るのがポイントですね。隙間の汚れを落としたい場合は、柔らかめの歯ブラシがおすすめです。
── 汚れが溜まったままだとどうなりますか?
矢吹
腐敗やカビの原因になりますね。昆虫の種類によっては油分を多く含んでいるので、軟化の際に薬品や洗剤で油抜きした方が綺麗に仕上がります。油抜きに使う薬品はアセトンが主流ですが、マニキュアの除光液(主成分がアセトンの物)でも代用可能です。
※豆知識
昆虫の身体に土や木くずなどの汚れがついている場合、体の上面に木工用ボンドを塗ってはがすと汚れを綺麗に落とせます。昆虫標本の世界ではボンパ(ボンドパック)と言われています。
ボンパ中のマイマイカブリ
ボンパで汚れが落ちたマイマイカブリ
矢吹
体が柔らかいうちに、手やピンセットで昆虫の関節をほぐしておきましょう。関節を上下左右に軽く動かして関節の可動域を広げることで、よりリアルな仕上がりになります。
脚や触角が取れてしまうと、別個で乾燥後の接着位置を想定して形を整える必要があるので、無理のない範囲で関節は可動域を広げていきましょう。
矢吹
次は、展足といった昆虫の足の形を整える作業です。今回は発泡スチロールの上にスチレンボードを貼り合わせた展足台を使用していますが、針が刺さればよいので、発泡スチロール単体やコルクボード等でもOKです。
発泡スチロールの中央にヘラクレスオオカブトをセットしたら、左胸の羽の部分に昆虫針を刺して体を固定します。
── 昆虫針がなかった場合、まち針を使っても問題ないですか?
矢吹
体に直接刺す場合は専用の昆虫針がいいですね。ステンレス製で錆びませんので。ただ、昆虫の周りに刺して固定するための針は虫ピンでもまち針でも構いません。
直接針を刺すことに抵抗がある方や木に止まった標本を作る場合は、周りを抑えるだけで構いません。
矢吹
まずは動かないように体の周りを針で押さえてから、脚の固定をする順番がやり易いです。脚は2本の針をクロスさせて固定します。
矢吹
形を整えたら次は乾燥です。標本作りで一番重要と言っても過言ではないのがこの工程です。乾燥方法には「風通しのよい日陰で自然乾燥させる」「密封できるタッパーに乾燥剤と一緒に入れる」「乾燥機などで乾かす」などがあります。
タッパーに昆虫と乾燥剤(除湿剤)を入れている様子
矢吹
カブトムシくらいのサイズで3週間〜1ヶ月くらいしっかり乾燥させます。持ってみてカラカラになったら完成です。自然乾燥の場合には、虫に食べられないように防虫剤も置きましょう。湿度の高い梅雨時期などは乾燥に時間がかかる点に注意が必要です。
矢吹
こんな感じで朽木の上に虫ピンで固定すれば、より生きているような標本に仕上がります。この場合は脚を左右非対称にした方が、歩いている感じが出ますよ。
矢吹
標本制作の応用編として、羽を広げたりするとより躍動感が出ます。
── かっこいい! 今にも動き出しそうですね!
矢吹
次に、蝶々の標本も作ります!
落ち着いた色合いが美しい「オオイチモンジ」。絶滅危惧種に指定(群馬県・長野県・山梨県全域で採集禁止)
矢吹
蝶の標本作りに必要なのは、「展翅板」「虫ピン」「展翅テープ」の3つです。蝶は、三角形に折りたたんだ三角紙に羽を立てた状態で保存します。触角が折れやすいので慎重に扱いましょう。
三角紙で保管しているイメージ(写真はウスタビガ)
── 蝶もすぐに標本にしない場合は冷凍庫で保存するんですか。
矢吹
そうですね。冷凍庫で保存します。標本を作る前には体を柔らかく(軟化)しますが、三角紙ごとお湯に10分〜20分ほど浸すくらいで十分です。ただし軟化が不十分だと翅を開くときに破れてしまうので、翅がピンセットで開けるくらいになるよう浸す時間は調整してください。
蝶をお湯でふやかしている様子
矢吹
軟化が終わったら蝶の胸に昆虫針を垂直に刺して貫通させた状態で、展翅板に刺します。展翅版とは真ん中に溝がある蝶やトンボ用の台で、自作する場合は発泡スチロールの中心に蝶の体が収まる溝を作ります。溝に蝶を針で刺したときに左右の翅と体が一直線になるよう高さを調整するのがポイントです。
蝶に垂直に針を刺し、発泡スチロールの溝に刺している様子
鱗粉が取れないようクッキングシートで挟んで翅を持ち上げている様子
── 蝶の標本は、カブトムシに比べると少し難易度が高そうですね。
矢吹
蝶は直接触ると翅の色が落ちてしまう(鱗粉が取れてしまう)ので、先ほどのヘラクレスオオカブトの標本に比べるとちょっと手間がかかるかもしれません。
蝶の翅は脆く針では固定できないので展翅テープで固定しましょう。展翅テープはつるつるした細長い紙で、テープとついていますが粘着力があるわけではありません。鱗粉がつかなければよいため、クッキングシートで代用できます。三角紙も同様です。
翅を持ち上げた状態で展翅テープがピンと張るように針を刺して押さえている様子
矢吹
翅の形を整え、展翅テープと虫ピンで位置を固定します。この状態で3週間ほど乾燥させれば標本の完成です!
── ふと、気になったのですが、蝶ってどうして綺麗な模様をしているのですか。
矢吹
蝶の色や模様については「仲間を見分けるため」と「鳥などの捕食者から身を守るため」の2つの役割があると考えられています。
── ちゃんと意味があるんですね!
矢吹
身を守る模様には隠れるために枯葉や樹皮に似せた擬態模様、敵を驚かせて逃げるための目玉模様、有毒であることをアピールするための警告色などがあります。中には毒を持っていないのに、毒のある蝶に模様を似せた種類もいて、身近な蝶だと有毒のジャコウアゲハに似せたクロアゲハやオナガアゲハがいます。
── 矢吹さんが昆虫標本を作る上で大切にされていることはありますか?
矢吹さん宅では、200〜300匹近い昆虫を冷凍保存している
矢吹
大きく分けると2つあります。飼育中に死んでしまった昆虫をすぐに標本にしない場合、一匹ずつタッパーやジップロックに入れて冷凍庫で保管することです。
死んでしまった昆虫は、なるべく早く(できれば当日中)に飼育ケースから取り出しましょう。放置すると、湿気でカビが生えて腐ってしまったり触角が取れてしまったりするので標本にできなくなってしまいます。
矢吹
次に完成した標本の保管方法についてです。標本の天敵は、標本を食べてしまうヒョウホンムシやカビ、変色させてしまう日光です。保管は専用の標本箱がベストですが、なければタッパーなどの密封できる容器に防虫剤と乾燥剤と一緒に入れ、日の当たらない部屋で保管しましょう。
── 昆虫標本は作る前も作った後も保存が大切なんですね。
矢吹
昆虫標本と聞くと残酷だと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私が標本にしているのはずっと大切に飼っていた昆虫たちです。思い出の詰まった昆虫を大事に残していけるのは、昆虫標本ならではの魅力だと思っています。
標本作りを通して昆虫を深く知ることで、「怖い」「気持ち悪い」といったネガティブなイメージを払拭し、少しでも昆虫に興味を持っていただけたら嬉しいですね。
── マイマイカブリの魅力から昆虫標本の作り方まで教えていただき、ありがとうございました。
矢吹
マイマイカブリという虫が大好きだからです。