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こんにちは。小説家/理系ライターの寒竹泉美です。大学院では脳の研究をしていましたが、現在は理系ライターとして、さまざまな研究室を取材して、研究者にインタビューをしています。
ところで、みなさんは、研究室と聞くとどんなイメージを思い浮かべますか? 見たこともない高そうなかっこいい装置や危ない試薬がずらりと並んで、床も実験台もピシッと片付いている?
いえいえ、そんな実験室はドラマやドキュメンタリー番組の中にしか存在しません。
実は研究室というのはDIYだらけなのです。ほら、見てください。この工具の数々。
今回取材させてもらった正水教授の実験室の大事な道具たち
研究者たちはみな、世界でまだ誰も調べたことがないことを解明しようとしています。誰もまだ調べたことがないことは、「どうやって調べるか」もわかりません。既存の方法や売られている装置だけでは調べられないから、DIYの必要が出てくるのです。
部品を買ってきて組み立てたり、既にあるものを改造したり、業者さんと協力して一緒に開発したり。理系の研究者にとって、DIY精神はなくてはならないものでしょう。
かくいうわたしも研究をしていたときは、やっぱりDIYをしていました。
約15年前の写真(自撮り)
写真の後ろにちらりと見えているのは顕微鏡です。試料に薬を貫流するためのチューブの素材をあれこれ変えてみたり、電気的なノイズを取るために金網で顕微鏡を覆ったり、試料を押さえる細い糸はストッキングの繊維をほぐしたものが一番いいという結論にたどりついてみたり。実験がうまくいかないときはホームセンターをうろうろして現実逃避をしていたものです。
そんな経験から、わたしは思いついきました。
ホームセンターを愛するみなさまに、DIYだらけの研究者の実態をお伝えし、研究を身近に感じてもらいたい!
というわけで、神経の再生医療を目指す同志社大学大学院脳科学研究科の正水芳人教授に、企画をお話ししてお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。
研究の話をする正水教授
まずは正水教授の研究について教えていただきました。
正水教授が目指しているのは「神経細胞のファイバーを脳に移植し、新しい神経回路を創出する」ことです。これは再生医療につながる研究です。
現在、失われた体の機能を補うための方法のひとつとして臓器移植が行われていますが、ドナーは常に不足しています。そこで、どんな細胞にでもなれるiPS細胞やES細胞から必要な機能を持つ細胞や臓器や組織を作り、移植治療を目指す再生医療の研究が進められています。
幹細胞を用いた再生医療研究
何にでもなれる細胞が、成熟して特定の機能を持った細胞になることを「分化」といいます。動物の体内では、いろいろなシグナルが働いて、目的に合った細胞が作られていきますが、人工的にこれを再現するためには、分化させる研究が必要です。
神経細胞や筋肉の細胞や肝臓の細胞や網膜の細胞、血液の細胞など、さまざまな細胞を作り出されています。患者さんに移植する臨床試験も行われています。
正水教授が研究しているのは脳にある神経細胞です。神経細胞は脳の中で軸索と呼ばれる突起を伸ばして他の細胞と情報のやりとりをしています。
脳の中の神経細胞の模式図
しかし、これまでの脳疾患治療に関する基礎研究では、損傷部位への未成熟な神経前駆細胞の移植が主でした。この場合、脳に移植したあとはどこに軸索を伸ばすのかは完全には制御できないという問題があります。
移植する場所や症状によっては、未成熟な神経前駆細胞でも疾患の治療に大きな効果が期待できますが、軸索を伸ばした神経細胞を移植できれば、さらに新たな可能性が広がります。
正水教授の第一の挑戦は、方向がそろった神経細胞ファイバーを人工的に作り出すことです。そして、その次に作り出した神経細胞ファイバーを脳に移植して、新たな神経回路を創出することを目指しています。
正水教授の挑戦
これが成功すれば、脳の一部の機能が損傷してしまった人に対して、損傷部位を回避して残りの脳の機能を用いて回復させることができるかもしれません。
神経細胞ファイバー移植によってできること
現在、正水教授はマウスを使って研究を進めています。動物実験で十分に効果と安全性が確かめられたら、ヒトへの応用が模索されていきます。SFの世界の話のように思える研究ですが、新しい治療の恩恵を受けることができるのは、遠い未来の話ではないかもしれません!
神経細胞ファイバーを脳に移植しても、それが他の神経細胞とネットワークを作って情報のやりとりをしていなければ意味がありません。
それを確かめるために顕微鏡を使います。
正水教授の顕微鏡システムは、レンズの下に動物を置いて、蛍光カルシウムセンサーを用いて神経細胞の活動をリアルタイムに測定することができる優れものなのです!
……と簡単に書きましたが、そのようなすごいことを成し遂げるためには、いくつもの大きなハードルがあり、正水教授はそのハードルをひとつひとつ乗り越えてきたのでした。
実験中の正水教授
これがマウスの脳の神経細胞の活動の様子を表す写真の一例です。
マウスの神経細胞の活動の様子(提供:正水教授)
実際は動画で見せてもらったのですが、あちこちで神経細胞が瞬いて活動している様子は、星がいっぱいの夜空のようで、いつまでも見ていたくなりました。
「私も疲れたときはこの映像をボーっと眺めます。見ていると何だか落ち着くんですよね。脳の中でこんなことが起きているなんていまだに不思議だなと思っています」
自身の研究テーマを選ぶときに、「宇宙」か「脳」にするかで迷ったと正水教授は話します。
「一生かかっても解き明かせないようなテーマに挑戦したいと考えたのです。宇宙も面白そうだったのですが、脳を最終的に選びました。自分の頭の中にある身近なものなのに、わからないことだらけであることに惹かれました」