「忘れ物なし!」毎朝の身支度に大活躍なスリムラックを電動工具なしで作る
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ヴィジュアル系エアーバンド・ゴールデンボンバー。彼らがライブで使用している段ボール製の小道具・大道具は、実はメンバーの喜矢武豊(きゃん・ゆたか)さんによって作られています。
この戦車も喜矢武さんによる段ボール作品(「ゴールデンボンバー「欲望の歌」Live 2015/11/13 国立代々木競技場第一体育館」ゴールデンボンバー公式YouTubeチャンネル)
普段から物作りに慣れ親しんでいる喜矢武さんに、カインズの店舗にあるものを使って、小道具・大道具を作ってもらえないか? そう考え、編集部は喜矢武さんにご連絡。快諾いただけたので、早速打ち合わせをしたところ……
喜矢武「本当に僕でいいんですか? 普段、段ボールでしか工作しないから、DIYはめちゃくちゃ初心者ですよ?」
「段ボール以外の工作なら樽美酒のほうがうまいと思いますけどね」と話す喜矢武さん
そうはいっても、以下の映像を見てみると……
これだけのものを段ボールで作る喜矢武さんならば、DIYの素質十分と見込んでのお願いです。
喜矢武「じゃあ……台車を作りたいですね」
……台車? てっきり巨大ギターのような「小道具」を想像していたのですが……。
喜矢武「ライブでステージ上に小道具を運び込むときに使う、台車があるんです。でもその台車自体をライブ会場に持ち込むこと自体、けっこう運搬費がかかるんですよね。基本的にうちはケチなバンドなんで、運搬費を使わず、自分たちで持ち込めるようにして経費はできるだけを抑えたい。あと、どうせなら折りたたんだり、置くものによってサイズを変えたりしたいです。だから、できるだけコンパクトにしつつも必要な機能を追加した台車を作りたいんです。図面送ります」
後日、喜矢武さんから送られてきたガチめな図面。ツアー中に大道具さんに構想を伝えて描いてもらったそう
拡張式の天板がついていて、折りたためる+キャスター付きで持ち運びしやすく、サイズの異なる小道具も置きやすい。そんな機能性抜群の台車。
喜矢武さんが作りたいもの、だんだんイメージがついてきました。つまり、ゴールデンボンバーのライブに最適化した台車を作りたいということですね。
図面をもとにカインズの専門スタッフが材料を準備しますので、喜矢武さんは存分にDIY作業に励んでください!
というわけで、迎えた撮影当日。喜矢武さんがやってきたのはカインズ幕張店です。
喜矢武豊さん、カインズに来る
カインズ幕張店には、さまざまなDIY・工作機材が揃った自分で作業ができる「カインズ工房」と、アドバイスやレクチャーを受けながらDIYや工作を楽しめる「DIY Square」が完備。ここなら、「DIY初心者」という喜矢武さんも安心して作業に取り組めるはず。
そして、喜矢武さんの台車作りをサポートしてくださる、頼れる助っ人がこちら!
カインズ幕張店の村山さん
カインズ幕張店で工具売り場などを担当する村山さんは、「カインズ工房」や「DIY Square」でもお客様の作業をサポートするDIYアドバイザーでもあります。村山さんが監修して、喜矢武さんが挑戦するDIYの制作工程は以下の通り。
<今回の制作工程>
いよいよ作業スタート。村山さんがこの日のために必要な材料もそろえ、図面通りにカットした木材を準備してくれています。
村山さんが用意してくれた材料を確認します
喜矢武「見た感じ、もうほぼ完成しているじゃないですか! 今日すぐ終わっちゃうんじゃないですか?」
いえいえ、たとえ材料がそろっていても、ひと筋縄ではいかないのがDIY。木材は切り出しただけなので、まずは断面をなめらかにする必要があります。ここで使うのは、サンドペーパーを装着して木材や金属を研磨する「電動サンダー」。
「電動サンダー」を楽しそうに使う喜矢武さん
電動サンダーを木材の面や角部分に当て、効率良くバリ取り(トゲなどの突起を取ること)や面取り(角をなめらかにすること)をしていきます。
こんな具合で、木材エッジ部分をサンダーで削ると……
角がなめらかになりました
村山さんによると、こうした材料への一手間は、使う人がケガをしにくくなるだけではない効果もあるそう。
電動サンダーをかけることで表面の毛羽立ちなどが軽減され、水分を含みにくくなるなどの理由で、耐久性が上がるのだとか。あっという間に素材が研磨される抜群の使い心地から「電動サンダーはハマる人が多い工具」と村山さんは言いますが、
喜矢武「これいいな……欲しいなあ」
電動サンダーに憑かれた者がここにも一人……。
木材の表面をなめらかに整えたら、次は組み立ての下準備。パーツを取り付けたりするための印を付け、ネジ留めをするための穴を「電動ドリル」で開け、「電動ドライバー」でネジ留めをしていきます。
村山さんいわく、ネジ留めの前に穴を開けておくと、ネジが打ちやすくなるだけでなく木材も割れにくくなるそう。ここでも丁寧な「木材の下ごしらえ」が光ります。
電動ドライバーで真剣にネジ留めをする喜矢武さん
喜矢武「これ僕も持ってますよ。家具組み立てるときとかに便利なので」
DIYの経験は全然ないと言っていたのに、電動ドライバーは持っている喜矢武さん。さらに、電動サンダーを「欲しい……」とつぶやくあたり、DIYの素質があるだろうという我々の見込みは間違っていなかったようです。
穴を開けて、ネジ留めし、どんどん木材が組み上がっていきます。
キャスターや蝶番部分の穴開けやネジ留めは、隣接する木材やパーツにドライバーが接触するので難しい
ここからは台車をよりパワーアップさせるパーツを取り付けていきます。
その一つが「拡張天板」。喜矢武さんが打ち合わせで話されていた「置くものによって天板のサイズを変えたい」という希望を叶える、喜矢武シグネチャーモデル台車に欠かせないパーツです。
上部天板の左右に拡張用の板を取り付けて、天板自体を広くするというアイデアです。
最終的にこのように開く拡張天板になります
ポイントになるのが左右に拡張した天板を下支えする木材。下支えとなる木材がないと、拡張した天板が安定せず危険なので、天板裏に取り付けています。
天板の上下に取り付けた棒状の木材が左右にスライドして、拡張天板を支える
下支えの木材を取り付けたら、いよいよ拡張天板自体を取り付けていきます。天板同士を蝶番でくっつけ、可動性を保つところがポイントです!
拡張天板を蝶番と共に取り付けていきます
取り付けた拡張天板を下支えの木材の上にあてがうと……
多少重いものを置いてもぐらつかない天板になりました。
ちなみに、上部の天板だけでなく、台車の中にも物を置ける台を作りました。
もはや手慣れた様子でネジを打ち込む喜矢武さん
台車の脚に取り付けた横木にひっかける形で、中間部に天板を付け外しすることができます。
そして、もう一つのパワーアップパーツが「折りたたみの脚」。こちらも喜矢武さんの「台車を持ち運びたい」という要望には欠かせないパーツです。
脚を天板にただネジ留めするのではなく、こちらも脚と天板を蝶番で留めて、脚の可動性を担保し、折りたためるようにするところがポイント。
このように脚を折りたためる
喜矢武「おー、いい感じですね!」
動作確認もばっちり。
こうして基本構造が完成! 「置くものによってサイズを変えたい」「台車を持ち運びたい」という喜矢武さんの希望が実現しました。自分の欲しい機能を備えた道具を作る。これぞDIYの醍醐味!
さて、ここまで作業の様子をスムーズに紹介してきましたが、もちろんトラブルもありました。各木材をネジ留めし、脚を天板に取り付けよう……というところで、脚を折り畳む時に引っかかることが判明したのです。さあ、どうする?
木材を調整したら通った!
引っかかりの原因は、脚を畳むときに脚の中間部にある横木がぶつかってしまうこと。そこで、村山さんのアドバイスも借りながら、片方の脚にだけ天板との接続部へ小さな木材を取り付け。脚の長さもそれに合わせて調整することでぶつからず、うまく折り畳めました!
村山さんに急遽木材のサイズを調整していただき一安心。失敗作として葬り去られ喜矢武さんに置いていかれなくて良かった……。とはいえ最初にもお伝えした通り、DIYは想定通りにいかないこともよくあることです。
喜矢武「オリジナルのものを作るからこそ、作業を進める中で失敗もするし、こういうトラブルも起きる。でも、これもDIYの醍醐味ですよね。既製品ではないから、やってみないと分からない!」
普段から段ボール工作に親しむ喜矢武さんなので、ものづくりの難しさや「うまくいかなさ」にも理解がある。さすがです。
「DIY初心者」といいながらも、作業は実に手慣れた様子。さぞや普段からホームセンターに通い詰めているのだろう、とホームセンターにまつわる思い出や過去の段ボール工作について聞いてみると……。
喜矢武「僕にとってはホームセンターは夢の国みたいなものです。『こういう素材も扱っているのか!』とか『これを活かしたらあれを作れるんじゃないか』とか考えるのが楽しい。そういう意味では、昔から頭の中でDIYをしてきたのかもしれません。
ゴールデンボンバーを始めた頃はお金がなかったので、いろんなものをいかに安く作るかを考えて、メンバー全員で近所のホームセンターへよく行ってました」
ゴールデンボンバーが通ったホームセンター!
喜矢武「ホームセンターはいいんですよ……いろんな素材もあるし、素材をうまく選べば、安くて良いものを作れる。でもね、さんざん店内を歩き回った結果、最終的に店の外にある処分予定の段ボールをもらって作るのが一番安上がりってことに気づきました」
さすが、段ボール工作に一家言ある喜矢武さん。人気(エアー)バンドになり、段ボールで工作はさらにグレードアップ。なかでも、特に印象に残っている作品は。
喜矢武「思い出深いのは、でっかい龍ですね。NHK紅白歌合戦で北島三郎さんが龍に乗って出てきた姿に憧れて、段ボールで全長4メートルくらいの龍を作ったんです。ウロコも一枚一枚色を塗って。ライブではステージのビジョンが開いて、ドラムセットをなぎ倒しながら出てくるという」
大規模な工作なので、制作にはかなりの時間を要しそうです。
喜矢武「制作期間は、大きいものでも一週間。いろんなスタッフに手伝ってもらってはいるんですけど、どちらかというと考えてる時間の方が長いですね。ダンボールの前で仁王立ちして2時間とか普通にある。なんとなく頭の中で設計図ができれば、あとは早いです。こんな感じで出来そうだなーと思うと、それでできちゃうんですよね。やっぱり僕天才かも」
さあ、台車作りも大詰め。さらに完成度を上げるべく、天板の側面にベルクロを貼り付ける喜矢武さん。「これで暗幕もつけられます!」とのこと。どんどん利便性がアップしていく……!
テキパキと作業を進める喜矢武さん
そして出来上がったのがこちら。
ジャーン! テレフォンショッピングみたいな喜矢武さん
ただの台車にあらず。脚を折りたたんだり、中の天板を取り外したりすることで……
コンパクトに畳むことができ、持ち運びも(比較的)ラクラク。
そして自慢の天板拡張システム。上に乗せる物のサイズに応じて天板を拡張すれば……
天板拡張前はこちら。コンパクトです
広げたらマグロの頭とかも余裕で乗せられそうですね!
そんな無限の可能性を秘めたスーパー台車。こいつがゴールデンボンバーのライブをさらに盛り上げてくれるはず……!
台車を作り終えた後の喜矢武さんにも話を聞きました。
作業お疲れ様でした!
喜矢武「いや結構時間かかるっすね。図面がある分サクサク行くのかなと思いきや……DIYって大変ですね。村山さんからは蝶番(ちょうつがい)をつけるのが難しいと聞いてたんですけど、普通にネジを留めるのが難しかったです。けっこう集中力がいるなあと」
真剣にネジを打ち込む喜矢武さん
喜矢武「今回制作したテーブルは複雑な仕掛けが多かったので、必然的にネジを打ち込む箇所も増えたし、細かな仕掛けを実現するために微調整が必要になりました。そのあたりが難しかったですね。難しかった分、複雑な仕掛けがある台車もちゃんとDIYで作れるんだなあと感動しました。使い勝手も絶対いいし、折り畳めて持ち運びもできるのもいいですね。
それと、商品化できそうですね、オリジナル台車。ゴールデンボンバーのロゴを入れて売りますわ(※売りません)。今回を機にカインズさんも僕の名を取り「キャインズ」に名前を変えていただけませんかね。そしたら僕はキャインズ代表になれるように頑張ります」
「キャインズ代表を目指す」と意気込む喜矢武さん
普段から複雑な段ボール工作をしているだけあって、DIYへの理解や作業への飲み込みの早さを見せた喜矢武さん。「作業工程と出来上がりが思い浮かんだものはだいたい作れる」と豪語するように、ものづくりの神に微笑まれているようです。
喜矢武さんのこだわり満載の台車、もしかしたら次のライブでその姿を拝めるかもしれません。そして、台車だけでなく、ライブを盛り上げる、ヘンテコだけどクオリティの高い段ボール工作が、喜矢武さんのDIY魂から生まれているんだなということを知ると、次のライブがもっと楽しくなるかも知れませんよ。
2023年7月28日、小田原アリーナで開催された「ODAWARA SUMMER FESTIAL」。トリを務めたゴールデンボンバーの演奏中、喜矢武さんがおもむろに「フェス飯のたこ焼きを食べたい」と言い始めます。
時計を見ると20時前。たこ焼きを食べに行くにしても、トリが終わった頃にはどのお店も閉店しているのでは……と思っていると、喜矢武さんが突然ステージアウト。次の瞬間、舞台袖から「たこ焼き屋さん」に扮して出てきたではありませんか! たこ焼き屋台に「魔改造」された、あの台車とともに……。
台車の上にはホットプレートや調味料類も見える
台車がステージ上にあったのは1分程度で、その間、喜矢武さんは台車に置かれたホットプレートの上で何かを焼いているように見えました。黒幕の裏に隠された机下段に、あらかじめ隠しておいたタコを取り出していましたが、結局、喜矢武さんはたこ焼きにありつけず終了。台車自体は今後もどこかのライブでご活用いただけることでしょう。
また、今回のライブ使用にあたり、喜矢武さんからコメントもいただきました。
喜矢武「ニス塗ってノボリを付けられる金具を付けて(半分以上マネージャーが笑)良い感じに仕上がりました!! たぶんまたちょいちょい加工しつつ息子の様に育てながら使っていきたいと思います! カインズさん素敵な小道具をありがとうございました(^^)」
みなさんもゴールデンボンバーのライブへ行かれた際は、「カインズでDIYしていた台車」がどこで登場するか、ぜひチェックしてみてくださいね。
取材・文:井口エリ
写真:小野奈那子